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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
大砂漠ギラ
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最弱勇者と牢屋

 目を覚ますとそこは暗い岩石でできた牢屋の中だった。


「なぜこうなったのだ……」


「十中八九少佐のせいです」


「……そんなバカな…」


 横でリード少佐とラウラさんが話している声が聞こえる。

 少し体がダルいのでゆっくりと上体を上げると、俺の太ももを枕にしてマナーが寝ていた。


 うむ。可愛い。


「ッッッ、ラ、ラッキーエンジェルと天使の輪が無くなっている……!!」 


 んで当然のごとく残りHPは1。

 2つとも削れてた……恐怖。


 メニューでラッキーエンジェルを付け替えて、天使の輪は着けずに解析レンズを着けることにした。


 まずは状況の確認が最優先。

 冷静沈着なのが良い男の基本である。

 俺も成長したものである。


「うーん、どう見ても鉄格子。ていうか何が起こったのやら……」


 寝転びながらメニューを眺めていると、戦闘ログに魔法の記録が残っていた。

 この戦闘ログというもの。神ゲーとして名高い『自由な世界』において唯一と言って良い低評価要因である。だが、精度が低いという意味ではなく……例えばちゃんと履歴が残っていないとか使っていない魔法があるとか、そういう意味ではなく、逆に精度が良すぎて情報が多すぎるのだ。

 自分のどれだけの範囲をログに残しているのか分からず、パーティー外の戦闘のログまで残ってしまう。


 それに唯でさえスキルが多い『自由な世界』での事。


 そのログの更新速度は何処ぞの動画投稿サイトのコメント欄のごとく増えて行き、五秒前に使った魔法を調べるのに5スクロールは当たり前。

 使いづらいことこの上ない。


 しかし、今回は役に立ちそうだ。


「拘束魔法?これは……ギラの鎖…」


 ギラの鎖?なんでここでそんな魔法が……いや、でも確かに、それぐらいの魔法じゃなきゃシュバルツを止めるなんて不可能だ。


 しかしこの魔法は、確かにその名の通りギラにしか使えるキャラクターはいないが……


「あ、バーリット。お前は向かいの牢屋なんだな。教えてくれ、ここはどこなんだ?んで俺たちはどうなった」


「……」


「おい、聞いてるのか?」


「誰に対して口きいてんだあ゛ぁー!?」


「えぇ……」


 向かいの牢獄にいたバーリット(人間状態)に声をかけると、物凄い形相でガンを飛ばされた。


 あれ、どうしてこんな、ほぼ初対面くらいの少女にこんな態度を取られているんだろう……ぐすん。


 バーリットの人間状態は少し低めの身長の、無論六本足でなく二本足で、紫色の髪の毛を肩くらいまで無造作に伸ばした美少女だった。

 風の民と言う名前の通り遊牧民族のような衣装をまとい、露出の少ないボーイッシュな見た目をしている。

 しかしクリクリとした大きな瞳、美しい紫色の髪、厚い服の上からでも分かる華奢な体躯が彼女を少女たらしめていた。


 そんな美少女からの突然の罵倒。

 ここまでの扱いは『あまり』されたことがない。


 カグラ泣きそう。泣いた。


「うじうじしてないでご主人様離せよ。可哀想だろ、お前の膝の上」


「マナーが勝手に来たんですぅ」


「あー?んなわけねーだろキモオタ」


「き、キモオタ……!?絶対言いすぎだろ!!」


 く、この女言わせておけばぬけぬけと……!

 てかキモオタってなんだよ!

 キモオタなんて言葉、バーリットが知ってるわけが……


「……キモオタってなんだよ」


「知らなくて当然か。風の民の伝承にな、カグラって奴が登場するんだよ。そいつの伝承内での蔑称が『キモオタ』。お前にピッタリだろ?」


「……は?」


 良い笑顔でそう言い放つバーリット。

 いや、なんだよその伝承。そんな、まるで俺を指して作られたような、てかそんなん間違いなく俺……


「ッ!?」


 ……あ、あぁ!そうだった!ちょっと『自由な世界』でコミュニケーションミスってヘイト合戦になったときに、相手のギルドの策略で一時期俺の名前がキモオタになったんだ!


 ま、まさかこんなところにまで影響を及ぼしていたとは、末恐ろしいことだ……


「くそっ、マスワ共め」


「……マスワ?なんでお前がそんなん知ってんだよ」


「あぁマスワってのはむかし俺が喧嘩してたギルドの名前で……」


「……じゃあちげーか」


「えっ?」


「なんでもない。興味失せた黙ってて良いよ」


「!?!?!?」


 一方的な会話の中断。

 く、抑えろ、見た目は十代、中身も十代なのかもしれない。子供相手に大の大人が声を荒げるなど言語道断。これ以上はみっともない。


 俺は深くため息をついてマナーを撫でる。 

 最初はくすんでいた金髪も今はその本来の輝きを取り戻し、髪質もサラサラと流れる水のよう。

 長いまつげに仄かに紅い頬。


 マナーは癒やし。唯一の癒やし。


 大きくなれよ…


「さわんなよ〜」


「お前なぁ……」


 鉄格子越しにガンを飛ばす。


「なんでお前そんな俺のこと敵視してるんだよ。俺なんかしましたかー?」


「してるよご主人様に触ってるだろってオイコラ!言ったそばから触ってんじゃねぇ!」


「へへー残念でした。お前の大切なご主人様は俺のこと大好きなんですぅ。それに比べてお前は?さっきいろいろ言われてたよなぁ」


「グギギ……」


 バーリットに見せつけるようなマナーの頭を撫でる。

 悔しがるバーリットを見て優越感に浸る俺。

 そんなこんなしていると、流石にうるさかったのかマナーが起きてしまった。


「ん……カグラ、起きたの?身体大丈夫?」


「おっ、マナー起きちゃったか。大丈夫大丈夫。いつもどおり、体力1残して生き残ってたよ」


「大丈夫じゃないよ……」


 目をゴシゴシとこすって俺の膝から頭を上げるマナー。

 すると会話を遮るようにバーリットが声を上げた。


「あっ、ご主人様ご無事でしたか!?良かった、エレン感激です!」


 突然態度が豹変するバーリット。

 俺はジト目。


「エレン……それがあなたの名前?」


「はい!エレン・ホロトス、貴方に使える者の名です!!」


「えー……そんなのまだ良いって言ってないのに」


「お願いします!もうご主人様しかいないんですよ〜!!」


「……ふぅ、なら、説明して」


「えっ」


 マナーが立ち上がってバーリット……いや、エレンを見つめる。

 その真剣な様子にゴクリと喉を鳴らすエレン。いつの間にか後ろの二人も黙ってこちらを見ていた。


「ここはどこ、貴方は何者、私しかいないってどういうこと。全部、説明して」


 俺達の言いたいことを、マナーは全部言ってくれた。




 ◇




「まず、そうですね、どこから話したら良いか……」


 エレンは顎に手を当てて、ふむと少し考え込む。

 そしてある程度熟考した後、こう切り出した。


「では、最初の質問から答えさせていただきます。ここはコントロールの牢獄。かつてシャンバラを治めた王の城の地下にある牢獄です」


「コントロールの牢獄……どこかで聞いたような……」 


「そして私は王の末裔。王は子を残さなかったと言われていますので実際には血はつながっていませんが、我がホロトス家は王より秘術を受け継いでおり、正式な後継として王に認められています……そして、ご主人様」


「……」


「我らホロトス家には秘術の他にもとより続く血統としての能力が備わっています。それは神秘の視認。我らはその能力をもってこの風の谷を理解し、そこに暮らす民を導いてきたのです」


 その説明を聞いて合点が行く。

 なるほど。風の谷に住んでいるから『風の民』か。それなら俺が知らなかったのも納得がいく。

 風の谷は広すぎて俺はあまり探索に乗り気じゃなかったんだ。そもそもあそこはマスワが率先して開拓を勧めていた地域だ。あまり近寄りたくなかったのは当然の事。


 んでホロトス家ってのはまんまバーリットの一族なんだろうな。個体数も少なかったし、そういう種族なんだろう。仲間になりづらいのも王とか言うやつのせいで、そりゃもとから使えているやつがいると仲間にならんだろうし。


「我らは神秘を見る力を持っています。神秘とはつまり世界の力、ご主人様からはその力を感じます。それもとても強い……人から見えるのはとても稀なことです。間違いなく、伝承に伝えられる『炎の壁』に選ばれた方と思いました」


「炎の壁だと……?なんだそれは」


「世界を守る守護者達の事です。その伝承は世界各地に伝えら得られており、風の民にもその伝説が残っています」


 炎の壁か……


 炎の壁。『自由な世界』中に残る石碑やらなんやらに度々登場する選ばれし者たちの神話だ。

 解析班が調べては定期的に掲示板に訳されたものが載っていたが、よくある伝説って感じであまり気に止めていなかった。そもそもそういう伝説とか神話って沢山あるし、一つ一つ考察してはきりがない。

 してる奴もいたけど。


「俺は俺は?俺からは神秘感じる?」


「貴方からは生にしがみつく穢れた気を感じます」


「なんでやねん!!!」


 俺氏、選ばれし者的転生者説浮上。

 後沈没。


「カグラ、うるさい」


「すいません……」


「それで、私にどうしてほしいの?」


「……理解が早くて助かります。そう、ご主人様にはあるものを破壊して頂きたいのです」


「あるもの?」


「はい。そのあるものとは……」


 一つ息をついて、まっすぐとマナーを見るエレン。

 赤い瞳が煌めいた。


「魔神ギラ、旧時代の遺物です」




 ◇




「うわっ!シュバルツが落ちたよ!?大丈夫なのか!?」


「そんなの私に聞かれても知らないわよ。強力なバリアが張っているし、大丈夫なんじゃないの」


 リッカの目の前でシュバルツは墜落。朱色の謎の手のような物に引っ張られ、シュバルツは衝突した。

 そこは城のようだった。

 石が積み上がってできた堅固な城郭に、シュバルツは頭をぶつけそのまま落ちた。

 それまでの力強さが嘘のように、光を失ったシュバルツは勝手にハッチを開き、中から気絶したカグラ達が現れた。


「お、おい、連れ去られるよ?大丈夫なのこれ」


「さぁ、死にはしないんじゃない?」


「そんなんじゃ困るよぉ!」


 城から謎のローブを被った集団がシュバルツからカグラ達を引き抜き引きずって行く。

 そして牢屋の中に乱暴に入れられる一行。

 だが紫色の髪の少女だけは丁寧に抱えられ、別の牢屋の中に入れられた。


「この子……誰?こんな子さっきまでいたっけ」


「この子が今回の鍵ね。さて、どうなることやら」


 ぬいぐるみだらけの部屋で、表情をコロコロ変えるリッカ。

 そんなリッカの様子を見て、さっさと追い出しておけば良かったと溜め息をついた。

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