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骸骨魔術師のプレイ日記  作者: 毛熊
第九章 朱に染まる鉱山
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臨時パーティー結成!

「先ずは探知からか。魔力探知(マジックエコー)


 私は最初に周囲の魔力を探ってみる。プレイヤーが近くにいるとは聞いているが、正確な位置までは教わっていない。なので合流するためにも、彼らが何処にいるのかを把握する必要があるのだ。


「…ふむ。反応は大体二十か。Mobの魔物の可能性もあるから、とりあえずは慎重に近付くとするか」


 私は【暗殺術】で気配を消したまま、最も近い反応に接近していく。いつ戦闘になっても良いように備えておくとしよう。


「むっ、戦っているな?二対一、か」


 一分ほど進むと、獣の雄叫びや鈍い金属音が聞こえてきた。これを戦闘音と判断した私は、少し歩くペースを速めてみる。そこでは予想通りに戦闘が繰り広げられていた。


「一匹はカマキリで、あとは灰色の肌の人間の女性…じゃないな。牙が生えてる。最後の一体はオーク、と言うやつか?」


 戦っていたのは人間サイズの巨大なカマキリと、武装した人型の何かと豚のような頭の大柄な魔物であった。前者は反りの大きい剣の二刀流、後者は自分の身体を覆い隠す方形の盾と巨大な斧を持っている。


 カマキリはかなりの速度で鎌状の前肢で斬り付けるが、それを前衛のオークがしっかりと受け止める。防がれたことで産まれた隙に、人型が関節部を狙って斬撃を繰り出す。地味だが堅実な戦い方だ。


 武装している二人はほぼ確実にプレイヤーだ。金属製の武器を持っているのも根拠の一つだが、異なる種族(レイス)同士で協力している事が何よりもプレイヤーである証拠だろう。だが、カマキリの方はわからない。とりあえず、【鑑定】すればわかるだろう。


――――――――――


名前(ネーム):エイジ

種族(レイス)豚頭鬼(オーク) Lv18

職業(ジョブ):重戦士 Lv8


名前(ネーム):兎路

種族(レイス)屍食鬼(グーラ) Lv17

職業(ジョブ):双剣士 Lv7


種族(レイス)殺人大蟷螂ラージマーダーマンティス Lv22

職業(ジョブ):暗殺者 Lv2

能力(スキル):【鎌術】

   【筋力強化】

   【防御力強化】

   【敏捷強化】

   【器用強化】

   【隠密】

   【忍び足】

   【奇襲】

   【暗殺術】

   【飛行】

   【斬撃耐性】


――――――――――


 おぉっ!これで確定したんじゃないか?確か掲示板によればプレイヤー相手だと能力(スキル)が【鑑定】出来ないと聞いた事がある。名前がある事、そして能力(スキル)が見えないと言うことはあの二人はプレイヤーで確定だろう。


 それにしても屍食鬼(グーラ)か。豚頭鬼(オーク)もそうだが、『鬼』の文字から察するに二人とも小鬼(ゴブリン)から進化したんだろう。どんな冒険を経てその種族(レイス)に至ったのか、聞いたみたいものだ。


 逆にカマキリ…殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスは普通の魔物だな。個体名は無いし、能力(スキル)もバッチリ見えている。普段から戦っている魔物と同じだ。


「ギギィ!」


 二人は堅実に守り、着実にダメージを与えている。このままではジリ貧であり、殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスは確実に負けてしまうだろう。だからだろう、殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスは起死回生の一発と謂わんばかりに、両方の前肢を振りかぶって渾身の斬撃を繰り出そうとした。


「ブガァッ!」


 対する豚頭鬼(オーク)のエイジ氏は殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスが隙を曝すタイミングを待っていたらしい。彼はこれまで守り続けていた巨大な大盾で殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスを殴り付けた。


「ブゥオオオオオオオ!!!」


 守り続けると言うのは神経を使うものだ。その鬱憤を晴らさんとばかりに空気を震わせる咆哮と共に、エイジ氏は打撃で体勢を崩した殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスに斧を振り下ろす。盾に負けない程に大きな斧が、殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスの頭部を叩き割った。


 殺人大蟷螂ラージマーダーマンティスは断末魔の叫びを上げる事すら許されずに力尽きた。彼らの完全勝利と言うべきか。ジゴロウや源十郎のような派手さは無いが、基本に忠実な戦いは安定感がある。


「素晴らしい。良い戦いぶりだったな」


 さて、そろそろ隠れて盗み見るのも終わりにしよう。私は拍手をしつつ、物陰から二人の前に姿を表した。戦いが終わって一息ついていた二人だったが、驚きつつも素早く武器を構える。どうやら警戒されているらしい。


「貴方、何者?」

「自己紹介と行こう。私はイザーム。種族(レイス)骸骨大賢者(ハイリッチ)だ」


 ここで私はしれっと嘘を吐く。【鑑定】されてしまえば一発でバレる…と思うじゃん?それがバレないのだ。何故ならば、私の付ける仮面には【偽装】の効果があるからだ。見破るには専用の能力(スキル)が必要なので、流石にわからないだろう。


骸骨大賢者(ハイリッチ)…聞いた事無いわね」

「いや、ちょっと待って!その名前と銀色の髑髏仮面…あの!イザームさんって、ひょっとして『北の山の悪夢』事件で暴れたって言う『銀仮面』ですか!?」

「む?何故私を知っているんだ?」

「ほ、本物なんだ…!」


 胡散臭そうに私を見る兎路氏とは対照的に、エイジ氏は私の事を知っているらしい。しかも私がジゴロウとやんちゃした事件の『銀仮面』である事まで知っている。


 どこから情報が漏れたんだ?私はクランメンバー以外のプレイヤーとはほとんど接触していないというのに…


「話題になってましたよ、魔専スレで!」

「マセン…?もしかして、魔物専用スレか?」


 そうだ!そう言えば、アイリスと初めてコンタクトを取ったのはあの魔物専用スレだった。あそこには私とアイリスのやり取りがログとして残っているはず。そして内容とタイミングから見て私が『銀仮面』であることは火を見るよりも明らかだろう。


「はい!そうです!」

「よくわかんないけど、その人って有名人なの?」

「魔物プレイヤーの間じゃ、有名なんてレベルじゃないよ!」


 エイジ氏が私とジゴロウがやらかした事を兎路氏に語っている。自分の事を他人に語られるなんて小っ恥ずかしいぞ?それと、話に尾ひれが付いている部分もある。正確過ぎる情報が出回っていない、と言うのは一安心ではあるが…


「あ、イザームさんは一人なんですか?アイリスさんと悪夢さんは何処にいるんです?」

「ん?ああ、二人はイベントに不参加だ。別のクエストの予定が入っていてね」


 私は真実をそのままに告げる。ただし、二人とも我々にとっては三つ目の大陸…いや、諸島だから地域か?ともかく、新たな地域へ向かった事は教えない。イベントには関係が無いし、情報とは秘匿してナンボだからな!


「ふーん。じゃあアタシ達と組む?見た感じ魔術師っぽいし、後衛がいると楽だって聞くし」

「おお、願ってもない事だ。なら、宜しく頼む」


 いつ切り出すかタイミングを窺っていたが、まさか向こうから言ってくれるとは。いやはや、第一歩は上手く行ったようだ。


「い、イザームさんとパーティーを組めるなんて…!イベントが終わったらスレで自慢します!」

「前々から思ってたけど…アンタ、ガキっぽい所あるわよね」

「何をう!?」


 ははは、何だかユニークなコンビだな。まだわからないが、為人に問題がなければイベントが終わったらクランに誘ってみるのもいいだろう。


 二人が口喧嘩をしている間に、私はもう一度魔力探知(マジックエコー)を使ってみる。最初に使った時から少し時間が経っているので、プレイヤーの位置も動いていると考えたからだ。


「ん?近いぞ?」


 私は非常に近い場所に魔力探知(マジックエコー)が反応した事に気がついた。私から見て左後ろの位置である。反射的に私は後ろを振り向いて反応のあった方向に目を向けた。


「ヘイ、骸骨のお兄さん!ひょっとしてバレてる?」

「「!」」


 背後から女性の声が聞こえてきたことで、エイジ達は喧嘩を止めて武器を構える。私が現れた時と同じ反応だな。すると木の陰から小さな、しかし私が知っている()()からするととても大きなモノが姿を見せた。


「そっちの二人は気付いて無かったっぽい?あちゃー、早まったかね?」

「いや、私は探知していたから遅かれ早かれ二人にも教えていたぞ」

「ありゃりゃ、やっぱバレてーら。さっさと出て正解っぽいにゃあ」


 なんと言うか軽い調子で現れたのは、私の膝くらいの体長のキノコであった。傘は白い斑点の目立つ赤紫色で、柄からは短い手足が生えている。それらを必死に動かしている姿はコミカルであった。私はすぐに彼女を【鑑定】してみる。


――――――――――


名前(ネーム):しいたけ

種族(レイス)毒動茸ポイズンウォークマッシュルーム Lv10

職業(ジョブ):錬金術師 Lv0


――――――――――


「わたしは毒動茸ポイズンウォークマッシュルームのしいたけ。何だか騒がしかったから来てみたのさ」

「しいたけ…毒があるのに…」


 エイジ氏がボソッとそんな事を呟いているが、今はスルーで。とりあえず、自己申告と【鑑定】の内容に相違は無い。それで、目的はなんなのだ?


「んで、突然なんだけど、わたしもパーティーに入れてくんない?ずっとソロでやってたんだけどさぁ、せっかくのイベントじゃん?パーティー組んだ方が色々と捗りそうなんだよね~」


 まさかのパーティー参加の打診である。ここら一帯のプレイヤーとパーティーを組むようにイーファ様には頼まれているので私に異存は無い。だが私の一存で決める事は出来ない。


「私は構わないが、二人はどうだ?」

「あ、いいですよ。他のゲームでも野良パーティーで遊んだ事は多いですし」

「アタシもいいよ。ってか、女の子が増えてくれて嬉しいし。男に囲まれて悦に入る趣味は無いからね」

「わぁい!やったぜ!」


 エイジ氏と兎路氏も快く参加を認めてくれたようだ。これで臨時のパーティーを組む事が出来…


「ちょぉっと待ったぁ!」

「そのパーティー、僕達も加えてくれませんか?」


 うおっ!?またプレイヤーか!声は上から聞こえたので視線を上げると、針葉樹の枝に一羽の烏と一匹の蝙蝠がとまっているではないか。話し掛けたのはあの二人なのだろう。


「俺は魔烏(マジッククロウ)の七甲で、こっちは吸血蝙蝠(ブラッドバット)のモツ有るよ言うモンや。アンタらの話が聞こえてきたんで、お邪魔させてもろうたんや」

「僕達、普段からコンビを組んでるんですが、今回のイベントって一回しか死ねないじゃないですか。なので少しでも生き延びるためにも野良パーティーを組もうって話になりまして。そちらは丁度四人みたいですし、残りの二枠に加えてもらいたいんです」


 あ、いや。パーティーに加わる事自体はいいんだ。蝙蝠の彼が言うように枠は余ってるし、戦力の増加にもなるんだから。良いんだけどさ、それよりも気になる事がある。


「あの、蝙蝠の人の名前をもう一度教えてくれませんか?」


 エイジ氏が恐る恐る尋ねてみる。なんだか聞き間違いでなければ、とても愉快な名前だったように思うのだが?


「僕の名前ですか?モツ有るよ、です」

「尊敬しとる作曲家の名前をもじっとるんやと。おもろいやろ?ワイはモッさんって呼んどるで」


 ああ、はい。聞き間違いじゃ無かったんですね。口調はとても丁寧なのに、ここにいる誰よりも珍妙な名前である。それを平然と名乗れる辺り、独特の感性をしていらっしゃるようだ。


 結局、エイジ氏達は二人の加入を受け入れる事にした。イベントが始まってから十分と経たずに野良パーティーが出来上がった訳だが、随分と濃い面子が揃ったものだ。因みに、これが七甲氏とモツ有るよ氏のステータスである。


――――――――――


名前(ネーム):七甲

種族(レイス)魔烏(マジッククロウ) Lv14

職業(ジョブ):召喚術師 Lv4


名前(ネーム):モツ有るよ

種族(レイス)吸血蝙蝠(ブラッドバット) Lv11

職業(ジョブ):格闘家 Lv1


――――――――――


 豚に鬼、茸と来て烏と蝙蝠、それに加えて骸骨の私。種族(レイス)職業(ジョブ)もバラバラだが、前衛三と後衛三というそこそこ安定感のあるパーティーが誕生した。彼らと過ごすイベントがどうなるのか。不安もあるが、それ以上に楽しみである!

 この章では新キャラが続々登場しますよ~。


 次回は10月5日に投稿予定です。

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【推敲】 どんな冒険を経てその種族レイスに至ったのか、聞いたみたいものだ。 ⇩ どんな冒険を経てその種族レイスに至ったのか、聞いてみたいものだ。
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