月の光に魅せられて その三
久し振りにランキングを見たらジャンル別の日間と週間で一位になっていました。(2018年5月13日時点)
本当に変な声が出て、隣の部屋の人に壁ドンされました…
応援して下さった方、ありがとうございます!これからも拙作をよろしくお願いいたします!
※後書きに加筆しております。
「余裕を見せすぎだ、阿呆め。貴様の態度は演出としては良かったぞ。しかしな…」
私はようやく力が入るようになった身体に鞭打って起き上がる。私が吹き飛んだのも、私が今の今まで動けなかったのも、演技ではない。だが、この位置に倒れたのは偶然ではないのだよ。
ここは、私と貴族の間にあらかじめ仕掛けていた罠が来る場所なのだ。いつの間にそんな事をしていたのかって?正解は取り巻き相手に二度目の火壁を使う直前だ。
この隙に貴族が近付いて来る事を想定して仕掛けておいたのだが、この土壇場で効果を発揮してくれるとは。防ぎきれないと割り切って自分からこっちにジャンプしたのも良かったのだろうな。まさに、備えあれば憂い無しだ。
「無駄にプライドの高い悪役がそう言うことをするのは、死亡フラグだと相場は決まっているのだよ!ふはははは!」
「グアアア!」
地面に引きずり倒された貴族は、怒りのままに再度龍の息吹を使おうと喉を膨らませる。しかし、私もバカではない。対応策はもう考えてあった。
「ふん、これでも咥えておけ!」
「ガガガ!?」
私は手に持っている杖を貴族の大きく開いた口に突っ込んだ。この初期装備、性能は最低だが耐久値が無限なのだ。つまり、システム的に破壊不能という意味である。どれだけ相手の顎が強靭であっても、このボロい杖を噛み砕く事は出来ないのだ。見た目とミスマッチだがな。
「次はこれだ」
「グゲゲッ…ゲ!?」
私はストレージから毒々しい色の液体が入ったビンを取り出して、杖と口の隙間から貴族の喉に中身を嚥下させる。それは以前に作成し、合成した毒である。
ボスとは言え、【状態異常無効】どころか【状態異常耐性】すら貴族様は持っておられませんね?なら、私特製の毒、それも原液に耐えられますかな?
「ゲアアアア!!!」
貴族はくぐもった悲鳴を上げる。やはり効果があったらしい。マーカーを確認すると、毒と麻痺のアイコンが増え、さらに出血アイコンが強く明滅し始めた。毒薬の効果は全て発揮されたらしい。原液を服用させた効果はあったな。
おっと、罠の効果が切れたか。暴れられても面倒だし、そろそろ決着をつけさせてもらうか。
「双罠陣設置、魔法陣起動、魔術剣!」
罠は足元で痙攣している貴族の真下に設置したので即座に起動。罠の中身は凡て闇腕だ。更に残りの魔力全てをつぎ込んだ魔術剣を発動させる。魔術剣は近付かないと使えないが、その分当たれば闇腕よりも火力が出るのだ。
「滅びろ、哀れな妄執よ!」
「グギャアアアアアアアアアアアア!!!」
四本の闇腕が貴族を押さえ付け、その上で魔術剣が心臓を抉る。ボスである貴族の体力バーは遂に砕け散った。
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戦闘に勝利しました。
『蒼月の試練』を突破しました。報酬と10SPが贈られます。
『蒼月の試練』の初攻略者です。報酬と10SPが贈られます。
『蒼月の試練』の単独攻略に成功。報酬と10SPが贈られます。
『蒼月の試練』の初回攻略に成功。報酬と10SPが贈られます。
称号、『試練を越えし者』を獲得しました。
種族レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
職業レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。
【杖】レベルが上昇しました。
【魔力制御】レベルが上昇しました。
【土魔術】レベルが上昇しました。
【水魔術】レベルが上昇しました。
【火魔術】レベルが上昇しました。
新たに火柱と火波の呪文を習得しました。
【火魔術】が成長限界に達しました。進化が可能です。
【風魔術】レベルが上昇しました。
【暗黒魔術】レベルが上昇しました。
【無魔術】レベルが上昇しました。
新たに魔力槍と魔術波の呪文を習得しました。
【無魔術】が成長限界に達しました。進化が可能です。
【召喚術】レベルが上昇しました。
【付与術】レベルが上昇しました。
【魔法陣】レベルが上昇しました。
【死霊魔術】レベルが上昇しました。
【呪術】レベルが上昇しました。
新たに解呪と毒の呪文を習得しました。
【罠魔術】レベルが上昇しました。
【鑑定】レベルが上昇しました。
ボスエリアでの戦闘勝利により、リスポーン地点への転移が可能です。任意で使用してください。
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「勝った、か」
勝った。勝ったのは嬉しい。しかし、倦怠感が強すぎる。鼠男に勝利したときのような高笑いも出来ない。私はそれぐらいに疲れきっていた。私は緊張の糸が解けたせいで、両膝を付いて崩れ落ちてしまう。
「ナゼ…ダ…」
…おい、消えないのかよ。心臓を刺したんだぞ?勝利のインフォメーションは流れたし、相手も人間(?)に戻っているが、消えていないのは驚きだ。これもイベントの一環なのか?
「ナゼ…私ノ元…ヘ…来テクレヌノダ…?」
これ、私に聞いているのか?私は爛れた恋愛経験しか無いのだが…まあいい。一応、答えてやるか。
「そんなことも解らぬか、うつけ者め」
「何…?」
「やはりわからんのだな。このままでは、どうやっても貴様は振り向いて貰えんよ」
「ドウスレバ…ドウスレバ、月ヲ我ガ物ニ…」
「そう、それよ」
ぐったりとしていてもまだ諦め切れない愚かな男に、私は思ったことをハッキリと言う事にした。
「貴様が相手を『モノ』だと思っている時点で絶対に振り向いてはくれんよ」
「ナッ…!」
戦う前から私はこの男の元ネタに察しが付いていた。それは『竹取物語』だ。男の装備はかぐや姫が求婚してきた貴公子にお願いした品々で、この男の種族が人間(不老)になっていた事から、最後に彼女が残していった不死の秘薬を飲んだ者だと推測した。
恐らく、この貴族改め『月ヘノ妄執』は去った彼女の事が諦められずに秘薬を服用し、彼女が求めた品々の本物を全て収集して捧げていたのだろう。原作の苦労話や悲惨な末路を知っている者からすれば、信じられない執念である。名前に『妄執』が付くのにも頷けるというものだ。
「そもそも、貴様はその女の何処を愛しているのだ?美貌か?性格か?違うだろう。相手を『モノ』だと思っている貴様は、真の意味で彼女を愛してはいない」
「ヤメロ…」
「貴様が求めているのはな、『いい女を侍らせた己』だ。即ち、貴様が愛しているのは…貴様自身なのだよ」
「ヤメロォアアアアアアア…!」
『月ヘノ妄執』は絶叫を上げた途端、灰になってしまった。これで良かったのかね?割りと適当かつ、割りと陳腐な台詞を言っただけだったのだが…図星を付いたのかね?
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固有能力、【イーファの加護】を獲得しました。
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むむ?固有能力に【イーファの加護】だって?ええと、イーファ様ってキャラクタークリエイトでお世話になった神様だったよな?その女神様が加護?
最初から彼女の世話には成りっぱなしで感謝はしている。しかし、それと同時に何らかの目的のために利用されている様な気もするのだ。
その目的が何なのかはわからん。解らないが、私は私のやりたいようにプレイするだけだ。もし、面と向かって話す機会に恵まれたら色々と問いただす。それでいいだろう。
では、研究室に帰ろう。それで今日はログアウトだ。明日は報酬の確認と能力の進化からだな。楽しみだ!
◆◇◆◇◆◇
「ほぇ~。やるねぇ、イザーム君!」
お久しぶりです。『死と混沌の女神』こと、イーファです。今日はサービス始まって以来の『蒼月の試練』の日。どんな方が挑戦するのか、我々は大層楽しみにしておりました。
特に私はこの試練をプロデュースした身なので、特に注目しております。バランスとしては『適正レベルのプレイヤーが理想的に動きつつ、能力を十二分に活かせれば突破可能』と言うものです。また、ソロの時はパーティーの時よりもモンスターの体力だけ減らしています。単独攻略者へは特別に報酬を贈るのですから、それくらいはしていただきましょう。
一般的なプレイヤーは同じレベルの魔物にも苦戦するようですが、それは動きに無駄が多いからです。まあ、その無駄を無くすのが難しいからこそ『下克上』や『神算鬼謀』などの称号を用意した訳ですが。
『蒼月の試練』を受ける方法は簡単です。それが『レベル15以下のプレイヤーが新月の日の夜にボスエリアへ入る』事。プレイヤーの方々、特に検証を積極的にされている方なら直ぐに条件を特定するでしょうね。
そして今、私は『戦争と勝利の女神』グルナレと共に試練の様子を生中継で見ています。どうして彼女と見ているのかと言いますと、私達が期待を寄せるプレイヤーが二人共試練を受けているからにほかなりません。
「期待していたのは確かですが、まさかあのレベルで突破するとは予想外でしたよ。少なくとも、一度進化を挟んだ後だと思っていましたから」
私がキャラクタークリエイトを担当したプレイヤーの一人、イザーム様。私は彼のプレイ方針が気に入って色々と手を貸したのですが、よもや8レベルという推奨レベルの約半分で、しかも進化をすることなく試練を突破するとは思いませんでした。
それに、私にしつこく言い寄るアレにガツンと言ってくれた事も高評価ですね。スッとしました。特別に加護を与えたほどです。
「でも、貴女のお気に入りも凄まじいですね。単純な戦闘力では、プレイヤーでもトップなのでは?」
「一対一の殴り合いなら、ね」
グルナレが期待を寄せるプレイヤーも、ソロで試練を突破しそうな雰囲気ですね。イザーム様と違って彼は戦いを楽しむ余裕すらあります。しかも8レベルと言う点でも同じ。末恐ろしいお方ですね。
「おっし!クリアしたな!私も加護あげちゃおっと!」
終わりましたか。相手は『月ノ猛虎』。獣特有の力強い動きと雷を操る能力で挑戦者を撃破する魔物でした。イザーム様が戦った『月ヘノ妄執』とは違って増援や搦め手無しの真っ向勝負を強いる試練でしたね。
あらゆるパラメータで劣っていたはずなのですが、センスと勝負勘でどうにかしてしまいました。グルナレが気に入るのもわかりますね。
さて、他のエリアはどうなっているのでしょう?始まりの街、ファースに隣接するエリアは四つ。その内西はイザーム様が、北はグルナレのお気に入り様が倒しました。では、東と南はどうなっているのでしょうか?
「南は…ダメみたいですね」
「筋は良い連中だが、最初の判断を間違えちまったか」
南で試練を受けているのは、所謂トッププレイヤー率いるパーティーですか。お相手は『月兎ノ影』。私の可愛いペットのピョン吉ちゃんの弱体化した分身ですね。最初は鈍重ですが防御が極めて困難な杵を振り回し、体力が半分になると大鉈に得物が変えて素早く斬り掛かり、三割を切ると両方を持つ二刀流になります。
杵は回避、大鉈は壁役が防御、その間に仲間が攻撃。これが最適解なのですが、パーティーの壁役が杵を盾で受けきれずに戦線が崩壊、何とか半分まで減らしたものの、大鉈になって上がった速度に対応出来ずに敗北。初見ではそうなるだろうと予測した通りの負け方です。では、東を見てみましょう。
「彼らは…噂の?」
「あん?あー、そうだな。あのクソ女がヨイショしてる勇者君か」
東で挑戦しているのも、トッププレイヤーのパーティーですね。南の方々と違うのは、彼ら、正確にはリーダーの男性プレイヤーが『光と秩序の女神』アールルという極めて不愉快な女神のお気に入りだ、という点です。
プレイヤー本人に問題はありません。発言や行動は品行方正、NPCへの対応も柔らかでしかも脳波から裏表がある訳でもない。まるで絵にかいたような好青年なのです。私からすると退屈な優等生なのですが。
そんな彼の唯一の欠点が、ラブコメの主人公が如く鈍感な所です。彼のパーティーは彼以外は全員女性で、しかも一般的に美女や美少女と呼ばれる容姿。更にその全員が現実には顔を多少弄っただけのリアル美形で、全員が彼に好意を寄せているのです。テンプレ主人公そのものなのです。
そしてアールルはβテスト時代から彼女の信徒を何度も救った彼をいたく気に入ったらしく、我々の誰よりも先んじて加護を与えてしまいました。更に彼こそ、この世界に秩序をもたらすだろうとまで言ったのです。
何を馬鹿なことを。世界に秩序が敷かれる?そうなったらどうなるのか、想像したことが無いのでしょうか?もし、そうなったらプレイヤーは全員去ってしまうでしょうね。
プレイヤーはこの世界に現実には無い刺激を求めています。そのためには現実で味わえない要素、非現実的な混沌が不可欠なのです。それを消し去ろうなど、愚の骨頂。何としても阻止しなければなりません。
「このままだと…勝てそうですね」
「そうだねぇ。勇者君ばっかり注目が集まるけど、女の子達も普通に強いからねぇ」
東の試練は『月ノ邪妖精』。飛行能力と小さい身体故の素早い動き、そして強力な魔術で戦うトリッキーなボスですね。体力が五割と三割の時に無属性の全体攻撃を行うので、後衛も注意しなければアッサリ全滅する厄介な相手なのですが…上手く立ち回っていますね。
咄嗟の機転が利く勇者様、高い防御力を誇る騎士様、素早い動きで妖精を捕捉し続ける盗賊様、的確な剣術を用いる戦士様、火力のある魔術を使い分ける魔術師様、そして全員の体力を完璧に把握している神官様。六人の連携は、素直に称賛に値します。アールルが目を付けていなければより良いのですが。
「四組中三組が突破ですか。難易度は高くしたはずですが、調整が足りませんでしたか?」
元々、この試練は突破率一割以下という最難関のクエストにする予定でした。『試練』を乗り越えたという称号にはそれだけの重さがあるのです。なのに挑戦した合計十四名中、突破したのは八名。突破率にして六割弱です。当初の予定を大幅に上回っていますね。由々しき問題です。
「いやいや、これだけで判断するのは早計さ。突破したのは全員アタシ達が依怙贔屓してるプレイヤーだよ?最低でも十回はやってから判断しようよ」
「…そう、ですね」
私とした事が、少々取り乱しましたか。グルナレの言うように、もう何度かは様子を見ましょう。さて、試練も終わったようですし、追加で挑戦する方が出現するまでは通常業務に戻りましょうか。
かぐや姫の五人の貴公子があたふたする話は個人的に大好きです。詐欺にあったり、逆に贋作で姫を騙そうとしたり。中には落ちた怪我が元で死んだ人もいたので、笑い話とするにはいささかブラックですが。
そして新しい女神が名前だけ登場。実は一般的なプレイヤーの間で一番有名なのは『光と秩序の女神』。何故ならファースの街には彼女を祀る大神殿があるからです。
その女神の加護を賜った勇者君も名前だけ登場。ハーレム無しと言ったな?あれは嘘…ではありません。主人公がハーレムを作らないのでセーフ(のはず)!
彼と周囲の少女達は今後出番があるので、お楽しみに!
※多くのコメントで『圧倒的な格上を倒したのにレベルが1しか上がっていないのはおかしいのでは?』との指摘を頂いたので、後書きに加筆させて頂きます。
主人公のレベルアップが1だけなのには理由があります。と言うのも、この試練で得られる経験値は元々そのエリアで戦うはずだったフィールドボスと同じ量だけなのです。
これは一見厳しい仕様なのですが、その分、報酬のアイテムでバランスを取っています。(むしろそのアイテムが公式チートめいています。)
低レベルでしか受けられない厳しい試練を越えられるプレイヤーのレベルを上げすぎると、その人にとってはしばらくゲームが退屈になる、というのが試練のプロデューサー(女神)の建前。
本音は頭一つ飛び抜けたプレイヤーがいるのはなんとなく気に食わないから。
一人称視点ゆえに描ききれ無かった設定はちょくちょく後書きに書いて行く事にしますね。
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名前:イザーム
種族:動く骸骨 Lv9 up!
職業:見習い魔術師 Lv9 up!
称号:理の探求者
称号を得し者
異端なる者
下剋上
神算鬼謀
試練を越えし者 new!
能力:残りSP 148
【杖】Lv12 up!
【魔力制御】 Lv14 up!
【土魔術】 Lv9 up!
【水魔術】 Lv9 up!
【火魔術】 Lv10 max!
【風魔術】 Lv9 up!
【暗黒魔術】Lv1 up!
【無魔術】 Lv10 max!
【召喚術】 Lv9 up!
【付与術】 Lv6 up!
【魔法陣】 Lv8 up!
【死霊魔術】 Lv6 up!
【呪術】 Lv5 up!
【罠魔術】 Lv6 up!
【考古学】 Lv7
【言語学】 Lv5
【薬学】 Lv7
【錬金術】 Lv7
【鑑定】 Lv9 up!
【暗視】 Lv-
【隠密】 Lv9
【忍び足】 Lv8
【奇襲】 Lv6
【状態異常無効】 Lv-
【光属性脆弱】 Lv6
【打撃脆弱】 Lv10
固有能力
【イーファの加護】
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