黒死の氷森 その十
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35式龍型魔導式強化鎧 品質:劣 レア度:T
古代の文明によって製造された、対龍用有人魔導兵器。
操縦に必要な能力は無く、多少の訓練を積めば誰でも動かす事が可能。
陸海空全てでの戦闘に耐えうる汎用性と豊富な武装が搭載されている。
激しい戦闘によって損傷が激しく、いつ壊れてもおかしくない。
しかし、現代で動くものはもうこの一機のみであろう。
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マクファーレンを改めて【鑑定】した結果がこれである。あの機械の龍は『35式龍型魔導式強化鎧』と言うらしい。古代の兵器、と言うことは十八號と同じ時代の兵器なのだろうか。こんな兵器を運用していたのなら、当時の人間は栄華を極めていた事だろう。
それは兎も角、今にも壊れそうな見た目であるからといって油断は出来ない。あの質量はそれだけで脅威なのだ。それに【鑑定】の説明文によれば、豊富な武装があるらしい。壊れていない武装がどこかに隠されていると考えていいだろう。
しかも『対龍用』の文字から察するに、あれ龍と戦う為に製造された兵器らしい。カルの強さを重々承知している私としては、その同族と戦うことの厳しさを容易に想像出来る。ならば
『フハハハハァ!そうだ、最初から出し惜しみせずに使っておけば良かったのだ!さあ、死ぬがいいっ!』
「ちっ!」
マクファーレンは高笑いを上げながら、最も近くで戦っていたジゴロウ目掛けて左腕を叩き付けた。偽骨龍を巻き込む前提の攻撃である。戦闘の最中であっても周囲への警戒を怠っていなかったジゴロウは、それを横に跳躍することで回避に成功した。
「ギャアアアア!?」
だが、偽骨龍はその巨体と鈍重さ故に間に合わない。金属の爪が骨を断ち切り、背骨に至っては粉砕されてしまった。偽骨龍はまだ体力が残っているようだが、既に瀕死の状態である。あっ、頭が踏み潰された。これでもう死んでしまったらしい。下僕ごと敵を攻撃するとは、まるで私のようだ。
それにしても、奴の一撃の重さは尋常ではない。流石は成体の龍と渡り合う為の兵器と言ったところか。あの強化鎧の凶悪さを、はっきりと眼に見える形で教えられたようだった。デモンストレーションとしては大成功である。
「あっ!?オイ!テメェ!やりやがったな!?ぶっ壊してやる!」
これに対して激怒したのはジゴロウであった。どうやら、自分の獲物を奪われたと感じているらしい。同士討ちしているのだから、私なんかは逆に感謝してもいいと思う。しかし、そうは考えられないのがジゴロウなのだ。
彼はもう一頭の偽骨龍を殴って怯ませると、マクファーレンに向かって駆け出した。陸上選手も真っ青な速度で走っているが、これはステータスのお陰なのでもう見慣れた光景である。
『アッハハハハ!愚か者め!そのまま踏み潰してくれよう!』
矢のように突っ込んだジゴロウに対して、マクファーレンは嘲笑しながら右脚を振り上げた。巨体とそれに見合う怪力に任せて圧殺しようとしているのだろう。しかし、それは些かジゴロウを見くびり過ぎではないか?
「遅ェんだよ、コスプレ野郎!」
『何ぃ!?ちょこまかと鬱陶しい!』
ジゴロウは迫る足の裏に臆すること無く走り続け、踏まれる直前に回避する。それだけではなく、速度を乗せた蹴りを踏みつけたのとは逆の左脚に叩き込んだ。
「硬ェ!?」
『ふん!この強化鎧は、我等人間の叡知が産み出した最強の兵器!貴様等のような矮小な魔物の攻撃で傷一つ付けられんわ!』
「…言ってくれるじゃねェか。兄弟!」
「わかっている。中魂癒」
あ、ひょっとしなくてもジゴロウは意地になっているみたいだ。こうなったら絶対にマクファーレンをギャフンと言わせるまで戦うのを止めないつもりだろう。ならば、私がやることは少しでも勝率を上げる為に彼の体力を回復させることだけだ。
『何をゴチャゴチャ言っている!さっさと死ねぇ!』
踏みつけに失敗したマクファーレンは、仕留め損なったことへの苛立ちを隠さずに追撃する。左腕を振り上げ、偽骨龍の背骨を圧し折った時のように叩き付けるつもりだったのだろう。
「ふん!」
『ば、バカな!?』
「ふぅむ、何という剛力か。手がちょびっと痺れたわい」
だが、二人の間へ飛び込んだ源十郎がそれを許さない。彼は三本の刀を同時に振るって左腕を弾いたのである。あんなに細い武器で強化鎧のパワーを反らせるなんて、相変わらず人間離れした神業だ。
「ジゴロウよ、あまり強敵を独り占めし過ぎるのは感心せんのぅ」
「別に独り占めする気は無ェよ。こっからヤルのは喧嘩じゃねェし。そうだろ?」
「そうじゃな。今から始まるのは…」
源十郎が割り込んだのはジゴロウの援護ではなく、自分も戦いたかったかららしい。ジゴロウの自己主張が激しいので忘れがちだが、源十郎も随分な戦闘狂である。あれだけ強大そうな兵器が出てきたら戦ってみたくなるのは自然な成り行きかもしれない。
そんな源十郎は、ボキボキと拳から音を立てているジゴロウと共にマクファーレンに向き直っている。そして戦意を滾らせ、二人同時に飛び掛かった。
「解体だァ!」
「解体じゃ!」
『うおおおお!?』
古代兵器を解体すべく、ジゴロウの拳と源十郎の斬撃が繰り出される。二人とも関節などの弱い部分を狙う技量はあるだろうに、敢えて硬い装甲を攻撃していた。恐らくは自分達の攻撃が貧弱だと言われたことに腹を立てているのだろう。うーむ、私とは別方向で子供な所がある二人だ。
「こいつで、最後だ!」
「や、やっとここまで来ましたか…!」
ジゴロウと源十郎がマクファーレンと戯れている間に、我々は残りの不死の群れをようやく殲滅する事に成功していた。雑魚と言うには強すぎる魔物を倒し切るのには骨が折れたが、まだ気を抜く事は出来ない。何故なら、三頭の偽骨龍という最後の試練が残っているからだった。
「偽骨龍は残り三頭か。よし、一頭はこのままカルに任せよう。邯那と羅雅亜、一頭を頼んでいいか?」
「勿論よ」
「恐獣と戦った経験が少しは活かせそうかな?」
「ありがとう。無理に倒そうとしなくてもいい。私を含めた残り全員が最後の一頭を倒すまで時間稼ぎをしてくれ!」
作戦は単純である。一対一なら勝てそうなカルと二人で自由に戦ってこそ真価を発揮する邯那と羅雅亜に一頭ずつ任せ、残り全員で袋叩きにするのだ。強い敵は数で押し潰して一気に倒すに限る。そして可能な限り早く倒して、苦戦している所に助けに行くのが理想だろう。
「わかりました!こっちを向け!」
「ガァ?ガルルアアアアアア!!!」
最初に仕掛けたのはエイジである。真っ先にカルを背後から攻撃していた偽骨龍に向かって武技によって挑発した。それによって彼の方を振り向いた偽骨龍は、怒りの雄叫びと共に此方へ突撃してくる。よし、狙い通りだ!
「じゃあ私達はあっちね。別に倒してしまってもいいんでしょう?」
「それは負けるフラグって言われてるんだけど…まあいいや。雷矢」
「グルルゥ?ゴアアアアアッ!」
一頭が此方に来るのを確認してから、邯那と羅雅亜はジゴロウが放置している一頭へと駆けていく。その一頭は先程まで戦っていた相手がマクファーレンに集中しているせいでどうするべきか逡巡している様子だ。その個体に接近しながら羅雅亜が魔術を放ってダメージを与えると、二人の方に注意を向ける。標的を二人に移したらしい。持ち堪えてくれよ!
「ぐおおっ!重いぃ!けど!あの巨大蠍よりは弱い!」
エイジは偽骨龍の爪を踏ん張って受け止める。全力を出さなければ防ぎ切れないようだが、棘殻蠍大王の尻尾には及ばないらしい。彼は吹き飛ばされる事もなく、その場でどうにか踏み止まっていた。
「身体が大きいと関節も狙いやすいわ」
「お祖父ちゃんほど正確に斬れないボク達でも、これなら狙えるね!」
エイジの働きによって動きが止まった偽骨龍をルビー達が斬り刻んでいく。龍牙兵が相手だと関節を狙って斬るのは難しいが、偽骨龍の巨体ならばそれも容易のようだ。図体が大きいからこその意外な弱点である。
「ヘイヘイ、こっちだぜ!追い付いて来いよ、ノロマ!」
「ギャオオオオン!!!」
セイは従魔と共に偽骨龍の足元を駆け回りながら棍で殴打したり魔術を放ったりしている。小回りが利く彼らに攻撃が当てられず、偽骨龍は苛立った様に咆哮する。その隙に他の前衛組が攻撃してダメージは更に蓄積していく。
更にエイジも攻撃と共に挑発もしているので、偽骨龍の攻撃は空を切るかエイジに受け止められるかのどちらかであった。時折、範囲攻撃の武技を仕掛けてくるが、ダメージは大した事は無い。回復が間に合う程度の軽傷であった。
「うーん、自分にとっては厄介な相手っすね。明確な急所が分かりにくいっす」
「普通に頭じゃない?龍牙兵の時は頭狙ってたじゃん?」
「それは頭以外は狙いにくいからっす。胴体狙っても骨の隙間に入ったらあんまりダメージ出ないんすよ」
「へぇ~そうなんだ。それなら光属性の矢を使えば?そっちなら弱点なんて関係ないっしょ」
「そっちは残りが心許ないんすよねぇ…。前衛が危なくなった時にバシバシ使っちゃったっす」
「あんた等、無駄話しとらんと攻撃に集中せんかい!星魔陣、聖光!行けや、カラス共ぉ!」
「メェー、メェー。星魔陣、風刃ー」
後衛組は相変わらず遠距離攻撃に徹していた。シオはブツブツ言いながら矢を放ち、しいたけは謎の液体が入った瓶等を投げている。七甲は【神聖魔術】で攻撃しつつ【召喚術】で召喚した光属性のカラスの魔物で撹乱しつつ自爆特攻させていた。ウールは歌声によって味方を強化しつつ、合間に攻撃魔術を使っていた。
「兎路さん、ポーション投げます!使って下さい!紫舟、石柱のお札を投げます!それを足場にして!」
「サンキュー」
「助かったよ!ありがとう!」
「俺も行くぜ!」
アイリスは私に代わって指揮を執りつつ援護をしている。普段は工房に籠りがちな彼女は、戦闘力も余り高いとは言えない。しかし、意外にも前線指揮が得意なのだ。今は私の手が空いていないので、彼女に任せきりになってしまっていた。
「これで回復は終了。罠を設置しておいて…よし。次は付与の更新だ」
そして私と言えば、四ヶ所で行われている戦闘全体を支援していた。余計なことをしたら怒るであろうジゴロウと源十郎は兎も角、分の悪い戦いを強いられいるカルと邯那達は【付与術】と【魂術】による回復を途切れさせる訳にはいかないからだ。
一応、【浮遊する頭骨】によって援護射撃は可能だが、雀の涙程度のダメージに無駄な魔力を割くことは出来ない。何故かって?戦いが長引いているせいで魔力がカツカツだからだよ!時々【杖】の武技も使って回復させているものの、焼け石に水状態だった。
「ギャアアアア!?」
「カル!?」
そんなギリギリの戦いを強いられている最中、カルの悲鳴が聞こえてきた。慌ててそちらを向くと、カルが四つある眼の一つから血を流しているではないか!どうやら、敵の爪で抉られてしまったらしい。
クソッ!無茶をさせ過ぎたらしい。プレイヤーである我々も疲労困憊だ。一刻も早く勝利せねば!
次回は6月18日に投稿予定です。




