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最弱勇者のギリギリライフ  作者: 飛び魚
大都市アルティカーナ
18/54

最弱勇者とリッカの話

 戦争は終わり、以前までの一触即発の空気の中、シドラクトとアダラクトスの正面衝突は、アルティカーナ要塞の損害と、アダラクトスの第一部隊の壊滅にとどめられ、一先ず休戦と言う形で場は治められた。

 しかし、スルト・アルバレアとアダラクトスの飛行兵機、シュバルツの共闘は両国に知れ渡った。

 この両国の関係を回復させるには十分な情報だろう。


「そして今、俺とマナーは馬車と呼ばれる乗り物の中にいた」


「いきなり何さ」


「何でお前までいるんだよ。アルティカーナでマジックしてろよ」


「死になよ」


「いきなり何さ」


「はぁ……まったく、誰のせいで君らについて行ってると思ってるんだい?」


「俺のせい」


「大正解。死ね」


「そんなに死ね死ね言うなよ。本当に簡単に死んじゃうんだからな」


「あああ…一体なぜ僕はこんなところに…」


「何だ?俺たちと一緒にに行くのがそんなに嫌なのか?」


「嫌だよ!」


「あ、バカお前、大きな声出すなよ。マナー起きちゃうだろ」


「……はぁ」


「あぁ…出雲…どんなところだろうなぁ…」


「きっと良いところだよ…うん…丁度行ってみたかったところなんだ……うん」




 ◇


 


 出雲大国。


 シドラクトの遥東に位置する国である。

 シドラクトの民では発音が困難な為、東の小国と呼ばれ、少ないながらにも戦闘能力に極端に優れた民族が集まる戦闘民族の国である。

 しかしその人々の性格はいたって温厚。争いごとを好まず、独自の文化を持った素晴らしい国であるとされる。

 また、奇妙なモンスターが多数存在しており、武器などの装備品も豊富。世界各国が揃って傘下にいれたがる小国にして強国と言う不思議な立ち位置をしている国であると言われる。

 しかしその国境は《咲耶》呼ばれる神木の花弁が隠しており、国に入るのはとても難しい。

 ちなみに俺はゲームやってる時にこの国を見つけた事は一度として無かった。


 戦争が終わって次の日。

 俺はスルトの店で朝食を食べていた。


「出雲大国?」


「あぁ。元の国に帰る為に冒険してんだろ?あそこは未知が詰まってるからきっと良い成果が出るぜ」


 いろいろ大変だった一週間も終わり、そろそろ本気で日本に戻ろうかと思った俺はスルトに協力を仰いだ。

 変な魔法使って吹き飛ばされたと大嘘をつき、この国にやって来たと言う俺。

 世界をまたにかけて一流の仕事をする博識のスルトに聞けば何か分かると踏んだ俺だったがそれと同時に自分の嘘を見破られるんじゃないかと言う不安もあった。

 だがその不安も杞憂に終わり、今こうしてスルトからアドバイスを受けていた。


「へぇ〜じゃあそこ行ってみようかな」


「おぉ、そうか。んなら冒険者登録しとった方が良いな」


「んー?冒険者登録?」


「あぁ、まだ登録してないらしいじゃないか」


「あーすっかり忘れてたわ…」


「イズモ行ってみるんだろ?登録しとかねぇと後がきついぞ」


 多分舌が《出雲》の発音に慣れていないのだろう。微妙にスルトの発音が片言だった。

 普段会話してると日本語にしか聞こえないのにおかしな話だ。

(ちなみにゲーム内での表記は《出雲》である)


「なんで?」


「そりゃお前、金稼ぐために決まってんだろうよ」


「へぇ、そうなのか」


「はぁ?お前この土地の人間なのにそんな事も知らねぇのかよ。どんなけ無知なんだ」


「そこまで言うなよ。遠くから来たって言ってるだろ」


「まぁそこに帰る為に冒険してるって言うからなぁ。

 つっても冒険者のシステムすら知られていない国って何だよ。それだけでにわかには信じ難いわ」


 一息入れてスルトが話し出す。


「冒険者とは職業の名前とかじゃないんだ。もとはここアルティカーナが発祥の地で、近くに魔物の出る洞窟があり、そこにある資材を資金源としていた村が作ったものと言われている。冒険者とは言わば誰でも取れる免許のようなもので、危険な洞窟、森、あるいは迷宮と呼ばれる人間の通りたがらない未開の地を開拓しそこで得た物を売ることができる権利を得ることができるんだ。しかも登録無料。何かあったとき役立つし、だから貴族以外の人間は大体登録してるんだよ」


「へぇ〜」


 その話は初耳だった。

 ゲームでは物語が始まった瞬間から冒険者の状態で始まるので、冒険者の成り立ちなんかは気にしたことがなかったのだ。

 確かに冒険者という肩書がある割に職業があったり位があったりとよく分からんことがままあったが、そういうことだったのか。


「まぁ良いや。とりあえず冒険者登録所行って来るわ」


「あいよー、ちゃんと飯代払ってけよー」


「ほら、マナー行くぞ」


「お腹いっぱい」


 一人黙々と濃い味に舌を慣らしながら料理を食べていたマナーを呼ぶ。

 どうやら平らげる事はできなかったようだ。

 後でパンでもやろう。


 アースを渡して店を出るとき、不意に扉の死角からリッカが飛び出して来た。


「え、マナーちゃん居たの?」


「うわっ、いきなり出てくんなよリッカ」


「うわー全然気づかなかったよ。ごめんね」


「こっちのセリフ」




 ◇




 冒険者登録所に来た俺たちは、早速登録をしに、HPが無駄に減らないようなるべく人を避けながら窓口に来ていた。


 窓口には《自由な世界》でかなり見飽きていた、オレンジのショートヘアの元気そうな容姿をした看板娘がいた。


「ヘイ兄ちゃん、冒険者登録に来たのかい?」


 ゲームと全く変わらない、とても女の子とは思えない喋り方に俺は苦笑し、看板娘を見た。


 この看板娘、《冒険者登録所窓口》と呼ばれる長い名前の職業についているのだが、そのスキルの一つに《見分け》と言う物がある。

 このスキルで冒険者登録所にやってくる人物が冒険者なのかどうか見極めているのだ。


「おう。早速登録して欲しい」


「了解、ちょっと待ってろよ」


 そう言うと看板娘は目を閉じて何かを唱え始めた。

 おそらく冒険者登録魔法とかそう言うのでも唱えているのだろう。

 俺は彼女の職についた事がないのでそんな魔法があるのかは分からない。


「■■■……それで?冒険者に登録すんのは兄ちゃんだけかい?」


「うんにゃ、後はこいつも頼む」


 背の低いマナーは窓口からじゃ良く見えない。

 何とか俺の非力な腕で持ち上げようとしたが、俺が無い筋力で頑張っているのを見てマナーが自分から窓口を見上げるように背伸びをしてくれた。

 これで少しは看板娘にも顔が見える事だろう。

 ちょっと感動して涙が出た。


「はいよ、二名様ね。それで?その子は連れかい?」


「ん?マナーの事か?まぁ連れと言えるのかもな」


「んじゃ二人でパーティ登録するか?」


「あぁパーティか…んじゃそれも頼むわ」


「そうか、それじゃこの紙にパーティに入れる人物の名前書いといてくれ」


「あいよ」




 ◇




「誰が君のパーティに入ると言ったんだい?」


「……てへぺ」

「言わせぬぞ」


 リッカは何も言わせぬと鋭い目つきで俺を睨んだ。

 精神ダメージでHP減ったらどうするんだ。

 ここは開き直ってリッカを見る。


「まぁいいじゃん。出雲行けるんだし」


「見つからなかったら行けないじゃん」


「問題ない……とは言えない」


「はぁ…アルティカーナで一山当てるはずだったのに…」


「……ハッ」


「謎の談笑が聞こえた」


「気のせいだろ、病んでんじゃねぇの?」


「そうだね。君の頭がね」


 淡々と皮肉の言い合いをリッカとしていると、モゾモゾと俺の隣で頭を預けていたマナーがマントの中からゆっくり出て来た。


「お、マナー起きたか。おはよう」


「ぅん…カグラ、おはようって何?」


「寝起きの人に対する挨拶だと思ってる」


「曖昧だねぇ」


「おはようの意味なんて上手く言えるかよ。右とは何か説明してみろ」


「君がスプーンを持っている方の事さ」


「俺が左利きだったらどうするんだ」


「君は右利きだよ」


「なぜわかる」


「君がご飯を食べてる時、君はスプーンを右手で持っていたよ」


「み、右手の訓練をしてたんだよ」


「ペンを持つ時も右手、武器を持つ時も右手、マナーちゃんを撫でる時も右手、もう絶対右利きじゃないか。むしろ君は右手ばかり使いすぎだよ」


「くっ…なんて洞察力なんだ…」


 予想外にも異様に洞察力の高いリッカに舌を巻き、俺は言葉を濁した。


 何か…何かこいつに言い返せるほどの言い訳は…


「…いや、お前の言う右手が本当に右手であると言う証拠はどこにある」


「なんじゃそら」


 勝った。


「カグラ〜」


「ん?何だ?」


「ここどこ?」


「いや…どこって言われてもなぁ……馬車?」


「馬車?」


「人間が長距離を移動する時に使う乗り物のこと。馬で運ぶんだ」


「ふーん」


 マナーがよく分かっていなさそうな顔で頷いているとリッカが首を傾げた。


「ん?馬?」


「どうかしたのか?」


「いや、流石に馬は使わないでしょ、いつの時代の話なのさ」


「はぁ?どっからどう見たって完全に馬車じゃないか」


「いやいやいや、じゃあ君の言う馬はどこにいるのさ」


「何言ってんのコイツ?そこの何かカーテンっぽいのから見えんだろ」


「君がそう言うならそこからお馬さんを見てみれば良いじゃないか」


「はぁ?そんなに言うんだったらこの目で俺たちを引いて歩く屈強な肉体を持つお馬さんを見てやろうじゃん」


 そう啖呵を切った俺は勢いよくカーテンっぽいのを開いた。


 ペラッ


「…なんだよ……コレ……」


 そこには丸い赤色の球体が浮いていた。

 歪な魔法陣を書き連ねた球体は、本来馬が馬車の車の部分を引いているであろう場所に差も当然のように浮いていた。


「ほら、馬車なんて太古のものはもう少なくともシドラクトには存在しないよ」


「馬鹿な……これは一体何だ?」


「移動魔法術式さ。その球体に道のりを記憶させて対象物を移動させる。運転手も要らなくて重宝するだろう?」


「そういえば運転手さんいなかったな」


 転生したからでこそ分かった新事実。こんな球体ゲームには出てこなかった。

 さすが《自由な世界》。魔法のバリエーションも豊富!


「いやぁ、外見的に馬が引いてるものだと決めつけてたわ」


「しかし馬車ねぇ…君の国は一体どこまで遅れてるんだ」


「(鉄の塊が走ってるけど) まぁどうだっていいや、ところでこの馬車もどきはどこに向かってるんだ?」


 さっきのリッカの話から察するにこの乗り物がどこに行くかは決まっているようだ。


「馬車もどきって……さぁどこだろうね。アルティカーナから一番近い町とかなんじゃないかい?

 一日じゃどうせイズモはみつかんないから休憩を挟みながら探さないとね」


「そっか、じゃあそれまで寝とくかね。車に揺られながら寝るのもまた一興」


「そうかい。着いたら起こしてあげるよ」


「そいつはありがたい。お休みリッカ〜」


「お休みなさい」


 俺は静かに瞼を閉じた。




 ◇




 光が見える。

 紫色のような、青色のような、赤色のような、そんな光が見える。


 世界が明るい。

 目に入ってくる鮮明な輝き。


 ふと目が覚めてしまった。

 意識は覚醒しきってない。


「……んぁ?どこだここ?」


「あ、もう起きたのかい?」


 ふと、布を上げ空を景色を見てみると、そこには満面の星空が映っていた。

 どうやらこんな時間まで眠っていたようだ。

 俺の隣にいるマナーは、眠り姫のようにスヤスヤと眠っている。


「ぁ…リッ……カ?…あなた誰ですか?」


 変なことを聞いで見る。

 目の前にいる女性は、先程までいたマジシャンの女の子ではない別人に見えたからだ。


「へ?何言ってるんだい君は?」


「いや、いつもの印象とはかけ離れた人物が…」


「あぁ、ちょっとそこに湧き水が出てるところがあったからね。マジシャンの化粧落として来たのさ」


「あぁ、なるほど」


 目の下のスペードと三日月のマークは外され、特徴的だった大きなシルクハットも傍に置かれていた。

 首元で束ねていた長く青い髪の毛は、外の風で優しく揺れ、とても幻想的な光景が出来上がっていた。


「どうしたんだい?いつもの違う僕に見惚れてたのかな〜?」


「〜〜〜ッ!うっせ!そんなことあるか!」


「あれ?図星?何だ、可愛いところあるんだね」


 リッカは俺のところに近寄って来た。

 恥ずかしさで顔を背けた俺の顔を覗こうと体を近づけてくる。


「あっれ〜?赤くなってるの?」


 ついに体は密着し、リッカの顔は目の前に来る。

 ほのかに香る石鹸の香りに、女性特有の柔らかい体が、俺の鼓動を盛大に打ち鳴らす。

 リッカが俺の心臓のある位置に耳を当て、更に体を密着させて来た。


「ふふ、ドキドキしてるんだね」


 この人物は本当にさっきまで一緒にいた女の子なのだろうか。

 いつもとは違う艶やかな声で俺に話しかけて来る。

 細く長い指で俺の体に手を当てる。


 そしてとうとう心臓の鼓動で呼吸ができなくなった時に、ふと、リッカの顔が目に入った。

 白い肌をりんごのように赤くし、胸からは俺と同じくらいの早さの鼓動が聞こえて来た。


「は、恥ずかしいんだったらやるなよな」


「う、うん。そうだね……」


 俺がそう言うと、リッカは離れ、さっきまで座っていた座席に戻った。


「なんでいきなりあんなことしたんだよ」


「いや、ちょっと仲良くなろうかなと思ってさ」


「何で?」


 するとリッカは若干潤んだ瞳でこちらを見て来た。


「ごめん、僕…その…嫌われてるのかな?と思って……」


「えっ!?いやいや全然そんなの思ってねぇし!!」


「だって君はマナーちゃんには優しくするのに、なぜか僕には厳しくて……」


「あぁぁぁあ!何やってんだ俺!馬鹿か俺!」


「だから…ちょっと壁があるのかなって……」


「無い無い無い!壁なんてない!ごめん!全部ふざけ半分でやっていたことでした申し訳ございません!」


「……本当?」


「本当本当!」

 

 リッカが泣き出しそうな顔で俺を見つめて来た。

 何と言われるとか身構えていると、いきなりリッカは表情を変え、俺に笑った。


「なんちゃって!」


「……は?」


「僕があんなキャラなわけないじゃないか!演技だよ演技!え、何?悪いことしちゃったな…何て思っちゃった!?」


「え、えぇ〜……」


 明るく笑うリッカに、今まで騙されてきた怒りなんて湧いてこなかった。

 やっぱりリッカは笑ってるのが一番だな、何て思った。


 するとリッカは少し笑いながら聞いてきた。


「ねぇ、君の名前聞かせてよ」


「え?知らなかったっけ?」


「うん。知らない。僕は君から名前は聞いてないよ」


「そうだったっけ?」


「そうさ。ぼくは名乗ってるのにねぇ?」


「そうか…んじゃ、ここは一つ名乗って見ますかね!」


「うん」


「俺はカグラ・タダヒロ。これからもよろしくな!」


 俺は立ち上がり高々とリッカに言う。


「うんうん。これで入りたくも無かったパーティーでも楽しくやっていける気がするよ」


「な!お前まだ根に持っていやがったのか!」


「ふん!僕が死ぬまで言い続けるからね!」


「えぇぇ〜!」


 リッカは少し俺に顔を近づけて言った。


「僕の名前はリッカ・アラマチルダ。こちらこそこれからもよろしくね」


 その時のリッカの笑顔は、ちょっとびっくりするくらい可愛かった。




 ◇




「……っはー!?…なんだ夢か……」


「ん?どんな夢見てたんだい?」


「いや、なんかリッカが積極的で…」


「ふーん」


「あ、そういえばお前、俺の名前知ってる?」


「知ってるけど…そういえば君からは聞いてないなぁ」


「ふん、そこは夢と同じなのか。良いだろう自己紹介だ!俺の名前はカグラ・タダ「うるさい」ヒロ……」



















 夢と現実は違うようだ。


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