最弱勇者と再開
「というか一番聞きたかったことなのだが、我々はどうしてこんなところに閉じ込められているのだ?シュバルツもないようだし……」
「それはきっとギラの鎖で墜とされたんですね。外に見えていた魔法陣もそれに似ていましたし」
「ギラの鎖?」
「はい。活動停止中の魔神ギラに備わっている自動で索敵範囲に侵入してきた物体を拘束し引き寄せる機能です」
「へーえ」
「じゃあなんで牢屋に?」
「きっとバルトロ教団に連れ去られたんです。実質シャンバラを支配している教団で、ギラの復活を悲願とする諸悪の根源です」
「しょあくのこんげんって何」
「それはですね」
「そうか……確かにシュバルツは怪しかろうな、しかして、どうしたものか……」
「ってことはエレンは諸悪の根源?」
「なんでですか!?」
「だって私達をここに連れてきたんでしょ?私達にとってはそういうこと」
「すいませんでした」
「うるさいぞ……」
首を捻らせて悩むリード少佐。
このまま牢屋に入れられていては何をされるかわかったものではない。
なんやかんやで普通に受け答えしているマナーとエレン。なんだか除け者感がして辛い……
「うー辛いよマナーつらいつらい」
「大丈夫?カグラ」
「そろそろそいつの膝から立ちましょうよご主人様……」
ふふふ。マナーからの愛は態度で表現されるのさ。
なんて考えていると、鉄格子を挟んで話し合っていた俺達を遮るように黒いローブを着た人間が現れた。
看守だ。
「おい、貴様ら、出てくるんだ」
「何だ貴様は」
ガチャンと音を立てて乱暴に牢屋の扉を開ける看守。
何事だと思っていたら、看守に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音がして、つけられていた手錠が突然軽くなった。
あれ、手錠はずれたのか?
「今だ!!!」
「えっ」
この事態に気づいていたかのように叫ぶエレン。
すると弾かれたようにリード少佐か駆け出した。
「オラァッ!!」
「ウゴッ」
「今だ!!早く行け!!」
「出るぞマナー!」
「わかった」
倒れた看守をたたらを踏むように踏みつけて、トドメに麻痺毒をかけて行く。
そして俺はエレンの牢屋の前に立ち、全力で鍵穴のある場所を蹴りつけた!
「痛っ、あ"ぁぁぁぁあ!!!」
「カグラ……」
獣のような声を上げて足に回復薬を投げつける俺。(流石の反射反応である)
そんな俺を押しのけて、マナーが鍵穴を蹴りつけた。
強烈な速度で蹴り出されるおみ足。
いやいやマナー、流石にお前でも鉄格子は厳しい……
バコンッ!!!
「……」
「ほら、早く出てきて。行くよ」
「さすがです!ご主人様!!」
俺は無言でマナーの後ろを走り、解析レンズを起動した。
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名前:マナー
Level:51 (↑37)
HP:1050
MP:337
攻撃力:150
筋力:59
防御力:71
魔力:108
魔防:94
素早さ:296
技:254
幸運:57
武器:ソードブレイカー
説明:10%の確率で敵の攻撃力を減少させる。
防具:出雲の浴衣・改
説明:袴を短くし、足を動かし易くした改良型浴衣。製品化はされていない。
素早さ+10
アクセサリー:なし
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「ヒイッ」
この時点でシェイミーさんのほぼすべてのステータスを上回っている。
シェイミーさんもレベルは上がっているだろうが、やはり、天才……
まぁ、ステータスの上がり方はアカウントごとに違うし、早熟するタイプもあれば大器晩成もある。
最強の人間の娘はきっと、とても強くなるに違いない。
「カグラ大丈夫?」
「あ、ハイ……」
と、とにかく、今は逃げることだ。
気を取り直して駆け出す。
「ラウラッ!横からくるぞ!」
「フッ!!」
横から出てきたローブ男に足払いをし、倒れた体に体重を乗せた正拳突き。
いやめちゃ強いやんけラウラさん。
なんか心の底でラウラさんはあんまり戦えないだろうと思ってたのが本当に恥ずかしい。
「ここは俺も頑張らないと!」
懐から煙爆弾を取り出して前から迫ってくるローブ達に投げつける。
煙爆弾。効果は敵にみつかりにくくなるというもの。至ってシンプルで安価なアイテムだ。
着弾地点から物凄い勢いで煙が吹き出て、混乱するみんなの後ろから俺は叫ぶ。
「今です!逃げまギャー!!」
「この煙はお前のものか!助かった!!」
「ありがとうございます!!」
何者かから首根っこを掴まれて身体が浮いた。
ローブローブ言っているが最弱勇者の服もローブなのでフードがついている。それを強烈な力で引っ張られて視界が反転した。
「……カグラ?」
「どうしたんですかご主人様?」
「エレン、ついてきて。行くよ」
「は、はいっ!」
次こそは、見失わない。
煙に阻まれて見えない視界で、俺は最後までマナーの瞳を見続けた。
◇
「誰だっ、おい離せよチクショウ!!」
「……」
「死ぬ死ぬ死ぬ!!!お願いします!離してください!!嫌だまだ死にたくない!!」
「……」
「オォイ!!!」
「煩いやつだな……別に取って食おうってわけではない」
「舐めんじゃねぇぞコラ!俺はなぁ……弱ぇんだぜ……?」
「何ドヤ顔で口走っとるんだ貴様は」
ずるずると石床の上を引き摺られて何処かに投げられる俺。
急いで立ち上がり周りを見ると、頭上はるか遠くにドームのような岩石の天井が見えた。
「えっ……ここは、外か?」
「どうだ?怪我とかしてるか?」
「別に、ふつーに25くらい減ってるけど」
「なんの話だそれは」
「てかアンタ誰だよ」
回復薬を飲みながら目の前にいる人物を見る。
褐色の肌に艷やかな黒髪。それを二つに分けてツインテールにしている。
そしてこれまた真っ黒なゴスロリ。所々に点在する赤い装飾が黒に映えて美しい。
「うわ、美少女だ……」
「いきなりゾッとするようなことを言うな」
「何でゾッとするんですか」
「良いから聞け」
褐色の美少女は少し身を屈め、そして勢いよく身を広げた。
背中に展開する巨大な黒翼。
羽根のない、蝙蝠のような翼に、俺は見覚えがあった。
「久しぶりだな、人間よ。我が名はバーシバル。祖龍の血を引くモノだ」
「……えっ、ええええ!?人間状態なんて見たことない……」
「見せたことないぞ」
その正体は黒竜バーシバル。
アルティカーナでの戦いで散々苦汁を飲まされた、祖龍種の怪物だった。
「姿が気に入らないか?望むならどんな姿にもなれるが、貴様の意見を聞いてやろうか」
「いや、それで十分ですけど……なんで突然人間になんか変身したんですか?」
「お前、こんな狭いところで本当の姿を晒してみろ。建物が倒壊するぞ」
「あ、そっか、なるほど」
俺は納得して手を叩く。
確かにこんな狭いところであの巨大なドラゴン状態を出してしまっては周りへの影響は計り知れないだろう。
少なくとも城は壊れるに違いない。
そんで俺も壊れるに違いない笑。
「何も面白くないわ!!」
「黙れ」
「はい……」
「それで、貴様……カグラといったか。どうしてこんなところにいるのだ。ここは魔物の最後の楽園ぞ。人間の立ち寄って良い場所ではない」
「いやいや、それはこっちの台詞ですよ。俺、というか俺達は諸事情でここにいるけど、アンタは魔界の住人でしょ。しかも魔物の最後の楽園って……ここは風の民の楽園じゃないんですか?」
「ふむ、確かに説明が足りんかったかもしれんな。じゃあ我がここにいる経緯から話すか」
さっと翼を閉じて座り込んだ俺を見下ろすバーシバル。
翼が消えている……どうなってんだ。というかなんで出したんだ。
「まず、確かにここは風の民の町だ。それは間違いではない。しかし今は移住してきた者がいてな。それが我等なのだ」
「我等とは?」
「あの時の魔物集団のことだ。我はあの後も彼等の召喚獣として働いている」
「なるほど……でもなんでわざわざこんな辺境に移住するんですか?確かにシャンバラってのは風の民を名乗ってる奴を見た感じじゃ魔物の暮らす町みたいですけど、そんなの他にも色々あるじゃないですか。ほら、魔王国トロンとか」
「……なんだと?お前、知らんのか?」
「……え、なにがですか?」
心底驚いたような表情で俺を見るバーシバル。
そしてやはりか、と一言呟いて、俺に言った。
「トロンは、何年も前に滅んでいる」




