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戦え!課金勇者!

作者: 悠久
掲載日:2016/01/17

完璧な徹夜ノリ。

見たまえ!世界はこんなにも美しい!

目が痛い…

「あぁ、いいなぁ。この武器、欲しいなぁ……」

 スマホの画面を覗きながら、思わず口ずさむ。

 そこにはゲームアプリのような画面。そして映し出された武器。

 初めて見る武器に初めて実装されるスキル。

 見るもの全てが新しい。

 そして、目新しいものには惹かれ、強いものは欲しくなる。これはゲーマーの性だと思う。


 ――この世界には神が居る。

 剣と魔法、そしてモンスターと呼ばれる魔物の蔓延るこの世界。

 そして僕は、魔物とそれを率いる魔王を倒すべく女神様に召還された勇者……らしい。

 らしい、というのも僕を召還したという女神様に僕は直接会ってはいない。

 彼女の使いという存在に招かれ、この世界の説明とそしてこのスマホアプリのガチャのような――神器召還システムというらしい――の説明を受けただけだ。

 なんでも僕を召還した際に魔王側の干渉を受け、僕にチートのような武器も魔法も授けることができず、お金を魔法のカードに変換し、そのカードを召還石へと変換、そうしてようやっとガチャをひくことでランダムで武器が排出されるというまさしくガチャそのもののシステムだけが辛うじて利用できるということらしい。

 それで強力な武器を得て、魔王との戦いに備えろ、ということらしいけど……。

「最高レアリティの星5武器が3%ってのもなぁ……。まったくでないわけじゃないけど、実用性はいまいち……。ナイフに、モーニングスターって……もうちょっと勇者らしい剣とかさぁ……」

 ボヤきながら再びスマホを見る。


『邪剣エビルカリバー』スキル『|身体強化≪ブースト≫』『三十分の間、全ての身体能力を三倍にする』


 勇者の武器にしては禍々しく、地味かもしれない、だけど強力なのは確かだ。


「欲しいなぁ……でも、今月のお金はあと少しだし、課金は控えようと決めたばかりだし……」

 勇者だからとバンバン課金できるわけじゃない。勇者にだって生活はあるんだから。

 どうしようかと悩んでいる。そんな時。

「勇者、聞こえますか、勇者よ」

 ふと頭に天啓のような声が聞こえる。

 この声は……。


「ま、まさか貴方様は……女神様!?」

「良かった。無事聞こえたのですね。よいですか、勇者よ。ガチャを回すのです、さすればあなたの欲するものは与えられるでしょう」

 まさか、選ばれたものにしか聞こえないといわれる女神様の天啓が僕に聞こえるだなんて……。

 しかも、まず一番にガチャを回せだなんて、結構世俗的というか……。

 でも、女神様の天啓が告げるんだ。もしかしたら……。


 当たるかもしれない。

 そんな希望を胸に、僕は課金をする。

 一万。このアプリには百、千二百、三千五百など様々な金額が課金でき、ガチャをすることができる。

 なかでも一万は最高額、最多連続ガチャを二回してもお釣りが来るぐらいだ。

「これなら……!」

 僕は逸る気持ちを抑えながら、深呼吸をして画面をタップする。

 世の中には『物欲センサー』と呼ばれるものがある。

 それは、欲しがれば欲しがるほど、出なくなる、という一種の都市伝説のようなものだ。

 だけど、女神様の加護がある僕には……!


 スマホの画面が神々しく輝き、一瞬眩しさに目を瞑る。

 しかし、すぐに目を開け、画面を確認する。するとそこには……


「ゴミばっかじゃん……」

 心底落胆した。低レアリティだったり、あるいは高レアリティでありながらも、戦力になりえない、いわゆる雑魚ばかりが並べられていた。


「ま、まだだ!もう一回……」

 もう一度画面をタップし、同じように輝く画面をじっと目を凝らす。今度は目を瞑ることなく、見届ける。

 それでも、今度も同じようにゴミしかなかった。


「あ、あれ……?め、女神様?」

「どうかしましたか、勇者よ」

 僕の呼びかけに対し、先程と同じように、美しい女性の声が脳内に響き渡る。

「あの、出ないんですけど……」

「勇者よ、信心が足りないのです」

「え……」

「あなたの信心はその程度ですか」

 その程度。僕の課金した一万円。これが彼女に対する僕の信心……?

「まさかっ!僕の信心は一万円程度じゃあ……!」

「その調子です、勇者よ。欲するならば回せ。手にしたくば回せ。さすれば、汝の手に望むものが」

「わっかりましたぁ!」

 僕は女神様の言うとおり、更に課金する。

 一万円。

 今度こそ……!

 一回目、ゴミ、ゴミ、ゴミ。

 何体かは未所持だったものは取れたものの、欲しい武器が、エビルカリバー

が出ない。

 でも、まだもう一回チャンスはある。今度こそは……!


 眩い光と共に排出される武器たち。

 ゴミ、持ってる、雑魚、持ってる、持ってる、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ……。


「あああああっ!出ねぇ―!」

 スマホを放り出し、頭をガリガリと掻き毟る。

「んだよっ、これぇっ!未実装なんじゃないのっ!?持ってる奴いんのかよっ!」

 思わず、ヒステリック気味に声を荒げる。

 さすがに星5はまったくでないし、ダブりばかり、文句も言いたくなる。


「勇者、勇者よ」

「め、女神様!?」

「結果は……聞くまでもなかったようですね」

 女神様は落胆したような声で告げる。……これじゃあ僕が悪いみたいじゃないか……。

 僕は悪くない!悪いのは僕の運だ!あれ、じゃあ結果的に僕が悪いのか!?

「そ、その出ませんでした……」

「そのようですね。でしたら仕方ありません、もう一度回すのです」

「え、でもその、もうお金がなくて……」

「よく考えるのです、勇者。あなたは選ばれた勇者なのです、人々があなたに憧れ、期待しています。そんなあなたが志半ばで諦めてどうするのですか、魔王を倒すのでしょう?」

 女神様が穏やかに、諭すような口調で語りかけてくる。その声は優しく、美しい。

「僕は、選ばれた……」

「そうです。あなたは人々の憧れなのです。魔王を打ち倒す、皆の英雄なのです」

「英雄……」

「そんなあなたが諦めてどうするのですか」

「そ、そうだよ。僕は魔王を倒さなきゃ……!」

「その調子です、勇者よ」

「で、でも、女神様。そうは言っても僕にはもうお金が……」

「勇者よ、あなたのお向かいさんはご存知ですか」


 僕のお向かいさん……?

 確かお父さん、お母さんと小さな子供の三人暮らしだったはず。

 僕が召還されて、真っ先に出会った人達で、事情を話したらとてもよくしてくれた。得体の知れない僕を嫌がる村人達を説得してくれたのも彼らだ。

 そして熱心な女神様信者で、是非魔王を倒してくれと懇願されたのを覚えている。

 それもそのはず。彼等は済んでいた場所を魔王軍に焼かれ、全てを失くしてこの村に来たのだ。

 貧しいながらも、毎日明るく、笑って過ごしている一家。

 それが僕のお向かいさんだ。


「彼等は、熱心な女神信者です。彼らにお金を借りて、課金をするのです」

「で、でも彼等は貧しくて……」

「そこは私も心苦しく思います。ですが、この村に彼らほど熱心で、影響力のある女神信者はおりません。

 それとも勇者よ、あなたには彼ら以外にお金を貸してくれるあてはありますか?」

「そ、それは……」

「でしたら、非常に心苦しいでしょうが、魔王を倒す為。彼らにも苦心を強いてしまいますが……」

 女神様は悲しげに、苦しそうに言葉を紡ぐ。これ以上彼女に言わせまいと、僕は声を発する。

「わかりましたっ!頼んでみます!」

「わかってくれましたか、勇者」

 途端に、彼女の声が明るく弾む。やはり彼女には苦しげな声より、明るい声でいてほしい。

「はい!早速彼らに頼んでみます!」

「頼みましたよ、勇者。この世界の命運は貴方の双肩にかかっているのですから」

「はいっ!」

 女神様の激励を受けて、僕は走り出す――。課金をするために――!




 ――コンコン。

 控えめにノックをする。

 すると、すぐに「はい」と明るい男性の声が聞こえる。そしてすぐさま扉が開かれ、声の主である旦那さんが姿を見せた。

「あれ、勇者様じゃないですか、どうかしたんですか?」

 旦那さんは笑顔で言う。僕の発言で、彼の笑顔を曇らせてしまうかもしれない、そう思ったら口に出すのが憚られる。

「い、いえ、その、実は……」

「本当にどうしたんですか、いつも明るい勇者様が。あなたは女神様に選ばれた方なんですよ、もっと胸を張ってくださいよ」

「女神様に、選ばれた……」

「そうですよ。魔王を倒してくれるのでしょう?」

「僕が、魔王を……」

「魔王を倒すためなら、私たちは協力を惜しみません!それに、隣人のよしみってやつです!何かあったらどんと言ってください!」

 旦那さんは更に破顔し、筋肉の薄い胸板を拳でバンと叩く。

 力強くはないけれど、僕にはとても頼もしく見えて――。


「あ、あのっ!非常に申し訳ないのですが、お金を貸していただけませんでしょうかっ!」

「お金を、ですか?ははぁ、例の神器召還システムって奴ですね?わかりました!勇者様が強くなるために協力しましょう!ちょっとだけ待っててください!」

 旦那さんはそう言って、家の中へと引っ込んでいく。どうやらお金を取りにいってくれたようだ。

 すると、薄い木製の扉から声が漏れ聞こえてくる。


「あ、あなた?そのお金どうするの?」

「勇者様が貸してくれって頼んできたんだよ」

「えー?お金、勇者様がもってちゃうのー?」

「大丈夫、貸すだけさ。それに万が一帰ってこなくても、俺達のお金が勇者様に、ひいては魔王討伐に役立ったと思えば誇らしく有意義な使い方な気がしないか?」

「それはそうだけど……」

「ご飯食べれなくなっちゃうよー?」

「大丈夫、大丈夫だよ!」

「そう、よね……。魔王さえいなくなったら……」

「そうさ!だから、もうちょっとの辛抱だよ!」


 なんというか……心苦しくなってきた……。

 そうだよ、女神様や旦那さんが言ってたように、魔王を倒すためだと思えば……!


「勇者様!お待たせしました!これ、少ないですけど、持ってってください!」

 そういって旦那さんから差し出されたのは、剥き出しの使い古された一万円。

 ところどころが擦り切れ、何かで汚れている。決して綺麗とはいえないけれど、お金はお金だ。

「本当に、すみません……。必ず、近いうちに返しますので……」

「いえいえ!お気になさらず!返してもらわなくても結構ですので!これは日頃のお礼みたいなもんです!」

「そんな、僕のほうがお世話になってるのに……」

「とんでもない!それに、お礼だと言うなら魔王を倒してもらえたらそれで十分ですよ!応援してますから!」

 旦那さんはそう言って、またしても笑う。そして僕の手を握り、お金を強く握らせてくる。

 旦那さんの手は細く、振り払っただけで折れてしまいそうな骨だけの手。

 栄養が足りないのだろう。十分な食事も得られず、やせ細っている。


 それも、魔王の仕業――そう思ったら、一刻も早く魔王を倒さねばならない。そんな気持ちに駆られる。

 そのためには強い武器を得て、僕自身強くならなければ……!

「すみません!本当にありがとうございます!すぐに、すぐに強くなって魔王を倒しますから!だから、もうちょっとだけ待っててください!」

「はい!応援してますから!頑張ってください!」

「お願いします!」

「勇者様ー、がんばってー!」

 居ても立ってもいられなくなり、僕はお金を握り、駆け出す。

 いつの間にか、家から奥さんと子供も出てきて、僕を見送ってくれる。


 ――頑張ろう。彼らの期待に応えるために。強くなろう。魔王を倒せるぐらいに。

 そのために、まずは――。


「どうして、こうなった……?」

 旦那さんから受け取った一万円を魔法のカードに変えて、更に召還石に変換。そして連続ガチャ。そしてできるかぎりの単発ガチャ。

 にも関わらず、エビルカリバーはおろか、星5武器さえ見当たらない。

「お、おかしい……。エビルカリバーはともかく、星5ぐらい出てもいいんじゃないか?もう三万もつぎ込んでるのに……。め、女神様?」

 僕は藁にもすがる思いで女神様に問いかける。

「どうしましたか、勇者よ」

「その、まったく出ないんですけど……」

「まだ信心が足らぬようですね。もっと回すのです」

「いえ、ですから今度こそお金が……」

「何を言うのです、勇者よ。まだ他にも村人が居ます。きっと彼らがお金を貸してくれます」

「い、いや、そんなに借りたら返せなく……」

「でしたら、いただけばよいのです。これも魔王を倒すため」

「そんな……いくらなんでも……いや、そもそもそこまで言うんだったら女神様が武器をくれたらいいんじゃないです!?こんなまわりくどいことしなくても……」

「それは……」

「そもそも、女神様ずっと回せしか言わないじゃないですか!お金がなければ借りろだとか!そんなんじゃ破産しちゃいますよ!」

「……」

 僕はせきとめていた不満が一斉にこぼれだす。しかし、女神様は何も言わず、押し黙って聞いている。

「聞いてますか、女神様!女神様……?」

「あーあぁ。ここまでかぁ」

「え……?」

 不満を吐き出した僕の呼びかけに、女神様は声を返す。

 しかし、その声は今までの声とは違い、女性の声ながらも、厳かさが消えている。

「め、女神様……?」

 再び呼びかけると、僕の目の前に黒い霧のような、靄のようなものが突如現れ、形作り始める。

 出来上がったのは、漆黒の髪に、真紅の瞳。そして髪色と同じような黒のレディーススーツを纏った細身の女性。瞳は怜悧に輝き、ピンと張った背筋がいかにもできる女性を装っている。

 この姿は――!?


「はじめまして、勇者」

「な、なんでお前が……|魔王≪・・≫!?」

「いやぁ、滑稽でしたねぇ。あなたが私の口車に乗せられ、次々とお金をつぎ込んでいく姿は」

「な、なんだと……!?」

「もう気がついてるんでしょう?あなたに語りかけてたのは、女神などではなく、私だったのですよ、そう。最初からね」

「そんな、ば、馬鹿な、う、嘘だ……」

「あーあー、良いですか、勇者よ。あなたは選ばれたのです」

 魔王は発声練習し、口調を変える。その声はまさしく、先程まで聞こえてきた女神様の声で……。

「それで、勇者よ。いい武器は得られましたか?」

 ニコリ、と笑みを浮かべる。

「な、何を……」

「いやぁ、私としてもあなたには少し期待してましてね?もしかしたら本当に出しちゃうかも、なんて期待と不安でビクビクでしたよ」

「な、なんで敵のお前が僕の……」

「戦力増強を見過ごすのか、ですか?いやぁ、あなたにはよくしてもらってますからね。

 いつもご愛顧いただき、ありがとうございます。弊社の|神器召還システム≪・・・・・・・・≫を」

「は……?」

「いやぁ、最初は遊びのつもりだったんですけどね?思いの外、見ていて楽しいんですよ。あなたが懸命に働いたお金を次々と放り込んでいく様が」

「う、嘘だ……」

「しばらく前から会社を立ち上げていまして、新サービスのテスターとして貴方が選ばれたわけです。

 こういっちゃなんですけど、貴方は私の掌の上で踊ってたわけです。あ、ちなみに確立操作などはしてませんよ?企業は信用第一ですので」

「神器召還システムがお前らのシステム?そんなわけが……」

「まだ信用していないんですか?無駄なんですけどねぇ。えぇっと、そうだ、これこれ」

 魔王は自らの懐をゴソゴソと探り、何かを取り出す。それは三枚の札。

「ほら、これならどうです?」

 そう言って、三枚の札を広げる。

 一万円だ。一万円が三枚。その枚数は……さっきから僕が神器召還システムにつぎ込んだ金額と一緒。

 そして、一番奥の一万円は、擦り切れ、汚れている。

 その一万円は……さっき、僕が旦那さんから……!


「あ、ああ、ああああああああっ!」

 僕は咄嗟に右手に武器を召還する。エクスカリバー。僕の持ちえる最高レアリティで、最強の武器。

 そして僕は雄たけびと共に駆け出し、渾身の一撃を魔王へと振り下ろす。

「返せっ!返せよぉっ!そのお金は、そのお金は僕の――!」

「いけませんねぇ。欲しいものがでなかったから、お金を返せ、だなんて。今時子供でもそんなこと言いませんよ?とんだクレーマーさんですねぇ」

 僕の一撃と言葉を魔王は何食わぬ顔で受け止め、跳ね返す。

 彼女の右手に握られたのは黒い。僕のエクスカリバーそっくりの見た目で、ただ一点、色だけが違う。

 僕のエクスカリバーの白銀と相対するかのような、漆黒。

 見間違うはずがない。

 ――エビル、カリバァーッ!


「返せっ!返せよぉっ!」

 ひたすら叫び、がむしゃらに剣を振るう。上から、右から、左から。不規則な軌道を描く僕の剣を、魔王は何食わぬ顔で軽々しく受け止め、払う。呼吸を乱すことなく、汗もかかず。

「あー、だめだめ、だめですよう。エクスカリバー程度じゃあ私には勝てませんって。それに、お金にはお金だけの価値としてではなく、信用もあるんですよ?先程の村人達も、あなたを信用してお金を貸してくれたんです。あなたなら返してくれる、私を、魔王を倒してくれるって期待したんですよ。ですけど、あなたはどうですか?エビルカリバーも入手できず、私に傷一つ負わせられない。

 ねぇ、どんな気持ち?今どんな気持ちですかー?

 嬉しかったですか?選ばれた人間とか煽てられて。

 気持ちよかったですか?優越感に浸って。

 それとも、苦しかったですか?善良な市民を、騙すのは――!アハハハハハッ!」

 魔王は僕の剣を受け流しながら、目を閉じ笑う。片手でお腹を抱え、心底楽しそうに。

「だ、黙れえええええええええっ!」

 僕は再び、渾身の力を込めた一撃を放つ。

 銀閃にやや遅れ、ギィィィンと甲高い音が響く。


 ――折れた。僕の、聖剣、エクスカリバーが……。


「あーらら。折れちゃいましたねぇ。エクスカリバー。星5ですし、決して安くも弱くもないんですけどね?使い手も未熟ですし、エビルカリバーのほうが強いので仕方ないっちゃ仕方ないんですけどねぇ」

 魔王は手持ち無沙汰といわんばかりに、片手でエビルカリバーをもてあそぶ。


 ――勝てない、僕には。魔王にも、エビルカリバーに勝てる武器も、ありはしないのだから。


 自然と力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 僕にはもう戦う術もない、そう思ったらもう死ぬしかない。そう思った。


「エクスカリバーと共に心根もぽっきりイっちゃいました?つまんないですよう。もっと星5武器とかないんです?」

「もう、ない……。僕には、何も……」

「嘘言っちゃダメですよう。ほら、まだあるじゃないですか。最後の一回、ラスト単発分の召還石が」

「え……?」

 魔王はゆっくりとした足取りで僕に近づき、僕のスマホを拾い上げる。

 そこには確かに、石が5個。ガチャ一回分が残されていた。

「で、でも……」

「さすがに私だって星5が出るとは思いませんけどねぇ。最後ぐらい足掻いてはどうですかぁ?」

「足掻いたってどうせ……」

「無駄、ですかぁ。まぁ、そうですけどねぇ。じゃあ、私が引いちゃってもいいですぅ?」

「そ、それはっ・・・だ、だめ……」

「あはははっ。ですよねー。じゃあほらっ、足掻いてくださいよっ」

 笑いながら、魔王は僕のスマホを放り投げる。

 画面は召還場面になっており、画面をタップするだけ。この画面には戻るはない。ひくしかない。

「んっ……」

 出るわけなんて、ない。そうは思っていても、どこかで期待している自分がいる。

 スマホを持つ手が揺れる。画面を推す指が震える。あるいは、僕の全身が揺れているのか。それすらもわからず、ただ震えていた。

 指を画面に押し当て、下に引く。すると、画面上のレバーがひかれ、「ガチャンッ」と音を立てる。


 画面は眩く光り、不意の眩しさに一瞬目を瞑る。

「お」

 横で画面を見つめる魔王から、驚嘆の声があがる。

 僕は瞼を開き、瞠目する。


 画面には赤いNEW!の文字。

 レアリティを示す星のエフェクト……星は5つ。

『邪剣エビルカリバー』GET!の文字。


「え……?」

「あはははははっ!最後の最後、土壇場で3%を引いちゃうとかほんと何なんですかねぇ!勇者補正って奴ですかねぇ?」

 魔王は僕の横で、再び腹を抱え、笑っている。楽しそうに。

 そして、シュンッと音がし、彼女の手からエビルカリバーが消えうせ、僕の手にエビルカリバーが。

「あらら、所有権が移っちゃいましたかぁ。残念、今の私は無手になっちゃいましたが……」

 そういって両手を挙げる彼女。降参の意図なのか、ヒラヒラと。

 ――彼女はすでに僕のエビルカリバーの範囲内。今ならっ!


 エビルカリバーを横薙ぎに払い、彼女の胴を分かつ。

 彼女の胴体は血飛沫をあげることもなく、ドロドロと、ヘドロのように溶け崩れていく。


 ――殺った、のか……?


「酷いなぁ。勇者は。そうそう、勇者。知ってますかぁ。嘘はスパイスなんだそうですよぉ。

 真実の中にひとつまみの嘘。それがより引き立てるそうですよ。なら、逆も然りだと思いませんかぁ?

 嘘の中にひとつまみの真実。さぁ、どれが真実なんでしょうかねぇ?

 もっと、私を稼がせてくださいね、勇者ぁ」


 彼女はヘドロのように崩れ落ちたあと、現れたときと同じように黒い靄のようなものへと変化し、霧散していった。謎の言葉と共に。

 その言葉の意味が僕にはよくわからないけれど。

 とりあえず、魔王の脅威は去ったのかと安堵する。

 ふぅ、と深呼吸。するとピコンとスマホが鳴る。

 ――確か、この音は神器召還システムの告知音……?


 エビルカリバーを握り締め、スマホを持ち上げる。

 そこには、新たな告知。


『新規レアリティ追加実装!その名も六つ星!さらに一部武器には星追加も!』


「ま……まおおおおおおおおおおおおおおおおうっ!」


「あははははっ!楽しいゲームはこれからですよう。

 もっともぉーっと、私を楽しませてくださいね、勇者ぁ。あはっ、あははっ!」

友人と「武器をガチャろうぜ」みたいな話から課金勇者が。

それと昨今のグラ○ルからこのような話に。

結局、プレイヤーの敵は運営だと思うんだ……。

私にリ○ンもスカ○ハ師匠もくれなかった両ゲームが憎い。

え?グラ○る?グラ○ってませんよ。

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