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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
大砂漠ギラ
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貧乏マジシャンとカグラの居場所

 目の前に鎮座する金属の塊。

 いや、鎮座と言うべきか、まぁ、突き刺さっていた。風の谷の地面に。

 それは、アダラクトスの飛行兵器、シュバルツそのものであった。


「…おぉ?」


 あまりに理解が及ばなくって、俺は謎の声をあげた。何故こんな所にシュバルツがあるのか、何故地面に突き刺さっているのか。

 そんなこと、考えても仕方が無いってことは自分でも分かっていた。


「えっと…こういう場合何をするのが一番正しいのか……搭乗員でも助けるか」


 取り敢えずシュバルツの前に立って乗り込み口を探してみる。下から順に探って行き、腹に手を翳した瞬間、突然シュバルツが発光しだした。


「う…」


 思わず目を塞いで光を遮る俺。それでも前に足を踏み出して、光が収まった頃にはシュバルツに人一人くらいの大きさの穴が空いているのを発見した。

 中にいたのは二人の男女。

 男性は血を頭から血を流して女性を抱きかかえている。

 女性は男性に守られていたようで、気絶こそしているものの外傷はあまりないように思えた。


「……おい。貴様」


 弱々しい声で呼びかける男性。しかしその眼光には得も言えぬ圧力があり、俺の心臓は簡単に潰れた。


「扉を開けてくれたのか…礼を言う。ところで、こいつを助けてやってはくれないか」


 女性を指差しながら男性は言う。内臓が危ないのか、呼吸に風を切るような音が混ざっていた。


「頼む、俺はもう駄目だ。恐らく肺をやられている。肋骨でも刺さったのだろう」


 震える手で女性を突き出す。

 俺は思わずそれを支え、重さに耐えきれず尻餅をついた。


「はぁ、はぁ……頼んだぞ旅人。アダラクトスに栄光あれ」


 そう言って男性は目を閉じた。呼吸が続いていることから恐らく死んではいないのだろう。

 俺はアイテムボックスから《蓬莱薬》を取り出して、男性の口に入れる。

 蓬莱薬は対象の全てのステータスを治癒、全開にする力がある。つまりは全状態異常回復と、HPMP全開。

 この男性に効果が出るかは分からないが、恐らく息を吹き返すだろう。


「思わぬ人物に会ってしまったなぁ」


 シュバルツ搭乗員、リード・ホルシュタイン少佐。

 前世でも今世でも散々苦汁を飲まされた相手だった。




 ◇




「どうだ?」


「失敗。何処かに靄がかかってて分かり辛いね」


 神木の目前、貧乏なマジシャン、リッカ・アラマチルダは柄じゃない座禅を組んでいた。

 咲耶の力で神木から魔力を放出し、それを桜(天月)の力でリッカに集中させる。

 それを動力源に、リッカはカグラの居場所を見つけようと目論んでいたのだ。


「靄か…もう少しなんとかならんのか?」


「うーん…多分カグラは地下に居るね」


「ほう」


 リッカの予想外の発言に、桜は少し目を丸めた。

 桜が予想していたのは、妖怪の腹の中。夜中に急にいなくなるなんて、それくらいしか想像できなかったのだ。


「それで?どこにいるんだ」


「それが分かれば苦労しないよ。そうだなぁ…砂の中に少し似てるかもね」


「……分かったかもしれんの」


「え!?」


 急に大声をあげるマナー。

 明子は古い書物を右手に、眼鏡を上に押し上げていた。


「この先数千里の距離に巨大な砂漠があるんじゃ。もしかしたらその地下かもしれん」


「行こうリッカ!!」


「い、いや…そう言われても…」


 しかしリッカは心の中で感嘆した。

 この靄の原因は砂漠の砂地によるものだったのか。だが数千里先の地に人間一人を移動させる魔法とは…

 少し溜息を吐いて座禅を解く。


「ここから…数千里か。方角は?」


「南西じゃ」


「南西…」


 再度座禅を組んで詠唱を開始する。

 リッカの体から広がる魔法陣。

 神木を媒体に世界全体に広がるそれは、数千里を高速で覆って行く。しかしその巨大な魔法陣は、リッカの目にしか見えないものだった。


「ぐっ…」


 頭を抑え悶えるリッカ。

 詠唱が途切れ、魔法陣が消滅していく。


「くそ…無理しすぎたか…」


 リッカの身に起こったのは、強力な魔力が集中することによる体内暴走。

 所詮レベル40程度のリッカには荷が重たかったのだろう。リッカは軽く吐血した。


「だ、大丈夫ですかリッカさん!?」


 突然の吐血に驚く咲耶。血を見たことなど人生に数回しかなかったのだ。当然の反応だろう。


「ちょ、この魔力量は無理だわ。爆発しそう」


「まぁそりゃそうじゃろ。咲耶、手伝ってやれ」


「え…あ、はい!」


 咲耶数度頷いて、リッカの傍に駆けて行く。そしてリッカのすぐ隣に正座した瞬間、リッカの崩れかけの魔法陣は輝きを取り戻した。


「す、凄い…これが曼珠沙華の力…」


 そしてリッカの脳内に浮かぶ映像。

 リッカの神木による空間魔法は、無事カグラの居場所を特定したのだ。

 そこにはカグラと思われる藍色のローブを来た青年と、二人の見知らぬ人物が映し出されていた。

 金髪の男性は頭から血を流し、目を閉じて何かに横たわっている。

 黒髪の女性は男性の前に立ち、治療のようなことをしていた。


「誰かと一緒にいるね…片方は負傷してる」


「戦闘した後か」


「いや、どうだろう?カグラが戦闘なんかできるとは思わないけど」


「そうか?」


 桜は顎に指を添え、カグラの特徴を脳内にあげた。


 貧弱。


 すぐに考えることをやめた。


「それで?そこに行くことは可能なのか?」


「どうだろう…僕の空間魔法でも流石にこれは……岩の中なんかに移動したらもれなく即死だよ?」


「もっと頑張ってよ!」


 地団駄を踏むマナー。本来こんな言葉遣いをする子ではないと言うのに、酷な話である。


「とは言ってもねぇ…」


「行こうよリッカ!」


「むむむむむ…」


 リッカもできるならマナーの願いを叶えてあげたいが、やはり自分の命の方が可愛いのである。

 本当に辛い話だが、マナーには諦めてもらうしかなかった。


「やっぱり駄目だ。マナーちゃん」


「なんで!?」


「死んでしまうかもしれないし、危ないことが沢山あるんだよ。僕もまだ死にたくないし…」


「…うぅぅぅ!」


 涙を流してリッカを睨むマナー。

 悔しそうに歯を食いしばって、せめてもの報いにリッカを殴った。


「じゃあ私だけでも行かせてよ!リッカは死ぬのが怖いんでしょ!」


「え…」


「ここに残っててよ!私、だけでも

 …ぐすっ…い、行くんだから!」


「マナーちゃん…」


「リッカ!!」


 その瞬間輝き出すマナー。

 小さな体からあり得ない量の魔力が放出され、くすんだ金髪は光を反射した。

 それを見た桜は目を見開いて、すぐに口を歪ませた。


「行かせてやったらどうだ?」


「さ、桜さん!?」


「天月が推薦している」


「え?だ、だけど…」


 頭をぐちゃぐちゃにして悩むリッカ。魔法陣の生成とこの究極の二択で、既に思考は混乱している。


 そして、ついにリッカは投げ出した。


「ええい!もう知らない!行くんだね?マナーちゃん!」


「望むところ!」


「後悔するなよ!」


「そんなのしない!」


「ご飯食べれる?水は探せる?」


「私にそんな難しいことを聞くなー!!」


「行くぞおぉぉぉおお!!」


 途轍もない爆発と共に吹き飛ぶリッカ達。煙がたって視界が塞がれた。

 そしてやっと視界が晴れたころには、もうマナーの姿は無かった。








 そして、リッカの姿も無かった。


 


 ◇




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 見知らぬ大陸の天高く、高度何千mの位置に彼女はいた。

 体は錐揉みに回転し、混乱した頭をさらに掻き回す。

 どんな手違いかは知らないが、彼女は空間魔法を失敗し、体をあらぬ場所に転移させてしまったのだ。

 しかし気だけは失ってはならないと、リッカは頭を強く抑える。しかし結果小さくなった体はさらに回転し、その行動は失敗であった。


「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎……」


 呪詛のように何かを唱え続けるリッカ。

 体は徐々に発光し、落ちる速度が弱り始める。


「くっ…間に合ったか。だけどこんなところに止まってしまって…どうしようかなぁ……」


 リッカの使った魔法は停止呪文。

 体の移動を一時的に停止し、動かなくなる魔法だ。

 飛翔魔法を覚える過程で、最初に習得するのはこの魔法である。


「さて、ここらへんにクッション的な物はないか…」


 リッカは空間魔法で空間を観測し、地形の形を探っていく。

 するとその中に綿のような物が集まっている場所を発見した。


「よし、もうここで良いか」


 詠唱を開始し、術式を作り出すリッカ。彼女の足元に小さな魔法陣が出現し、リッカは停止呪文を解除した。

 そして重力によって引っ張られるリッカ。魔法陣を通り抜け、その体は違う魔法陣から現れた。

 リッカが出てきたのはなんらかの物体の山の中。軽く窒息仕掛けたリッカは、その体を急いで上げる。


「……ぶはっ!!なんだこれ、ぬいぐるみ?」


 ぬいぐるみの中で狼狽えるリッカ。しかし彼女は気づかなかった。彼女の背中を見つめる視線があることを。


「だぁれ?」


「うおっ!?」


 突然の小さな声に驚くリッカ。

 そこにいたのは、ベットの中で寝転ぶ真っ白な髪の少女。恐ろしいほどの色白の肌。白い髪の毛と重なってとても不健康に見えてしまう。

 そしてそんな少女の目は真紅に染まっていた。


「…僕はマジシャン。リッカ・アラマチルダさ」


「へぇ、マジシャンねぇ」


 興味深げにリッカを見つめる少女。

 その真紅の瞳に、リッカの体は強張った。


「あなたの魔力、特殊なのね。あんまり見たことないかも。得意な魔法は……空間魔法かしら?」


 戦慄するリッカ。

 本来、他人の魔力は人間には観測できないのだ。しかし、目の前の少女はリッカの魔力を理解している。

 それができる人間など、この世にはいないはずなのだ。


「あらあら、あなた××ね?」


 言葉が出ない。

 リッカの心臓はこれまでないほどに動き回っていた。


「…君は誰だ?」


 やっと紡ぎ出す言葉。

 少女はその口を歪め、不気味に笑った。


「ふふふ…私は賢者。属性は監視」


「…そうか、生きていたんだね」


「勿論よ。私達賢者は不死身なの」


「知っているさ」


 彼女の名前はレイラ・アルラベル。

 かつてこの世から魔物を駆逐した賢者の一人であった。

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