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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
133/688

ウスバのお願い

 新年明けましておめでとうございます。


 今年も拙作を宜しくお願い致します。

――――――――――


種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

【知力強化】レベルが上昇しました。

【精神強化】レベルが上昇しました。

【体力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【魔力回復速度上昇】レベルが上昇しました。

【爆裂魔術】レベルが上昇しました。

新たに爆裂(エクスプロージョン)の呪文を習得しました。

【神聖魔術】レベルが上昇しました。

新たに浄化(プリフィケイション)の呪文を習得しました。

【呪術】レベルが上昇しました。

新たに石化(ペトリファクション)の呪文を習得しました。

【言語学】レベルが上昇しました。

敵対生物とのコミュニケーションが可能になりました。

【死と混沌の魔眼】レベルが上昇しました。


――――――――――


 な、何とか勝てたぞ!いやぁ、苦しい戦いだった。その分、得られた経験値も大量である。私がレベルアップしたのだから間違いない。新しい魔術も三つ増えたし、ちょっかいを掛ける価値はあったようだな!


「退くぞォォォォォ!」

「うわっ!うるさっ!?」

「魔物の雄叫び?随分と大きいわね」

「…なるほど、これが『敵対生物とのコミュニケーション』の効果という訳だ」


 戦いが終わって一息つく間もなく、戦場の方向から魔物の怒鳴り声が聞こえてくる。私には撤退の合図であるとわかったが、他の者達にはそれが伝わっていなかった。それが解った時、私はこの先程のアナウンスで流れた内容を理解した。【言語学】の能力(スキル)が20になって可能になる『敵対生物とのコミュニケーション』が働いたのだろう、と。


「ボヤボヤしている場合じゃないな、これは。直に獣鬼王(トロールキング)の軍勢がこっちに来るぞ」

「マジですか?」

「嘘を付いてどうする?戦争は仕切り直しなのだろう。我々も一時撤退するぞ」



 獣鬼騎士(トロールナイト)の死体から手早く剥ぎ取りを済ませた我々はただちに移動を開始した。主戦場であるイレヴスからはそこそこ距離があるとは言っても、先程の戦闘で私は大きな音を立ててしまった。


 その音を不審に思われて調査の手がこちらに向いては面倒くさい。人類側にも魔物側にもそんな余裕があるとは思えないが、用心するに越したことはあるまい。それにそろそろログアウトして休憩もしたかったので、時間的にもちょうどいいしな。



◆◇◆◇◆◇



 新たに増えた三種類の魔術について確かめておこう。一つ目は【爆裂魔術】の爆裂(エクスプロージョン)だが、これは簡単に言えば爆弾(マジックボム)の超強化バージョンである。威力は申し分ないし、呪文調整まで加えればきっと凄まじい威力を誇るだろう。


 ただし発動条件が特殊で、使用時になんと体力の半分が持っていかれるのだと言う。回復手段が乏しい私としてはあまり使いたくないが、ド派手なロマン技は使いたくなるのが人情であろう。機会があれば絶対に使っちゃうぞ?


 二つ目は【神聖魔術】の浄化(プリフィケイション)である。これは私のような不死(アンデッド)を滅する為だけの術だ。確かに聖職者と言えば不死(アンデッド)の天敵っぽいし、使えて当然か。…使われたら大惨事な術を不死(アンデッド)の私が使えるのはどうなのだろうか?


 三つ目は【呪術】の石化(ペトリファクション)だ。これは【邪術】の餓死のように相手を徐々に石に変えていく術である。石になってしまうと物理と魔術の両方に対する防御力が凄まじく上がるものの、砕かれると即死させられる。なのでジゴロウやエイジ辺りに砕いて貰えばお手軽に敵を排除出来るだろう。


 即座に石になる訳ではないし、こちらも石化の解除に使えるアイテムを使えば治せるのだが、戦闘中に使われたらこの上なく面倒くさい。石化できれば万々歳、させられなくとも十分な嫌がらせになるな。私には【死と混沌の魔眼】もあるので成功率は高い訳だし。


「…無事だったか。一安心だ」


 と言うわけで休憩して来ました。いやはや、野外でのログアウトは危険が付き物なのだがね。今回は安全にログアウト出来た。それはほぼ紫舟の功績である。


 やり方は簡単だ。私が【大地魔術】の地穴(アースホール)で全員が入ることの出来る穴を作成し、その上に紫舟が糸を使った擬態網という武技によって落ち葉を巻き込んだ網を張って蓋をしたのである。


 これだけでもうパッと見ただけではわからないのだが、加えて彼女は周辺に幾つか罠の網を設置して態々近付くのは躊躇われる環境も作っていた。それでも入ってこられても、我々のいる穴の真上には牛鬼が待機している。アレが戦えば多少は時間稼ぎにもなっただろうし、そこまでしてダメなら諦めるしかなかった。まあ、心配のし過ぎだったらしいが。


「おっ、イザームはん!」

「こんばんはー」


 私がログインすると七甲とウールが先に来ていた。正確には動いているアバターは二人のものだけであった。ウールは大抵紫舟と一緒なのだが、今回は一人で先に来ているのか。珍しいが、そういう日もあるだろう。


「さっきちょいと偵察してきたんやけどな、近くにはプレイヤーも魔物もおらんかったわ。平和なもんやったで」

「そうか。助かるよ」

「んで、ついでにイレヴスも見に行ったんや。そんで…ほれ、渡したってや」

「わかったー」


 そう言ってウールが出したのは、一つの革鞄であった。これは確か、見た目と同じ容量のアイテムが入る鞄だったな。インベントリなら無制限にアイテムを入れられるのだが、一々操作するのは非常に煩雑だ。なのでパッとアイテムを使いたい時に重宝するのがこの鞄なのである。似たようなものがアイリスが作ってくれた私のベルトにもついているので、その便利さは身を以て知っていた。


 しかし、ウールが差し出した鞄に見覚えは無い。一体、どこから持ってきたのだろうか?もしかして、イレヴスから盗んで来たのか?


「『仮面戦団(ペルソナ)』のボスの…ええと、なんやっけ?」

「ウスバのことか?」

「そうそう!その兄ちゃんや!そのウスバちゃんから預かったんやわ、これ」


 ウスバからだと?事前の作戦では、ここから我々は基本的に別行動なのだが…一体中身はなんだというのか。いや、それよりも気になる事があるぞ。


「他のプレイヤーには見付かっていないのか?」

「ウスバちゃんに会ったのは街の外やから大丈夫やと思うわ。どうやって出入りしとるんかはわからんけど。聞いても『企業機密』やって言われてもうたしなぁ」


 きっと掲示板でまことしやかに囁かれている犯罪プレイヤー達御用達の手段があるのだろう。そもそもウスバが七甲を見付けたのだって偶然にしては出来すぎている。きっと何か『企業秘密』な方法があるのだろう。


 その辺りは秘匿してナンボという事に違いない。興味はあるが、少なくともタダで教えてくれることは無い。私ならそうするからな。


「そうか…それで、中身が何かは聞いているのか?」

「おう。イレヴスの地図とファースには無かった珍しいアイテムと、あとイザームはん宛ての手紙やって」

「地図だと!?」


 奴め、気が利くではないか!我々は元々混乱に乗じて街中に入る気マンマンだったのだが、土地勘の無さは問題だった。目的地は目立つ場所なので大丈夫だとは思っていたのだが、これで迷う事は無くなった訳だ。有難い!非常に有難いぞ!


 そしてアイテムについても興味深い。だが、先に手紙を読むべきだろう。これがフレンドチャットが出来たら楽なのだろうが、今回のイベント中は不可能という仕様なのだから仕方ない。


「ええと、何々…あいつら、何をやっとるんだ…?」


 ウスバからの手紙には鞄の中に入れてあるアイテムのお品書きとイレヴスの街の様子や内部情報、それに加えて彼ら『仮面戦団(ペルソナ)』が街に侵入してからどのような活動をしたのかが細かく書かれていた。情報はいい。感謝こそすれ、文句を言う必要など無い。問題は彼らがやったことである。


 恐るべき事に、『仮面戦団(ペルソナ)』の六人は各人が最低でも同格以上のレベルを持つNPCを一人以上殺しているらしい。ウスバを除く五人は戦争のゴタゴタに紛れての暗殺だが、リーダーたる彼は戦争の前に仕留めたのだと言う。そのお陰でプレイヤーとNPCが一致団結するのは難しくなったが、そのせいで街中の警備が厳重になってしまったそうな。


 いやいや、ホントに何してんの!?私の策が上手いことハマったのが知れて嬉しいけどさぁ、それ以上に困惑が先に来るんだけど!って言うか、街中での犯罪って通称『プレイヤー絶対殺すマン』が動くんじゃ無かったっけ?倒す…のは流石に無理だろうから、逃げ切ったんだろうけど、どうやったんですかね?オジサン、解んないよぉ!


「『早くもう一暴れしたいから、さっさと門を壊して下さい』だとぉ…?全く、無茶を言うじゃないか」


 そして彼らは血に飢えているらしく、一刻も早く次の機会が来る事を望んでいるらしい。自分達が招いた事態なのに、反省するどころか新たな混乱と戦うチャンスを求めるなんて…それでこそ手を組んだ甲斐があるというものだ!


「リクエストには可能な限り応えなければな」

「あの、イザームはん?今、エライ独り言が聞こえたんやけど?気のせいやんな?」

「門を壊すとかー、正気ー?」


 ウールの言うように、門を破壊するのは非常に難易度が高い。単純に城門の耐久値が高いのもあるが、なんだかんだでプレイヤーとNPCは協力しているので私と仲間達が加わっても大して戦況に影響など出る訳がない。たった一人で戦場を支配するというのは神話の英雄だけであり、腐るほどいるプレイヤーの一人でそれは無茶というものだ。


 それに焦らずとも獣鬼王(トロールキング)なら強引に突破出来そうな気もする。なんせ、レベルが二回り下である獣鬼騎士(トロールナイト)ですらプレイヤー九人と従魔二匹で奇襲までしておいて危ない場面が多かったのだ。その大将なら、門くらい楽々吹き飛ばせそうだ。


 むしろ当初の計画では魔物達によって門が破壊される瞬間を待つつもりであった。なのに何故、私は挑戦しようとしているのか。その理由は単純だ。


「無論、難しい事は百も承知さ。それでも、挑戦してみるのもまた一興。折角ゲームをしているんだ、ロマンを求めないでどうする?」

「ロマンってあんた…そら無茶やで?」

「ん~?なんの話?」


 そう言って会話に入ってきたのはしいたけであった。うむ、いいタイミングだ。彼女の意見も聞いてみるとしよう。


「これを読んでくれれば分かるさ」

「ん?これ、手紙?どれどれ………ぶふっ!」


 しいたけは手紙にしばらく目を走らせたあと、思わず吹き出してしまっていた。ウスバのやっている事や、彼の要請が余りにも荒唐無稽だとわかっているからだろう。


「いいじゃん、やってみようよ!絶対面白いことになるって!」

「えぇ…あんた、そっち側かい」

「やるんならー、ちゃーんとした計画が必要だよねー?」


 呆れている七甲に対し、ウールは建設的な話をしようとしている。うむ、切り替えが早いのは良いことだ。


「なら先ずは鞄に入ってるアイテムからチェックしようよ。使えるモノが入ってるかもよ?」

「確かに。ウスバなら用意してそうではあるな」


 しいたけの指摘に従って、私は鞄の中に入っていたアイテムを引っ張り出す。ほとんどが見たことの無いアイテムであり、何が何やらさっぱりわからない。なので【鑑定】を持っている私としいたけが片っ端から調べていった。


「色々あるな。これは中級ポーションで、こっちは魔物寄せの香か。自分で作れたら便利だろうなぁ」

「そうだねぇ…って!これ見てよ!これ!」

「ん?」


 私はしいたけから渡された赤い筒状のアイテムを【鑑定】してみる。そこには私でも知っている名前が記されていた。


――――――――――


ダイナマイト 品質:良 レア度:C(普通級)

 土木工事や鉱山で主に使用される爆薬。

 素人が使用するのは危険であり、許可無く使う事は禁止されている。


――――――――――


 流石は鉱山都市、イレヴスだ。こんなおっかない物もあるのか。きっと採掘に使っているのだろう。


 しかし、ウスバがこれをどうやって手に入れたのかが気になる。絶対に許可なんてとっていないだろうし、買ったとも思えないな。きっと盗んだに違いない。悪い奴だ。ふへへ…


「これで崩せ、ってこと?」

「そうかもしれんが、どうやって門に近付けと?」


 私には爆弾についての知識は無い。なのでこのダイナマイトがどれだけの威力を誇るのかわからない。仮に知っていても、ゲームの中でも全く同じだとは限らないので役に立たなかっただろうが。


 そうなると問題はどこに設置すれば門の破壊が出来るのかがわからない。導火線に火を付けて投擲するだけでいいのか、或いは門に張り付けて起爆しないとヒビすら入れられないのか。判断が全く出来ないのである。


「ええ加減に諦めたらどうや?こんな穴蔵に引き籠って理屈捏ねたかて、出来へんモンは出来へんって」

「うむむ…ん?穴蔵?引き籠り…?」


 ちょっと待てよ?地図はあるし、あれをこうすれば…いや、無理か?いやいや、彼女の力を借りれば行けるハズだ。試してみる価値はありそうだぞ。


「三人とも、聞いてくれ。作戦を思い付いた」

「…マジでっか?」

「ああ、マジだよ。大マジだ。その為には今から準備を開始する必要がある。手伝ってくれるよな?」

「いーよー」

「任せんしゃい!」

「ああ、もう!やったるわい!」


 ふふふふふ!ウスバよ、お前の無茶振りに応えてやろうではないか!

 しれっとヤバい事を平気でやってるウスバ達。こっちを主役にしても色々と書けそうですね。今のところそんな予定はありませんけども。


 主人公達が何をしようと言うのか、察しの良い方ならきっと解ったでしょう。主人公は奇を衒わず、堅実に破壊します。


 次回は1月9日に投稿予定です。

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