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第4話 入学と手続き

 『ホープスクール』と呼ばれている冒険者ギルドが創立した訓練校は、華美な装飾や立派な構えはなく、只々実用性・機能性を追求した作りをしていた。

 学校らしい所といえば校門に掲げられている『冒険者訓練校』という看板のみ。

 あとは門扉が開いている刑務所のような様相だった。


「あの、エルニカ様。ここは本当に学校なのでしょうか?」


「ええ、冒険者を志す者はここを避けて通ることはできませんわ。……まあ、学校らしくない見た目なのは同意見ですけれど」


 入りますわよ、とエルニカさんに促され、僕はホープスクールの門をくぐった。


「まずは入学手続きをしなければなりません。時間はギリギリですが、まだ間に合いますわ」


「はい、急ぎましょう」


 おそらく今日までの入学手続きのためであろう『入学希望者はこちらへ』と書かれた看板に従って道を進む。

 実技の訓練場のような広間の前に入学手続きの受付はあった。


「さあアスベル。ここからはあなた一人でお行きなさい。わたくしの案内はここまでですわ」


「はい、ここまでありがとうございました。行って参ります」


 そう言って僕は受付の女性に話しかけようと近づいた。


「ん、入学希望者かい? かなりギリだよ。これからは時間に余裕を持って行動すること」


「すみません以後気をつけます。それで、手続きは……」


「承ったよ。まずは名前と年齢、性別と種族を記入。文字が書けなければ代筆してやるよ」


「いえ、自分で書けますので大丈夫です。お気遣い感謝します」


 えっと、書く場所を間違えないように、と。


「へぇ、最近の若者にしては礼儀がなっているじゃないか。えー、名前は『アスベル・フェニキシア』……? え、フェニキシア姓ってあんた、エルフなのかい?」


 フェニキシアの姓はフェニカさんに名付けられた際これからはこう名乗るように、と言われていたので書いたのだがまずかっただろうか?


「いいえ、エルフではありません。人族です」


「なら嘘はいかんよ。フェニキシア姓はエルフの中でも古き血統、エンシェントエルフの一角の名さ。冗談はこれくらいにして本当の名前を書くことだね」


「えっと、僕の養母がエルフでして。『フェニカ・フェニキシア』って方なのですが」


 そう言うと受付の女性は目を見開き、身体を震わせた。


「フェニカ・フェニキシア、『獄炎の魔女』の二つ名を持つ最高ランクのエルフ。その義理とはいえ息子だって……? 全く、今期の新入生はどうなってるんだか……」


 え、なにその二つ名とか『獄炎の魔女』とかカッコいいの。

 まあとりあえず他の項目も埋めていく。

 とはいえ本当の年齢や種族は書けないので、十六歳、男、人族、と一部を偽った。


「記入し終わりました」


「ああ、どれ。……ふむ、書類は問題ないね。だがそのヘルムは外さないとね。そのまま顔を見せずに入学とはいかないよ」


「ヘルムの下は火傷跡が酷くて風に当たるととても痛むのです。この醜い顔はとても他人に見せられるものではありません。どうかご容赦を」


 僕は検問の時と同じように火傷跡が酷いと言い訳をした。


「ふぅん。とても火傷をしているようには、あたしの『眼』には見えないんだがね。え? オークの坊ちゃん」


 女性の両目が妖しく光っていた。

 全身に緊張が走る。

 しまった、『魔眼』の持ち主か。

 しかも攻撃系ではなく補助系、おそらくは透視や看破を得意とする類い。

 一番いてほしくなかった能力だ。


「……そこまで分かっているのなら、素顔を見せます」


 僕はヘルムを外す。


「そして謝罪を。その書類に虚偽の情報を記入しました。しかし、化物(オーク)の僕が冒険者になるにはこれしか方法がなかったのです。どうか見逃していただけませんか」


「……ここであたしがあんたの入学を拒否することは簡単さ」


 だが、と女性は続ける。


「あたしはこの『眼』のせいでいろんな、見たくもないモノを見続けてきた。そんなあたしがあんたを見て『綺麗』だと思ったのさ。ああ、もちろん見た目の話じゃない。その考えや行動、そして心根のことだよ」


「そんな大層な存在ではありませんよ」


「それならあたしに見る目が無かったってだけさ。あたしはただ、ここで入学希望者の手続きをしただけ。ただし『眼』を(つむ)ってね」


 受付の女性はそう言うと、実際に目を瞑ってみせた。


「そ、それじゃあ」


「人族のアスベル・フェニキシア。あんたの入学を許可するよ」


「ありがとうございますっ!」



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