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第3話 説得と条件

「却下だ」


「え、許可(きょっか)?」


「よしそうかそんなにすり潰されたいのかエルニカ」


「ちょっ⁉︎ じょ、冗談ですわお姉様!」


「チィッ!」


「誤魔化す気がない舌打ち⁉︎」


「それで、アスベルを冒険者にするとかいう与太話をするためにわざわざここを訪ねてきたのか?」


 腕組みをし、半眼でエルニカさんを睨みつけるフェニカさん。

 正直威圧感が半端ないが、この話題に乗らないわけにはいかない。


「エルニカ様。その話、詳しく教えていただけませんか」


「アスベル!」


 フェニカさんから喝が飛ぶが、僕は怯まない。


「お姉様、話だけでも聞いていただけませんか? アスベルもこう言っていますし」


「……話を聞くだけだ」


「ありがとうございます。そもそも冒険者にさせる、と言ってもいきなり冒険者ギルドに所属して魔物を狩るということができないのはご存知ですよね?」


「え?」


 え、何それ知らない。


「……まさかとは思いますが、アスベルはご存知ない……?」


 頬をヒクつかせながらエルニカさんが尋ねてきた。


「は、はい。申し訳ございません」


「アスベル、そんなことも知らずに私に『冒険者になる』などとのたまっていたのか」


 僕はヘルムの上から頭を掻いて「あはは……」と曖昧に返事をしてお茶を濁す。


「はぁ、あなたに知性を期待したわたくしが馬鹿でしたわ。話を戻しましょう。冒険者になるには、冒険者ギルドが創立した訓練校を卒業する必要がありますの。この訓練校は、なりたての冒険者の生還率の低さを憂いたギルドマスターの提案によりできました。実際この訓練校の創立後、生還率はグンと上がり、冒険者の質も良くなったらしいですわ」


 へぇー。

 初耳だけど、理にかなっているのは分かる。

 誰でも冒険者になれれば、流れ者にはありがたいがどんな人が所属するか分からず、冒険者の質も不安定だ。

 それならば、多少の手間をかけてでも安定した冒険者の供給、実力の向上が期待できる訓練校の存在は有用だ。


「ということは、僕はその訓練校に?」


「ええ、お姉様さえ説得できれば入学していただくつもりですわ」


 ……それができないから困っているのだが。

 と、そこへ鶴の一声。


「ああ、訓練校ならば行かせてやる」


「へ?」


「……お姉様、さっきと言っていることが真逆なのですが」


 驚く僕と困惑するエルニカさんに、フェニカさんは「勘違いするな」と続ける。


「訓練校『には』行ってもいい。学費は元より無料なので必要ない。在学中の生活費は出してやろう。しかしそこまでだ」


 ああ、と納得した。

 つまりフェニカさんは『訓練校には行かせてやるが、卒業後の冒険者活動は認めない』と言っているのだ。


「それに意味はあるのですか、お姉様?」


「なに、この家の中ならば安全にアスベルを育てられるが、そうすると『ここ』だけがこの子の世界になってしまうと思ってね。私はアスベルが外に興味を持つのを否定しているわけではない。年齢・実力が共に備わったら冒険者になるのも自由だ。だが、今はまだその時ではないのさ」


「フェニカさん……」


 そこまで僕のことを考えていてくれたフェニカさんには、感謝してもしきれない。

 本来ならここでフェニカさんの言う事に従うべきなのだろう。

 だが──。


「フェニカさん、提案があります」


「なんだ、アスベル」


「僕が訓練校を首席で卒業したら、卒業後すぐに冒険者になるのを認めてください」


「……私の話を聞いて、まだそんなことを言うか」


 フェニカさんの威圧感が高まりつつあるが、僕は引かない。


「年齢は、僕が実年齢より肉体的にも精神的にも成熟しているのはフェニカさんも知っているはずです。そして実力は、在学中になんとかします」


「ふむ」


 口元に手を当て、考えるそぶりをするフェニカさん。

 十秒ほど無言だったフェニカさんは、パンッ!と手を打ち「よかろう」と言ってくれた。


「ただし、もし首席で卒業しなかったならば、成人するまでこの家での生活を送ること。それがこちらの条件だ」


「あ、ありがとうございます!」


「話がまとまりましたわね。ではアスベル、今から訓練校へ向かいます。準備なさい」


「おいおい、決まった途端に即行動とは。せめて明日出発すればいいだろう」


「いいえ、お姉様。ここから訓練校のある最寄りの町まで半日。そして訓練校の今期の入学申し込み期限が、今日なのです。申し訳ありませんが、今から出発しないと間に合わないんですの」


「い、急ぎ準備いたします!」


 えーっと、冒険者の訓練校に必要なものは、武器と筆記用具と着替え、とそんなものだろう。

 手早く荷物をまとめて二人がいる居間に戻る。


「ほれ、生活費だ。無駄遣いするなよ」


 そう言ってフェニカさんは貨幣がいくらか入った革袋を渡してくれた。


「ありがとうございます。行ってきます!」


「ああ、行ってらっしゃい。またな」









 三年間過ごした我が家を出発し、エルニカさんの罵倒を笑顔で流しながら半日。

 一番近い町、グリンネに到着した。


「いいですか、アスベル。町中でヘルムを外すのは厳禁ですわよ。勝手に外して討伐されてもわたくしの責任ではありませんからね!」


「心得ております、エルニカ様」


「ふんっ! ではまずは検問を突破してみなさい」


「了解いたしました」


 町に入るには検問所を通らなくてはならない。

 そこでは、その人が町に入る目的を聞いたり、大きめの荷物を持ち込む際には中身の確認や納税が必要となる。

 僕は検問所の職員の所へ向かう。


「はい、次の方どうぞ。ああ、旅の方ですかい? 荷物も少ないし、そのヘルムを取って顔を見せてくれれば通っても大丈夫ですよ」


「すみません。私の顔は大火傷で爛れておりまして、ヘルムを取ると風に当たって痛むのです。これは心ばかりの『通行料』です。お納めください」


 そう言って僕は銀貨を一枚、職員に握らせた。


「お、そうですか。それは大変ですね。はい、私はあなたが犯罪者でないことを確認しました。ようこそグリンネへ」


 笑顔の職員と別れ、検問所を後にする。

 僕の次に検問所に入ったエルニカさんは、何かカードのようなものを見せるだけでほぼ素通りしてきた。


「ふん、見た目と同様に卑しい手口ですのね。まあ、問題を起こさなかったことは褒めてあげましょう」


「ありがとうございます。時にエルニカ様。先ほど職員に見せていたものは何ですか?」


「ああ、上手くいけばあなたも持つことになる、ギルドカードですわ」


 そう言ってエルニカさんは再びカードを取り出し、僕に見えるよう突きつけた。

 それは金色に光る片手サイズのカードで、エルニカさんの名前とジョブ、ランクなどが記されていた。


「弓術師、ランクS、ですか」


「ええそうですわ。わたくしのギルドランクはお姉様と同じくS。最上位のランクですのよ」


 え、フェニカさんも冒険者ギルドに所属してて、しかも最上位ランカーなの?


最下位(ランクF)未満のあなたには、まさに雲の上の存在でしてよ。分かったらもっと敬意を持ちなさい!」


「素晴らしいですエルニカ様。尊敬の念を禁じ得ません」


「ふふん。では参りましょう。冒険者訓練校、通称『ホープスクール』へ!」



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