恐獣の荒野 その一
無作為迷宮は、我々がイベントで人類プレイヤーと戦った場所である。普通のフィールドで稀に入り口が発生し、しばらくすると消滅するという。入り口で分かるのは攻略の適正レベルだけで、中がどうなっているのかは入ってみるまで不明だ。イベントの時は名前もわかったらしいが、実装されてからはそれも不明であるらしい。未知を楽しめ、ということだろうか?
パーティーの編成や手持ちのアイテムでは攻略が困難である場合も多いのだが、中で入手出来るアイテムは非常にレアであるとも聞く。行ってみる価値はありそうだ。
「行くのは賛成だが、適正レベルはどうなっている?あまりにも高過ぎると無理だぞ?」
「そこは大丈夫さ。適正レベルは30~40と書かれていたからね」
と言うことは今いる『疾風の草原』とほぼ同じ難易度ということか。あまり難しい場所では無さそうだし、攻略するのも難しくなさそうだ。ならば問題は無いか。
「よし!無作為迷宮に行くか!」
「楽しみね!」
「どんな魔物が出るんでしょうか?」
「良い素材がー、出るといーねー」
◆◇◆◇◆◇
我々は邯那と羅雅亜の二人をパーティーに加えてから、無作為迷宮に案内してもらった。迷宮の入り口は、ウネウネと蠢動する黒い空間の穴のようなものである。草原のど真ん中にそんなものがあるのは、かなり違和感があった。
私たちがその中に勇気をもって足を踏み入れると、一気に視界が切り替わる。すると周囲の環境が激変しているではないか。
「『恐獣の荒野』…フィールド型の迷宮か」
我々が入ったのは、『恐獣の荒野』という迷宮であったらしい。迷宮、と言っても我々がいたのは地平線の彼方まで続く荒野であった。地面は乾燥し、雑草すらほとんど生えていない。しかも常に砂塵が舞っている。
どうやらここはジゴロウの作った『修羅の草原』と同じタイプであるらしい。と言うことは、広いフィールドの何処かにいるボスを倒せばクリアとなるハズだ。
「うひゃー、広いですね」
「そうだな。だが、目指すべき場所は明確だ」
「あからさまだもんね」
全員が見ていたのは、荒野のど真ん中にたった一つだけある丘であった。目指すべき場所についてのヒントが彼処しかないので、余程のへそ曲がりでなければ向かう事になるだろう。
「出発…の前にお客様が来たみたい」
乗馬しているお陰で視点が高い邯那が、此方へ接近する敵を発見した。その姿を見て、私は無い目を見開く思いであった。
「あれは…恐竜か?」
「そうですよ!あれはヴェロキラプトルです!」
その魔物はまさに恐竜であったのだ。赤い鱗と前肢に生えた同じ色の羽毛、そして後肢にある発達した鉤爪。色以外は映画などの創作物で幾度か見た恐竜そのものだった。群れの数は六頭。それが我々目掛けて猛ダッシュしてきているのだ。
私も男の子だ。恐竜というロマンの塊が動いている姿を見て些か以上に興奮している。だが、エイジは輪を掛けて大興奮していた。
「詳しーねー。恐竜好きなの?」
「小学生の時は大好きで、何度も博物館に行ったんだよ!動いてる姿を見られるなんて、感動だ!」
「VR映画とかもあるのに…」
紫舟がボソッと呟いたが、VRによる映画や観光、体験ツアー的なものの中に太古の時代を再現した世界を題材としたものは既に幾つもある。なので恐竜の迫力や雄大さをリアリティーたっぷりに体験出来る機会は案外多かったりするのだ。
しかし、それを指摘するのは野暮というものであろう。何故なら、男とはそう言うものだからだ。何時までも少年の部分が消えないものなのである。それに、このように敵意を剥き出しにして襲い掛かってくるのは他作品では中々無いのも事実だ。
そう、戦いになるのだ。ならばいつも通り、最初は【鑑定】からだ!
――――――――――
種族:火爪恐獣 Lv32~36
職業:獣闘士Lv2~6
能力:【牙】
【火爪】
【尾撃】
【鱗】
【体力強化】
【筋力強化】
【敏捷強化】
【器用強化】
【知力強化】
【火属性魔術】
【火属性耐性】
【連携】
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「種族は火爪恐獣、レベルは30代。【火属性魔術】も使えるスピード型の戦士だ。【連携】の能力があるから、注意してくれ!」
「了解です!」
私は【鑑定】した結果をざっくり纏めて全員に伝える。それを聞きながら、エイジが盾を構えて前に出た。兜の隙間から覗く彼の瞳は、強敵と対峙した時のジゴロウを彷彿とさせる輝きを湛えていた。
「「「ギャギャアアァァァ!!!」」」
「ふんぬっ!盾重打!」
「「「ゴェガァ!?」」」
鉤爪で引き裂かんとばかりに飛び掛かって来た火爪恐獣三頭を、エイジは盾で纏めて受け止める。更に武技を用いて思い切り殴り飛ばした。真鋼鉄で強化された彼の盾と圧倒的な筋力によって、火爪恐獣は砲弾のように吹き飛んだ。
「龍牙兵に比べれば軽いモンですね」
「邯那達は背後に回り込んでくれ。紫舟は右から攻撃。左側は私が抑える。ウールは眠らせてみてくれるか?」
「行くわね」
「任せて!」
「はーい」
邯那と羅我亜は即座に駆け出して背後に回る。紫舟も素早く右にいた一頭に張り付いて、鋭い節足と牙を突き立てていた。私もエイジの左側に足止め用に【罠魔術】で仕掛けた【神聖魔術】の聖輪によって拘束していく。これだけでも十分倒せそうではあった。
「メェー、メェー。よく効くねー」
しかし、戦場を支配していたのはウールの鳴き声である。格下で耐性も無いからだろうが、彼が鳴き声を上げる度に一頭、また一頭と眠って行った。火爪恐獣に限らず、普通の魔物相手ならば彼の鳴き声は凶悪の一言に尽きるのである。
「あら?楽ねぇ」
「ゲゲェェ…」
「ウール君の力かな?」
「ギョォッ…」
そこに助走を付けて勢いに乗った邯那と羅我亜が突撃してくる。眠っているせいでピクリとも動かない火爪恐獣は、方天戟に貫かれたり蹄に踏み潰されたりして撃破されていく。レベル差のある相手を前に、グッスリ寝ていたらそうなるわな。
突撃された時の音と衝撃で残りが起きたようだが、時既に遅し。目覚めた時、きっと彼らの視界に写ったのは、魔術であったり刃であったり、牙や蹄であったりしたのだから。
「…なんかあっさりでしたね」
「所詮は格下だからな。こんなものだろう」
エイジは少し不服そうだ。きっと、ロマンの塊のような恐竜型の魔物が思っていたよりも弱かった事に複雑な思いをしているのだろう。だが、レベルの壁があるのだから仕方がない。苦戦したければ、基本的にレベル帯が我々と同じ相手でなければならないのだから。
「それより素材だよ!しいたけとアイリスが喜びそう!」
「そーだねー」
紫舟の言い分は尤もである。なので早速、私は懐から取り出した剥ぎ取り用ナイフを火爪恐獣に突き刺す。さて、何がドロップするのかな?
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火爪恐獣の鱗 品質:良 レア度:C
火属性を宿す恐獣の鱗。
比較的薄いが、その分軽量である。
火属性への高い耐性を持つ防具の素材となる。
火爪恐獣の鉤爪 品質:良 レア度:R
火属性を宿す恐獣の鉤爪。
火爪恐獣の代名詞とも言える鉤爪は、加工せずとも刃物のような切れ味を誇る。
火属性を持つ武器の素材となる。
――――――――――
予想から外れることもなく、鱗と鉤爪、そして火属性の魔石が手に入った。魔石に関しては省略するとして、残りの素材は属性を持った武具の素材となるらしい。これはいい!やはり、無作為迷宮の一番の旨味は、本来はそのフィールドではドロップしないアイテムを入手出来る点だろう。
流石に『黒死の氷森』のドロップよりは質が劣るようだが、それは魔物のレベルが低いので仕方がない。弱くて強力なアイテムをくれる都合の良い魔物など、そうそう居る訳がないのだ。
「鱗は軽量の鎧に使えそうね。兎路にいいんじゃないかしら?」
「僕もそう思いますよ。鉤爪は…欲しがる人が多そうです」
「幸いにもそんなに強い相手ではないし、倒せる敵はガンガン倒して行くか。採取出来る場所があるかもしれないし、地面にも気を配りつつ進むとしよう」
「はーい」
◆◇◆◇◆◇
それから我々は、丘を目指して攻略を進めた。その間にかなりの回数襲撃されていた。火爪恐獣の群れが最も多かったが、時折異なる魔物とも戦った。それらのレアドロップがこれだ。
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岩頭恐獣の頭骨 品質:良 レア度:R
土属性を宿す恐獣の頭蓋骨。
岩頭恐獣の特徴でもある頭蓋骨は非常に重厚で、金属を越える硬度を誇る。
土属性を持つ武具の素材となる。
水刃恐獣の背突起 品質:良 レア度:R
水属性を宿す恐獣の背突起。扇のような形状をしている。
空洞の骨は以外にも頑丈で、膜の手触りは驚くほど良い。
水属性を持つ武具の素材となると同時に、高級なドレスの素材にもなるだろう。
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それぞれ岩頭恐獣と水刃恐獣の素材である。それぞれに鱗と属性を持った魔石もドロップしていた。属性の記述が異なるだけだったので、割愛しよう。
岩頭恐獣は、ツルリとした硬い頭骨を突き出しながら突進してくる魔物であった。身体は火爪恐獣よりも大きく、食欲を剥き出しにして迫るのは結構恐ろしかった。それに突撃はエイジが正面から受け止めるのを拒否する威力であり、初見の時はかなり苦戦した。
ただ、突進以外の攻撃方法を持っていないのが致命的だった。一度やり過ごしてしまえば、Uターンして戻ってくる時の減速によって隙を曝してしまうのである。加速にも時間が必要なので、途中からは回避して遠距離攻撃で仕留めるという最適解に落ち着いた。
まあ、先程倒した一頭はすれ違い様に邯那が首を刎ねていたのだが。流石はプレイヤー最強の騎兵である。
水刃恐獣は、立派な背鰭っぽい器官を持つ魔物だった。エイジの蘊蓄によれば、現実にいたスピノサウルスはこの大きな突起によって体温管理をしていたらしい。しかし、ここはゲームである。使い方は全く異なっていた。
扇子めいた形の背突起は、魔術師にとっての杖のようなものだった。魔術を使う度にこの部分が淡く輝くのである。中に通った骨から水を噴射することもあり、レベル以上に強かった印象だ。
他にも魔物は見掛けたものの、我々を見るや否や即座に逃げ出したのでアイテムは入手出来ていない。レベルが違いすぎるとこういうこともあるのだ。楽でいいが、適正レベルを越えすぎている弊害と言えよう。ドロップアイテムの量が減ってしまうのは残念である。
「それにしても、ここにいるのはリアルの恐竜とは随分異なるようだ」
「やっぱり魔物ってことでしょうね…」
ここまでの道程で私たちが遭遇した魔物は、どいつもこいつも肉食だった。本来は草食だったはずのパキケファロサウルスも我々を見て逃げた魔物も、他の魔物を食らっているのを見掛けたから知っている。どうやらこの『恐獣の荒野』は弱肉強食を繰り返す恐るべき場所のようだ。
それぞれのレアドロップを幾つか入手出来たくらいで、我々は遂に丘の頂上へと辿り着く。平野部分と同じく、ここにも植物は全く生えていない不毛の大地である。
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ダンジョンボスエリアに入りました。
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だが、我々の予想は正しかった。ここは確かにボスエリアだったことをシステムメッセージが教えてくれたからだ。我々がアナウンスを聞いて無言で身構えると同時に、丘の頂上に鎮座していた大岩が動き出す。
「ブオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
大岩はボスであったらしく、侵入者を感知して雄叫びを上げた。寝起きなのか、何処と無く機嫌が悪そうに思える。こうして無作為迷宮のボス戦が始まるのだった。
作者は人並みに恐竜がカッコいいと思っていますが、知識が豊富なわけではありません。なので描写が間違っているかもしれないのはご了承下さい。
次回は5月25日に投稿予定です。




