北の山の悪夢
新章が始まります!
マップを頼りに西の森から北東に進んでいく。道中の敵は大したことは無く、特に進化した魔術を使えば一瞬で片付いた。
けど、サクサク進む最大の理由は装備が変わったことだろうな。蓬莱の杖の【魔術効果上昇】と【魔力増強】は強力だ。前者はあらゆる魔術の効果が上がり、後者は私の魔力の最大値が上昇している。
さらに髑髏の仮面を被った状態で召喚したの下僕達はこれまでよりも頑丈かつ力強くなっており、二対一なら羆を殴り殺せるほどだった。確実に【死霊魔術強化】のお陰だろう。
流石は品質・レア度共に最高の品だ。大切に使い続けよう。だからこそ他の装備の貧弱さが際立つのだが、解決策が無いのだからどうしようもない。なるようになるさ。
そんなこんなで北の山の麓に到着。麓に到着した事をアイリスさんに連絡しておこうか。新しい書き込みは無い。大人しく待っているのだろう。
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131.イザーム
山の麓に着きました。
132.アイリス
あ、イザームさん!今すぐ逃げて下さい!
133.イザーム
何かあったので?
134.アイリス
今、攻略組のトッププレイヤー達が山狩りをしてるんです!魔物ってだけで殺されちゃいます!
135.イザーム
アイリスさんも危ないのでは?
136.アイリス
私は平気です!だから逃げて下さい!
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いや、逃げろと言われてもな…。
「いたぞ、あそこだ!」
「追い詰めろ!」
おっと、プレイヤーだ。しっかりした装備で固めているな。攻略組って連中か。何かを追っているらしいな。お目当ては…小鬼か?物語だと最弱の一角な事が多いのだが…どうしてわざわざそんな雑魚を追いかけるんだ?様子を見よう。
「グギャア!」
「チッ、ただの雑魚じゃねぇか。ハズレだ!」
「悪夢の首は誰にも渡さねぇ!絶対に俺達で狩るぞ!」
「名を上げてあのスカしたハーレム野郎に目にもの見せてやる!行くぞ!」
…行ったな。剥ぎ取りすらしないとは、相当急いでいるな。では分析してみよう。ハズレ、という言葉から相手の狙いは小鬼で確定だ。次に悪夢というワード。つまり、彼らの目的は『悪夢と呼ばれる小鬼』と言うわけか。
知りたいことを全部喋ってくれた彼らには感謝しておこう。スカしたハーレム野郎が誰なのかは知らないし興味もないが。この事はアイリスさんに報告だな。
――――――――――
137.イザーム
ああ、すいません。プレイヤーをやり過ごしてました。アイリスさんは無事ですか?
138.アイリス
は、はい!大丈夫です!そちらこそ平気なんですか?
139.イザーム
ええ。問題ありません。所でお聞きしたいのですが、彼らの標的は『悪夢と呼ばれる小鬼』らしいのです。あと『スカしたハーレム野郎』に聞き覚えは?
140.アイリス
えっと、両方有名なんですけど…ご存じありませんか?
141.イザーム
半分引きこもり状態で掲示板を利用しませんでしたから。
142.アイリス
そうなんですか。では説明しますね
まず…
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アイリスさんの説明によると、『悪夢と呼ばれる小鬼』は北の山に住む出鱈目に強い小鬼で、『スカしたハーレム野郎』とはライトノベルの主人公ばりにモテるイケメンプレイヤーなのだと。
前者はともかく、後者とは絶対に仲良く出来ないだろうな。それは嫉妬云々ではなく、彼が『光と秩序の女神』アールルの加護を賜った半ば公式の勇者だからだ。愛称か揶揄かは知らないが、通称『勇者君』らしいしな。
私は悪役のロールプレイヤーだ。正義の味方と仲良くするなど、味方をした方が熱い展開にならない限りはあり得ない。つまり、遭遇したら真っ先に殺すべきだろうな。
「ギシャアアアアアアア!」
そんな妄想をしていると、森の奥から裂帛の雄叫びと戦闘音が響き始めた。音が継続している事から、きっと悪夢が戦っているのだろう。これは…
「便乗するしかないよなぁ?」
私の顔に表情筋と皮膚があったなら、きっと百人中百人が邪悪と呼ぶ顔をしていた事だろう。行く前に、アイリスさんに一言声をかけておこうかな。
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154.イザーム
アイリスさん、今の音を聞きましたか?私は行ってみます。
155.アイリス
ふえぇ!?死んじゃいますよぉ!
156.イザーム
その小鬼さんはプレイヤーかもしれないのでしょう?だったら行きますよ。魔物系同士、助け合いですよ。
157.アイリス
イザームさん…。
158.イザーム
では、戦いが終わった後で。
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これでよし、と。さぁて、行くとするかね。出来る限り劇的な登場を演出せねばな!
◆◇◆◇◆◇
俺はジゴロウ。なんてこたぁない、普通のFSWのプレイヤーだ。強いて他人との違いを挙げるとすりゃあ、他よりちょいとばっかし戦闘が好きな事と、俺が魔物系のキャラだって事くらいか?
「ギシャアアアアアアア!」
俺は気合いを込めた雄叫びを上げながら、正面の盾を持った兄ちゃんに突っ込む。俺の拳は盾で防がれたが、本命はそっちじゃねぇ、脚だ!
「ぐぁぁ!」
「シャァ!」
俺は膝にローキックをかます。こんなちっちぇえ姿だが、能力のお陰で強化された筋力に任せた蹴りは軽く膝をへし折った。それで体勢を崩した野郎の首を爪で引き裂く。これで一丁上がりだ。
「テメェ!」
「よくも仲間を!」
俺に仲間を殺されて残ってた二人がキレた。左右から挟み撃ちってか?気合いは十分だが、隙だらけ過ぎんぜ?俺はこっちから見て右の相手の懐に飛び込んで距離を潰し、両目に指を突っ込んだ。
男は悲鳴を上げてやがる。叫ぶ暇があったら下がれっつの。うるせぇから目に突っ込んで無ぇ方の手で首を握り折る。我ながらおっかねぇ握力だぜ。
「ち、畜生があああ!」
「ゲッゲッゲ♪」
残った一人はイカれちまったのか、出鱈目に槍を振り回してやがる。その穂先をキャッチすると、思いっきり此方に引き寄せた。
んで、ビビってる間抜け面に膝を叩き込んで顔面を破壊。これで一パーティー六名様がお帰りになりましたっと。
やっぱり、ここはいい。思いっきり暴れても文句を言う奴は居ねぇからな。リアルでも格闘技をやってるが、下らねぇルールのせいでつまらねぇんだよな。
格闘術、ってのは詰まる所素手で敵をぶっ殺す方法だ。俺は師匠からそう教わったぜ。目突き、金的、噛み付き、急所狙いに関節の破壊。スポーツのルールじゃあ当たり前に禁止されてるが、ここなら使える。これほど嬉しい世界は無ぇぜ!
「そこまでだ!」
「ギャ?」
んだぁ?人がせっかくいい気分で余韻に浸ってたのによぉ。邪魔してんじゃ無ぇぞ、糞野郎。
「…馬鹿が抜け駆けしたみたいね」
「いいじゃん。大体何でいるのか分からない人達だったんだし」
やたらキラキラした鎧着やがって…って、おいおい!何の冗談だ?ゾロゾロ出てきたぞ。三パーティーの十八人だと?何か化け物でも殺しに行くんかね?
「お前が小鬼の異常種だな?討伐させてもらう!」
異常種だぁ?俺は普通の小鬼だぞ。もうすぐ進化出来そうだがよぉ。
ってか、コイツら俺を殺すために集まったってのか?頭数揃えたのは俺の為ってことかよ。
それはそれは…大歓迎だぜ!
「シャアアアアア!」
「前衛は無理せず防御に徹しろ!脚にも気を付けるんだ!」
「「「「「おう!」」」」」
チッ、戦い辛ぇな。デッカイ盾を並べて防御に徹してやがんのかよ。まるで亀みてぇだ。
何度も何度も連続で拳を叩き込んだけど、凹みこそすれ砕くことは出来ねぇ。もし進化してりゃあイケたかもしれねぇのにな!
「魔術、発射!」
「ガガァ!」
俺の足が止まった所でカラフルな魔術が雨霰ってな感じで降ってくる。俺は即座に後ろへジグザグに跳ぶが、躱しきれずに何発かかすっちまった。これじゃあジリ貧だな。だったら…
「ケェアアアアアアアアア!」
先ずは後ろの連中を狙う!魔術さえなけりゃあ前衛の連中は木偶の坊だからな。
「はぁっ!」
「させないっ!」
「ゲェッ!」
こいつ、最初の鎧野郎か!いい太刀筋してるじゃねぇの!もう一人の女もまあまあだ。こりゃあ燃えるぜ!
「ケェッ!」
俺は上体を反らして二人の剣を躱すと、そのまま背中を反らして両手を地面に着ける。そして逆立ちになりつつ、両足で二人以上同時に蹴ってやった。我ながら曲芸染みてんな!
「あぁっ!?」
「ぐっ、い、今だっ!」
「ゲアア!」
クソッ、魔術か!それに矢まで飛んで来やがる!避けきれねぇっ!
俺はいくつかの魔術でダメージを負った身体に鞭打って立ち上がる。まだ、負けちゃいねぇ。負けてねぇなら、立つ。それが師匠の教えだ。
なるほど、テメェらは俺を確実に仕留めようってんだな?一人を囲んでボコボコにするのは楽だろうぜ。けど、ただでやられたりゃしねぇ。一人でも多く道連れにしてや…
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プレイヤー、イザームからパーティー申請が届いています。
パーティーに参加しますか?
YES/NO
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何だこりゃあ?イザームって誰だ?それにこの状態の俺にパーティー申請だと?こいつ、馬鹿なんじゃねぇの?
まあ、いいだろ。俺も戦闘馬鹿だ。同じ阿呆なら一緒に踊ろうぜ、イザームさんよぉ!
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イザームからの申請を受諾しました。
パーティー名『人外ブラザーズ』に参加しました。
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…何だ、このダッセェ名前は?そう思った瞬間、世界は闇に覆われた。
◆◇◆◇◆◇
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ジゴロウが申請を受諾しました。
ジゴロウがパーティー名『人外ブラザーズ』に参加しました。
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よし、これでいい。このゲームに戦闘中に孤立したプレイヤーへパーティー申請を送れる機能があって良かった。本来は魔物と不利な戦いを強いられている時に使うのだろうが、使えるのだから使ってやる。
「魔術強化、魔術強化、双罠陣設置…」
悪夢ことジゴロウの動きは凄まじい。これはアレだ。リアルチートって奴だ。
自分の身体を動かすようにアバターを操れるようになった現在、現実で出来ることはほぼ全て再現可能だ。異世界に迷い込んだと思った方がしっくり来るほどだな。現実ではごく一部のスポーツ選手や武道家にしか出来ない動きを、ゲームの中ではシステムのアシストを受けて出来るようになる。これがVRゲームの醍醐味だとどこかのコラムで読んだ。
では現実でその動きが出来る人がゲームをするとどうなるか。例えば『正拳突き』という技があったとする。ゲームでそれを使うとき、普通は使用した時点で何らかのリソースを消費するか再使用まで一定時間使えない状態になる。
しかし、現実で出来る人は同じ動きを何の消費もなく、更に制限無く連続で使用出来る。ゲームのシステムを無視した彼らは、正しくチートな存在だ。
バランスを取るべく今ではシステムのアシストを用いた場合は追加効果があったり威力が増したりするのが一般的らしい。しかしながら、どのゲームでもトッププレイヤーの中に一定数のリアルチートな人々がいるのは変わり無く、それはゲーム業界の悩ましき壁だ、と新聞の五面記事に書いてあったな。
ジゴロウはその典型例なのだろう。更に【言語学】で聞き取った彼の鳴き声は、どれも楽しそうな笑い声であった。好戦的な性格、というか戦闘狂なのだな。それ故に被害を拡大させてしまったらしい。結果、討伐隊が組まれる大事になったのだろう。
「面白い、面白いぞ」
そう、面白い。こんなに戦うことしか頭にない者が、この平和な日本に他にもいるだろうか?いや、いるのかもしれないが、ごく少数に違いない。
そんな男との縁をどぶに捨てるのは勿体無い。非常に勿体無いのだ!ならば、私がやるべきは一つ!
「だからこそ、私は君を全力で支援しよう。君が求めるモノを楽しめる状況を作ってやろう!さあ、景気よく行こうじゃないか!暗黒界!」
私の杖から黒い光が迸る。北の山の一部が、闇に包まれた。
人外ブラザーズ(迫真)
主人公にはネーミングセンスが無いみたいですね。
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名前:イザーム
種族:動く骸骨 Lv9
職業:見習い魔術師 Lv9
称号:理の探求者
称号を得し者
異端なる者
下剋上
神算鬼謀
試練を越えし者
能力:残りSP 136
【杖】Lv12
【魔力制御】 Lv14
【土魔術】 Lv9
【水魔術】 Lv9
【火炎魔術】Lv0
【風魔術】 Lv9
【暗黒魔術】Lv1
【虚無魔術】Lv0
【召喚術】 Lv9
【付与術】 Lv6
【魔法陣】 Lv8
【死霊魔術】 Lv6
【呪術】 Lv5
【罠魔術】 Lv6
【考古学】 Lv7
【言語学】 Lv5
【薬学】 Lv7
【錬金術】 Lv7
【鑑定】 Lv9
【暗視】 Lv-
【隠密】 Lv9
【忍び足】 Lv8
【奇襲】 Lv6
【状態異常無効】 Lv-
【光属性脆弱】 Lv6
【打撃脆弱】 Lv10
固有能力
【イーファの加護】
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