龍の聖地
掲示板回と同時投稿しています。
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フィールドボス、デイヴィット・マクファーレンを撃破しました。
全員に特別報酬と6SPが贈られます。
次回からフィールドボスと戦闘するかを任意で選択出来ます。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
従魔の種族レベルが上昇しました。
従魔の職業レベルが上昇しました。
【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。
【魔力精密制御】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
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ジゴロウが首の骨を折った事でマクファーレンは力尽きた。彼等が強化鎧を破壊する前に我々は偽骨龍を倒していたので、長かったボス戦も遂に終わりを告げた。
「これで終わり…のハズなんだが…」
「この結界っぽいものがあるせいで先に進めませんね」
偽骨龍達が引っ掻いていたあの霧はまだ消えていないのだ。エイジ達が触れてみたり攻撃を加えてみたりしたのだが、全く変化が無い。それはボス戦が終わっても同じであった。
「普通に考えたらまだ通るのに必要な条件を満たしていないってことかな?」
「そうなんやろうけど、条件ってなんやろな」
「さぁ?見当もつかないわ」
ここまで来るのに必死で、物理的に硬い謎の霧を通り抜ける方法は不明である。そもそも情報収集を行ったバーディパーチでは、『黒死の氷森』の詳しい情報すら無かったのだ。その奥に行く手段など知っている者がいる訳がなかった。
「どうすんだ?調子が戻ったら全員でぶん殴るか?」
「実体があるのなら、斬れるじゃろう」
ジゴロウと源十郎がそう提案する。決してスマートとは言えないが、それしかないのだろうか?
『いやぁ、それは勘弁して欲しいかな?』
強硬手段に出るしかないと思った矢先に、何者かに制止されてしまう。その声は聞き覚えの無い女性のものであり、それは我々の頭上から聞こえてきた。
「グルアアアアアアアアアッ!!!」
私が驚いて見上げる直前に、カルが急に威嚇の咆哮を上げて声の主と我々の間に入った。カルがここまで警戒心を剥き出しにするのは珍しい。だが、その理由は声の主を見て即座に理解した。
「白い…龍!?」
「キレイ…」
頭上には、声を掛けられるまで誰も気が付かなかったのが信じられないほど巨大な龍が浮遊していたのである。透き通った無色透明の水晶を思わせる二本の角と、カルのものよりも丸みのある一対の翼。そして全身を覆う純白の体毛が美しい。毛の一本一本が淡い輝きを放っており、神々しさをも感じてしまう。
全体的に細身な体格で西洋風の龍だが、警戒を緩める訳にはいかない。何故なら、その体長は以前に遭遇したアグナスレリム様よりも更に大きいからだ。彼は約十五メートル程だったが、此方はその倍以上の大きさである。
『ふふふ、褒めてくれてありがとうね。自己紹介をしておこうか。私はラングホート。神代光龍女王にしてこの先にある『龍の聖域』の番人さ』
ラングホート様は満更でもないのか、何処と無く嬉しそうな声音になっていた。地上に降り立った彼女は、神代光龍女王であるらしい。と言うことはアグナスレリム様と同格の龍という事になる。つまり、レベルにして80代と言うことだ。
カルよりも60以上レベル差があると考えると恐ろしさが伝わるだろうか?レベル60を超える偽骨龍とレベル20代で戦えるのが龍だ。その女王なのだから、強さは計り知れない。
「はじめまして、ラングホート様。私は『夜行衆』というクランのリーダーで混沌深淵龍骨古賢者のイザームと申します」
『ははは、君達は風来者だね?聞いていたよりも礼儀を知っているじゃ…ん?』
敵対の意思が無い格上の相手を前にして、喧嘩腰になるのは悪手であろう。そう思って失礼の無いように返答した所、ラングホート様は機嫌良さそうに笑ってくれた。だが、彼女は急に目を細めて我々の観察するように見回す。数秒後、彼女は驚いたのか逆に目を見開いた。
『おいおい、冗談だろう?アグナの友人に風龍帝様の知己だって?とんだ大物が来たものだ』
「アグナ…ひょっとしてアグナスレリム様のことでしょうか?」
『その通りさ。彼は元気だったかい?』
どうやら我々の中に『水龍王の友』や『風龍帝の知己』という称号を所持している者がいる事を察知していたようだ。知能が高い龍ならば無条件で歓迎してくれると説明文にあったが、その通りだったようだ。
「はい。と言ってもあのお方とお話させていただく機会はあまりありませんでしたが…」
『ははは!あの生真面目な男らしい!友として認められたのは蜥蜴人の危機を救ったというところだろう?』
「ご明察の通りです」
『そうか。…よし、君達なら文句無しで合格だ』
ラングホート様が翼で一度大きく羽ばたくと、我々の行く手を阻んでいた白い壁に変化が起きる。これまではただ霧が漂っているように見えたのだが、ゆっくりと渦を巻き始めたのである。この霧の壁を操作しているらしい。
『あのしつこい人間の成れの果てを始末出来ただけでも十分なのに、しかもアグナや風龍帝様に認められた者までいるんだ。ここから先に進む資格は十分だよ。それに…』
「グルルルル…」
ラングホート様はチラリとカルに視線を送る。するとカルは威嚇するように唸っていた。最初から一貫して警戒を解こうとしないカルを見て、彼女は苦笑しつつもどこか楽しそうである。
『そこの子がこれだけ懐いているんだ。それだけでも君達の為人が知れるというものさ。さあ、着いてきてくれ』
そう言ってラングホート様は背を向けて歩き始めた。そして霧の渦へと入っていった。霧によって彼女の姿は見えなくなってしまったが、通り抜けられるようになったのは確かである。ならば行くしか無いだろう。我々はアイコンタクトで頷き合うと、彼女の後に続くのだった。
◆◇◆◇◆◇
霧によって数メートル先も見えない道を一分程進んだ辺りで、視界が急に晴れてハッキリと見えるようになった。そこには見事としか言い様が無い光景が広がっていた。
「ここが…『龍の聖地』…」
『楽園、と呼ぶ者もいるけれどね』
我々が立っているのは瑞々しい緑色に覆われた草原であった。澄みきった蒼穹から暖かな陽光が降り注ぎ、時折心地よい風がローブの裾を踊らせる。ピクニックやハイキングで来るのにうってつけの、穏やかで過ごしやすい場所である。
「キュー!キュー!」
「クルルゥ!」
「か、かわいい!」
そんな草原を数多くの幼龍が遊んでいた。この広い草原は、あの子供達にとって絶好の遊び場なのだろう。愛らしい鳴き声を上げながら無邪気に駆け回ったり飛行したりしている様子に、ウチの女性陣はメロメロだ。普段はクールな兎路ですら相好を崩している。幼龍の魅力、恐るべし!
それはそうと、幼龍を観察していると、走るのが好きな子もいれば飛んでばかりの子もいることに気が付いた。きっと個体差なのだろう。体格や鱗の色、体毛の有無に角や翼、更に尻尾の形状と数も個体によって少しずつ異なっているので見ていて全く飽きない。彼らがどう進化していくのか、非常に興味深かった。
『いい所だろう?そして、言わなくても分かるだろうけど、あの建物が龍神様が御わす宮殿さ』
自慢するように胸を張るラングホート様が視線を送ったのは、草原のど真ん中に聳え立つ一棟の高層建築物であった。こちらは『古の廃都』にあった現代風の摩天楼とは毛色が異なり、真っ白な円柱めいた形をしている。窓はなく、代わりに青く光る筋が何本か縦に走っていた。これらは規則正しく明滅しており、何等かの機能があるのだろうと推測出来る。きっとマクファーレン等が過ごした時代のものに違いない。
それにしても、ここだけ未来的なSF作品の様相を呈している。なのに草原の中に悠然と聳える白亜のビルは、妙にマッチしているようにも思えるのが不思議であった。
『では、私はここまでだ。私にも番人の使命があるからね。迎えの者が来るだろうから、後は彼らに任せるよ』
「迎えの者、ですか?」
『ああ、そうさ。じゃあ機会があればまた会おう。さらばだ!』
そう言い残してラングホート様は飛翔して去っていった。その飛ぶ速度はかなり高く、あの巨体が既に豆のような大きさになっている。龍女王ともなれば、高速で飛行出来るのだろうか。
「迎え、ねぇ?どんなのが来ると思う?」
「そりゃ、魔導人間じゃない?ここの施設は生きてるっぽいし、十八號さんの仲間が動いていてもおかしくないと思うよ」
兎路が疑問を抱いた事をそのまま口にすると、エイジが彼の予想を述べていた。確かに、その線はあるかもしれない。古代の人間に製造されたであろう魔導人間だが、今は我々に従っている。同じように龍神様に従っていてもおかしくは無いだろう。
「もしそうなら、トワさんの改修用パーツを譲ってくれるかもしれませんね」
「と、トワ?それはもしや…」
「はい!シオちゃんが名付けてくれたんです!」
「いつまでも『十八號』じゃかわいそうでしょ?」
「十が『とお』で八が『わ』、っていう何の捻りもないネーミングっすけどね」
シオは珍しく照れている。どうやら私が知らない内に、十八號にはトワという個体名が付けられたようだ。彼女はほぼ工房でアイリスかしいたけのサポートをしているので、私を含めた戦闘や探索に明け暮れている者達はあまり絡んでいない。だからそんなことになっていたとは知らなかったのだ。
「名前ねぇ…ま、仲間だしいいんじゃねェか?」
「そうそう!トワだって仲間…あっ!何か来てるよ!」
「上ね!」
そんな事を話していると、斥候職であるルビーと紫舟はいち早く接近する何かを察知した。言われた通りに上を向くと、そこには背中から生える翼を使って飛ぶ人型の影が幾つも見えた。
「鳥人…か?」
「違うっすよ!あんな蝙蝠っぽい翼が生えてる鳥人なんて居ないハズっす!」
「それに尻尾も生えてるわねぇ」
「角もー、生えてるねー」
「これってひょっとしたらひょっとするかも?」
我々の困惑や期待を他所に、人型の影は我々の直ぐ側に着地する。そしてリーダーらしき男性が前に出て来ると、一礼してから胸を張って名乗りを上げた。
「よくぞお越しくださいました、認められし御方々。私はマティス・ドラッヘンと申します。半龍人族の長にして、かの神の側仕えをさせて頂いている者でございます」
慇懃な言葉遣いをする半龍人男性は、そう言って自己紹介するのだった。
これでこの章は終わりです。
次回は6月30日に投稿予定です。




