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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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ワラワラ

 結論から言おう。セイの予想は正しかった。ここは虫系の魔物がウヨウヨしている地域だったらしい。大殺蟷螂ラージキラーマンティスや巨大カミキリムシこと大森林喰虫ラージフォレストイーターを始め、人間サイズの虫ばかりとエンカウントしていた。


 ところで虫の様子を表現する言葉はたくさんある。その大半は人間にとって気味が悪い表現だ。『ニョロニョロ』や『カサカサ』などがその典型だな。では、今我々が相手をしている者達を表すなら、どんな擬音語が適切だろうか?


「なんじゃこりゃああぁ!?」

「キモいキモいキモいぃぃ!」


 答えは『ワラワラ』である。次から次へと一種類の、しかし視界を埋め尽くす程の数の虫が襲い掛かってきているのだ。


「やはり数の暴力とは偉大だ」

「何で呑気に考察してんの!?」


 私の眼前に迫る黒い脅威。その魔物のステータスがこちら。


――――――――――


種族(レイス)劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアント Lv12~16

職業(ジョブ):労働者 Lv2~6

能力(スキル):【酸牙】

   【外骨格】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【敏捷強化】

   【斬撃耐性】

   【地属性耐性】

   【火属性脆弱】


――――――――――


 ステータス上は弱く見える。防御力はそれなりに高いが、攻撃手段が乏しいので脅威にはなり得ない。実際、エイジ達にはほとんどダメージは与えられていないようだ。パッとみると厄介に見える【酸牙】だが、酸自体があまり強くないので効果は感じられていない。それに私の【魂術】で徐々に回復もしているので、実質ノーダメージだった。


 しかし大きな問題がある。それは敵の数が多すぎる事だ。四方八方、さらに木を登ることで頭上にまで劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアントがいるのだ。なんだか最近はやたら数が多い敵と戦うことばかりだなぁ。


「しかし、きりが無い。仕方がない、私がやろう。召喚(サモン)炎幽霊(フレイムゴースト)


 私は三体の炎幽霊(フレイムゴースト)を召喚する。こいつらは火属性の魔物であり、幽霊(ゴースト)系であるが故に物理攻撃がほぼ効かない。物理攻撃しか攻撃手段のない劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアント達にとっては天敵のような魔物だ。


「行け。焼き尽くせ」

「「「アアアァァ…!」」」


 私の命令に従って、炎幽霊(フレイムゴースト)劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアントの群れに突撃する。体当たりするだけで火属性の魔術ダメージを与える炎幽霊(フレイムゴースト)は、次々と劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアント達を処理していく。


 魔術とは違って森林への延焼が起こりにくいのがいい。逆に言えば私と似たような事が出来なければ、火属性で攻撃することは出来ないからな。山火事が起きて大惨事になってしまうのだから。


「やっぱり魔術は便利ね。絶対に取得するわ」

能力(スキル)レベルの差をひしひしと感じますわぁ」

「流石は第一陣だよねー」


 私の下僕達が次々と敵を焼き払っていくのを眺めながら、それぞれがそんな感想を漏らしていた。やっぱりレベルという強さの指標は嘘を付かない。それがレベル制のゲームというものなのだろう。


「それにしても、さっきから蟻ばっかりですね。巣でもあるんでしょうか?」

「木の上は別の奴らがいるんだがな」


 首を捻るエイジに対し、樹上を警戒しているセイはウンザリしたように溜め息を吐く。それもそのはずで、蟻ばかりの地上とはうってかわって樹上には実に様々な種類の虫系の魔物がウヨウヨしていたのだ。


 数は蟻よりも少ないので、地上を歩く者達からすれば楽に見えるかもしれない。だが、セイと共に樹上で戦っている私にはわかる。こちらはこちらで面倒だと言うことを。


 その理由は虫毎に攻撃手段がコロコロ変わる上に、ほとんどに状態異常を引き起こす能力(スキル)があるからだ。浅い傷でも毒になったり麻痺したりと神経を使う戦いは、地上とは別の意味でストレスが溜まる思いだった。


――――――――――


種族(レイス)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。

職業(ジョブ)レベルが上昇しました。1SP獲得をしました。


――――――――――


 よし、殲滅完了。それにやっとレベルも上がったようだ。やはり、格下と戦っていては経験値が少ないなぁ。


「よっしゃ!進化や!」

「僕もですね。楽しみです」


 蟻を群れを始末すると、七甲とモッさんがレベル20に到達したようだ。うむうむ、順調に強くなっている。この調子を維持したいな。


「よぅし!進化完了!召魔烏(サモンクロウ)になったで!」

「こちらは大吸血蝙蝠(ビッグブラッドバット)ですか。身体が随分と大きくなりましたね」


 七甲の召魔烏(サモンクロウ)は魔術の中でも更に【召喚術】に特化した魔物だ。筋力や防御力は前とほぼ同じだが、魔力の量と【召喚術】を使った時の燃費がとても良いらしい。


 私の自爆を前提とした【召喚術】に感銘を受けたようで、彼も幾つか新たな属性魔術を取得するつもりのようだ。それに加えて召喚獣の能力を上げるために【付与術】も取得予定である。強化された無数の烏が寄って集って敵に襲い掛かる…夢に出そうだ。


 モッさんの大吸血蝙蝠(ビッグブラッドバット)は更にフィジカルが強化されている。体格が大きくなったのは当然のこと、牙や爪は硬度と鋭さが増して顔つきもより凶悪になっていた。


 最も驚いたのは少し身体を触らせて貰った時の感触だ。今まではモフモフしていた蝙蝠の体表だが、今はカッチカチである。毛皮が無くなった訳ではないのだが、その奥に潜む筋肉が驚くほど発達しているのだ。マッチョな蝙蝠、ということだな。


 筋力と防御力ではエイジに敵わないものの、空を飛べることと敏捷の高さというアドバンテージがあるので前衛として決してひけを取らない。むしろ吸血で回復出来ることを考慮すれば、彼よりも粘り強く前衛をこなせるかもしれない。


「剥ぎ取りは…焼いた奴らは無理だな。状態が良いのだけを剥ぎ取ってから先に進むか」


 炎幽霊(フレイムゴースト)によって屠られた蟻達はブスブスと黒煙を上げており、既に炭化しているように見える。こうなった魔物の素材は剥ぎ取っても劣化しているのが常だ。どうせインベントリの肥やしになるだけだと知ってるんだぞ。


「え~、勿体ないよ~。一応剥ぎ取っとこ」


 しいたけはそう言うと焦げた蟻から優先的に剥ぎ取って行く。すると幾つかアイテムが取れたようだったが、一瞬硬直してから溜め息を吐いていた。やはり劣化していたのだろう。


「近くにはもう魔物の影は無いけど、もう少し西に行くと妙な広場が見えるぞ」

「ほう?ボスエリアか?」


 森の中にある開けた場所、というとボスエリアであるような気がする。確実にそうとは言えないが、結構奥深くに入っているのでボス戦でもおかしくは無い。


「どうする?知っているかもしれないが、ボスの強さは周辺の魔物に比べて一段階上だ。代わりに経験値は多いし、SPや攻略報酬もある。見返りは十分だが、それに見合った危険もあるということだな」


 私からすればここの敵は大して強くは無い。だが皆にとってはそこそこの強敵の筈だ。それよりも一段階上となると苦戦は必至である。だから嫌がるのであれば避けて通ることも選択肢に入れておこう。


「ぼくは行きたいです。進化してからここの敵じゃ少し物足りないですし」

「アタシも同感だね」


 既に進化したエイジや兎路はやる気に満ちている。進化してからは敵の強さが物足りなくなっていたので、腕試しに丁度良いというところか。それは七甲とモッさんも同様であるらしい。二人もうんうんと頷いている。


「まだボス戦ってやったことなかったし、俺は行くぜ」

「うーん、後ろからモノ投げるだけでいいなら行くわ。アイテムは欲しいし」


 セイは初めてのボス戦に早く挑みたいようだ。しいたけは消極的な賛成。武闘派の調教師と生産職の錬金術師の違いだろう。


「ど、どうする?チャレンジしてみる?」

「いーんじゃなーい?みんないるし、大丈夫だよー」


 どことなく不安そうな紫舟とマイペースな感じを崩さないウール。なんだか二人の関係が見えてくるような気がする。


「私から言っておいてあれだが、本当にボス戦とは限らないさ。本当にただ単に開けた場所があっただけかもしれないのだから」



◆◇◆◇◆◇



 我々はさらに西進し、セイの発見した広場に出た。そこは確かに広場ではあったが、奇妙な点が幾つかあった。


 まず、地面が踏み固められていること。それも獣道のように一本の道としてではなく、広場一帯の土がそうなっている。つまり、頻繁にこの広場に何かが行き来しているということである。


 次に、周囲の木々である。広場の周辺にはどれも切り倒されたらしい沢山の切り株が残されていた。だがその切り口は新しくて瑞々しい。まだ切り倒されてから日が経っていないのだろう。また、斧などを使ったにしては汚いのも特徴だ。


 そして最後にして最大の妙なものは、地面にポッカリと掘られた穴である。私どころか巨体のエイジですら易々と潜る事が出来そうな幅があるではないか。


「…アナウンスは無し。ボスエリアじゃなかったのか」


 私は若干期待はずれだと思いながらそう言った。基本的にボスエリアに踏み込んだ場合、アナウンスが鳴り響くものだ。なのに何の反応も無いことから、ここがボスエリアである可能性は非常に低くなっていた。


「違ったかぁ。残念です」

「けど変な場所だよね~。あの穴から何か出てきたりして!」

「おい!止めぇや!それはフラグっちゅう…!?」


 安心したのか、しいたけが縁起でもない冗談を言う。それを押し止めようとする七甲だったが、もう手遅れだった。なぜなら、彼女の冗談は現実になったのだから。


「キチキチ」

「ガチガチ」

「お、おい…あれって…」


 穴から出てきたのは、さっきから腐るほど相手をしてきた劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアントだった。そうか。この穴はただの穴ではなくて…


「蟻の巣穴かよぉぉ!」

「「「ガチガチガチ!」」」


 劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアント達は、エイジの叫びに応えるように雪崩を打って巣穴から飛び出てきた。うげっ!数はさっきの比じゃないぞ!巣穴に近付く不届き者を絶対に殺してやろうという意志を感じる!


「ちっ!逃げられんか!やるぞ、皆!行け!」

「「「アアアァァ…」」」


 私は先程と同様に、炎幽霊(フレイムゴースト)に突貫させる。劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアントに対して相性の良い下僕達は、ただ群れの中を飛び回るだけでどんどん蟻達を焼き払っていった。


「ふん!ブオオォォ!」

「そこっ!」


 私の下僕によって余裕が生れたことで、皆は普段の調子を取り戻した。エイジはしっかりと盾で攻撃を受け止めてから斧で頭部をカチ割り、兎路はエイジが止めた蟻の首を刈り取って行く。息の合った絶妙なコンビネーションである。


「うおお!数には数じゃあ!」


 七甲は【召喚術】によって産み出した烏で蟻達を上空から攻撃する。種族(レイス)の進化と能力(スキル)のレベルアップによって、より強力な魔物を召喚出来るようになったらしい。一人で十以上の蟻達を牽制出来ていた。


「ふはは!進化した力を見せてあげましょう!」


 そうして七甲が時間稼ぎしている間に、モッさんが蟻達を殴り倒していく。脚の爪は外骨格を紙のように斬り裂き、翼の打撃もまた外骨格を一撃で砕く。マッチョな蝙蝠は思った以上にパワフルな戦い方をするらしい。


石壁(ストーンウォール)!紫舟ちゃん!よろしくぅ!」

「任せて!えいっ!」


 しいたけは【地魔術】で壁を作ると、その上に紫舟と共に登った。そして二人は高所から攻撃を開始する。紫舟が粘着性の糸を放って捕らえ、しいたけが集めておいたアイテムを投げつける。爆発力は無いものの、最も多くの敵を引き付ける事に成功していた。


「はははっ!楽勝だぜ!」


 セイは狼の従魔、フィルの背に乗って蟻達の隙間を駆け回る。隙間と言っても狼の牙や体当たりと彼の棒による打撃、さらに妖精の魔術で切り開いた血路であった。


「メェー、眠れー、メェェー」


 そして戦場の中心部から少し離れた場所でウールが鳴き声を上げる。淡々と鳴くだけだったが、一鳴きする度に数匹の蟻が昏睡し、無防備になった蟻は即座に誰かの手によって倒されていた。直接敵を攻撃している訳ではないが、しっかりと戦いに貢献していた。


「「「ギシャアアアアア!!!」」」

「む!ちょっと毛色が違う奴が混ざっているぞ!注意しろ!」


 かなりの数の蟻を倒すと、怒りの声と思しき鳴き声と共に巣穴からワラワラと出てくる。その中に劣崩労働蟻レッサーカラミティワーカーアントよりも一回り大きく、それでいて攻撃的なフォルムの蟻が混ざっていた。


 あれはきっと上位種に違いない。ここからが本番ということだな!

 あぁ^~、レッドデッドリデンプション2のせいで睡眠時間が減るんじゃぁ~


 ともあれ次回は11月2日に投稿予定です。

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