蟻の巣退治
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種族:劣崩兵士蟻 Lv10~19
職業:兵士 Lv0~9
能力:【酸牙】
【毒針】
【外骨格】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【連携】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
【火属性脆弱】
種族:劣崩騎士蟻 Lv20
職業:騎士 Lv0
能力:【酸牙】
【毒針】
【外骨格】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【忠誠】
【指揮】
【連携】
【飛行】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
【火属性脆弱】
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大きめの蟻を【鑑定】した結果がこれだ。兵士と騎士ということは、戦う事が仕事の蟻というわけだ。おそらくは普通の働き蟻ではどうにもならなくなった時に現れるのだろう。
兵士蟻や騎士蟻の腹部の末端には太い針がついており、【鑑定】結果を見る限り毒もあるようだ。特に騎士蟻など【飛行】の能力を持つ羽蟻である。上空にも注意が必要だな、これは。
「少し大きい奴らには毒針があるから注意しろ!解毒は出来るが、回復につきっきりになるのは避けたい!」
私は前衛で戦う者達に向かって叫ぶ。彼らの位置からだと新手が見えていないだろうし、これまでと同じだと思って油断すると痛い目をみると思われたからだ。
「紫舟!一瞬でいいから羽蟻を止めてくれ!」
「やってみる!」
紫舟は最も前線で戦っているエイジに向かって飛んでいる。敵を倒すだけではなくて盾職としての技能を使っているらしく、敵からのヘイトをガッツリ集めているからだ。なので紫舟はその進行ルート上に糸を撒き散らす。
端からピンポイントで当てられるとは思っていないからこその手法だった。だが、羽蟻は当たる直前に身を捩って躱してしまう。見事な飛行技術であるが、直線距離を飛ぶよりは大回りになっている。この僅かな時間が欲しかったのだ。
「ごめん!外した!」
「大丈夫だ。お陰で間に合った。大魔法陣遠隔起動、火槍!」
私は早速【魔法陣】の最新技能、大魔法陣を試してみた。今回はお試しかつ威力は十分だと判断して呪文調整は使っていない。なので必要最低限の時間で火槍は発動した。
「ギィィィィ…!」
「おお、一撃か。想像以上の威力だ」
威力が跳ね上がった巨大な炎の槍が羽蟻に直撃する。すると断末魔の悲鳴を上げながら羽蟻は炭化した外骨格を撒き散らしながら無惨に墜落していった。
我ながら桁違いの威力に驚いている。まさかここまで強化されるとは!ここまで威力が高いというのが広まると、パーティー同士で戦うのなら魔術師を最初に潰すのがセオリーになるかもしれんな。気を付けねば。
「ギチギチギチ!」
「ガチッ!ガチガチ!」
蟻達は牙を打ち鳴らして援軍を呼ぶ。それに応えるように今度は無数の兵士蟻と十匹近い騎士蟻が…ん?ちょっと待て。逆に働き蟻よりも一回り小さい蟻が出てきただと?
そして身体の大きさに比べて頭部が少し大きく見える。これはきな臭い。【鑑定】しておこう。
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種族:劣崩魔術蟻 Lv22
職業:水魔術師 Lv2
能力:【酸牙】
【毒針】
【外骨格】
【地魔術】
【水魔術】
【知力強化】
【忠誠】
【連携】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
【火属性脆弱】
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こ、これは!魔術師だと!?確かに蟻にも魔術を使える個体がいてもおかしくないか。
いや、待てよ?これはマズイ!
「あの小さいのに突っ込め!急げ!」
私はエイジよりも少し奥の方で飛び回る炎幽霊達に命令を下す。それに従って三体の炎幽霊達が劣崩魔術蟻に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「ギギィィィ!」
思った通り、劣崩魔術蟻は炎幽霊目掛けて【水魔術】を放って来た。
炎の幽霊にとって魔術、それも【水魔術】は天敵である。水柱に巻き込まれた一体の炎幽霊は一発で消滅した。物理にはほぼ無敵なのに魔術を使われると格下相手でもあっさりやられるとは、やはり幽霊系の魔物は極端だ!
「だが、間に合ったぞ!自爆しろ!」
一体の下僕は消されたが、他の二体は残っていた。なので私はその二体に自爆を命ずる。炎の化身とも言える炎幽霊は、敵陣真っ只中で自爆した。すると奴らがいた場所を中心に炎が広がる。
「「ギィッ…!」」
「「ガガッ…!」」
爆炎に飲み込まれた蟻は、例外無く焼き払われた。それは魔術蟻も同様だ。騎士蟻や兵士蟻の半数以上を巻き込んでおり、敵に大打撃を与えたと言えるだろう。
「問題はここからか」
今を乗り切るのに必要だったとは言え、炎幽霊がいたからこそこれまでのバランスが保てていたのだ。ならば再召喚すればいい、と思うかもしれないが消費する魔力も馬鹿にならない。自由に使える魔力に余力は持たせておきたいので、もう一度召喚するのはやめておこう。
「来たぞ、増援だ。兵士蟻が八体に騎士蟻が四体、加えて魔術蟻が二体…もう働き蟻は品切れか?」
巣穴から出てきたのはいずれもレベル15オーバーの魔物ばかりだった。一匹一匹は強くなったかもしれないが、数は確実に減っている。相手も消耗していると考えるべきだろう。
「ここが正念場だ!前衛全員に付与を掛ける!後衛は援護を継続してくれ!」
魔術蟻がいる限り、炎幽霊を召喚するのは悪手でしか無い。ならば戦線を支える前衛に付与を施した方がいいだろう。先ずはエイジ、次に兎路…体力にも気を配る必要があるか。やることが多くて大変だが、やるしかあるまいよ!
◆◇◆◇◆◇
「ブガアアアアア!これで、最後だ!」
グシャッ、と音を立ててエイジの斧が最後の騎士蟻の頭を叩き割った。【付与術】によって筋力強化や武器へ火属性を与えたことで、格上相手でも大ダメージを与えられるようになっていた。
勿論、彼の力だけで即死させている訳ではない。むしろ途中で構築した必勝パターンの止めとしてエイジを含めた前衛が攻撃していたのだ。
そのパターンは単純で、まず巣穴の出口に私が【溶岩魔術】の溶散弾で火属性を含むマグマを設置。そこから出てくる時には既にダメージを食らっている蟻達に他の後衛が魔術を打ち込み、それでボロボロになった蟻達に前衛が止めを刺す。
炎幽霊を自爆させてすぐに思い付いた作戦だったが、上手く嵌まってくれた。当然、全員が無傷とは行かない。前衛は体力の消耗が激しいし、後衛は魔力が尽きかけている。はっきり言って後戦えるのは一戦か二戦だろう。
「これで終わりかしらね?もう疲れたんだけど」
「さあ?ここからが本当の地獄かも知れませんよ?」
「やめぇやモッさん!フラグやろ!」
激戦を潜り抜けたにしては軽口を叩くだけの余裕はあるらしい。やはりこっちも数が揃っていたのが大きな要因だ。ジゴロウや源十郎なら嬉々として大暴れしてケロリとしていただろうが、普通はこのくらいの頭数が必要なのである。
「あらら、増援だね」
「何か、大きくない?」
石壁の上に陣取るしいたけと紫舟が真っ先に新手の出現に気付く。彼女らが見た敵の増援は、これまでの者達よりも大きいようだ。と言うことは更なる上位種である可能性がある。ここに来て敵の強さが増すとは、私の見通しが甘かったか?
「ありゃ?少ないやん」
「騎士蟻が四体に、新種っぽいのが三匹ですか」
モッさんの言った通り、特別な蟻は三匹だけだった。騎士蟻よりも更に一回り大きな蟻が一匹、魔術蟻よりも頭が更に大きい蟻が一匹。十中八九、騎士蟻と魔術蟻の上位種だと思われる。
しかしながら、ここまでは常識の範囲内ではある。それに比べて最後の一匹は尋常ではなく大きい。騎士蟻の上位種の倍近い大きさがあるのだ。特に腹部がとてつもなく肥大化しており、体長の七割は腹部が占めていた。
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種族:劣崩将軍蟻 Lv33
職業:将軍 Lv3
能力:【大酸牙】
【猛毒針】
【外骨格】
【筋力強化】
【防御力強化】
【敏捷強化】
【精神強化】
【忠誠】
【指揮】
【連携】
【飛行】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
種族:劣崩賢者蟻 Lv32
職業:賢者 Lv2
能力:【酸牙】
【毒針】
【外骨格】
【大地魔術】
【水氷魔術】
【知力強化】
【精神強化】
【忠誠】
【連携】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
種族:劣崩女王蟻 Lv38
職業:女王 Lv8
能力:【酸牙】
【毒針】
【外骨格】
【地魔術】
【水魔術】
【筋力強化】
【防御力強化】
【知力強化】
【精神強化】
【鼓舞】
【多産】
【斬撃耐性】
【地属性耐性】
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しょ、将軍に賢者に女王だと!?これはマズイ。皆はかなり消耗しているのに、最後の最後に強敵が三匹も現れたのだ。まともに戦えば半分はやられてしまうだろう。
だが、ここで女王が現れたのは朗報でもある。何故なら普通に考えてあの女王蟻がこの巣穴の支配者であり、あれを倒せば我々の勝利と言えるはずだからだ。
「ギチギチチチィィィ!!!」
「「「ガチッ!ガチガチガチチッ!」」」
女王蟻が顎を打ち鳴らすと、他の蟻達は呼応して同じく顎を打ち鳴らす。何となくだが、興奮状態にあるように見える。多分、【鼓舞】という能力の効果に違いない。
配下のステータスを一時的に上昇させる効果があるのかもしれない。ただでさえ不利なのにもしそうであったら絶体絶命のピンチだ。空を飛んで逃げられる者達以外は確実に倒されるだろう。
「い、イザームさん!ヤバいですって!」
「どうすんの?逃げられそうに無いけど…」
私は頭をフルに回転させて状況の打開策を考える。しかし、たった一つの方法を除いて何も思い付く事は無かった。
「…仕方がない。本気を出すか」
全員が生きたまま勝利するための最終手段。それは私が全身全霊を以て戦うことだ。本気を出すと言っても、今まで手を抜いていた訳ではない。ただ、身内以外に見せたくなかった深淵系魔術を隠していただけだ。それらを封印した上で出せる最大限の力で戦っていたのである。
「ここから見た事は他言無用で頼む」
私は隠していた第三、第四の腕を袖から出して鎌を握る。服の中から現れた腕を見て、皆が息を飲む音が聞こえる。その上で私は魔術を使う。もう出し惜しみは無しだ。
「ここからはフルスロットルだ。菱魔陣起動、死」
「…はぇ?」
私の【邪術】による即死魔術、死によって、女王蟻を守る普通の騎士蟻の生き残り四体は即死した。流石にレベルが20も離れていては抵抗することは出来ないようだ。誰かが気の抜けたような声を出したが、努めて無視する。
「筋力過剰強化。魔法陣起動、起動待機。そして大斬撃!」
私は【付与術】の新たなる呪文、過剰強化で筋力を一時的に超上昇させ、その状態でとある魔術を起動待機でいつでも発動出来るようにする。そして【鎌術】の中で最も火力がある大斬撃を繰り出すべく、大鎌を上段に構えた。
私は最初の位置からほとんど動いていない。なのにどうして【鎌術】など使ったのか。その理由はすぐにわかるだろう。
「ここだ!短距離転移!」
「ギィッ!?」
システムアシストに従って鎌が振り下ろされる直前、私は待機させていた短距離転移を使う。視界内に一瞬で移動する術によって、私は賢者蟻の背後に跳び移って大斬撃を叩き込んだ。
完全に不意を突いた一撃は、【暗殺術】の補正が乗って賢者蟻に物理ダメージを与える。意識して頭部と胸部の境目を狙ったのだが、私の筋力では首を斬り落とすには至らなかった。
「ダメ押しにもう一撃!」
なので私は裾から伸ばした尻尾の先端を賢者蟻の腹部に突き刺す。騎士蟻や将軍蟻に比べれば一等劣るので、私の尻尾の先端は深々とめり込んだ。
「ギュギィィィ…!」
魔術が得意ならば、魔術を使われる前に倒してしまえばいい。私の奇襲攻撃によって、賢者蟻は何もすることが出来ないまま死んでしまった。
「ガチチィィ!」
「おっと危ない。短距離転移」
将軍蟻は怒りのままに私へ突っ込んで来た。ようやく状況が飲み込めたのだろう。戦闘中に奇襲を仕掛けるという反則染みた方法で同僚が倒された事にご立腹なようだ。だが、その怒りを受け止める必要は無い。私は短距離転移でさっさと離脱した。
「そして飛べる奴を飛ばせる必要もない。星魔陣、聖輪」
私は光輝く光の輪で将軍蟻を拘束する。五本の輪でガチガチに締め上げられた将軍蟻は、必死に藻掻いて拘束を外そうと暴れるが効果はない。まるで芋虫に戻ったようだなぁ?
「エイジとセイはこの木偶の坊に止めを。他はあの無駄にデカイ奴を袋叩きだ」
「は、はい!」
「わかっ、たぜ」
「お、おう!行くで!」
「にゃはは。実はとんでもないお方と手を組んじゃったのかにゃー?」
不死らしからぬ神聖な輝きを放つ魔術を使って見せた私に同様しつつも、彼らは私の指示に従って動き出す。うん。やっぱりこういう初見殺しであったり、本領を発揮させずに戦うのは楽でいい。
こうして我々は劣崩蟻の巣を一つ駆除することに成功した。尚、女王蟻は巨体に違わぬタフネスの持ち主ではあったが、反撃の手段がほとんど無かったために一方的な暴力で蹂躙されてしまったことは明記しておく。
一同:(゜д゜)
次回は11月6日に投稿予定です。




