防衛イベント終了!
掲示板回と同時に投稿しています。
拠点転移でポン、と帰還した私と七甲とモッさんの三人は、この穴蔵の中でイベントが終わるまで待つことにした。ここはイレヴスからは随分と離れているので、残りのメンバーがここまで戻ってこれるとは思っていない。それにフレンド登録はしてあるので、イベントが終わればすぐに連絡を取り合える。後々合流するのに問題はない。
アイリス達には話を通しているので、彼らを即座にクランに加えても良かったのだが、それはシステム的に出来ないようにしていた。というのも、クランに誰かを新たに加入する者は最低でも二人以上のクランメンバーのフレンドでなければならない設定にしていたからだ。
私は知らなかったのだが、シオが昔やっていたゲームにおいて加入に関して制限を緩くしていたクランではトラブルが起こる事が多かったらしい。それを纏め上げるのがリーダーの務めなのかもしれないが、それなら最初から反りの合わなさすぎる者を仲間にしなければいいというのが私達の下した結論だった。
それでは最後の戦闘で得た新たな魔術と称号を確認しておこう。まずは【付与術】の属性強化だが、これは付与した者による属性攻撃力を増強する効果だ。それは魔術だけではなく、物理攻撃も対象である。
つまりは特定の属性を持つ武器を持っているとそのダメージも上がるのだ。特定の属性に弱い敵が相手だと、他のステータス上昇系よりも効果的なのだろう。
次は称号であるが、『天使殺し』と『アールルの仇敵』だ。これはもう説明文を呼んだ方が早いだろう。
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『天使殺し』
神の使いを葬った者の証
天使に与えるダメージが微上昇する
獲得条件:天使を討伐すること
『アールルの仇敵』
『光と秩序の女神』アールルの憎悪を受ける者に与えられる。
光属性の天使から狙われやすくなる。
光属性の天使に与えるダメージが上昇するが、受けるダメージも上昇する。
PS 次に見付けたら絶対に叩き潰すから!おぼえてなさい!
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『天使殺し』は私達全員が獲得した称号だ。更に数を熟せば『エンジェルキラー』にでもなっていたのだろうか?あれ以上余裕をかましていたら【龍の因子】の効果が切れて逆に敗北していただろうし、贅沢は言うまい。
一方で『アールルの仇敵』は問題児だ。アールルの手下に与えるダメージが上がるようだが、同時に食らうダメージも増える。これは距離を取ったり仲間に守ってもらえば良いだけなのだが、私という後衛が狙われやすくなるのが問題だ。
エイジのような盾職に必要とされる技術の一つにヘイト管理があるが、これを狂わせてしまうのだ。どれほどの効果があるのかは不明だが、前衛を完全に無視して私に向かってこられたりすると厄介極まりない。効力を確認しておきたい気もあるが、アールルの天使とはなるべく関わらないようにするのが吉だろう。
「ふむ、二人は無事に進化出来たようだな」
「ええ、絶好調です」
「おう!イザームはんの混合獣作成のお陰や!」
自分の事はこれで終わり。モッさんと七甲の二人はあの激闘を潜り抜けた事もあって進化を果たしていた。モッさんはこれまで以上に格闘能力に特化した大吸血闘蝙蝠に、そして七甲は真っ白な羽毛を持つ召魔白烏へと進化していた。
モッさんは更に大きく、逞しい姿になった。これまでは大きいと言っても私の肩や杖の上に乗れるサイズだった。しかし、それはもう無理だ。なぜなら今の彼は幼稚園児並みの大きさになっているのである。もしも無理に乗られたら肩凝りになってしまいそうだ。凝る筋肉は無いんだけどな!
そして七甲の方だが、此方は天使から剥ぎ取って得られたアイテムを使って混合獣作成を使った結果、白い羽毛を持つ烏へと進化した。用いたアイテムの詳細はこちら。
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白光天使の羽根 品質:可 レア度:S
『光と秩序の女神』アールルに仕える天使の羽根。
この羽根は能天使のものであり、光属性を帯びている。
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私達で五体も倒した白光能天使の羽根の内の一本である。『光属性を帯びている』という記述の通り、七甲はこの進化によって【光魔術】と【光属性耐性】を得た。しかし同時に【闇属性脆弱】も取得してしまっている。
そのせいで彼は次に覚えようと思っていた【闇魔術】が使えなくなってしまった。これは克服すればどうにかなる。一手前かかるが、それは仕方がない。七甲の選択の結果なのだから。因みにモッさんも使おうとしたのだが、素材として選べなかった。
なので混合獣となるのは見送る事となった。彼も残念そうにしていたが、こればっかりはどうしようもない。次の機会を待つしかないのだから。
「しかし、いいのか?私が残りのアイテムを預かっても」
「ええねん、ええねん!元々ほとんどイザームはんが倒したんやし。おこぼれに預かれるだけで上々や」
「むしろその方が合流したときに装備になっていそうですしね」
白光能天使のドロップアイテムは他にもいくつかあった。しかし二人はそれを私に預けると言うのだ。そして仲間の職人、即ちアイリスにその加工を頼んでいる。彼女なら素晴らしい装備を作れるだろう。
信用されているのは嬉しいのだが、責任を感じてしまうのも事実だ。イベントが終わり次第、即座にバーディパーチへと帰るのだからその心配は無意味だとわかっているが、気になるものは気になってしまうのは私の性分である。
「しかし確実に出来上がっているとは思うなよ?アイリスだってプレイヤーなんだ。時間の都合がある」
「そらそうや」
「さすがに急がせるつもりはありませんよ」
二人に限らず、皆が私の防具は全てアイリスが作ったと聞いてとても羨ましがっていた。しかし、彼女も普通のプレイヤーに過ぎない。毎日必ずログイン出来る訳ではないし、ましてや一日中ログイン出来る訳でもない。その辺は二人も弁えているようだ。
ピロン♪
「うん?」
「んあ?」
「おや?」
通知音が鳴った瞬間、我々三人は同時に反応した。今、このタイミングで来る通知と言えば一つしかない。
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イベント、『鉱山都市を防衛せよ!』及び『血戦の地へ』が終了致しました。
報酬アイテムがインベントリに送られました。
三十分後、イベント開始前のセーブポイントへ送還されます。
すぐに帰還したい場合はメニュー欄のイベントタグから『帰還』をタッチして下さい。
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「イベント終了、だな。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「お疲れ~!いや、思った以上にハチャメチャになったわ!」
ようやくイベントが終了したようだ。とりあえずは一段落だな。そして私の視界の右上に三十分からカウントダウンしていくタイマーが映っている。これであと何分ここに居座れるのかが分かるのか。気が利くじゃないか。
「二人はどうする?私はすぐに戻るつもりだが」
「ワイらもそうするで」
「イザームさん達と合流するためにも、北へ移動を開始しませんとね」
皆には北の山にある転移装置について教えてある。あまりにも遠い位置にいるエイジと兎路以外はそこまで自力で来てもらうことになっていた。あそこのボスである双頭風鷲は強敵だが、レベルも上昇している七甲達が集まって戦えば問題なく倒せるだろう。
それに道中の魔物やボスの攻撃パターンについても教えているから、もしかすると楽勝で終わるかもしれない。初見で何の前情報も無く戦う時の緊張感も悪くないが、それよりも一刻も早く合流する方がいい。
「そうか。では、すぐに合流出来る事を願っている。じゃあな」
「おう!ほな、また今度!」
「ええ、さようなら」
そう言って私達は仮想ウインドウ上の『帰還』をタッチする。こうして私達のイベントは終わった。
◆◇◆◇◆◇
「ふむ、ここも随分と久し振りだな」
私は久々にクランハウスの自室に戻っていた。ほんの数日ぶりだというのに、妙な安心感がある。まさに旅行先から帰ってきた気分であった。
私は自室から出ると、リビングに向かう。するとそこには四人分の人影がいた。
「あっ、イザームさん!お帰りなさい!」
「お帰りー!」
「イベント、お疲れ様っす!」
アイリス、ルビー、そしてシオの三人娘が私の姿を見るや否やそう言って出迎えてくれる。扉から入った訳でもないのに出迎える、というのは中々にシュールではあるが。
「ああ、そっちも戻っていたんだな。それで、そちらが例の?」
「はい、そうですよ。こちらが邯那さんです」
アイリスが触手を向けて紹介したのは、黒く長い髪に切れ長の目が特徴的なアバターの女性だった。涼やかな清楚系の美人である。彼女こそ、三人がアクアリア諸島にて出会ったプレイヤーなのだろう。
「はじめまして。邯那です」
邯那は座っていた椅子から立ち上がると、一礼してから挨拶をしてくれた。礼儀正しい女性であるらしい。
「こちらこそはじめまして。私がクランリーダーのイザームです。相当な手練れだというお噂は聞き及んでおりますよ」
「手練れだなんて…夫と二人でやっと一人前です」
一人前って、二人のコンビだと闘技大会で優勝出来てるんですけど?随分と謙虚な人である。
「それでそのご夫君はいらっしゃらないので?ご挨拶をと思っていたのですが…」
「あの人なら今はカルちゃんと遊んであげていますよ。それと、私達に敬語は不要ですよ。同じクランの仲間なんですから」
「ふむ…わかった。これでいいか?」
邯那はにっこり笑いながら頷いた。
「それでイザームさん!何か気付いた事はありませんか?」
「む…?」
気付く、だと?一体何が…って、あ!
「シオ!進化したのか!」
当然のように座っていたから気付かなかったが、シオの見た目が随分と変わっていたのである。バーディパーチで見た他の鳥人と同じ成人男性と同じくらいの背丈になっている。茶色っぽい羽毛に鋭い嘴、そして大きくて精悍さを感じさせる瞳。明らかに猛禽類の鳥人だと分かるぞ?
「モデルは…鷹か?」
「ご名答っす!試練をクリアしてから必死にレベル上げをしたんすよ!今の種族は狙撃鳥人でレベルは42っす!」
「狙撃鳥人…?」
私がイベントで色々と遊んでいる間、シオは『蒼月の試練』を見事に突破した。その後、これまでの遅れを取り戻すようにレベル上げに勤しんだのだと言う。それにしても一気に40レベルオーバーまで上げるとは、一体どんな無茶をしたのか…きっと凄まじい数の魔物が犠牲になったのだろう。
それに彼女の至った狙撃鳥人とは、どのような種族なのだろうか?彼女は元々弓を使っていたので、遠距離からの狙撃に補正がかかるという辺りだろうか?
「弓がより当たりやすくなった、とか?」
「ちょっと違うっす。狙撃鳥人は射撃武器の命中率に補正がかかるんすよ」
「射撃…そうか。アイリスが修理した銃器も対象ということか」
「そういうことっす。銃の方が使い慣れてるんすけど、弓矢の方は音も少ないし単発火力が高いんで使い分けてたらこうなったってワケっす!」
なるほど。銃には銃の、弓には弓の利点があるのだな。というか、弓の方が単発火力は上だったとは。住み分けが出来るようにするためだろうか?どちらにしても片方が無用の長物になる訳ではないらしい。
「あ、そうだ。邯那さん、あの話をしておかないと」
「そうね、そうだったわ。イザームさん。一つお願いがあるのだけど」
「願い?」
頼み事か?私に出来ることなら可能な限り応えるつもりではあるのだが、一体何を頼むつもりなのだろうか。
「ええ。私を死体にしてくれないかしら?」
「…はいぃ?」
唐突過ぎる言葉に、私は思わず素っ頓狂な声を出してしまうのだった。
これにて防衛イベント編は終了です。当初の予定よりも大幅に長くなってしまいました。登場人物を増やしたり、描写する場面が増えるとどうしても長くなってしまいますね。
次回は2月22日に投稿予定です。




