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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
強国 出雲大国
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最弱勇者と融通の効かない従者

「なんだ…あの大樹は…」


 目を丸めて、驚愕の声を漏らすリード。シュバルツに搭乗し、出雲を目指していた彼の目の前に、途轍もなく巨大で美しい色合いを持った大樹が現れた。

 頭の上のスイッチを触り、シュバルツの機体をホバリング用に変形させる。


「あれが神木、咲耶ですね。出雲に不可視の大結界を張っている元凶です」


「ふむ…燃やすか?」


「どうせできません」


 リードの軽口を適当にいなす書記。

 書記はリードの後ろの席に座り、出雲のある場所を指示していた。

 キラリと光る眼鏡を整え、手元にある書類に目を移す。


「そうですね…ここから入って行っても、あまり問題はありませんでしょう。このまま降りてしまっては?」


「そうか…良いだろう。では、行こうか」


 再度スイッチを動かして、機体を傾けるリード。

 その動きと連動するように、シュバルツは再度姿を変え、神木の頂上に向かって進み出した。


「これだけでかい大樹なら…中に人がいたりしてもおかしくないな」


「そうですね…」


 近づくにつれて巨大になっていく大樹に、段々とリードは恐怖を募らせる。近寄りがたい、神々しさにも似た輝きを放つ神木には、いくら他国の人間であってもそれは変わらず、すぐに怖気付いてしまうと言うもの。それほどまでに神木の力は偉大であり、同時に不気味な圧力を兼ね備えているのだ。


「…ん?」


「どうしたんですか?」


 そんな時、リードは少し驚いたように口を漏らした。


「神木の枝に生体反応があるな…本当だったのか」


「やはり、神木に出雲はあったんですね!」


「人間とはかぎらんだろ。…ちょうど良い枝を見つけた。そこに着陸してみる」


 リードはシュバルツの着陸に適切な、一際大きい枝を見つけ、そこに機体を着陸させる。

 降りた枝に強烈な烈風が吹きつけ、神木の花弁が一気に舞い散った。

 大きな機械の駆動音と共に、シュバルツの搭乗口が開く。


「ふぅ、ここが出雲大国か…」


 目の前に広がるのは、桃源郷と見まごう程の美しい世界。鮮やかな、紫色とも桃色ともとれる神木の花弁に、リードはしばし目的を忘れてそれを眺めた。


 さて、彼等は少し勘違いをしている部分がある。

 それは、出雲大国がここ、『神木の上』にある物だと思い込んでいたのだ。

 アダラクトスの調査隊は、上空から視察を続け、やっとこの神木を見つけ出した。レーダーに映るのは神木の枝に広がる無数の生体反応。

 調査隊はこれを出雲の住民と勘違いし、それをそのまま調査報告してしまったのだ。

 本当の出雲大国は神木の下にあり、その規模はあまり大きく無い。

 だから調査隊は神木の生体反応に惑わされ、その下にある本当の住民たちに気づけなかったのだ。

 では、ここにある生体反応は一体何者のことなのか。それは、曼珠沙華桜の内乱時には身を潜めていた、もう一つの出雲の住民、いや、神木の住民と言うべきか。その数は出雲の住民の数を軽く超え、独自の文化を築いている__


「あれ?人間の生体反応じゃ無いですね」


「は?」


 __妖怪と呼ばれる者達だった。




 ◇




「ここが神樂様の寝室です」


「ど、どうも」


 桜さんの従者の方に連れられてきた場所は、まるで修学旅行の大広間のようなだだっ広い部屋。真ん中にある机以外は基本なんにもなく、ただ殺風景な和室が広がっている。


「ここがリッカ様の寝室です」


「ん、同室だねーカグラ」


「あ、あぁ…分かったぞ、そう言うことか」


 そこにやってきたのはあまり見慣れない格好をしたリッカ。笠は頭から外しており、帽子で隠されていた青色の髪が空気に晒された。


「そして、ここがマナー様の寝室です」


「カグラー!」


「マナー!」


 さらにやってきたのは、これまたリッカと同じような服装をしたマナー。結ばれていた髪は今は解かれており、金髪はより一層ボサボサとしている。

 と、そこでマナーの背中にある物に俺の解析レンズが反応した。


「あれ?マナー、この武器どうした?」


「分かんない」


 しかし、俺にはすぐに分かった。これが、如何程の力を持った物であるか。

 《神刀》

 まさしく、俺が神木戦の時にマナーに渡した小型兵器だ。

 そう『小型兵器』だ。

 強力な両手剣にも及ぶ、双剣ならざる攻撃力を持ったハイパー武器。まだ進化する余地があり、指定の素材さえあれば更に上の次元へとランクアップする進化前でもある。


「これはいまのお前じゃ持てまい。俺が預かっておく」


「うん」


 レベルが足りないマナーに、この双剣は重すぎる。当然俺にも持てるはずがなく、俺は触れることもなくアイテムボックスにそれを入れた。


「では、私はもう行きますので、城内では話しかけないでくださいね」


 冷たい目で俺に毒舌を言う従者さん。彼女の名前は花穂菖蒲かすいあやめ 。桜さん直属の部下で、一番桜さんが信頼している人間の一人らしい。


「菖蒲。部屋には案内したか?」


 そんなことを思っていると、天月之神から戻った桜さんが部屋の様子を見に来た。


「あっ、はい!桜様!この通り!」


「よしよし、偉いぞ」


「ありがとうございます!」


 顔を真っ赤にさせて満面の笑みを浮かべる菖蒲さん。ピョンピョンと桜の前で跳ねて、なんだか犬の耳が一瞬見えたような気がした。


「今日はもう夜だが、どうする?今日はもう寝てしまうか?」


 メニューを確認したところ、今日はもう午後10時を回っていた。


「そうっすね…じゃあ、ちょっと城の中を探検してもいいですかね」


「うむ。それくらいはよかろう。間違っても外には出るなよ」


「はい」


 桜さんと天月之神の意識は繋がっているようで、桜さんの言うことは、天月之神からの言葉と変わらない。

 だからか知らないが、少し桜さんは以前と違って大人びた印象を受けるようになった。

 まぁ、これが本当の桜さんだったのかもしれないが。


「僕はもう疲れたから寝るよ」


「あぁ。確か、マナーと商店街回って行ったんだったな。人が多いからな、疲れたんだろ」


「まぁね」


 俺が死の樹海を彷徨っている時、リッカとマナーは商店街を歩いていたらしい。その際に住民に見つかって、空間魔法の乱用で異常に疲れたんだとか。


「マナーちゃんはどうする?」


「…んにゅ」


「眠たそうだから、マナーはリッカに預けるぞ。良いか?マナー」


「うん…」


 半目になって目をこするマナーを部屋に置いて、俺は桜さんの入ってきた扉から出る。


「この城は比較的安全だから良いが、あまり騒ぎすぎるなよ。お前達のことをよく思っていない部下だって居るのだから」


「分かりました」


 さて、これから何処へ行ってみようか、天月城には一体どんな物があるのかね。


「あ、そうだ。図書館的な所ってありますか?」


「そうだな、書物庫ならばあるにはあるが、彼処には出雲の外交内容などの書類もあるからな…」


 顎に手を当てて考える桜さん。元の世界に帰る方法を探そうと思ったんだけど、どうするか。


「まぁ、どうしてもと言うならば、明子の部屋にでも行ったらどうだ?最近は城外にある研究室に良く入り浸っていたが、今日はここにいるだろう」


「そうっすか。じゃあ、まぁ考えておきますね、桜さん」


「うむ。それと、もうさん付けなどしなくても良いぞ?私も、そんなに良い顔できる立場ではあるまいし」


 そんなことを桜さんが言ったら、すぐそばにいた菖蒲さんが異議を飛ばしてきた。


「だ、ダメです!こんな奴に桜様の名前を呼ばせるなど、割に合いません!」


「むぅ、だが菖蒲。こいつには少し借りがあってな」


「どんな理由があるかは知りませんが!私は元より反対だったのです!こんな犯罪者を城に入れるなど…」


「菖蒲」


「…ッ」


 歯を食いしばって涙目になる菖蒲さん。俺はその姿を見るのが居た堪れなくなって、桜さんの話も聞かず、そそくさと逃げ出してしまっていた。




 ◇




 カグラがいなくなった廊下で、桜と菖蒲の話は続いていた。

 桜は落ち着いて菖蒲を制し、その態度に菖蒲は動けずにいる。


「菖蒲。お前にはもう話したな?あいつらをここに置いておかなければならない理由」


「あ、桜様…申し訳ございません…」


 啜り泣くような声で謝る菖蒲。そんな菖蒲を、桜は慈愛に満ちた、まるで天月之神のような笑みで見つめた。


「まぁ、仕方ない。菖蒲のそう言う融通の利かない所が、長所でもあり、短所でもあるのだから」


「うぅ…」


 彼女も、桜の計画の一端を担った者の一人であった。明子とは対照的に、表で桜を支え続けた、桜の大切な人。それ故に、明子が桜を裏切った時には、桜以上に怒り狂ったものだ。


「でも、彼等は桜様の計画を台無しにしてしまったのですよ…」


「それは私が悪かったことだ。彼奴らには関係ない」


 事実、カグラ達がこの出雲の地にいなければ、今頃天月之神は完全復活を成して、世界を恐怖に陥れていたことだろう。それに、桜も死んでしまっていた。


「大丈夫だよ、菖蒲。この国は、私がもっと良くして見せるから」


「桜様…」


 菖蒲の目に映る彼女は、とても綺麗で、優雅で、凛としていて、そして何よりも、かっこいい。

 菖蒲はそんな桜を英雄のように讃え、尊敬する。自分の村を妖怪から助けてもらった時から、菖蒲は彼女について行く事を決めているのだ。


 そして桜も、そんな綺麗な目をした菖蒲を、愛しているのだった。




「…うぅっ、ぐすっ、良い話だなぁ…」


 寝ているマナーの隣の布団で、リッカの声が静かに響いた。

誤字、脱字等ございましたら、御報告ください。

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