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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
大砂漠ギラ
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最弱勇者とバーリット

「くっそぉ……どうなってるんだ、クソ、分かってるけど」


 大砂漠ギラの凄いところは、ひとえにその広大さにある。

 出てくる魔物は実はそれほど強くなく、バラバラも現実世界の俺のアバターなら1ターンで倒せただろう。

 だが、それはギラの地上での話だ。

『自由な世界』は地上は勿論、地下にまでマップが存在する。

 迷宮があったり異空間があったりといろいろ探せばあるのだが、それらがギラの地下には『全て』ある。

 正確には現在確認されている地下要素の全てなのだが、つまりギラの地下にはこの世界の半分が詰まっているということになるのだ。


 するとどうなるか。


「どこだここは……」


 そう、迷うのだ。

 マップ上に表示されるリード少佐とラウラさんの表示に向かってかれこれ一時間は歩いている気がするが、一度は表示に触れたものの、目の前に二人はいなく、つまり二人の上か下にいることになるのだが、ここからが長かった。

 取り敢えず前に進んで出来るだけ下に行ってみれば変な迷宮に入るし、上を目指してみれば突然地面が抜け宇宙船のような物の中に入ってしまうなど、とにかく二人にたどり着けない。

 しかもここで現れる魔物は少し動くだけで強さが大幅に変動し、スライムのような雑魚的が現れることもあれば、ムシュフシュのような強力なモンスターが現れることもあり、と、常に命の危険にさらされながら歩いていたのだ。

 まぁ俺の場合どこにいても命の危険にさらされているのだが。


「はぁ……ギラで遭難とか終わりだな。出れる気がしねぇよもう」


 はい終わったー。とうとう終わったー。

 成る程、こういうロストの仕方もあるのか、学んだ。所謂詰み状態だ。


 と言うことで。


「こんなところで一生さ迷うくらいなら、もう、死……」

「カグラー!!」

「マ、マナー!?」


 潔く死を選ぼうとナイフを取り出した所で、俺のいる遺跡の天井が抜け、ボロボロのマナーが落ちてきた。

 お前、どうしてここに……


「あ、ちょ、ナイフが」


 マナーは綺麗に俺を下敷きにして地面に降り立つ。

 右手に持っていたナイフは奇跡的に俺に首に当たる寸前で手から離れ、倒れた俺の首のすぐ隣に突き立った。


「カグラ、大丈夫!?」

「う、うん。大丈夫、大丈夫……」


 マナーの攻撃によって俺の体力は見事に1になっている。

 この状態でナイフにでも当たったりしたらどうなっていたことか。


「危うく失禁するところだった……」

「ごめんね、カグラ……もう、もっとゆっくりって言ったのに!」


 ん、マナー?

 誰に話しかけて……


「ば、バーリット?」


 バーリットと言えば、高いHP、高いステータス、群れを持たないレアモンスター。

 そして……


「お前、てなづけたのか、バーリットを……」


 そう、ペットモンスターの代表なのだ。

 ペットモンスターとは、プレイヤーに追従し、パーティーの一員になる特殊モンスターのことであり、バーリットはその中でも特に人気のあった優秀なモンスターである。

 俺も昔は異様に時間をかけて仲間にしようと奮闘したものだが……バーリットをてなづけるのはとても難しいことなのだ。そもそもモンスターが仲間になる条件がはっきりせず、曰く、生肉をあげるとか、薬草をあげるとか、瀕死の状態で勝つとか、1000体倒すとか……

 そのどれもはっきりとした情報はなく、意外なことで仲間になったりと予想ができない。

 その中でもバーリットは特に難易度が高く、戦っていたら偶然、といった具合で、明確な攻略法も確立しておらず、俺もついに仲間にすることは叶わなかった。


 それをお前は……


「ついてくるなって言ってるのに、聞いてくれなくて……」

「流石だマナー!」

「ええっ?」


 バーリットを仲間にしたという感動からマナーに抱きつこうとするが、その一瞬でバーリットが俺の目の前に現れて牙を突きだした。


 っぶねー……




 ◇




「……あっ、ラウラさーん!戻りましたよ!」


 やっと二人の姿を見つけ、ホッと胸を撫で下ろす。

 ここまでこれたのもバーリットのお陰だ。

 バーリットがペットモンスターとして人気の理由は、ギラの地形を知り尽くしているということだ。ギラ地下にしか生息しないバーリットは、そのAIの中にギラのマップを持っている。

 バーリットを仲間にした者はギラで迷うことがなくなくなるのだ。


「やっと戻ってきましたか、もう来ないんじゃないかと思いましたよ……」

「あはは、すいません。様子はどうですか?」

「問題なさそうです。呑気に寝てますよ、まだ」


 ふんわり笑って、ラウラさんはリードを撫でる。

 美人だなぁ、なんて思わずにはいられなかった。


「あ、そうだった。電気石、持ってきましたよ」

「あぁ、助かります。これでシュバルツを動かせますよ!」


 ラウラさんは電気石を受け取って、シュバルツの装甲を開く。そこにはおびただしい量のコードやら機械やらがつまっており、その構造の複雑さが伺える。

 そこに嵌めるでもなく入れるでもなくただ電気石を打ち付けるラウラさん。

 五度目の打撃の音と共に、シュバルツは光を放って動き出した。


「やった!動いた!」


 安心したのか、リードの横に崩れ落ちるラウラさん。

 相当疲れていたのだろう、そのまま寝てしまった。


 俺はラウラさんを横にして二人に毛布を掛ける。 

 ふう、と一息ついてマナーと向かい合った。


「そんで、どうしてここにマナーが?」

「それはこっちのセリフ。なんでカグラはここにいるの」

「うーん……こっちが聞きたいというか、なんというか……」


 取り敢えずお互いの情報を出しあって、今日は寝ることにした。

 薄暗い洞窟は少し肌寒かったが、マナーといれば暖かかった。


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