月の光に魅せられて その二
試練を辞書やネットで検索すると、「実力・決心・信仰の程度を厳しく試すこと。また、その時の苦難。」と出て来ました。
ここでの試練とは、実力を途轍もない厳しさで試しています。
さてさて、ここからは下僕を積極的に前に出そう。攻撃力もしっかり下がったようだし、今なら十分耐えられるはずだ。
しかし問題は火力不足だな。下僕が足止めした時にもっとダメージを与えておきたい。ならば方法は一つだ。
「召喚、鬼火・魔術強化・闇」
前に遭遇したことで召喚可能になっていた鬼火。攻撃方法は持たせた属性の球系の術と体当たりだけだが、暗黒界を展開している状態で属性を闇|にすると意外なほどパワーアップするのだ。
更に【付与術】のレベルアップに伴って召喚時に二つの付与が出来るようになった。色々検証した結果、現状だとこれが最適解だな。因みに動く骸骨に付与しているのは壁役二体が防御強化と体力強化、力技担当が攻撃強化と体力強化だ。これにもちゃんとした理由があるのだが…今はそれどころではないようだな。
「シイヤアアアア！」
貴族が再度突撃を敢行する。冷静さを奪ったのは私だが、単調過ぎるのもどうかと思うぞ。
「シャッ！」
「うおっ！？」
と思っていたら貴族が跳躍した。垂直に五メートルは跳び上がってるぞ。どういう身体能力してんだ！？
「行け！」
しかし、私には対空手段がある。もちろん、鬼火だ。流石に空中で軌道を変えるような鬼畜過ぎる能力は無いようで、鬼火の横殴りの体当たりがヒットして地面に落ちていく。その落下点に、私は素早く術を使った。
「遠隔起動、石槍」
本来、石槍は単純に石の槍を飛ばす魔術だ。ただし、魔術の形状をある程度コントロール出来るようになる能力である【魔力制御】を利用すれば、地面から石の槍が伸びた状態で固定させる事が出来るのである。そこに何かが落ちてきたらどうなりますか？
「グフッ！？」
「よし！遠隔起動、闇腕！お前たちも攻撃しろっ！」
「「「カタカタカタカタ！」」」
結果、貴族は百舌鳥のはやにえのようになった。これでしばらくは動けまい！この好機に畳み掛けるぞ！
私は遠隔起動によって貴族の背後に闇腕を発動させる。この術には面白い特性があって、この腕の腕力は私の魔術に関連するステータスを参照しているようなのだ。ステータスがマスクデータなので正確な数値は不明だが、私は完全なる魔術特化型のプレイヤー。少なくとも一発で大蛞蝓をミンチに変えるくらいは朝飯前だ。
そんな闇腕でやりたい放題出来るとすれば、一体どれだけのダメージを叩き出せるのかなぁ？
「オラオラオラオラァ！」
気分が乗ってきた私は思わず主人公の台詞で貴族を殴っていしまった。まあ、下僕四体と共に串刺し刑状態の敵を囲んでタコ殴りにするというド外道な事をやっているし、別に構わんだろう。むしろ我々が不死系である事も相まって、とてつもなく邪悪に見えるかもしれないな。
「ガアアアア！」
「おっと、下がれ」
貴族はどうにか深々と刺さった状態から抜け出そうともがいていたが、無理だと判断したのか杖で石槍を殴り折るという荒業に出た。確かに合理的だな。
だが、体力はかなり削れたぞ。一方的に殴り続けたことでもう半分を割り込んでいる。相手も追い詰められたはず。さて、次はどう出る？
「キィイアアアアアアアアアア！」
貴族はこの世のものとは思えない絶叫を上げる。最初の偉そうな態度が嘘のような化け物っぷりだな。人間（不死）は、もう魔物のようなものなのかもしれない。
「アアアアァ…」
「オオオォォ…」
「むっ！？」
ボコボコボコボコ…
おいおい、まさかコイツ、このタイミングで仲間を呼びやがったのか！？あの声に反応したって所か？くそっ、一旦退いたのは誤りであったらしいな！
取り敢えず【鑑定】だ！相手が何者かを知っておかないと話にならんぞ！
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種族：屍体騎士 Lv15
職業：騎士 Lv5
能力：【剣術】
【槍術】
【弓術】
【重装】
【暗視】
【状態異常無効】
【火属性脆弱】
【光属性脆弱】
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映画や古文の教科書で見た平安～鎌倉時代の武士って感じだな。けど種族は屍体騎士で職業は騎士なのか…。武士は騎士みたいなもの…なのか？いや、鎌倉武士って戦国時代と同じくらいかそれ以上の狂戦士だったと聞いたことがあるんだが…って、どうでもいい！
当然の権利のようにこいつらも格上か。そして能力構成はバリバリの前衛である。それが四匹って、どんな難易度だ？だが、文句を言っても始まらん！先手必勝！幸い、固まって湧いたから弱点属性で一気に燃やしてやる！
「双魔陣遠隔起動、火壁！」
「「「「「ウォォォ…！」」」」」
貴族も巻き込むように二発分の火壁を叩き込む。威力を限界まで上げているハズだが、流石は格上かつボスとその取り巻きというわけか、四匹の体力は三割近く残っている上に貴族に至ってはミリしか減ってない。進化していない【火魔術】ではこれが限界か！
「「アアアア！」」
「「オオオオ！」」
「防げ！そして…」
私の先制攻撃を食らったが、相手は屍体。衝撃で怯む事はあっても恐怖や痛覚とは無縁の存在だ。動けるようになった瞬間、こっちに向かってくるのは予想通りだ。
私は下僕に命じて前衛をさせる。壁役の二体は身を呈して二匹ずつ請け負ってくれた。相手はそれぞれ刀持ちと槍持ちが二匹ずつという構成なのは助かったぞ。打撃武器ではないから、少しでもダメージが少なくて済むからな。
しかし今重要なのは、相手の足がまた止まったと言うことだ。それは私がもう一度魔術を使える事を意味する！
「双魔陣起動、火壁！」
「「「「アアオオォォ……」」」」
私の魔術でついに取り巻きが燃え尽きていく。このゲームにフレンドリーファイアが無くて助かった。もしあれば私の下僕も丸焦げだっただろうからな。
「さて、後は貴族殿だ…け…？」
そう言えばどうして奴は下僕をけしかけている間、何もしてこなかったんだ？私のように前衛を下僕に任せて魔術を使うでもなく、かといって共に戦った訳でもない。じゃあ、回復か？そんな素振りやエフェクトは無かったぞ？
「グゥルアアアアアアァァァァァ！！！」
先程まで黙っていたはずの貴族が、突然獣の、と言うよりも怪獣めいた咆哮を上げた。ただでさえ化け物染みていたが、今度のは違う。完全に人間の声では無くなっていたぞ。
背格好や服装は変わっていない。しかし見えている素肌を白い鱗が覆い、爪と歯はナイフのように鋭く伸び、頭部からは角が生え、瞳は爬虫類のように縦長になっている。明らかに声どころか見た目まで人間をやめているじゃないか！輝いている左手の宝玉が原因か？何が何やらサッパリだが、取り敢えず【鑑定】だ！
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名前：月ヘノ妄執
種族：人間(龍化) Lv25
職業：上級貴族(？) Lv18
能力：【剣術】
【槍術】
【弓術】
【短剣術】
【龍神ノ呪詛】
【軽業】
【召喚術】
【死霊魔術】
【火耐性】
【詩歌】
【雅楽】
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龍化、ってのがこの形態変化の名前か！明らかに大幅なパワーアップ状態だぞ？これ、本当に勝てるのか！？…って、ん？
「体力が減り続けてる…？」
何だ？毒か？私は知らないぞ。マーカーは…呪いの状態異常だと？私はそんな呪いをかけてはいないはずだ。
もしかして、能力欄にある【龍神ノ呪詛】が原因か？いや、それくらいしか心当たりが無い。恐らく龍化している間、貴族はスリップダメージを受けるのだろう。
これが死ぬまで続くのか、はたまたどこかで最低限の体力は保証されるのか。それはわからない。だが、どうにか防いで時間を稼ぐという消極的な方法はボス戦に、そして私の美学に反する！やってやるぞ！
「双魔陣、遠隔起動！闇腕！」
私は貴族の左右に二本の闇腕を発動させ、その大きな掌で押し潰そうとする。パワーアップしたボスがそう簡単にやられてくれるとは思わないが、敵がどの程度強化したのかを判断する材料になるはずだ。
「ガアアアアアア！」
「何だと！？」
貴族は私の闇腕をそれぞれ片手で受け止めてしまったではないか！片手の腕力が、闇腕に匹敵するかそれ以上だと？デタラメだ！
「グラアァ！」
「チッ、鬼火！」
受け止めるどころか振り払うだけで闇腕を掻き消した貴族は、杖を放り投げると弓を引き絞るように右手を後ろに構えて駆け出した。星の光を反射してギラリと光る爪で私を貫くつもりだ！防がねば！
速度的に間に合うのは鬼火だけ。壁として使い捨てるのは勿体無いが、背に腹は変えられん！
「グ、ガアア！」
鬼火は魔術を放ちながら貴族の頭に近付く。ダメージはほぼ無かったが、頭に突然走った衝撃で視界が遮られて軌道が反れた。
お陰で私は無事だったが、鬼火は貴族の怒りを勝ったらしい。憤怒の咆哮を浴びた鬼火は、声の衝撃波だけで吹き飛んでしまった。
こ、声にも攻撃判定があるのか！？油断出来ない理由が増えたな。だが、鬼火の犠牲は無駄ではないぞ。この術が間に合ったのだから！
「遠隔起動、闇面！」
「グガガ！？」
私の闇面による黒い靄が貴族の頭を覆う。ダメージはどうせ微々たるものだろうが、これには追加効果の暗闇状態がある。ボス相手にそう長い間効果が持続するとは思えないが、ほんの数秒でも時間が稼げれば良いのだ。
「しがみつけ！」
「「「カタカタ！」」」
相手の体力はスリップダメージを加えて二割を切った！ここで一気に畳み掛けるぞ！残りの下僕達に命令を下し、顔に纏わり付く靄を払おうとする貴族に特攻させる。そして三体はどうにか貴族の身体にしがみついた。さぁて、景気良く行くか！
「爆ぜろ！」
下僕達の身体が一瞬輝くと、私の命令に従って三体は自爆した。た～まや～、ってか？冗談はさておき、ここまでよくやってくれたな。ありがとう！
「グルルルルル…！」
よし、三体同時の自爆を食らって流石に無傷とは行かなかったようだな。マーカーを確認…残り体力は一割を切った。さらに呪いは継続、そして出血！一体では低確率でも、三体いれば確率は上がるのは当然か！
しかし、これで私を守るものは全て無くなった。そして残りの魔力は三割弱。削り切れるか非常に微妙な所だ。
ここから消極策に出るのはあり得ない。それならとっくに逃げ回っていたさ。あくまでも、私の持つリソースを使いきってでもコイツを倒すぞ！
「グゥオオオオオオオ！」
また突っ込んできたか。やはり距離を詰めたいのか。なら、逆に視認し難い魔術で迎撃してくれる。
「双魔陣展開、風…！？」
「ガアアアアアア！」
不味いッ！相手は龍なんだろ？だったら小説でも映画でも漫画でも、絶対に警戒すべき攻撃があるじゃないか！
そう、龍の息吹だ！奴は喉を膨らませたかと思えば、必殺の一撃を放った。近付いたのは私を油断させるためか、或いは少しでも確実に当てるためか。どちらにせよ、食らったら即死する！
「間に合え！水壁！」
双魔陣を展開したままだったのは幸運だった。どうにか水壁の呪文が間に合ったそ！私は二枚の水壁を設置して備える。これでどうにか…
「ぐああああ！」
…ならないか！土台、防ぎきれる訳がなかったのだろう。私は貴族の口から放たれた炎に身を焼かれる。しかし、二枚の水壁は確実に威力を削ってくれたらしい。即死は免れたようだ。だが、防御を突破した衝撃波だけで私は吹き飛ばされてしまった。
「がはっ…」
どうやら不死系でもプレイヤーだとダメージのフィードバックがあるらしい。【状態異常無効】のお陰で気絶こそしていないが、ダメージの影響で力が全く入らない。万事休すか！
「グッグッグ」
私の無様な姿を見て、貴族様はご満悦らしい。理性を失ったように見えたが、弱った相手を見て悦に浸るような残虐性は残してるのか？反吐が出るな。
しかし、私が何を思っても身体が動かない事に変わりはない。私はただのプレイヤーでシステムに縛られている。戦闘中に能力が成長することは無く、それ故に物語の主人公のようにここぞという時に都合良く新たな力に覚醒したりは絶対にしない。これは、あくまでもゲームなのだから。
「だからこそ…」
ニヤニヤしながら貴族が私の元へと歩いてくる。その一歩一歩が、奴には私の敗北へのカウントダウンのように見えていることだろう。
「私は…特別でもなんでもない、ただのプレイヤーだ…。だからこそ…」
貴族はうつぶせになった私の頭のすぐ上に来た。そしてゆっくりと足を持ち上げる。私の頭骨を踏み潰すつもりなのだろう。やはり、残虐性だけは残っているのだな。
「勝つべくして勝つのだよ」
「ガァッ！？」
彼奴が足を振り上げた瞬間、その軸足を四本の黒い腕が掴み、後ろに引っ張る。支えを失った貴族は無様にも前のめりに倒れ臥した。
試練も佳境に入って来ました。次回、決着！
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名前：イザーム
種族：動く骸骨 Lv8
職業：見習い魔術師 Lv8
称号：理の探求者
称号を得し者
異端なる者
下剋上
神算鬼謀
能力：残りSP 106
【杖】Lv11
【魔力制御】 Lv13
【土魔術】 Lv8
【水魔術】 Lv8
【火魔術】 Lv9
【風魔術】 Lv8
【暗黒魔術】Lv 0
【無魔術】 Lv9
【召喚術】 Lv8
【付与術】 Lv5
【魔法陣】 Lv7
【死霊魔術】 Lv5
【呪術】 Lv4
【罠魔術】 Lv5
【考古学】 Lv7
【言語学】 Lv5
【薬学】 Lv7
【錬金術】 Lv7
【鑑定】 Lv8
【暗視】 Lv-
【隠密】 Lv9
【忍び足】 Lv8
【奇襲】 Lv6
【状態異常無効】 Lv-
【光属性脆弱】 Lv6
【打撃脆弱】 Lv10
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