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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
大砂漠ギラ
45/54

最弱勇者と二人の手負い

「うえっ!」


 ゴヅン!

 尋常ではない程の衝突音が鳴る。砂漠の地下に突如として現れた金髪の少女は、早速その頭を岩にぶち当てた。


嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああ…」


 声にならない悲鳴を上げ、地面に倒れこむ少女。歯を食いしばってなんとか立とうとするが、その度に倒れこんでしまった。

 目に微量の涙が滲む。だが、その瞳の奥に宿る炎は確かに燃え続けていた。


 カグラ!今行くよ__




 ◇




 __当の本人は。


「有難うございます!本当に!有難うございます!!」


「あ、あいえ、全然、滅相もございません」


 俺でも何を言っているんだと思うよ。

 目の前で頭を下げている女性。名前はラウラと言うらしい。肩にかかる程度の短い黒髪を持っていて、端正な顔立ちをしている。

 何故こんなことになっているのかと言うと。

 少し前、俺がシュバルツを見つけた時の話だが、その時中にいた傷だらけの男性を俺は助けたのだ。

 とは言っても薬を飲ませただけだったのだが、それがかなり効果的で、すぐに身体の傷は修復され、今やなんの問題もなく、穏やかな寝息を立てている程だ。

 とても肋骨が肺に刺さっていた人間とは思えない様子。

 それを見た男性の従者と思わしき女性が俺に頭を下げてきたのだった。


「いえ!そうはいきません!本当に感謝致します!リード少佐を助けていただいて!」


「いや、本当、薬飲ませただけなんで」


「それに感謝しているのです!」


 じゃあもう良いじゃん。ありがとうって言ったら終わりじゃないの?いつまで続くのこの感謝の雪崩は。

 取り敢えず肯定しとくか?


「はぁ。えっと、じゃあ…どう致しまして?」


「はい!」


 ……あ、終わったのね。


「でもこんなに感謝されるなんて…余程大切な人なんですね」


「そりゃそうです。私がついている上司なんですから、死んでしまっては儲けが出ない」


「うわぁ」


 そんな時、リードと言われた男性は目を覚ました。

 軽く呻き声を上げ、目をこすって腹を摩る。そして目を見開いて、勢い良く上体を起こした。


「どういう事だ…」


 その様子を見て、俺は頷く。

 どうやら、傷がないことに驚いているようだ。まぁそりゃそうだろう。死を覚悟する程の傷跡が治っているというのだから、驚いても当然だ。

 実際死を覚悟していたようだし。


「あぁ!ようやく目を覚ましたんですね!心配したんですよ!!」


「ら、ラウラ…?私は……どうして…」


 額を抑え女性を見上げるリード。すぐにバランスを崩して転げかけたが、シュバルツの座席のシートベルトはしっかりとリードを支えてくれたようだ。


「あぁ…いや、だが、もうどうでも良い……今は寝かせてくれ」


「はいっ……はい…」


 先程の発言とは裏腹に、感極まった様に涙を流すラウラ。

 本当は心の底から心配していたのかもしれないな。

 勝手にそう思った。


「じゃ、じゃあ俺はここら辺の見回りに行って来ますね。一応冒険者なもんで、興味があって」


「あ、はい。有難うございます」


 うっ、この空気を読んだことがバレてる…

 まぁ良いさ。ここら辺に興味があることは事実なわけだしね。

 カグラ・タダヒロはクールに去るぜ。


「しかし真っ暗だなぁ…」


 適当に瓦礫の外を見渡すが、とても光源があるとは思えない。ここはシュバルツが光ってたからよかったけど、俺のために動かすなんてできないしなぁ。


「あ、そうだ。外に行くのなら、電気石を探して来てくれませんか?」


「む」


 人が困っている時に何を…

 ん?メニューが何かを言っている。これは…クエスト受注依頼?

 成る程、この緑色のビックリマークはストーリークエストの証。

 これをクリアしたらストーリーが進むわけだ。


「分かりました。電気石ですね?」


「そうです」


「では、なるべく早く持ってくるんで待っててくださいね」


「何から何まで…申し訳ありません」


「乗りかかった船ですし」


 アイテムの説明が確かなら電気石は発光しているはず。つまり、この暗い空間ならかなり楽に見つかるという訳だ。

 狭い瓦礫の隙間を抜け、シュバルツのある場所から前に進む。

 流石に暗いと何も見えないので、ラッキーエンジェルを掲げながら進む。

 なんとこのラッキーエンジェル。

 凄い明るい。


「すげぇなアクセサリー。他のもなんか装備してみようかな」


 アイテムボックスから適当な物を見繕って装備してみる。

 小さな指輪だ。名前は天使の輪っか。何故これを選んだのかと言うと、その理由はやはりこのアクセサリの名前にある。

 そう、天使。エンジェルと同じ天使。

 こいつの効果は!HPが0になった時MPをHPに還元する効果!!

 俺はあくまでも保守に入るのだ!!

 俺の目に最初に映ったのは、竜の腕輪という装飾アイテム。効果は攻撃力を30%上昇させること。破格の効果である。しかし、俺はこいつを装備しない。


「ふっふっふ。誰が攻撃力30%増やして喜ぶか。0に何をかけても0なのだ!!」


 正確には5なのだが、それでも些細な変化でしかない。

 30%上昇なんて普通はとんでもないほど素晴らしい物なのだが、生憎俺の攻撃力は5。

 装備しても6.5になるだけだ。

 酷すぎる。


「うぅっ…数字を見て更に痛感するステータスの低さ…なんとも言えぬ」


 6.5って…6.5て……。

 なんじゃそりゃ。


「ふん、良いさ。大丈夫だ。だから天使の輪っかを装備しているのだ。問題ないさ」


 あえなく現実逃避。分かってる。分かってるよ。

 でも、5だぜ?

 どうにもならないだろ?


「はぁ…電気石どこかなぁ〜」


 とぼとぼと歩き続ける俺。

 そんな俺の道のりをラッキーエンジェルが優しく照らしていた。




 ◇




「ねぇ、あなた達は最近何をやってるの?」


 縫いぐるみの部屋。

 短い白髪の女の子が、男物の着物を来た青髪の少女に話しかけた。

 それに対して、青髪の少女は対してリアクションも取ることなく、静かに返答する。


「それはこっちの台詞だよ。賢者の仕事は終わった筈だが?」


 中にいる二人の少女の間に走る空気は、冷たくもなく、暖かくもない。

 ただ両者ともに淡白で、興味を示そうとも思わない。

 だが、それはあくまで客観的に見た時の物。

 彼女等はやはりそれぞれ、明確な悪意、もしくは殺意を持って話し合っていた。


「今はこんな辺境で住まわせてもらっているの。安心して。とっても健康よ?」


「そうかい。安心したよ。どうせ他のも粘り強く生き残っているんだろう?」


「そうよ。この世界が死なない限り、私達は死なない。運命共同体なのよ。あなた達とは」


「迷惑な限りだ。寄生虫みたいだね」


 いや、どうやら片方には明確な敵意がある様で、少し乱暴な発言が目立つ。

 それに対して白髪の少女は一切動じることなくそれを聞き流す。少しだけこちらの方が上手なようだ。


「違うわ。私達は寄生しているんじゃなくて、正確には同じ存在。人間の細胞を寄生虫とは言わないでしょう?」


「それなら君達は癌だよ。そうやってどんどんこの世界を貪っていくんだ」


「あら?それはどちらかしら」


 白髪の少女は笑みを崩さず、ベットの中で寝返りを取る。その視線の先には縫いぐるみに埋れた青髪の少女。

 その少女は縫いぐるみから一瞬で抜け出して、少女の目の前に移動した。


「どちらにせよ、監視役の君の失敗だったんだよ、この件は。君がしっかり仕事をこなしていれば、僕達はこんなに減らなかったし、人間達の戦争も起こらなかった」


「人間が助けを求めたから動いたのよ。これは彼等が望んだこと。誰も口出しできることではないわ」


 一つ舌打ちをして、青髪の少女は手を白くなるほど握り締める。

 しかしその対面にいる者の態度は依然として変わらず、不気味に少女を嗤い続けた。


「だが、それは確かに人間が望んだことかもしれないけれど、世界が望んだことではない筈だ」


「人間も世界の一部よ。仲間はずれにするなんて可哀想だわ」


「しかしそれだと他の者が不満を持つぞ?皆平等にすべきだ」


「大丈夫よ」


「ふん、何がだ」


 青髪の少女の魔力がドス黒い物へと変わり、縫いぐるみの部屋を一瞬で覆う。目の色は紫色に変化し、束ねられた青髪が蠢いた。


「やがて、人間達は調子に乗り始めるわ。いつか他の生物を皆殺しにしてしまうかもしれないわね」


「それが問題だと言っている!!」


「うふふ…そうなれば、今度は人間達が減らされる番」


 そう言って、目を見開く少女。

 青髪の少女の魔力は、一瞬にして白銀の魔力に塗り潰された。

 少女は優しく微笑み、目の前にいる者の頬を撫でる。

 その笑みは、そう、まるで聖母の様で__









「そうやって、今までもやって来たじゃない。××さん」









 __悪魔の様であった。

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