夢の中では
短編シリーズ 第6弾
『がああああああああああああ』
……な、なんだ? 今の音は?
僕の名前は伊藤 徹。30歳。
現在、夢の中にいる。夢の中を優雅に探索中だ。
夢の中とは実に興味深いもので、いろいろなことが起こる。
まず初めに、飼っている猫のネコさんが、100匹に分身した。
普段はそれはそれは可愛がっている。ニャーというありきたりな鳴き声をもらすあたりも、可愛い。しかし、それも100匹分ともなれば、相当うるさいものとなる。100匹一斉に飛びかかってくるものだから、いい加減にしろと、正直思ってしまった。ごめんね、ネコさん。まぁ、夢の中だからいいよね。
次いで、気になっている人から告白された。
こんなにニヤけてしまう体験は、夢の中でくらいしてもいいよね。
現実では絶対、手の届かないところにいる存在なのだから。
さらに、お父さんが50人に分身した。しかも半数が酔っ払っている。どうしたものか。酔っ払ったお父さんには手をつけられない。顔を真っ赤にして、大声で何かを叫んでいるお父さんが25人。夢の中だから仕方がないのだろうが、耳が壊れそうだ。
他にも、空を飛んだり、ヒーローになって地球を救ったり、お金儲けしたり、悪党に追いかけられたりしたが、それはありきたりすぎるので省略。
そして今にいたる。
『があああああああああああああ』
という変な音。なんだろうこれは。
まぁすぐに正体がわかるか。
と、思ったとき、僕は目を覚ましてしまった。
あぁ。最後のあの『がああああああああああああ』の正体はなんだったのだろう。やけに低い、あの『がああああああああああああ』という音は……。
正体が判明した。
…………何をやっている。お父さん。
『がああああああああああああ』の正体は、まぎれもない、お父さんのいびき。
でもどうして。
僕は日本の北側に住んでいて、お父さんは南側に住んでいるんだぞ?
一体、いつの間に……。
そして、なんという寝相をしているんだ。
「何やってるんだよ、お父さん」
お父さんは僕が呼びかけると、ガバリと起き上がり、
「え!?」
僕に向かって飛びついてきた。それはもう、鬼のような形相で。
「がああああああああああああああああああああ!!!!」
さっきのお父さんのような声を上げ叫んだ。
気がつくとそこはまた、布団の中。
「はぁ……はぁ……なるほど……。今のも、夢か……」
……今日の夢の中は、いろいろごちゃごちゃしていたな。
僕も疲れているんだろうか。最近、仕事で失敗が続いている。
お父さんはきっと、僕に注意するために夢の中に現れたんだろう。
そろそろお父さんに会いに行こう。
しっかりしなきゃ。
明日の夢を楽しみに、僕は今日も仕事へ向かう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました




