最弱勇者と桜花
今回は結構短いです。
《他力本願》…俺の元あるレベルと、そのステータスを対象の仲間に譲渡する強化スキル。
これを発動している間は俺のレベルは0になって、ステータスが最低レベルにまで落ち込む。が、このスキルで強化された仲間には、何らかの優秀なスキルが与えられ、恐ろしいほどに戦闘力を増す。
「……ま、こんなところかね」
メニューの中にあるメモを使って、最弱勇者スキルの効果を書き出して行く。今はもうマナーのレベルは元に戻ってしまっているが、生活には全く支障がない。
「リッカ!あれ!」
「か、買うの!?」
遠くで買い物をしているマナー達が見える。そんな二人を、俺はベンチの上から見守っていた。
そんなこんなでメニューを弄っていると、メニューの端に何かが見えた。
「ん?」
レベル284…おおっ!
「レベル上がってんじゃんよおぉぉぉぉおお!!」
人の混み合う街中で、神木に向かって叫ぶ俺。
周りが結構騒いでいるので、あんまり騒ぎが大きくならない。好都合なり。これから俺はもっと叫ぶことになるだろうからな!!
そう!レベル上昇と言うリミッターが外れることによってステータスが帰ってきた俺の独り言によってな(妄想)!!
「おりゃあぁぁぉぁあ!!ステータス5おぉぉぉぉおおお!!!」
ほらね!やっぱり叫ぶことになったよクソ野郎!!ステータス5!!下がることも上がることもなく5!!
「最後の望み!!スキルよ!増えろ!!」
ブゥンとメニューを作り出す俺。メニューは俺以外の人間には見えない。
すると、最弱勇者スキルの中に、他力本願以外のスキルが混じっていることが確認された。
《窮鼠猫を噛む》
「発動!!」
ぽぴゅう
「よ、よかった!ステータスは5だ!」
助かった!1なら間違いなく死んでいた!ステータスが5でこんなに喜んだのははじめてだ!!
「はぁ、はぁ、はぁ、の、喉が…痛い…」
落ち着こう。少し落ち着こう。深呼吸だ。素数を数えろ。
……素数ってなんだ?
「ににんがし、にさんがろく」
おお、二の段やってたらなんか落ち着いてきた。二の段凄い。
「さて、このスキルはもう使わないとして、他力本願、こいつはすげぇ」
このスキルさえあれば、『俺以外の人』が、あくまで他人が最強になれる。俺では無い。マナーは他人ではない。
しかしこの素晴らしいスキル、なんと制限がある。畜生!
まず全ステータスが1になることと、対象がそれを望んでいないと発動できないと言うものだ。
だから無闇矢鱈には使えないし、其れ相応の命の危険がつきまとう。
つまりは本当に使いたい状況にしか使えない最終兵器なのだ。
「しかしこれさえあれば…クックックッ…ケケッ」
俺の脳裏に夢が広がる。そこには莫大な資金とそれなりの官位と選り取り見取りの女の子。その真ん中には……マナー。
「あるぇー?」
マナーとリッカがいないぞぉ?
…はぁ
「……まったく、二人とも迷子なんかになりやがって」
カグラ・タダヒロは、迷子になった。
◇
「ここか!いや、ここか?」
ゴミ捨て場を荒らす俺、カグラ。
あの後適当に歩き回っていたけれど、どこにもマナー達はいなかった。
気づけばそこは、死の樹海と呼ばれる神木の下の森。咲く花は彼岸花だけで、一輪でも詰んでしまうと命を吸い取られてしまうと言われている。元は綺麗な森が広がっていたのだが、今では出雲の民のゴミ捨て場となってしまっている。なんだか富士の樹海みたいで良い気はしない。
「だがまぁ、死の樹海ねぇ…」
適当に見渡してボソリと呟く。
なんだか寂しくなってきた。これでは孤独死してしまう。何かを考えよう。
そういえば、桜さんはどうなっただろうか?解析レンズを通して、HPが0ではないことは確認できたが、種族が文字化けしていて読めなかったんだよな…おぉ怖い怖い。嫌な予感がするぜぃ。
「ん?なんだあれ」
木々の奥に建物が見えてくる。ボロい木造建築で、大きな看板がついている。
《桜花》
お、おお…
「おじゃましまーす…」
「おん?久しぶり」
「昨日ぶり!!」
そこにいたのは昨晩に俺たちと神木相手に奮闘した、スルト・アルバレア。戦いが終わった後俺は適当なこと言ってグッスリ寝て、翌日になったら消えていた。
「お前どこ行ってたんだよ。シェイミーさん呆然としてたぞ」
「良いんだよ。あの娘は頭が良いからなんでも一人でできるさ」
「そんなこと聞いてねぇよ」
皿を拭きながら笑うスルト。背中の桜花の文字が良く映える。なんだかこう見ると料理が得意なお父さんにしか見えないと言うのに、日頃の言動が悪いせいでどうもな。
「冗談よぅ。シェイミーちゃんにはアルティカーナに出雲の報告をしに行ってもらってる。手紙渡したろ」
「いや、知らんけどさ」
「まぁ座れや」
椅子を出されたので取り敢えず腰をかけておく。
店の雰囲気は見たことのあるもので、アルティカーナにある桜花とそう変わらない。だが、神木の下にあるせいか少し薄紫の色で照らされていて、夜だったら如何わしい店かと想像してしまうのも仕方が無いことだろう。
「この国には季節があるからな。もうすぐこの光も無くなって、いつもの良い感じの光が帰ってくるだろう」
「なんでそんなこと知ってんだ」
「正院さんに教えてもらったんだよ。ここらに良い土地は無いかって。季節のことも」
そう言ってスルトは水の入ったコップを出してくる。少し飲んで見たが、本当に水のようだ。もう成人したんだぞ。酒くらい出せ。
「あっそ。桜さんが死にかけてるってのに、呑気なもんだなアホ」
「フハハ。まぁそう言うことでな、ここにチェーン店を作らせてもらったわけよん」
「こんな変なところ誰もこねぇよ」
「曼珠沙華の当主のことは心配しなくても良いぜ。お前の言うとおりすぐに意識を取り戻したよ」
「マジでか!」
桜さんの生存報告に思わず立ち上がってしまう俺。
体力が少しあるからって、この世界はゲームじゃないし、《自由な世界》では出血ダメージで体力残ってても死ぬことが結構ありえるからな。
「マジだ。でもなんか、意味わかんないくらい元気だったんだけど」
「それはしらねぇよ。生まれ変わったんじゃ無い?一回死んで」
「死んでねぇって」
こんなことを言い合っていると、スルトはステーキを出してきた。鉄板の上でジュウジュウとなる肉の焼く音に食欲を唆られる。
「もぐもぐ、それで?いまどんな感じよ出雲は」
「曼珠沙華桜がまたいろいろやってるよ。正院明子が優秀でな、外交とかも検討しているそうだ」
「へぇ、そいつは楽しみだなもぐもぐ」
相変わらず健康に悪そうな味だが、凄く美味しいではないか。ソースと肉が上手く互いを尊重して、素晴らしいハーモニーを奏でている。的な?
「で、お前はこれからどうするつもりなんだ?またどっか行くの?」
「もぐもぐ、うんにゃ、取り敢えず何日間かここに泊まって見るよ。最近大変だったからな」
「そうか。良い判断だ。休養は大切」
「もぐもぐ、ふぅ、じゃ俺はもう行くわ。じゃあな」
立ち上がって言う俺。腹は膨れた。さぁ、マナー達を探しに行くかね。
「まてまて、金払えや」
「…え?無料じゃないの?」
「あたりまえだろ」




