最弱勇者と桜の闇
この話はなんかごちゃごちゃしてて読みにくいかもしれません。ご了承を。
「桜…」
「分かっている」
静かな部屋に、囁くような喋り声が聞こえてくる。
出雲の連中は今だ活発に行動し、外ではドンチャン騒ぎが起こっている。
その声に目を細め、明子は声を紡ぐ。
「この晩は特に神木が活性化する。満月は欠け、その夜を照らす物が神木に成り代わるからじゃ」
「そうだな」
「そしてこの時、欠けた月と地球は繋がる。地球が月の中心に来たその瞬間、扉は開く」
「あぁ」
「そして●●を殺す。良かったな桜。やっとお前の悲願が達成される」
「…」
「あとは神木がやってくれるじゃろうよ。罪はあやつらに押し付ければ良い」
「…」
「さぁ作戦の合図を取れ、桜。今晩、お前の大切な物が手にはいる」
「……あいつを犠牲にな」
深夜、0時を回った。
◇
「へぇ〜桜さん妹いるんだ」
「あぁ。かなり年が離れているがな」
リッカは今、桜の身内の話をしていた。知り合ってあまり時間がたっていないので仲良くなろうとリッカが仕組んだことだった。
ちなみにマナーは明子と将棋をして遊んでいる。
マナーはあまり強くはなかった。
「どうですか?可愛いですか?」
「ふむ。それは容姿の話か?」
「ま、まぁそれもありますが」
「ならまぁ、可愛いな。」
どうやら桜の妹は可愛いらしい。
ぜひとも拝んで見たいものだがここにはいないらしいのでそれも叶わない。
「いやぁ、見て見たかったなぁ」
「む、なんだ?見たいのか?」
「まぁそりゃねぇ。出雲大将軍って、名前からして凄い役職なんですよね?そんな人の妹なんて見てみたいに決まってるじゃないですか」
「ふむ、そんなものか?」
「そんなもんなんですよ」
そう言うと桜は少し黙って何やら考え事をしだした。
そしてすぐに顔を上げ、口を開く。
「ならあってみるか?」
「……え?本当?」
「あぁ。少し遠くにいるが、なに、徒歩でもそれほどかからん」
「へぇ、じゃあお言葉に甘えて」
こうして、リッカは曼珠沙華桜の妹に会いに行くことになった。
◇
「いやぁ、外の世界って凄いですね〜」
「まぁ俺もアルティカーナしか見たことないっすけど」
あれからなんと数時間。話題は尽きることなくずっとお喋りを続けている俺と咲耶ちゃん。
多分咲耶ちゃんには人のおもしろ話を引き出す特別な力があるんじゃないかと思う。だって俺もこんな長い時間しゃべり続けたの始めてだもの。
外の世界、変なアイテム、俺の世界のこともちょっとだけ教えた。
それを話すたび咲耶ちゃんは笑ってくれる。この子はマナーと違って表情がコロコロ変わるから面白い。話している方も気分が良いと言うもんだ。
しかしもう深夜0時。
流石に眠たくなって来た頃に、あれは起きた。
防犯性の薄い木の扉が、二、三度コンコンと叩かれる。
こんな夜中に訪問者か、と思っていると咲耶ちゃんが床から立った。
「はーい」
年相応の可愛らしい声で返事をする咲耶ちゃん。
扉を開け、訪問者の顔を拝もうと体を乗り出した時、視界に銀の光が生えて来た。
咲耶ちゃんの『背中』から。
「……えっ」
「咲耶ちゃん!?」
咲耶ちゃんの背中から生えて来た物は刀の刀身だった。
咲耶ちゃんは、正面から体を一突きにされた。
大きく目を見開く咲耶ちゃん。
体の重心が狂い、背中が地面に吸い寄せられる。
俺は咲耶ちゃんを支えて片手で回復薬を飲ませると、解析レンズで瀕死をまぬがれた事を確認を確認して玄関を睨んだ。
「お前…!」
「…」
玄関にたっていたのは男性だった。
俺がこの家に迷い込むまでに一悶着あった男たちと服装がよく似ている。おそらくあいつらの仲間だろうと結論づけて、俺は大声でこいつに問いただそうとした。
しかし声は出なかった。
男は咲耶ちゃんを刺し抜いた自分の刀で、あろうことか自分の、人間の急所である心臓を刺してしまったのだ。
いきなりのことに声が出ない俺は、冷静になれず床に座り込んでしまう。
床を這いつくばって男の刀を手にとった。
解析レンズを使用するが魔剣の類ではなく、シェイミーの持っているような普通の刀だった。
なら男の方に何かがあったのかもしれないと、男のステータスを覗いてみるも、そこにあるのは戦闘不能の四文字。空っぽになった体力ゲージには、この男の死が明確に示されていた。
「どう言うことだ……」
力無くうな垂れる咲耶ちゃんを横目に見て、静かに呟く。
現世では普通にニートやっていたので、人間の死体とかに慣れていない俺は、極力死体を目に入らないようにして頭を悩ませていた。
なんで小説とかによくある異世界転生主人公は、人殺しても普通に割り切れるのだろう。俺は割り切れないな。これも精神値がゴミなのが悪いのだろうか。
しょうもないことを考えなから咲耶ちゃんの体力を回復させ、どうしたものかと考えていると、何やら女性の声が聞こえてくる。新手かと思ったが、なぜか聞き慣れた声だ。
この高くて、耳によく通る可愛らしい声は…
「カグラ!」
「えっ?…マナー!?」
なぜかマナーが扉から顔を出して来た。
その顔は呆然としており、俺の膝下を丸い目で凝視していた。
リッカも遅れてやってくる。
後ろには武士のような鎧を着た知らない人が立っていた。鎧の形からして女性だろう。黒髪パッツンロングヘアーの男性なんて見たくない。
「カグラ?その子……」
「え…あっ!?」
咄嗟に真っ赤な刀を落とす。
思えばこれが悪かったのかもしれない。
俺の膝には咲耶ちゃんがいる。
胸からおびただしい程の血を流し、仄かに人間味のある色素を残した白い肌を、更に白くした死人のような咲耶ちゃんが。
俺はその咲耶ちゃんの血の付いた刀をさっきまで持っていたのだ。
「き、貴様ぁぁぁあ!!」
「うぐっ!?」
咲耶ちゃんの知人なのだろう、俺が咲耶ちゃんを殺したものだと勘違いしたのか、リッカの後ろにいた女性が切りかかって来た。
俺は思わず咲耶ちゃんを掴んで、刀に当たらないようにかがみこんでしまう。
結果、防御力の低い俺は、彼女の一太刀で咲耶ちゃんと共に吹き飛んだ。体の節々が痛むが、ラッキーエンジェルの効果で辛うじて生きている。
「何、刃が通らないだと…?」
彼女が何かを言っている間に、速度のある俺の体は、地面にぶつかり二三度跳ねる。間違い無く今のHPは1だ。追撃を食らうわけにはいかない。
俺はそのバウンドを利用して、腰を上げ、立ち上がる。
即座に回復薬を飲んで体力を回復する。
体力が回復したのを確認し、ラッキーエンジェルを装備して前を向く。体制を立て直し、言い訳を考えようとした瞬間、俺の頭上に何かが見えた。
頭に激痛が走り、俺は再度横に吹き飛ばされる。
女性は猫のような跳躍力で、一瞬で俺の頭上に移動したのだ。目にも止まらない速度で太刀を振り、的確に俺の頭を捉え、支えも無い空中で俺の体を吹き飛ばす。
その超人的な身体能力に、何度目かの死を覚悟する。
彼女は、這いつくばってうなだれている俺の首に刃を向け、静かに囁く。
「貴様…何者だ…なぜ咲耶を殺した!!」
「ま、待ってくれ…俺はやって無い。咲耶ちゃんだってまだ生きてる!」
ありきたりな言い訳をする俺。
自分の情報処理能力を今呪った。
「ならその手をどけろ!!」
殺されてしまっては堪らないので、彼女の言うとうり咲耶ちゃんから手をどける。
「ほ、ほら。まだ息をしてるじゃないか」
「それが貴様が咲耶を刺していないと言う証拠にはならない!!」
生きていることを確認するが、女性の叫びは止まらない。
「違うんだ!話を聞いてくれ!咲耶ちゃんを刺したのは俺じゃなくてそこの男なんだ!!」
「黙れ!!あれはここの警備部隊の男だ!!貴様がこの家に入るために殺したとしか思えん!!」
「ぐっ…!」
確かにこの状況では、男を殺し、咲耶ちゃんを刺した犯人として真っ先に疑われるのは俺しかいないだろう。弁解するのも絶望的だ。
目撃者はいないし、防犯カメラなども勿論無い。
しかも俺は血で濡れた刀を持っている瞬間を見られている。これで俺のことを疑わないのは、真実を知る咲耶ちゃんか、何も理解できていないマナーくらいしかいないだろう。
「良いだろう。処刑だ。貴様の首を刈りとってやる」
彼女は俺の首から太刀を離し、勢いをつけて一閃を仕掛けた。
とうとう死んだ。短い異世界ライフだったな、とか思いながらスローモーションでやってくる刃物をボーッと眺める俺。
そしてとうとう、近づいてくる刃が俺の首を刈りとろうとしたその瞬間、俺の体は横からの衝撃で僅かに逸れ、刃は俺の頭上を通った。数本の髪の毛が宙を舞う。
「ぐっ!」
「ま、マナー!?」
「貴様ッ!!何をする!!」
マナーが俺の体にぶつかって、間一髪でたすけてくれたようだ。
俺は仰向けになっている姿勢を上げ、追撃を避ける。
さっき使った残りの回復薬を飲み、変えのラッキーエンジェルを装備する。
「大丈夫か、マナー?」
「うん」
マナーの安否を確認し、適当に目を泳がせる。
一考に状況が好転しないので、俺は渋々正面を向き、殺人鬼のような視線を送る彼女をビクビクしながら見つめる。
「こ、ここは一つ、咲耶ちゃんが起きるまで待ちませんかね?」
「…」
「あ、あの…」
頭を下げ、何かを考えるように立つ女性。
数分間もの時間が経ち、音の無い時間は次第に不安で染まり始める。嫌な予感が、俺の心に訴えかける。
体は自然と硬直し、気持ち悪い脂汗が背中を這いずり回る。
何時間にも感じられた長い時間は終わりを告げ、彼女は突然に顔を上げた。
「……もう良い。やめだ。面倒だ。なぜ我がこの餓鬼の為に激昂しなけらばならない」
「……?」
頭を掻き、髪型を乱す彼女は、とても面倒くさそうにそう呟いた。
そして彼女は太刀を上げ、
その刀身を
咲耶ちゃんに
突き刺した。
突然の事態に状況が飲み込めない俺。
状態異常《出血》。
まだ死んではいないようだ。
「む、中々しぶといな」
彼女は突き刺した刀身をグリグリと動かし、咲耶ちゃんのHPを削る。
以前として状況を読み取れていない俺の体は、徐々に死にゆく咲耶ちゃんを前に動いてくれない。
「……なにやってるのかな?」
「…なんだリッカ?」
「君は一体何をやっているのかな?」
「実妹を殺している」
さも当然かのように言い張る女性。
リッカは彼女の太刀を持つ片腕を掴み、その行動を止めた。
「何で、殺すの?」
リッカも良く理解していないようで、単純な事しか言わない。
「予定が狂った。あいつがしっかりと仕事をしていれば、我がこのように直接手を下す事も無いものを。
……まぁ良い。全員殺せば良いだけの話だ。ここには我しか残らない」
「僕も殺すの?」
「勿論だ。咲耶を殺した犯人は貴様らだ。我はそんな貴様らに裁きを下した、と言う事にする」
明言を言わない彼女が、どんどんと恐怖で彩られていく。
先ほどの鬼のような表情は演技だったのか今は何の感情も読めない無表情だ。
血の滴るその太刀が不気味さを加速させる。
顔を隠すようにして乱れた黒髪が、亡霊のような印象を作る。
「さぁ神木よ。曼珠沙華の命は今枯れる。扉を開け。道を作れ。その根を赤く染め、出雲の夜を朱に染めろ」
女性は咲耶ちゃんの首に刃を向け、軽く振りかぶる。
「なぁ明子。黄泉の国とはどのようなところだろうな」
知らない人物の名前を言う女性。
彼女の刀身から血が吹き出した。




