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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第十一章 黒死の氷森
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餓魂之大鎌

 私の首が斬られ、頭蓋骨が床に転がる。私の首を刎ねた鎌は、その勢いのままに床に突き刺さった。


「あー、ビックリした」


 私は斬られた首の辺りを擦りながら、()()()頭の調子を確かめる。しれっと生き残っているが、これは【生への執念】の効果で死亡時に残っている【浮遊する頭骨】が代わりの頭部になったお陰だ。


 瀕死の状態ではあるものの、死ぬことだけは免れた。いやぁ、危なかった。【生への執念】の効果を確かめる事が出来て良かった、と思うとしよう。しかし初めて発動した原因が、自分の武器に斬られたからと言うのは微妙である。


「だ、大丈夫ですか!?頭が!頭がポーンって!」

「平気さ。能力(スキル)のお陰でね。それよりも…」


 私は床に刺さった鎌に目を向ける。私とアイリスが目を離した隙に、鎌はその形状を大きく変えていた。それまでは新品同様になっていて、刃と柄が普通の鉄よりも黒っぽい以外は普通の大鎌だった。


 それが今はどうだ?柄には禍々しい骸骨を模したと思われる装飾が施され、鎌らしく湾曲していただけだった刃はいつの間にやら波打っている。先程とは完全に別物であった。


「これは一体どういうことだ?アイリス、知っているかい?」

「わかりません…けど、変化した原因はアレじゃないでしょうか?」

「アレ?」


 アイリスが触手の一本を向けた先にあったのは、何故か上半分がごっそり消えた私の頭蓋骨だった。よく見ると、頭蓋骨は今も徐々に風化していっている。自分の頭蓋骨が風化していく様子を見るとは、非常に貴重な体験であろう。


 閑話休題。頭蓋骨が風化している理由だが、単に私の首から落ちたからではなさそうだ。何故そう言えるのかと言えば、風化してサラサラの砂のようになった骨は風も吹いていないのに鎌の方へと流れ、吸収されているからである。その様子はまるで鎌が私の骨を喰らっているかのようだった。


「推測ですけど、あの鎌は首を刎ねた持ち主の頭部を吸収して完成するんだと思います」

「持ち主を殺して完成とは…NPCでは絶対に使えない物じゃないか」


 アイリスの予想が正しいとするなら、これほどNPCには渡せない武器は無い。彼らは死んだら復活はしないからだ。蘇生の魔術があれば可能だろうが、少なくともプレイヤーのように放って置いても決められた地点からリスポーンする訳ではない。完成の為には本人の命が必要な武器など、誰が欲しがるというのか。私のように即死を免れる手段を持っていない限り、プレイヤー専用の武器と言うべきであろう。


 そんな事を話している間に、私の頭蓋骨は完全に消滅して鎌に吸収されてしまった。すると、鎌の刃から私の【深淵のオーラ】彷彿とさせる黒い靄が垂れ流される。うげぇ…これってもしかしなくても…


「…呪われてませんか?」

「アイリスもそう思うか?」


 幽鬼(デモンスピリット)が時折遺す武器と雰囲気がそっくりなのだ。だが、このまま放置しておく訳にもいかない。私は恐る恐る鎌の柄を握ると、床から引き抜く。それと同時に、刃から溢れる靄はその勢いを一層増した。まるで喜んでいるかのようである。とりあえず、【鑑定】しておくか。


――――――――――


餓魂之大鎌 品質:可 レア度:G(神級)

 真なる力の一部を取り戻した大鎌。破壊不可。所有者固定。

 斬った者の魂を喰らい、血肉を穢す呪われた武器。

 強化素材:闇黒鋼×20、邪悪ナル魂魄×4

 装備効果:【闇属性付与】

      【吸魂】

      【穢血】

      【封印中】

      【封印中】

 ※この武器は呪われており、浄化は出来ません。


――――――――――


「えぇ…浄化出来ない呪いって…」


 私は思わず嫌そうな声を出してしまった。どのような呪いが掛かっているのかは不明だが、浄化出来ないというのは驚きである。実は呪いの解き方はもう知っている。


 それは神殿で販売されている聖水というアイテムに呪われた装備を浸けるだけだ。呪いの強さによって浄化に必要な聖水の量と浸けておく時間は長くなるが、思っていたよりも簡単な作業ではある。


 バーディパーチの神殿でも入手可能であり、金属製の日用品と交換して貰うことが出来た。そうして手に入れた聖水を用いてアイリスは浄化した武器をインゴットに戻し、様々な武器や便利グッズを作っている。金属製の武具を使っているメンバーは、大体がアイリスの新作に換装している。


 一方で、しいたけは呪われた状態の武器で何か出来ないかと試行錯誤しているようだ。出会った時から薄々感じてはいたが、彼女にはマッドサイエンティスト的な部分があるらしい。


 それはともかく、浄化が不可能というのは驚きだ。私のビジュアル的には呪われた武器の方がお似合いかもしれないが、呪われていると知った上で装備するのはちょっと怖いぞ?


「しかし、折角修理して貰ったのだ。装備するか」


 呪われていると分かっていても、アイリスに手間を掛けさせて強化してもらった武器をインベントリの肥やしにするのは気が進まない。呪いの効果が不明ではあるが、装備してみれば案外デメリットは少ないかもしれん。よし、装備だ!


――――――――――


『禁癒の呪い』にかかりました。

装備中は魔術や薬による回復が出来ません。

自然回復による回復量は半減します。


――――――――――


 うーん、やっぱり呪われてしまったか。それで『禁癒の呪い』とは回復全般に悪影響を及ぼすらしい。幸いにも装備の解除は可能なので、戦闘終了後に装備から外せばいいだけだ。元々後衛でダメージを負うことその物が少ない私にとっては、そこまで厳しい呪いでは無い。手間は増えるが、それだけである。


 むしろデメリット以上に装備効果が優秀だ。【闇属性付与】はそのままに、二つの効果が封印から解除されている。一つ目の【吸魂】は、鎌による攻撃でダメージを与えた相手の魔力を吸収する効果だ。吸収効率は不明だが、あくまでも『ダメージ』なので飛斬でも魔力を吸い取れるようだ。わざわざ接近する必要が無いのは助かる。


 二つ目の【穢血】はダメージを与える時にランダムで状態異常にする効果である。こちらも掛けられる確率は不明だが、ランダムというのは敵が対応し辛いので悪くは無い。


 しかも私には【深淵のオーラ】があるので、私に接近した相手は常に状態異常への恐怖に震えることになるだろう。しかしながら、安定しないという欠点はあるので過信は禁物だ。


「ど、どうでしたか?」

「ああ、回復が難しくなるだけのようだ。二度と外せなくなる訳でもないから、心配は不要だ」

「いやいや、回復出来ないってかなり危なくね?」


 そう言って割り込んだのは、もはやこの工房のもう一人の女主人とも言えるしいたけであった。いつの間にここに来ていたのだろうか?


「いやぁ、お二人が狭い部屋に入っていくのを見たんでねぇ…」

「おい、最初から見ていたのか」


 傘の裏の付け根を書きながらカラカラと笑うしいたけに、私は呆れてしまった。見られて困るような事はしていないし、聞かれて困るような事も言ってない。だが、ずっと覗かれていたと言われると微妙な気持ちになる。


「そんなことよりもさ、その鎌のことだよ。ホントに使うの?」

「使うさ。呪いの武器がどんなものなのか知っておきたかったし、もう装備しているからその忠告は少し遅い」

「そっかぁ。妙な事があったら教えてねぇ~」


 それだけ伝えると、しいたけは去っていった。一体何だったんだ…?


「あの、とりあえず使ってみてくれませんか?次の遠征は明日ですし、慣らしの意味もありますから」

「そうだな。そうするか。誰か適当に誘って試し斬りをしてくるよ」

「気を付けていってらっしゃい」


 私はアイリスに見送られながら、彼女の工房を後にした。先ずはクランハウスに行って、暇な誰かを連れてフィールドに出るとするか。



◆◇◆◇◆◇



「それじゃあ、ぼく達はアシストに徹するようにしますね」

「すまんな、付き合わせてしまって」


 そんなこんなで、私は『疾風の草原』へと足を踏み入れていた。同行しているのはエイジ、紫舟、ウール、そして邯那と羅雅亜のコンビである。いつも私についてくるカルだが、今日は熟睡していたので起こさずにおいた。それに今のカルがいると武器の性能テストをする暇もなく全滅させてしまいそうだし、これでいいだろう。


 あと、騎馬兵のお二人は戦闘に参加しない。二人は草原を走ってのデートである。なのでパーティー組んでいなかった。


「じゃあ何かあったら連絡してくれ。なるべく早く駆け付ける」

「ありがとう」

「面倒を掛けるね。こちらこそ、何かあったら全速力で向かうよ」


 そう言って二人は草原へと駆け出して行った。そもそもあのように自由に乗馬するのが目的でゲームを始めた二人だ。念願叶ってとても活き活きとしておられるな。楽しむ事は良いことだし、ああやって一緒に遊んでいることから夫婦仲が良いのも伝わってくる。その邪魔をするなんて、とんでもない。あっちには羅雅亜がいるので、本当に馬に蹴られてリスポーンしかねないしな!


「では、我々も行くとするか」

「前衛は任せて下さい」

「呪いの武器…ちょっと怖いね」

「だいじょーぶだよー。暴走するー、みたいな効果はー、無いしねー」


 私が呪いの武器を試すという事に紫舟が若干怯えているようだが、ウールが落ち着かせていた。うーん、やはり呪いの武器という字面がヤバいからだろうか?


魔力探知(マジックエコー)…ふむ、前方から五体の敵が近付いて来ている。注意してくれ」


 魔力探知(マジックエコー)を使いながら進んでいると、私は敵の存在を察知した。仲間達はすぐに臨戦態勢に移行する。さて、何が飛び出してくる?


「「「「「ガルルルルル!!!」」」」」

風雌獅子(ウインドライオン)か」


 風雌獅子(ウインドライオン)は、ここのフィールドでは割りとポピュラーな魔物である。ボスの取り巻きでもあり、安定した強さを誇っている。しかし、如何せんレベルが低いので大した脅威とは呼べない。


「試し斬りには丁度良い、か。下がってくれ」


 私はそう言って前に出る。エイジ達は素直に下がってくれた。それは一人でも余裕を持って倒せると思っているからに他ならない。信頼されている限りは、無様な戦いは見せられんぞ。


「先ずは、飛斬」

「ガルアァ!?」


 私は小手調べとばかりに、【鎌術】の武技である飛斬を使う。闇属性を帯びた飛ぶ斬撃は、私に向かって真っ直ぐに突撃していた先頭の一頭を斬り裂いた。


「ガ…ガルルゥゥ…」

「やはり私のステータスでは即死させられんか。だが、【吸魂】と【穢血】の効果は確認出来たようだ」


 私は早速、試し斬りの成果が上がったことにほくそ笑む。飛斬が直撃した時、私の魔力は少し回復し、同時に風雌獅子(ウインドライオン)のアイコンには麻痺の状態異常が表示されている。これは正しく、【吸魂】と【穢血】が効果を発揮したに違いない。


「この調子で行くか。短距離転移(ショートテレポート)

「ギャン!?」


 私は【時空魔術】で背後へと瞬間移動すると、最後尾を走っている一頭を斬る。今度は武技を使っていなかったが、斬ったと同時にまた魔力が回復した。しかし、状態異常には掛かっていない。


「【吸魂】の効果は直接斬った方が高そうだ。あとは【穢血】の発動する確率はどんなものかを大体調べておこう」


 それから私は大鎌を振るい続け、検証を進めた。そこで判明したのは【吸魂】は与えるダメージと吸い取る魔力の量が比例することと、【穢血】は刃で直接斬った方が発動しやすいことである。まあ、想像通りではあるな。


「ふむ…魔術を絡めれば龍牙兵(スパルトイ)なら一対一でも倒せそうだ。しかし、流石に魔術無しは無理か」

「いやいや、同じレベル帯の前衛相手に近接戦闘だけで勝てる魔術師がいたらドン引きですよ」

「…それもそうか」


 結論から言って、大鎌だけで戦うのは無謀である。魔力の回復が被ダメージのリスクと見合っていないからだ。鎌を使う専門の前衛なら良かったのかもしれないが、私にとって鎌はいざというときの武器に過ぎない。大人しく飛斬などの遠距離攻撃が強化されたと思って運用した方が良さそうだ。


「試し斬りはこのくらいでいいだろう」

「じゃあ今から『黒死の氷森』に行きません?ぼく達、もう少しで進化出来そうなんですよ」

「勿論、私は構わない。二人はどうだ?」

「行くわ!」

「行くよー」


 進化が目前ならば、遠征前に少しでも経験値を稼いでおきたいのだろう。経験値は私も欲しいので、『黒死の氷森』に行くのは歓迎するところだ。


「じゃあ…ん?どうした、エイジ?」

「あれって、邯那さんと羅雅亜さんですよね?」


 『黒死の氷森』へ向かおうと言うタイミングで、エイジが此方へ走ってくる邯那と羅雅亜を発見したらしい。何かあったのだろうか?


「おーい!みんな!」

「どうした、羅雅亜?急いでいるようだが…」

無作為迷宮(ランダムダンジョン)の入り口を見つけた!一緒に攻略しないかい!?」


 私たちは顔を見合わせると、即座に頷いた。

 次回は5月21日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >傘の裏の付け根を書きながらカラカラと笑うしいたけに、 「付け根を掻きながら」ではないかな?誤字報告できないので多分嫌ってるかと思ったので嫌であれば報告はしないでおきます
[一言] アイリス「イザーム、新しい顔よー」
[気になる点] 誤字報告ですね。 >あと、騎馬兵のお二人は戦闘に参加しない。二人は草原を走ってのデートである。なのでパーティー組んでいなかった。 パーティー組んでいなかった→パーティ「を」かな?
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