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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
強国 出雲大国
30/54

最弱勇者と野火の業

 野火の業の中で、シェイミーと桜が剣戟を行っている間に、外では泥沼の戦いが繰り広げられていた。


「なんか俺!今ならどんな攻撃も避けれる気がする!!」


「うわあぁぁぁあ!!敵が変なのだしてきたぞ!!!」


「うわ鉄砲!?なんであんの!」


 俺が盛大なフラグを突っ込んだあと、敵が今まで出さなかった鉄砲を最終兵器とばかりに出してくる出雲。

 形はなんだか火縄銃みたいで、まだ発展途上なのが伺える。しかしそれに出雲の身体能力が加算されるとどうなるか。


「これまでに無いくらいマント使ってる気がするわ」


 マントに篭って防戦一方となる。

 今俺を遠くから見たら、赤いナニカがモゾモゾと芋虫みたいに蠢いているようにしか見えない事だろう。

 流石のマナーも14レベと言うクソレベルに対して、平均レベル60以上の敵には手も足も出ず、俺と同様に(マントで)芋虫状態となっている。


「早く、スルトとシェイミーさんの援護が必要だな…」


 唯一の仲間である出雲の民たちも、長年戦闘をしていないせいか、敵兵の遠距離攻撃を含んだ猛攻に押されつつある。

 特に鉄砲が出てきた辺りから彼らの動きは悪くなって行き、倒れている人も何人か確認できる。

 出雲兵もあくまで牽制のつもりで攻撃を行っているようだが、流石に相手を傷つけないように戦うのは難しいようで、出雲の手加減と民の鉄壁の守りで、なんとか潰されないように戦えている状況だ。

 このままでは危ない。このまま戦っていても、いつかはこちらの体力が無くなって倒されてしまうことだろう。

 それはまずい。俺たちがやられてしまったらどうなるか。咲耶ちゃんは殺されて、桜さんの計画が成功することになってしまう。


「まずは、この炎の壁をどうにかしなければ…」


 炎の壁を観察する俺。

 どうやらこのただの炎にしかみえない壁には、結界のようなものがしかけられているようで、魔法は通らないし、通り抜けることもできない。入ろうとしたが最後、その超高温の炎に焼かれ、一瞬で人肉ステーキのできあがりである。その炎をどうにかできたとしても、その先に待っているのは、不可視の正真正銘の壁。この壁を突破するには、俺の爆弾を数百発くらい用意しなければならない。

 それを全部投げたとして、必ず突破できるとは限らないし、それ以前に炎の方で焼かれてしまう事だろう。


「おい、リッカ」


「な!ん!だ!よ!!」


 いつものスナイパーライフルを、スナイパーライフルっぽくない方法で攻撃するリッカ。ブンブンとぶん回し、敵兵が入り込めないようにしている。

 俺はリッカの足元にモゾモゾと潜り込んで、芋虫のように顔を見上げた。


「あのさぁ、お得意の空間魔法使えない?」


「なんで僕が慣れない肉弾戦を強行しているのか君には分からないのか!!!」


 そう、リッカがこんなアホみたいな戦い方をしている理由は、単にMPが足りないからだ。MPさえあれば直ぐにでも魔法を使って炎を消し去るし、敵兵も一網打尽にできる、かもしれない。


「じゃあこれを」


「待ってたよ!!」


 リッカは俺の持つ宝丸を奪い取って、目にも見えない早さで一気に飲み込む。

 銃を空に向け、詠唱を唱えたあと、引き金を引いた。


「オールレンジ!!!」


 弾の飛んだ中心に、巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 それを火種に、小さな魔法陣が幾つも召喚され、上空から、まるで雨のように銃弾が飛んできた。


「いだだだだだ!!!」


 芋虫の俺の体を銃弾が何度も刺激する。体中の神経が鈍って、しばらくは感覚が無くなってしまうかもしれない。

  連射による轟音と、敵味方を巻き込む超広範囲攻撃の悲鳴。

 空からの突然の奇襲によって、戦線は大混乱し、ただひたすらに金属が弾かれる音しか聞こえなくなる。


「ば、バカヤロッ!おまっ、なんでそんなの使うんだよ!!」


「いやぁ…これはまずいねぇ」


「敵も味方も、もれなく穴だらけだよ!くそったれ!早く止めろ!!」


「う、うん」


 またも銃を空に向け、詠唱をして引き金を引く。高速で飛び立つ銃弾は、音を置き去りにし、魔法陣の中心を貫いた。


「よしっ!今どうなってる!」


 俺はマントを翻して、音の止んだ世界を見渡す。

 そこには地獄絵図……ではなく、以前として結構元気な両勢力が力強く睨み合っていた。


「化け物か…」


 そう思ってしまうのも、まぁ仕方のないことだ。彼らはあの銃弾の雨を、大した傷も負わず防ぎ切ったと言うのだから。

 ふと空を見ると、なにやら透明な壁が浮いているようにも見える。あぁそうか、結界か。あの銃弾が弾かれる音は、弾が結界にぶつかって跳ね返る音だったのか。

 良かった。弾を刀で捌いたとかじゃなくて本当に良かった。彼らは人間だった。


「おい、リッカ。お前あの炎なんとかできるか?」


「あれかい?」


「ああ」


 俺の指す先にあるのは、桜さんの作り出した巨大な炎。


「あれをどうにかって…消すってことかい?」


「まぁ、そうだな」


「それは無理だね」


「…は?なんでだよ。空間魔法そういうの得意だろ」


「あのねぇ…」


 リッカは溜息を吐き、俺を呆れたような目付きで睨む。

 そもそも、空間魔法と言う物は、他の属性魔法とは、全く勝手が違うらしい。


「あそこにある炎は、どうやら妖術と呼ばれる物で作られているようだね」


「お、おん」


「あれは、魔法のような数字と演算の元で作られる力とは違うんだ」


 ちゃっかり俺のマントの中に侵入してくるリッカ。俺は違うマントを貸してやった。


「ぬくぬく…ゴホン、で、あの妖術と言う物はだね、どうやら、世界の力を貸してもらっているようなんだ」


「だったらどうなんだよ」


「僕の魔法は効きにくい!」


 満面の笑みで叫ぶリッカ。思わず手が出てしまうところだった。

 出しかけた拳をマントに戻し、殴ってもダメージが出るのは俺の方だと自嘲する。


「まぁ聞きたまえよカグラ君。君の頭では理解できないかもしれないが、特別にどうしてそうなるか教えてやろう」


「…はい」


 あ、俺の握りしめた右手のせいで体力が減ってら。


「僕の空間魔法は、まぁ簡単に言うと、自然の法則に逆らって発動する魔法だ」


「…へぇ」


「しかし、あの妖術は、世界の法則をとても尊重して作り出している。特に神木の力が強いようだね。で、僕の魔法は、それに真っ向から喧嘩を売っているような物だ。するとどうなるか」


「効きにくい、と?」


「受け売りありがとう!」


「…」


「流石の僕でも、自然に喧嘩を売ることはできないからね」


 つまりはそう言う事らしい。

 なんて感じの悪い奴なんだ。そっちが気になって内容が入ってこないじゃないか。


 俺はなんとか火の中からシェイミーさんたちを救い出す方法を考える。


「解析レンズ発動!!おい!マナーを連れて来い!」


「後ろ」


「うおぉい!?いたのか!」


 俺は早速マナーにマントを渡して、小さな腕輪を取り出して見せる。


「マナー。頼みたいことがある」


「うん」


「これを、装着して、シェイミーさんを助けるんだ」


 《装飾アイテム・星輪》

 装備している物の素早さを50上昇させる効果を持つ。超レアアイテムだ。


「着けたよ」


「…一応、マントがあるから大丈夫だと思うけど、怪我するかもしれない。その時はリッカにやらせるが、行けるか?」


 リッカが抗議の声を上げるが、そんなの俺には聞こえてない。


「カグラが言うから。やる」


「……グスン。良いか?俺の言った通りに動くんだぞ」


「わかった」


 なかなか聞き分けの良いマナー。本当に良い娘だ。大好き。


 即興で考えた作戦を、なるべく簡潔にマナーに伝えてゆく。こういう時マナーは、なかなか簡単に覚えてくれてありがたい。


 俺の目の前に見えるのは、ステータスと共に映し出されるスルトとシェイミーさんの姿。なんとこのレンズ、解析と共に透視もできるのだ。知らんかった。


「作戦開始だ!マナー、俺の指す方向に全力で走れ!!」


 言われたとおり、俺の指差す方向に走り去ってゆくマナー。

 それと同じような動きをして吹き飛んでいるシェイミーさん。

 そして内側から、ボロボロのシェイミーさんが吹き飛んできた。


「恐れながら予想通り!!」


 それを作戦通りに受け止めるマナー。

 《自由な世界》には、受け止めると言うシステムがある。敵の攻撃で吹き飛んだ仲間を、正にその名の通り受け止めると言う物だ。

 これはなかなか面白いことで、仲間の一人に素早さのあるキャラクターを加え、巨大モンスターの攻撃によって吹き飛んでいる仲間を徹底して受け止めている図を、プレイ中に見ることができる。

 しかしこれはただの遊びシステムではない。これを使うと…


「ま、マナーちゃん…」


「おらっ」


「んぐっ!?」


 全く間を開けずに受け止めた仲間をアイテムによって回復させることができるのだ。

 これによって万全になった仲間は、またモンスターに立ち向かいに行くことができる。素晴らしいサイクルだ。

 どうやらシェイミーさんを受け止めた衝撃で、マナーの後ろにいた敵兵は気絶しているようだし、反撃は今しかない。


「なんだか気分が優れてきました…なにを飲ませたんですか、マナーちゃん?」


「薬」


 淡白な会話を続ける二人。

 マナー、あの言葉言ってくれるかな。


「シェイミー。リベンジマッチ」


「…どう言う意味でしょうか?」


 疑問の声を挙げるのとは裏腹に、鋭い目付きをするシェイミー。もしかしたら、その意味を知っているのかもしれない。




 まるでこの言葉の意味がわかっているかのように、シェイミーさんの髪の毛は燃え上がった。

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