紐解
私は、いつになれば理想の自分に追いつくのだろうか。焦らなくても、彼は逃げない。そういった安堵が一番危険なこと、分かっているのに制御できない。私はこのまま、遠くの存在である彼に耽溺していくのだろうか。
彼と出会った今、私の人生は大きく変わろうとしている。彼との出会いは、二千二十六年、十八の夏がもう始まるといった頃。その頃は、何かに追い詰められていた。知らないどこかへ、知らない誰かのもとへ、逃げたかった。自分をみせず、相手をみず、楽でありたい。そんな中途半端な生き方を、そのときの私は望んでいたのだろう。
この感情が、彼を、私のもとへ連れてきた。いや、連れてきてしまった。
知らない彼と声を繋げた。
「こんばんは。初めまして。」
初めて聴く声。これまで私が関わっている人物と、彼の声は似ても似つかなかった。こんなにも当たり前なことで、私の心は澄んだ。そして私は、私が描く理想の世界へと足を踏み入れた。
知らない彼の人生を覗くのは楽しかった。
彼は今日までに三十二年生きてた。にも関わらず、私は彼に似ていた。そして、彼は私とは違った。通りで面白い。どうしてこんなに同じで違うのか。私は彼に興味が湧いた。とはいえ、彼との時間は期限付きだ。いつもそうして来たから。期限を設けて相手の紐を解かないように、いや、自分の紐が解けないようにしているのだ。それが私の生き方だった。
しかし、彼は正直変だった。彼はすぐに私の思考を悟っていた。本人にとっては、気づかないほどちっぽけなことだ。それが私にとっては、全て初めての感覚だった。紐を固く縛った私と、程良い距離を保てるよう警戒していた。それを私は、彼の優しい生き方なのだと捉えた。十四年の差はそこまで大きいのだろうか。
いや、きっと彼だからだ。そんな真っ直ぐな感覚が、私の彼への好奇心を止めなかった。私は、彼を弄んだ。十四年の差は半分に縮めた。この行動は、早く歳を取りたかった私が何度も想像し、追い求めた理想の自分を演じることへと繋がった。単に偽る自信があるどころか、寧ろこれが本当の自分なのではないか、彼と話しているときだけは、本当の自分でいられるのではないかとまで思った。その有り得ない嘘を抱えたまま、私は七年先の理想の自分を演じ、彼の警戒心を解いていった。
そこからは、彼を振り回してばかりだ。もうすぐ一年が経とうとしている。物語にはいつか終わりが来る。これは、理想・愛着・自責を抱える当事者である私が書く現在進行形で得ている人生談だ。どうか、この物語の終着点を、見届けて頂きたい。




