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Mの新時代  作者: 荒地キョウ
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雨宮遥(34歳・主婦)の場合

 あの特別な日。Mによって世界中すべての人へ向けてのライブ中継が行われた日。あの日以来世界が大きく変化しているのはいうまでもない。


 そして、それはもちろん東京都で主婦を営む私の世界観にももちろん大きな影響を与えている。


 私はどちらかといえば、スピリチュアルって信じないほうだった。


 別に科学的に証明されていないものは一切信じないとか、そうことじゃない。


 だけど自分自身の弱さとか、思い通りにいかないこととか、そういうことをなんとかしたいという気持ちを自分より大きなものに預けてしまうところがスピリチュアルなものにはあるように感じていた。


 簡単に信じ込むって危なっかしいことだよね。自分で考えることを放棄しちゃいけない。もちろん今でもその考えは変わっていない。


 息子のハルトが小学生だけど、ハルトがちゃんと大人になるまでしっかりしていることが私の第一の義務だ。そのためにも不確かなものに自分を依存させて思考を停止させてはいけないと思っている。


 それは夫の正晴ともよく話しあったうえでの夫婦共通の認識だ。もっとも最近は正晴の仕事がほんとに忙しくて、本当に疲れている日が多いから、こんなこと を話し合うことも少なくなっていたけど。なんでも正社員は派遣の人よりも多く給料をもらってる分より多く働かなくてはいけないそうだ。「じゃあいっそ派遣に!」とは言いたくても言えない。だってそうしたら私だって働かなきゃやっていけなくなる。それが不本意なことなのも夫婦共通の認識なのだ。 


 話を戻そう。私たちは常識ではないものや、不確かなものに自分を簡単に預けるわけにはいかない。だけど不確かなものに依存してはいけなくても、「じゃあ確かなものって何?」と聞かれたとして、私は即答できるものを持っていない。


 3.11のとき、それは私の世界観が大きく揺らいだときでもあった。しばらく私たちは原発のニュースに右往左往だった。私は名古屋にある実家 にせめてハルトだけでも避難をさせたかった。正晴は賛成してくれたけど、東京に実家がある正晴のご両親は反対だった。3.11は、それまでケンカなんてし たことなんてなかった私と信二のご両親の間にはじめて緊張を生んだ。


 今はまた仲がよいし、あのときテレビでも新聞でも誰が本当のことを言っているのかよくわからなかった状況でご両親が一つの考え方をもったのは仕方ないと 思っている。だけど、それまで鼻血なんて出したことがなかったハルトがはじめて鼻血を出したのは事故があってすぐのことだったし、私は本当に不安だったの だ。


 そして今でもハルトが健康な大人になるために必要な健全な食べ物と環境をはたして提供できているのか……。はっきり言えば自信がない。


 問題は食べ物だけじゃない。最近自閉症の子やアスペルガーを持っている子の話を聞くことが多い。もちろん私は医者でもないから原因はわからないけど、実 はあまり悠長にしていられない状況なのではないだろうか。問題が山積している状況で私たちはとうとう自然な感覚を麻痺してしまいるのではないかと考えると 不安が募った。ちょっと話を戻すけど、3.11のときからしばらくハルトにマスクをつけて登校させたのだけど、それを学校側が問題行動としてみていたのは 今でもおかしいと思っている。


 簡単に言ってしまえば、ハルトを取り囲む環境・社会はあまりにも不安が多く、確信をもって先を見通せる世界ではなかったのだ。


 そしてそのような不安定な世界におかれて、私は自分の生まれた理由なんてスピリチュアルなことを考えている余裕はなかった。


 だけどMの放送を見て以来、私は少しずつ自分の見方が変わりつつあるのを感じている。もちろんいまだに自分が生まれてきた目的をはっきりと悟ったなんて いうことはない。だけど「なぜ生まれてきたのか」という問いは、その答え次第で私だけでなくハルトの生きる世界、いやすべての人の生きる世界にも大きく変 化を与える問いだと思う。


 きっと私たちは魂であり、何千回も何万回も、この世界に転生してきているのだ。そして誰も飢えることなく、誰も争うことなく生きていくことが可能なこの地球で、一つの家族として、食べ物と資源を分かちあって生きることを急速に学んでいるのだ。


 私はそれが事実であると信じつつあるが、証明することはできない。しかしMはそう告げたし、あの日とてつもない愛の感覚に包まれながら世界中すべての人がそれを聞いたのだ!


 私たちがその世界を選択するならば、分かち合い共に生きる道を選択したならば、ハルトやすべての子供たちが生きる未来がとても希望に満ちたものになる。そして私はそんな世界作りに一人の大人として参加したいと思っている。それは私にとって、確かなこと、なのだ。


 


 



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