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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十一章 黒死の氷森
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黒死の氷森 その十二

 ふぅ…どうにか倒しきれたようだ。カルと二人だけで戦うのは珍しいことだったが、たまにはこういうのもいい。これからは二人で気儘に旅をするのもいいかもしれない。


「カルよ、右眼はどうだ?まだ痛むか?」

「グオゥ…」


 カルには【再生】という能力(スキル)があるので、時間を掛ければ眼球も元通りになるだろう。だが、複雑で重要な器官である眼球は早々に治る訳ではないらしい。痛ましいが、部位欠損を治癒する手段が無い現状では時間だけが薬であった。


「皆は大丈夫だろうか?」


 私は送り出してくれた仲間達が戦っている方へ視線をやる。そこでは偽骨龍イミテーションボーンドラゴンと激戦を繰り広げる彼等の姿があった。


「助けに行くか。私の【龍の因子】は起動しっぱなしだから、龍息吹(ドラゴンブレス)は弾切れでも戦力になるだろう」

「ガオゥ!」


 私の決定にカルは力強く頷いた。これまでなら自動回復によってとっくに解除されているはずの【龍の因子】だが、まだ途切れていないのには理由がある。それはズバリ、『吸魂之大鎌』の呪いの効果によるものだった。回復出来なくなる呪いによって、私の【龍の因子】の終了条件の一つである体力が一割以上に戻ることが無くなっているのだ。


 まあ、その分もう一つの終了条件である三分が経過すれば普通に解除されてしまうのだが。無限にこの状態を保てる訳ではないので、過信は禁物だ。


『や、やめろおぉぉぉ!!!』

「バラバラにしてやらァ!」

「乱切りと微塵切り、どちらが良いかの?」


 そんな事を考えていると、離れた場所からマクファーレンの悲鳴とジゴロウ達の怒号が聞こえて来た。そちらから金属同士がぶつかる音やひしゃげる音が頻繁に響いてくる。


 二人とも解体してやると息巻いていたし、本気で壊しにかかっているのだろう。あの二人なら装甲を無理矢理剥がしたり、装甲ごとぶった斬ったりしていてもおかしくない。私を含めた仲間を巻き込まない範囲内で好きに暴れてくれ。


「グルル…」

「ん?あっちに行きたいのか?」

「グォン!」

「…絶対に怒られるぞ?」

「グゥゥ…」

「我慢させて悪いな。この戦いが終わったら、どこかでまた思い切り暴れる機会を作ってやるさ」

「グオオン!」


 説得によって納得してくれたらしいカルは、上機嫌で一吼えすると空へと飛び上がった。



◆◇◆◇◆◇



 イザーム達がやって来た時、マクファーレンは舌舐めずりしたい気分であった。己の下僕の経験値稼ぎにもなるし、指輪の力を使えば新たな不死(アンデッド)の下僕に変えられる。しかもイザーム達の大半は珍しい魔物ばかりだったので、使い物にならなくなっても研究材料としての価値は高い。そのくらいの見立てであったのだ。


 最初は順調だった。下僕の不死(アンデッド)を追加で召喚して、その物量で圧し切れるように思えたからである。所詮は下等な魔物に過ぎないと勝った気になっていたのだ。


 しかし、イザーム達は見事に順応してみせた。すぐさまマクファーレンに狙いを絞り、数回の攻撃だけでステッキ型魔道具が発生させる聖域(サンクチュアリ)の出力不足を突いて彼へ直接攻撃を繰り返したのだ。本来はもう少し強度があったのだが、経年劣化によって弱々しいものになっていたのが原因である。


 妨害によって新たな下僕を召喚することが出来ず、本来ならもっと出せた龍牙兵(スパルトイ)達を封じられてしまった。当初の物量で潰すという戦術はもう使えないだろう。


 何度も射抜かれ、果ては下僕を召喚するのに必要な指輪も失った。その結果、マクファーレンは最後の切り札として温存していた『35式龍型魔導強化鎧』を使わざるを得なくなったのだ。


『解体だと?魔物の分際で、身の程を弁えろ!』


 マクファーレンの切り札というだけあって、強化鎧は壊れかけとは思えない程に高性能だった。偽骨龍イミテーションボーンドラゴンを超える体格と重量が生み出す圧倒的なパワーと、その巨大さからは想像も出来ないスピードは成体の(ドラゴン)に匹敵すると言う触れ込みに偽りが無いことを体現していた。


「甘ェんだよォ!」


 しかし、対するのはプレイヤーの枠に収まらない化け物達である。ジゴロウは懐に飛び込むことで距離を詰めると、装甲を全力で殴りつけた。装甲と籠手が激突し、耳障りな異音が戦場に響き渡る。


「シャアァッ!」


 そして源十郎も紙一重で回避しながら強化鎧に向かって跳躍すると、大太刀を大上段から唐竹割りに斬り付ける。二人ともわざと傷や凹みが少ない装甲を狙ったので、破壊することは出来ていなかった。


 二人が何故、わざわざ装甲の硬い部分を狙っているのか。それは勿論、負けず嫌いだからだ。攻撃が効かないと言われて、プライドが刺激されたのである。もし戦っていたのがイザームであったなら、彼は躊躇なく装甲の剥がれている部分へ酸霧(アシッドミスト)などを発生させていたに違いない。この勝ち方へのこだわりの有無が、彼等の性格の違いを物語っている。


『このぉ!』

「チッ、やっぱり硬ェ!」

「だからこそ、斬り甲斐があるというものじゃ」


 ジゴロウと源十郎は反撃を回避しながら、どのようにすればあの装甲を突破出来るのかを考えていた。二人とも硬い部分へダメージを与える武技を使うのは最終手段としている。単に武技そのものを使い慣れていないというのもあるが、それ以上にシステムに頼って装甲を破壊してもなんだか負けた気がするからだ。これが普通のボス戦なら使っていたのだろうが…負けず嫌いここに極まれりと言ったところか。


「こっちも本気を出さねェと日が暮れちまうぜ」

「そうじゃのぅ」


 しかし、流石にステータスを底上げするタイプの武技は解禁するつもりであった。ここは限りなく現実に限りなく近いが、ゲームである。敵の防御を貫くためには、いくら技量があっても無理な場合があるのだ。そして今がその時であった。


「行くぜ!【神獣化】、【炎雷の化身】、【鬼神の剛体】!」


 既にイザームによる【付与術】で強化されているジゴロウだが、それに加えて可能な限りの自己強化を行っていく。それはビグダレイオで棘殻蠍大王ソーンシェルスコーピオンハイロードと戦った時と同じであった。ただ、装甲を必ず砕くであろう【破鎧之拳撃】を使わないのが彼の意地であった。


「儂もやるかの。【剣豪推参】、【朔の刻】、【餓蟲惨殺】」


 源十郎もジゴロウと同じく自己強化を重ねていく。彼は現在、剣豪という称号(タイトル)に就いており、【剣豪推参】はこの称号(タイトル)を選んだ時に取得した能力(スキル)である。効果は筋力と敏捷のステータスを上昇させるのだが、デメリットが一風変わっている。それは『発動中に討ち取られた場合、敵が得られる経験値が上昇する』というものだ。


 剣豪と呼ばれる者を倒せば、名声を得られるのは当然のことである。ヘイトを集める効果は無いが、プレイヤー同士であれば集中的に狙われることだろう。


 【朔の刻】は毒炎亀龍(タラスク)との戦いでも使った、彼の大太刀の機能である。武器そのものの攻撃力が上昇するが、効果時間が切れた後は逆に攻撃力が下がるというものだ。短期決戦向きの機能だが、今の状況には適当と言えるだろう。


 そして【餓蟲惨殺】は虫系の魔物だけが取得可能な奥義である。これはジゴロウの【鬼神の剛体】と効果はほぼ同じだが、減少するのが体力ではなく満腹ゲージであるという違いがある。また、ステータスの上昇率は空腹になればなるほど高くなるという性質もあった。つまり、飢え死にしそうになればなるほど強くなる奥義なのだ。


 使っている者が飢え死にするか何かを食べるまで効果が持続する。なので任意のタイミングで即座に効果を切ることは出来ないが、こちらも短期決戦ならば問題にはならない。マクファーレンの強化鎧を破壊した後、何かを食べてしまえば良いのだ。


「行ッくぜェェェェェェ!!!」

「ここは大太刀一本で勝負しようかの」


 全身の筋肉を隆起させたジゴロウは、弾丸のような速度で駆け出す。その間に源十郎はセット装備である妖刀を鞘に納めると、四本の腕全てで大太刀を握っていた。なので本気を出した後の最初の一撃はジゴロウの拳となった。


「オオッラアァァァァ!!!」

『う!?うおおおおおお!?』


 ジゴロウが脇腹辺りの装甲を殴り付けた瞬間、これまでとは比較にならない耳に突き刺さるような金属音が木霊する。その衝撃によって、途轍もない重量を誇るはずの強化鎧がたたらを踏んでしまった。


 マクファーレンは操縦席まで揺れる一撃に怯んだが、眼前のスクリーンに映った異常に驚愕した。そこには殴られた脇腹の部分にある装甲が破砕し、その奥にある人工筋肉が千切れたと表示されていたからだ。ジゴロウの拳が、マクファーレンの言う人間(ヒューマン)の叡知に届いた瞬間である。


「ハッハァ!やってやったぜェ!」

『馬鹿な!あり得ん!』

「事実から目を背けるのは、感心せんな」


 そもそも科学者であって戦闘に慣れていないマクファーレンは、想定外過ぎる事態に動揺して源十郎を警戒する事を忘れていたらしい。スタスタと歩いて近付いた源十郎は、左の脹脛にある装甲目掛けて斬りつける。すると大太刀の刃は音一つ立てずに装甲と人工筋肉をあっさりと切断した。


『ど、どうなっているのだ!?この強化鎧が、(ドラゴン)以外の魔物如きに…ひっ!?』

「へッ!単純な話だろうが!」

「儂等の攻撃は、(ドラゴン)のそれに匹敵するという事じゃよ」


 マクファーレンの感情が動揺から恐怖に変わりつつあるが、ジゴロウと源十郎が手を抜く理由にはならない。二人は攻撃の手を緩める事は無く、装甲と人工筋肉、更には骨格の役割を果たすフレームまでも傷付けて行った。


『や、やめろおぉぉぉ!!!』

「バラバラにしてやらァ!」

「乱切りと微塵切り、どちらが良いかの?」


 シオに射られた時以上に恐怖を滲ませた悲鳴を上げながら、マクファーレンは後先考えずに強化鎧の武装を展開していく。爪は温度が急上昇して赤熱し、両肩、両膝、胸部、翼の付け根、そして尻尾の付け根から謎の突起が飛び出してそこから電撃が迸って全身を覆う。尻尾からは魔力で出来た刃が発生し、口からは人の頭がすっぽりと入りそうな砲身が姿を表した。


 これが『35式龍型魔導強化鎧』の真の姿であった。高温によって火属性のダメージを与えつつ切断力を高めた爪、全身の発電機が生み出す電撃の鎧、巨大な刃物のように変形した尻尾と口内から飛び出した龍息吹(ドラゴンブレス)を模した攻撃が行える砲身。どれも消費魔力が恐ろしく多いものの、非常に強力な兵器である。全て起動すればジゴロウ達も倒せるハズだ。


『き、貴様等は、脅威に値するっ!ここで必ず葬り去って…』

「喧しい!黙って壊されやがれ!ポンコツがァ!」


 だが、ジゴロウは雷撃の鎧など無視して突っ込んだ。炎雷邪悪鬼(エンライノジャアクキ)である彼には【雷属性耐性】を持っており、余り効果的とは言えない。とは言え【鬼神の剛体】の副作用で体力が減り続けているので、源十郎の為にも早急に対処する必要はあった。


「コイツをぶっ壊しゃァいいんだろォ?」

『しゅ、出力が!?』


 なので明らかに雷撃の鎧を発生させていると思われる突起を力任せに折って行く。一本折る毎に出力が低下し、それに伴ってダメージ量も減少していった。電撃のエフェクトが見る見る内にか弱くなり、遂に前面からエフェクトが完全に消え去った。


『だ、だが!まだ兵器は残って…』

「行けや、ジジイ!」

「シャアアアアアアアアア!!!」


 ジゴロウが翻弄している間に、源十郎はマクファーレンの右斜め後ろに移動していた。そしてマクファーレンが口の砲口をジゴロウに向けたタイミングを見計らって、全力で斬りかかったのである。ピッという鋭い風切り音がしたかと思えば、なんと源十郎の一太刀によって強化鎧の首を両断してしまったではないか!


『そんな!?あり得ない!』

「ほれ、ジゴロウ。本体は任せたぞい」

「任せな、ジイさん!」


 余りの事態に絶句していたマクファーレンだったが、さらに恐ろしい事が行われ始めた。なんとジゴロウが筋力に任せて装甲を剥がしに掛かったのである。金属が歪み、人工筋肉がブチブチと千切れていく。操縦席では更に各種機器がショートしたスパーク音と異常を知らせるアラームが鳴り響いていた。


『や、止めろ!止めてくれ!何が望みだ!?』


 マクファーレンはこの期に及んで命乞いをし始める。戦闘経験の浅い彼には、ここまで追い詰められた経験が無いのだ。故に恐怖に屈してしまったのである。


「望みだァ?んなもん、決まってんだろ」

「ひぃぃ!?」


 装甲を無理矢理破壊して行くと、ジゴロウは遂に操縦席まで辿り着く。そして左手で首根っこを掴むと、強引に引きずり出した。


「た、た、助けてくれ!見逃してくれぇ!」

「テメェの首だぜ、クソ野郎」

「ぎぃぇ…」


 ジゴロウは裸絞めを掛け、更に捻ることで首が曲がってはいけない方向に向いてしまった。こうして下僕よりも遥かに弱いボス、機械化人間(サイボーグ)デイヴィット・マクファーレンは無様な命乞いを聞き入れて貰うことなく討伐されたのだった。

 次回は6月26日に投稿予定です。

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[気になる点] 源十郎の「剣豪」はタイトルではなく職業では? タイトルだとしたら選択したっていうのがよくわからなくなります。
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