ーー第7章 「女神の願い」ーー
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そして、再び訪れた大きな樹の前にてーー
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ひと「戻ってきましたね……
……女神さまがいるところへ」
□□「……そうですね
あなたのおかげで、聖域への道は開かれています」
□□「……ようやく、戻ることができました」
ひと「……?
……戻る……?」
□□「……これで、私と……
いえ、もはや……彼女、ですね……
…………
……彼女と、向き合うことができます」
悪魔「……お力は、戻りましたか……?」
□□「……はい
……悪魔さんのおかげで、
ようやく……この子に、全てを伝えることができます」
□□「…………っ
これまで、私を支えてくれて……
本当に……ありがとう」
悪魔「……っ!
……天使さん……いえ、女神様……」
ひと「…………!
……女神、さま……!」
悪魔「…………
まだ、これは……始まりですよ
お互いを労わるのは……全て、終わってからにしませんか」
女神「……!
そうですね……
では……その時まで、よろしくお願いします」
悪魔「……はい……
……女神様には、本当に……感謝しています」
悪魔「……あなたと出会った、あの時……
あの……約束をした時から、私は……
本当の意味で、始まったのですから」
ひと「…………
……やっぱり、天使さんは……
……女神、さま……だった……」
ひと「でも……約束……?
……約束ってーー」
女神「ーーなんでも、ないですよ
……それよりもーー」
女神「ーーいまから、あなたに私の力を送ります」
ひと「…………!」
女神「……私は、あなたと繋がっている
…………
あなたの……
『ひと』の力が、大きくなることで……
……失っていた私の力も、取り戻すことができました」
ひと「……!
……私の力が……女神さまの……」
女神「……ありがとう
今度は……私が、あなたにお返しをしますね」
女神「……私の力を吸収して、思い出してください……」
女神「あなたの中に眠る……私の記憶のすべてを……
…………
もう二度と……世界の崩壊が起こらないように」
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そして、女神の記憶へーー
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ひと「……!」
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この世界は……
……ある一柱の女神の手で、創られたことから始まります
……世界創造後、女神は自身と同じく、
陰と陽の心を持つ『人間』を生み出し、見守り続けました
陰の心は、自分のことを考える心……
……陽の心は、誰かのことを考える心……
それらの心を併せ持つ人間は、
時に自分を助けようと、時に誰かを助けようと、
……考え、行動し、繁栄していきます
しかし、女神は悲しんでいました……
……どれだけ繁栄しようとも、
人間の争いが……無くならないことに
……争いが起こると、多くの人間が消えていきます……
その度に、女神のもとには人間たちの想いが……
……最後の想いが、届くのです
「消えたくない」という想い……
……大きく強い陰の心になりえる、純粋で危うい想いが……
……そして、あの時が来ます
人間の想いを、受け止め続けた女神の心が……
……膨れ上がる、想いに……
「消えたくない」という想いに……耐えられず、
……想いの暴走を起こしたのです
……想いを暴走させた女神は、
心を飲み込まれ、押し潰されそうになりました……
さらに内だけではなく、外も……
……姿かたちも、変わっていったのです
……かつての人間たちが、化け物と呼ぶような姿に……
女神は、恐怖しました
……だから、残っている力をどうにか振り絞り、
変わりゆく自分を……「消えたくない」という想いに、
満たされてしまった、陰の心を……切り離した
そして、女神は……二柱の女神に、分かたれたのです
創造主である女神の変化は、
……創造物にも、影響を及ぼしました
……人間は、天使と悪魔に分かたれ、
世界は……不安定な女神を映すかのように、
崩壊を始めたのです……
……女神は嘆きました……全て、私が悪いのだと……
しかし……誰が、何を感じようと関係なく、
生まれ落ちた命は……天使と悪魔は、大きく育っていきました
……だから、女神は……
嘆きながらも、見守ることはやめなかったのです
だけど、それは……逃げていただけ、なのかもしれません
自身がしてしまった、行いの重さから……
そして、時が止まったかのように眠り続ける彼女……
……切り離してしまった、もう一人の自分から……
女神は見守る中で、あることに気付きます
天使と悪魔が、人間にはなかった力……
……かつての人間たちが、
魔法と呼ぶような力を……持っていることに
天使と悪魔の世界で……心は、力となったのです
……陽の心は、陽の力に……陰の心は、陰の力に……
その力を使いながら、
崩壊する世界であっても、天使と悪魔は……
……平穏に過ごしていきました
……女神は、その光景を見て、
少し……救われるように感じていたのです
しかし、逃げた先に待っていたのは……
……さらなる絶望でした
天使と悪魔の世界で……
新しい命が生まれることは、一度もなかったのです
……さらに、
天使は心を失い、悪魔は他を否定するようになり……
……天使と悪魔の争いが、起こり始めた……
……そして、ある時……女神は思い知るのです
自身の行いの影響を……
……世界に、もたらしてしまったものを……
ある戦いの中で、消えゆく悪魔が叫び声をあげました
……そして、姿かたちが変わっていった……
……かつての、想いを暴走させた女神のように……
それは、悪魔だけではなく……天使にも起こったのです
女神は、再び恐怖しました
かつての自分を思い出し……
……そして、思わず……見てしまった
……目をそらし続けていた、眠り続ける彼女を……
その時……彼女の瞼が、少し動いたのです
女神は驚き……そして、気付きました
……その瞬間、新しい命が生まれたことを
……天使と悪魔の世界で、
新しく『ひと』が……希望が生まれたことに
そして、女神は……奇跡を起こし、
消えようとしていた……天使を依り代に、
希望を守ろうとします
……天使を依り代にしたことで、
女神は、天使と悪魔の……想いの暴走のきっかけを知ります
……それは、かつての女神と同じでした
あの想いが……暴走を引き起こしていたのです
……「消えたくない」という、純粋な想いが……
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……世界のすべてを知った、ひと……
……そして、明かされる……『女神の願い』とはーー
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ひと「…………っ!
……女神さま、あなたは……」
女神「……はい
……私は、陽の女神……
分かたれた……女神の片割れです」
ひと「……!
……陽の、女神さま……!」
ひと「…………
……お母さんは、知っていたの……?」
悪魔「……うん
知って……いたわ」
悪魔「……あなたを授かった時……
…………
私と、天使様の力を……
あなたは、吸収してくれた」
ひと「…………!
……生まれた、ときに……?」
悪魔「……そのおかげで、
私は……暴走を抑えることができたの」
悪魔「……でも、
力の強かった天使様は……暴走、してしまった」
ひと「…………っ!」
悪魔「……そのときよ
女神様にお会いしたのは……」
悪魔「…………
女神様は、天使様を……
……天使様の心を、救ってくださったの」
ひと「……!
……女神さまが、お父さんの心を……」
ひと「……なら、やっぱり……
…………
お父さんの……天使の記憶を思い出すとき、
混ざっていた、記憶はーー」
女神「ーー私の記憶です」
女神「……親から子へと受け継がれた、
彼の記憶に溶け合わせることで……
……あなたに託しました」
ひと「…………!」
女神「……しかし、記憶を呼び起こすためには……
……私の力が足りなかった」
女神「…………
……器のない彼の心を、安定させるために……
ほぼ全ての力を、使っていたのです」
ひと「……!
……お父さんの、心を……!」
女神「……聖域に戻れば、
力を回復することができたのですが……」
女神「……陽の力しか持たない私には、
聖域の入口が開かれることは……なかった」
ひと「…………!
……それで、私の力が……必要、だったんですね」
ひと「…………っ
……でも、なんで……
何も……言ってくれなかったんですかっ……?」
女神「…………っ!
……それ、は……」
悪魔「…………
……女神様にはね、ある願いがあったの」
ひと「…………?
……女神さまの、願い……?」
女神「…………!
……悪魔さん、それは……」
悪魔「……大丈夫です
今の、この子なら……大丈夫」
女神「…………
……っ……
……そう、ですね……」
ひと「……?
……女神さま……?」
悪魔「……私が、伝えるねーー」
悪魔「ーー女神様には、ある願いがあった
……その願いのために、
天使さんとして……私たちの傍にいてくれたの」
悪魔「あなたを混乱させないために……
……女神様があなたに、影響を与えすぎないように」
ひと「…………?
……私、に……?」
悪魔「……そうよ
あなたが……女神様のことを知れば……
この、世界の……創造主だって知ったらーー」
女神「ーー私の言葉を、行いを、想いを……
……全て正しいと、そうしなければいけないと……
……思い込んでしまうかも、しれない……」
ひと「…………!
……それは……」
悪魔「……これから、生きるあなたには……
新しい世界で……生きる、あなたには……」
悪魔「…………
……私ではなく、あなた自身の考えで、
自分の道を歩んでほしいーー」
悪魔「ーーそう、願っている……
……でしたよね、女神様」
女神「……!
……その、通りです……」
ひと「…………!
……っ……
……私の、考えで……」
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『女神の願い』を、ひとは知った……
……その願いを受け止めている時、悪魔が倒れてしまうーー
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悪魔「…………っ!
……ぅ……
……また……」
女神「…………っ
……今度は、尾が……生えてきている……」
ひと「……っ!
……お母さんっっ!」
悪魔「……だいじょう、ぶ……
……あんしん、しちゃった……だけ、だから……」
悪魔「……やっと……あなたに……
……めがみさまの、ねがい……を……
……おもい……を……つたえ、られた……から……」
ひと「…………っ!
……おかあ、さんっ……」
ひと「……うんっ……!
ちゃんとっ……受け取った、よ……!
……女神さまの想い、ちゃんと……受け取ったからっ……!
私っ……受け取れたからっ……!」
悪魔「…………っ!」
女神「……っ……
……悪魔さん、私の代わりに……
……いまだに怖い、と思ってしまっている……私の代わりに……
この子に……伝えてくれて、ありがとう……」
悪魔「…………!
……よかっ、た……」
悪魔「……ぅ……
……でも……すこし……
……すこし、だけ……
つかれ、て……しまいました……」
ひと「……っ……!」
女神「…………っ」
悪魔「……だか、ら……
……やく、そくの……ために……
……すこし、だけ……やすみ、ます……ね……」
女神「……っ
……はい……
……休んでいて、ください」
女神「…………
……後は、私が……」
悪魔「……おねがい……しま、す……」
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悪魔のさらなる変化を目にして、女神とひとは……
……決意を、固めるーー
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女神「…………っ
……もう、時間がありません」
ひと「…………っ!
女神さま……どうしたらっ……」
ひと「……っ
お母さんが……どんどん、変わって……
……彼らに、近づいてる……よっ……」
ひと「……っ……
……私はっ……私は、どうしたらっ……
……なにが、できるのっ……」
女神「……っ……
…………」
女神「……悪魔さんを救うために、
あなたにしか……出来ないことがあります」
ひと「…………!」
女神「……あなたには、女神を……
私と彼女を、一つに戻してほしい」
女神「…………
……吸収の力を使って」
ひと「…………!
……吸収の力……」
女神「その力は……生きたいという、
強い想いが……形になったもの」
女神「……多くの命が消えていく戦場で、
あなたは生まれました……」
女神「…………
生まれたばかりの……弱く、儚い命……
……だからこそ、他の力を己の糧とする……
……吸収の力が、目覚めたのです」
ひと「…………っ!
……燃えている……
……あの、怖い……夢……」
ひと「……それだけじゃない……
…………
……あの、戦いの中で……
……お父さんと、お母さんが……出会ったんだ……」
女神「……あの夢は、あなたの……誕生した瞬間です」
女神「……あなたが怖いと感じるのは、
その感覚を忘れなかったのは……」
女神「…………
……生きたいと、強く願っていたから
……それが、力の源ーー」
女神「ーーかつての人間には、無かった力……
…………
……世界の創造主である女神が、不安定だからこそ……
……生まれた、あなただけの……力」
ひと「…………!
……わたし、だけの……」
女神「……私一人では、大きすぎる陰の力を持つ彼女と……
……混ざり合うことが、できません……」
女神「…………っ
……だから、どうか……
あなたの力を、貸してもらえませんか……?」
ひと「……っ……!
……わかり、ました……」
ひと「…………
世界の崩壊を防ぐ……
……それが、私にしかできないなら……」
ひと「……それに、お母さんを……
私の居場所を……私たちの世界を守るのが……
…………っ
……最初から、私の中にあった……
心から、やりたいことですからっ……!」
女神「……っ!
……ありがとう」
女神「…………
それでは、向かいましょう
……彼女の……陰の女神のもとへーー」