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蝿獲り少女(突発短編)

作者: 芋@桜花

ぐちぐちゃと少女はぬかるんだ足元を歩く。足下を蹴るその体は痩せこけた山羊のように細く、だが揺らぎもせずその不安定な足元を歩く。


その薄汚れた姿を水で洗い流せば少しは映えるであろうその細面には、土くれともいえないものが付着していた。己の美醜など何一つ気をかけることなく少女は歩く。元は町娘が好んで着るであろう青のタータンチェックが腐食したようなスカートを翻し。


ぐちぐちゃと少女はぬかるんだ足元を歩いていた。


枯れ果てた老婆のように節ばったその手には、子供が駄菓子をつめるような小さな袋。これだけは放してなるものかとばかりにくしゃくしゃになるまで握りこまれた袋は、カサカサと音を立てながら少女に運ばれていた。


少女の足には迷いが無い。ただただ真っ直ぐ、どちらの方向を確認する事も無くひたすらに進む。まるで元から目的地など無いかのように。


少女の歩く地の入り口から二、三分も経ってはいないであろう。ぶれることなく歩を進めていた少女は足を止め、そのぬかるんだ足元にしゃがみこんだ。

握り締めていた袋の口を開け、何かを詰め込むように袋の口を巻く。折れ曲がった口に両手の親指と人差し指をかけ、入れ口を大きく広げた。


それから少女は何をするとも無く、ただただその場にしゃがみこんでいた。くぼんだ眼を皿のように広げ、先ほどから少女の耳に届いていた音に集中して。


ブンブンブンブンブン……ヴゥオンヴィオンヴィオン…………………


少女の周りを、いや、少女の居る地全体をイナゴのように飛び回っている、虫。そう、少女のたたずむぬかるんだ場所には耳割れがするほどの虫が群生していた。

気を狂わさんと言わんばかりの羽音。少女はその羽音をただただ聞き、広げた袋を構えている。しゃがみこんだ先の、ぬかるんだ蠢く塊。その先をじっと見つめて。


……ふ、っと硬直を続けていた少女が動く。パサリ、と袋を塊につけて、数秒。広げていた袋の口を閉じて中に入っていた虫、蝿を確認する。

何の変哲も無い、黒く煤けた、赤眼で透明な羽根を持った蝿。少女はそれを確認すると、再び口を広げてその蝿を飛び回る群れの中に返した。


一つ、ため息。


失望紛れのそれから逃げ出すように飛び立つ蝿を見ることも無く、広げた袋の淵をまた折り曲げ、少女はまたしゃがんむ。


少女の動きに飛び去っていた蝿もまたその場所に戻り、ちりちりと髪の毛のような手足で顔を洗っていた。警戒して動かない蝿は無視して、こそこそと動き回る蝿がいる塊にまた袋を落とす。

今度は数匹入ったその袋を確認して、少女は満足そうに頷いた。土くれともいえないそれが付着した顔に、果実がつぶれたような笑みが浮かぶ。

袋の口をしっかりと結び、少女はまた握り締めた。中でボツボツと壁にぶつかりながら飛び回るそれを握りつぶさぬよう、注意して。


少女は後ろを振り返り、またただただ真っ直ぐ歩き出す。ぐちぐちゃとぬかるむ足元を踏みしめて。入り口を出口と定めて、ただ真っ直ぐと。

腐臭漂うその足元のから、一斉に蝿がまた飛び立つ。飛び交う蝿を振り払う事もせずに、少女は腐食したスカートを翻し、歩き続けた。




飼い犬が瀕死で、枯れの周りには蝿が飛び交っていた。あの子は、まだ生きてるのに。鬱陶しくて、蝿を袋で捕まえて殺虫剤で殺しても、いくらでも湧いてきて。

そんな、げんなりした泣きたい状況から、ふと湧いた。


少女はそれを売るのか、育てるのか、つぶすのかどうするのかそれすら分からない。

死体をただ遺棄された世界で、少女はただただ蝿を取る。

夢も未来も何もかも、全く先も見えないで。

ただただただただひたすらに。

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