旅立ち
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ログインしました。遂に今日は待ちに待った出航の日である。仕事を可能な限り素早く終わらせたので、待ち合わせの時間よりも随分と早くログインすることが出来た。遅れるようなことはならなくて、本当によかった!
「む?イザームか。何時もより早いのぅ」
船のラウンジに入ると、中にいるのは源十郎だけだった。どうやら二番目であったらしい。私が普段よりも早い時間にログインしたので、源十郎は少し驚いているようだった。
「ああ。出航が楽しみで少し急いだのでね」
「ほっほっほ、儂もそうじゃよ。ほれ、他の皆も同じようじゃ」
まだ見ぬ新天地に期待しているのは私だけではなかったようだ。私に続いて続々と仲間達がラウンジにやって来る。十分も経たない内に、七甲以外が集まってしまった。
「おおっ!?皆さんお揃いやんか!待たせてすんまへんな」
「…揃ったようじゃの。イザームよ、出発前の挨拶をせんか」
「なぬっ?」
そんな七甲も数分後にはログインしたので、これで全員集合である。ちなみに彼の名誉のために言っておくが、七甲は遅刻はしてなどいない。私を含めた残りのメンバーが早すぎただけである。
今さっきまで談笑していた源十郎だったが、唐突に私にそう言った。え?挨拶なんて全く考えてないんですけど…これは無茶振りという奴では?
勘弁してくれ、と言おうとした時には手遅れであった。いつの間にか談話する声は消え、全員が私の方を見ているではないか。これは…何か言わなければならない空気である。
「あー…皆、遅刻する者も居らず、集まってくれた事にまずは感謝する。今日、我々はこの戦艦で大空へ飛び立つ訳だが、その前に二つのお祝いをしなければなるまい。ミケロとネナーシ、こっちに来てくれ」
「ええ、わかりました」
「拙者もですかな?」
出立前にしておかねばならない一つ目のお祝いは、新しい二人のメンバーについてである。既に全員と顔合わせは終わっているのだが、改めて紹介しておこうとは常々思っていた。今がその良い機会であろう。
「では先ずは拙者から。ご存知の通り、拙者はネナーシと申します。種族は擬態食魔蔓草から、先日擬態食魔蔓茨に進化いたしました。これから宜しくお願い致しまする」
ネナーシは私たちが最初に遭遇した植物系の魔物である。『黒死の氷森』を踏破し、ラングホート様の試練を乗り越えた過程でレベル50を超えて進化していた。
全体的なシルエットは変わらないものの、進化によって蔓の部分に細くて鋭い棘がびっしりと生えている。これによって蔓で拘束するだけで敵にダメージを与えられるようになったのだ。しかも棘からは麻痺毒を分泌できるらしく、縛り上げ、麻痺させ、丸飲みにして食らう、という実に魔物らしい戦い方がメインであった。
そんなネナーシだが、普段から鳥に擬態している。オジギソウのような葉を束ねて翼に、ハエトリグサのような部分を足に、そしてウツボカズラのような部分を嘴に見立てていた。表面の色も変化させられるので、これらの形状からネナーシはまるでペリカンのようでひょうきんな容姿である。
『擬態』とはよく言ったものだ。間抜けなペリカンだと油断させ、舐めて掛かった相手に本性を見せて返り討ちにしてきたのだと言う。我々と遭遇した時にはもう本来の姿を見せていたので、擬態しなかったと言っていた。
実際、合流してから『黒死の氷森』の獣達には有効な手段だったらしい。彼が己を疑似餌にして、周囲に隠れて待機している仲間達と共に襲い掛かる奇襲殺法は凄まじい効率での狩りを可能にしていた。騙し討ちのスペシャリストとなるかもしれない。
「次は自分ですか。改めまして、ミケロと申します。転生した元人間で、今は浮遊魔眼大神官です。少々不気味な見た目ではありますが、これから宜しくお願い致します」
ミケロはそう締め括ると、幾つもある目を閉じて黙礼した。彼の種族である浮遊魔眼大神官とは、そのまま大神官の職業に就いている浮遊魔眼という魔物だ。
浮遊魔眼とは、フワフワと浮かぶ巨大な人間のモノに似た眼球のような魔物である。直径一メートル程もあり、分厚い皮膚に被われている。表皮であり目蓋でもある皮膚からは十本の触手が生え、その内六本の先端には少しずつ毛色が異なる眼球が備わっていた。
その六つの眼球はかなりユニークだ。眼球全体が真っ黒なモノ、ガラス玉のように無色透明のモノ、蛇のように瞳孔が長細いモノ、山羊のように瞳孔が横長のモノ、昆虫の複眼に酷似したモノ、そして一つの眼球に複数の瞳孔があるモノである。
それぞれの眼球には対応した魔眼の力があり、見るだけでダメージを与えたり状態異常を引き起こしたりする事が可能だ。更に残った四本の触手の先端には元人間だった名残だろうか、人間の手が着いている。その手にはそれぞれ円盾と棍棒が装備されている。
また、ミケロは大神官という一般的な神官系の職業に就いているので、私には使えない普通の【治癒術】が使える。しかも彼が信仰しているのは、『死と混沌の女神』イーファ様だ。なので私も使える【魂術】をも使うことが出来た。
二枚の盾で防御を固めつつ、二本の棍棒と魔眼で攻撃し、ダメージを負えば【治癒術】と【魂術】で回復するのが彼のスタイルだった。自己回復しながら敵を殴り倒す、武装神官であるのだ。
二人だけで行動していた頃、この浮かぶミケロをペリカンに擬態したネナーシが掴んで羽ばたいていたらしい。ミケロは浮かぶだけで高速で移動は出来ないが、ネナーシはペリカンに擬態出来ても飛行は不可能だ。
だが、浮かぶミケロを掴んだネナーシの羽ばたきで推進力を生み出せる。こうしてそれなりの速度で移動していたのだが、それが原因で乱気流に飲まれて嵐に巻き込まれ、浮遊島まで飛ばされてしまったのである。
そしてサイル村の人々が見たのは、この合体した二人の姿だった。丸いミケロの身体から、ネナーシの擬態した翼が生えた化け物に見えたのだ。
このミケロとネナーシが、新たなメンバーである。途轍もなく個性的な二人だが、頼りになる仲間であるのは疑いようも無い。これからの活躍することを大いに期待している。
「遅くなったが、二人の新たな仲間が増えたことを祝おう!はい、拍手!」
「歓迎するぜェ~」
「宜しくお願いしますね!」
ジゴロウ達は拍手しながら各々なりに歓迎の言葉を投げ掛けていく。二人はそれなりに照れているのか、それぞれ触手と翼で頭を掻いていた。
しばらく後、拍手が疎らになると二人は自ら元々いた席へと戻った。では、次に移ろう。
「もう一つのお祝い事は勿論、アイリスとしいたけのアイテムがそれぞれ賞を取ったことだ。もう一度拍手!」
「あ、ありがとうございます」
「うんうん、存分に褒め称えてくれたまえよ!」
只管恐縮するアイリスとは対照的に、しいたけは胸を張って威張っていた。真逆な二人であるが、仲が良いし一流の生産職プレイヤーであるのは同じだ。これからも我々の生産態勢を支えてもらいたいものだ。
品評会の結果、アイリスは四位でしいたけは二十二位となっている。順位に関する称号が、彼女らのステータスに反映されているので確定だろう。
順位も素晴らしいのだが、それ以上に二人が誇るべきは『最高額賞』と『アイデア賞』という特別賞を受賞したことだった。アイリスの『最高額賞』は、文字通りにオークションに出品された中で最も高額となったアイテムの作成者に与えられた称号である。
品評会で一位になった作品よりも高額になった原因は、龍の素材が使われていることだった。即座にプレイヤーが買える金額を飛び越え、最終的に大貴族だか王族だかが落札したようだ。
しいたけの『アイデア賞』は、最も画期的な作品に贈られる賞だ。彼女の提出した『さむこわ君』は、属性ダメージと状態異常を同時に与えるこれまでに無かったアイテムである。落札したのはルクスレシア大陸で有名なNPC冒険者の獣人だったらしい。
「二人の素晴らしいアイテムが高く評価されたことは、私も仲間としてとても嬉しいし誇らしい。だが、これが二人の作成出来るアイテムの限界ではない」
アイリス達が着席したところで、私は再び口を開いた。
「我々が目指すティンブリカ大陸には更に稀少な素材が得られ、二人ならばより優れたアイテムを生み出すことだろう。そのためには数多の障害が立ち塞がると思われるが…我々ならば必ず乗り越えられる!長々とした前置きになったが…征くぞ!未知なる大陸へ!」
「「「おー!」」」
◆◇◆◇◆◇
戦艦の艦橋にて、アイリスとしいたけ、そして魔導人形のトワの三名が機械類を操作していた。他のメンバーは興味津々といった様子でキョロキョロと彼女らの操作を観察していた。
私?現在、私は艦長用の椅子にふんぞり返っております。いや、私も機械類の操作は出来るのだが、三人に比べたら手際が悪いのだ。なので得意な人々に任せることにしたのである。ちなみに、舵は本人の強い要望を受けてルビーが握っていた。
「接続解除。出撃口のロック、解除しました」
「システム、オールグリーン。シラツキ、何時でも行けるぜ~」
戦艦の命名は、女性陣が勝手に決めてしまっていた。何でも戦艦のAIに船の名前を聞いたところ、『本船ニ固有名称ハ存在シマセン』と返されて不憫に思ったらしい。断る理由も無いので、そのまま船の主である私が許可して命名は完了したのである。
アイリスがロックを解除したので、船渠の壁が開き始める。それと同時に我らがシラツキの接地している床が、船首が出撃口に向くように回転し始めた。更に出撃口に向かってガイドビーコンとでも言うのだろうか、光の帯が伸びる。これに従って外へ出ろ、ということだ。
出撃口からは晴れた青空が覗いており、船渠は地下にあることからも浮遊島の側面にある崖から外へ出ることになるのだろう。秘密基地っぽくていいじゃないか!
「わかった。では…浮遊戦艦シラツキ、発進!」
「発進シマス」
私の号令をシラツキのAIが復唱すると、機関部の出力が上昇して遂にシラツキが動き始める。接地状態から浮かび上がり、ゆっくりと前進を開始してから徐々に加速していく。
加速による負荷や、ジェットコースターに乗っているかのような揺れは感じない。これはシラツキに備わった機能であり、被弾時の衝撃なども抑えてくれる優れものだ。
ただ、この状態を保っている魔道具を破壊されるとすべてがダイレクトに伝わるらしいので注意が必要である。機関部に程近い場所にあるので、これが壊れた時は艦が墜落する時だと思った方が良さそうではあるが。
「おおおっ!本当に飛んでるよ!凄い凄い!」
「ホントーだねー」
出撃口からシラツキが飛び出すと、当たり前ではあるが我々の眼前には晴れ渡った青空が広がっている。どこまでも広がるようにも思える大空に、我々は飛び立ったのである。
シラツキはそのまま空中を真っ直ぐに進んで行く。浮遊戦艦の名は伊達では無い。不具合で墜落、などのアクシデントも無さそうだ。
「警告。六時方向ニ、巨大ナ生命反応アリ」
「何!?」
「モニターニ映シマス」
「こ、これは…!?」
出撃した直後、処女航海の出鼻を挫くように艦内に警告音が鳴り響いた。新造艦でもう初戦闘かと思った我々であったが、シラツキが見せた映像を見て絶句することとなる。
「三対六枚の翼…四本の角…黄金の鱗と鬣…間違いない。あれは龍神、アルマーデルクス様だ!」
そこに映っていたのは、アルマーデルクス様と対面した部屋のレリーフにあった彼の姿そのものであったのだ。あのレリーフも素晴らしいものだったが、実物には遥かに劣るものだったらしい。モニター越しであるのに伝わってくる神々しさと雄壮さからは、龍神の名に恥じない迫力が伝わって来た。
我々は既に彼らとは簡素なものではあったが別れの挨拶を交わしている。その上で見送りに来てくれたのだろうか?きっとそうだと思いたいのだが、良くも悪くも覇気が強すぎて襲われるのではないかと不安になってしまう。
「グオオオオオオオオオオオオオン!!!」
アルマーデルクス様は、我々の方を見て咆哮した。腹の底に響く大音声は、声だけで戦艦が軋むような気さえする。
「あ、あれ?速度が上昇してます!」
「マジで?けど機関部はいつも通りだよ?」
アルマーデルクス様の出現に驚きつつも、艦橋で計器のチェックを怠らなかったアイリスとしいたけは困惑を露にする。あの咆哮の直後に出力を上げていないのに速度が上がった…なるほど。そう言うことか。
「最高の門出祝いじゃねェか。なァ、兄弟?」
「ああ。本当にな」
シラツキのモニターをよく見れば、アルマーデルクス様の足元を飛ぶ小さな影が沢山見える。それは『龍の整地』にいる半龍人や幼龍達に違いない。間違いなく、彼らは見送りに来てくれたのだ。
そしてアルマーデルクス様の咆哮は、この艦に何らかの付与を施すためのものだったのだろう。それなら辻褄が合う、というものだ。
「サプライズ、ということか?龍神様も戯れが過ぎるな、全く」
事前に聞いていなかったこの派手な演出は、間違いなく我々をビックリさせようとしたものだ。それを考案したのはきっとアルマーデルクス様本人だろう。モニターの彼は泰然とした態度を取っているが、カルと毎日のようにふれ合っている私には分かる。目が笑っているのだ!
彼らに盛大に見送られつつ、我々は目的地に向かって進む。次なる冒険の舞台が待っているのだから!
これで本章は終了です。偶然ながら掲示板回を含めてピッタリ200話で終わりました。次回からは新たな大陸が舞台となります。
次回は9月18日に投稿予定です。




