ーー第6章ーー
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ーーひとの言葉は、遮られた
……再度轟いた、叫び声に……
またしても、
世界を存在から震わせるような、
小さくとも、確かな叫び声が轟いたのだーー
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ひと「ーーっ!?
……また……?」
天使「……!
……これは、天使の暴走……
…………っ
……あの時と、同じ……」
ひと「……?
……あの、時……?」
悪魔「……あなたが思い出した、
戦いの時……よ」
悪魔「……あの戦いの中で、
悪魔と天使は、暴走してしまったの……
…………
そして、戦い続けた……傷つき、眠りにつくまで」
天使「……悪魔の暴走が、
天使にも影響を及ぼしたんだ……
…………
暴走した天使は、悪魔を滅ぼそうとする
……自分たちが生き残るために」
ひと「……!
……生き残る、ため……」
天使「っ……!
……こっちに、近づいてきてる……」
悪魔「……っ
…………
……天使……様……」
ひと「…………っ!
……えっ……!?」
ひと「…………
その、呼び方って……まさかっ……
……まさか、お父……さん……?」
悪魔「っ……!」
悪魔「…………
……いいえ、あれは……
天使様の器……だったもの……」
ひと「……!
……お父さんの……!」
天使「……っ
……でも、あの器に……
心は……残って、いないんだ」
ひと「……っ……!
……心が……」
悪魔「……天使さんの言う通りよ
…………
……もう、あの方では……ないの」
ひと「…………っ!」
悪魔「…………っ
……だから……
……だから、ね……
今まで通り……終わらせて、あげましょう……」
ひと「……っ……!?
…………でもっ…………
今は……違うとしてもっ……」
ひと「…………
……お父さん、だったんだよね……?」
悪魔「…………っ
……それ……はっ……」
ひと「……っ……
それを……私が、終わらせるなんてっ……」
ひと「…………
……でき、ない……
……出来ない……よ……」
天使「…………っ
…………」
悪魔「……っ……
……天使、さんーー」
天使「ーー大丈夫
……僕の、番だ……今度は僕が、この子をーー」
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……天使が決意を固めたとき、
悪魔の体に、異変が起きるーー
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悪魔「…………っ!?
……うぅ……」
ひと「……っ……!
お母さんっ……?」
ひと「…………っ!?
……それ、は……なに……?」
悪魔「…………っ
……ぅ……あたま、がっ……頭が……痛い……」
天使「……っ!?
角が……生えて、いる……!」
ひと「…………!
……角……
…………っ…………
にて、る……暴走した、彼らにっ……!」
天使「…………っ
受け取った力の……
……暴走した、力の……影響っ……!」
ひと「……っ!?
受け取った……?
……暴走の、力……?」
ひと「っ…………!
……まさ、かっ……」
天使「……っ……
……そう、だよ
さっきの、暴走した悪魔の……時だ」
ひと「…………!」
ひと「……っ
……目が、覚めたとき……
苦しく……なかったのは……」
ひと「…………っ
……お母さんが……苦しんで、いたのはーー」
悪魔「ーーぅ……
……だい、じょう……ぶ……」
ひと「……っ!
お母さんっっ!」
悪魔「…………っ
……だい、じょうぶ……だから……
…………
……あなた、は……なにも……
……わる……く、ない……の……」
ひと「っ……
……でもっ……!」
天使「……っ
…………彼女なら、大丈夫」
ひと「…………!
……天使、さんっ……」
天使「……っ……
…………」
天使「……聖域に行けば、彼女を救える……
女神の……力が、あるから」
ひと「……!
……女神さまの、力が……」
天使「……今は、彼女を休ませてあげよう
…………
まだ……大丈夫なはずだから」
ひと「…………っ
……はい」
ひと「……お母さんっ……
…………っ
今は……休んでて……」
悪魔「…………
……ごめ、んね……」
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悪魔が倒れる中……
残された天使とひとに、
以前として近づいてくる脅威があった
…………
……ひとの父親の器……
暴走した、最も強い天使だーー
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ひと「…………っ!
……おとう、さん……」
天使「…………
……やっぱり、出来ないかい……?」
ひと「…………っ
……はい……
……出来ない、です……」
ひと「…………
ずっと……会いたかったのに……
……会えるって、信じてた……
……私の、大切な……お父さん、なのに……
…………っ
……なのに、私が……終わらせる、なんて……」
天使「…………っ
…………」
天使「……一つだけ、聞かせて
……君の、心を……」
ひと「……っ!
……天使、さん……?」
天使「……今まで、君は……」
天使「……君は、何を思って、
天使や悪魔たちを……終わらせてきたんだい?」
ひと「……っ……!
……それ……は……
…………
私にしか……できないこと、だから……」
天使「……それだけでは、ないはずだよ
…………
……彼らの力を吸収するとき、
君は……いつも……
いつも『楽にしてあげる』……と、言っていた」
ひと「…………!」
天使「……誰にも教えられていないのに……
…………
それは……どうして?」
ひと「……っ!
…………
……私……は……」
天使「……もう、君は……
答えを、知っているはずだよ
…………
前に……教えてくれたじゃないか」
ひと「……っ!
…………っ
……苦しそうに、見えたんです……」
ひと「……心を失っても、動き続けている器が……
…………っ
だから……だからっ、楽にしてあげたいと……
……そう……思ってーー」
天使「ーーそれが、
君の心が出した……君だけの答えだよ」
ひと「っ……!
…………
……私の、心が……」
天使「……君の手で、
彼の器を……楽にしてあげてほしい
……この力を使ってーー」
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天使が、ひとに渡した力……
……その力は、ひとを包み込んだ
暖かく……まるで、抱きしめるようにーー
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ひと「ーーっ……!
…………
暖かい……この力は……」
□□「……っ……
…………」
ひと「…………?
……天使さん……?」
□□「……大丈夫、です
それよりも……心は、決まりましたか?」
ひと「……っ
……それ、は……」
□□「…………っ
……ごめんなさい
…………
あなたに……一つだけ、伝えます」
ひと「…………?」
□□「…………
彼の器の力を、吸収すれば……
……聖域への道は、開かれます」
ひと「…………!?
……っ……
……それ、はっ……」
□□「……そして、彼女には……
……時間がない」
ひと「…………っ!
……おかあ、さん……」
□□「……今は、少し落ち着いていますが……
いつまで耐えられるか……分かりません……」
ひと「…………!」
□□「…………っ
本当に……ごめんなさい」
ひと「…………っ」
□□「……っ……
…………
改めて……尋ねます
……心は、決まりましたか?」
ひと「……っ……
…………はい」
ひと「…………っ
私は……私の心に従って、
お父さんを……楽にして、あげます……」
ひと「……それが……
……っ……
それが……私の心、なら……
…………
……私は……私の道を、進みますっ……」
□□「……っ
……ごめんなさい
……ありがとう……」
ひと「…………っ
それに……お母さんを、守るには……
……大切な存在を……
大切な、居場所を守るためには……
……っ……
進むしか……ない、からっ……」
□□「……っ……
……そう、ですね……」
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そして、暴走した父親の器との戦いの後ーー
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ひと「(…………
……これは、私の我儘だ……
もしかしたら、お父さんを本当の意味で救う……
……生かすことができる道も、
あったのかもしれない)」
ひと「(でも……それでも……
……私は……
苦しんでいるように見える、お父さんを……
……見たく、なかったんだ……)」
ひと「(…………
……それに……お母さんを、守るには……
私の……大切な居場所を、守るためには……
……やるしか……ないんだ……)」
ひと「(…………っ
それが……私の心が出した、
……私だけの、答え……
だから……
……たとえ、お父さんに恨まれるとしても、
私は……私の道を、進むね)」
ひと「……っ
……お父、さん……
…………
……いま……楽にして、あげるからっ……」
ひと「……!」
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心を失った天使たちは、戦いに明け暮れた……
悪魔を滅ぼすための……戦いに
天使も悪魔も、理解していたのだ
お互いに何も変わらず、
このまま存在し続ける限り……
……世界の崩壊が、止まらないことを
……幾度かの戦いを経て、
悪魔は……追い詰められていく
そして、ある戦いの最中、
追い詰められた悪魔は……暴走する
……その力は凄まじく、
天使たちは、次々と消されていく……
ーー僕も、消えようとしていた……
……その間際……怖く、なった……
……久々に感じる心に……感情に、僕は……
僕は、どうすればいいのか分からず、
……ただ、求めた……安らぎを……
……この恐れを塗りつぶし、覆い隠してくれるものを……
初めて……種族ではなく、自分のために……動いた
……そして、出会う……暖かな闇にーー
ーー戦いはその後、
追い詰められた天使までも暴走した……
……そして双方が傷つき、
眠りにつくまで続いたというーー
ーーその戦いを、私は見ていました
……すべて、私が悪いのだと嘆きながら……
もう……どうしようもないのだと、諦めながら……
……しかし、
戦いの中で……私は、奇跡を見ました
……新たなひとの誕生を……
終わりゆく世界で、
一度も……生まれることのなかった、
……新しい、命を……
私は、嘆くことを……諦めることをやめて、
この奇跡を守ろうと、決意しました
……そして、奇跡を起こし、
消えようとしていた……天使の心を依り代に、
私は……あなたの傍にいる
あなたを……君を、守るためにーー
*******
*******
ひと「……!?
……これは……いつもと、違う……?」
天使「……終わらせてくれて……ありがとう……」
ひと「…………っ!」
ひと「……っ……
……もし……かしてっ……」
天使「……君が納得して、選んだ道……
君だけの道を……僕が、恨むことはないよ」
ひと「っ…………!
…………
……おとう……さん……?」
天使「君が……
……君の意思で、生き続けていることが……
僕にとっての……何よりの幸せ、なんだから」
ひと「っ……!
……おとう……さんっ……
……お父、さんっ……」
天使「……だから、これからも……
君は……君の思うままに、
生きていてほしいと、願っているよ」
ひと「……お父さんっ……!
まって……
……まって……よ……」
天使「……いつでも……いつまでも、
……君の力となり、君を見守ると誓う……
…………
……愛して、いるよ……」
ひと「…………っ!
お父……さんっ……
……っ……
……私、もっ……
……私もっ……お父さんのことをーー」
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そして、父親の想いを受け止めた後ーー
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ひと「ーー愛してるっっ!」
ひと「……っ!
…………っ」
ひと「…………
……お父、さん……ありがとう」
悪魔「…………
……会えた、のね」
ひと「…………っ!
……おかあ、さんっ……!」
悪魔「……大丈夫よ
少し……落ち着いたから」
ひと「……っ
……よかっ、た……!」
悪魔「ごめんね……心配、させて……
……今は、大丈夫だから」
悪魔「……でも、それよりも……
…………っ
あの方に……天使様に、会えたんだね」
ひと「……うん、会えた……
…………っ
……いつでも、私を見守っていると……
愛している……って、伝えてくれた……」
悪魔「……っ!
……天使、様……!」
悪魔「…………っ
…………
□□様……ありがとう、ございました……!」
□□「…………っ!
……良かった、です……
彼の想いを、伝えることができてーー」
ひと「ーー!
……やっぱり、あれは……
記憶じゃ……ないんだっ……!
…………っ
……天使さんは、分かっていたのですか……?」
□□「……はい
……彼の心は、器がないと……
……目覚めることは、なかったのです」
ひと「……っ……!」
□□「……だから、あなたに託した
……彼の心……彼の力を……」
ひと「……!
……あの……暖かい、力……」
□□「そして、あなたは……器の力を吸収しました
…………
……あなたの中で、
彼の心と器が揃い……目覚めたのです」
ひと「…………っ
……だから……天使さんは……」
□□「……器は、暴走している不完全なもの……
長くは……もちませんでしたがーー」
ひと「ーー……っ!
…………
……長くは……なくても、
会えてっ……凄く、嬉しかったですっ……!」
□□「……っ……!」
ひと「……天使さんっ……!
……ありがとう、ございましたっ……!」
悪魔「ーー私からも、
何度でも、お礼を……言わせてください……!」
悪魔「……この子に、
あの方の……天使様の言葉を……
…………っ
……想いを伝えてくださり、
ありがとうございました……!」
□□「…………っ!
…………
こんな私でも……あなたたちのために、
できることがあって……本当に、良かった……」
ひと「…………!
……天使さん……あなたは……
…………
聞いていいのか……分からない、ですが……」
□□「……っ!
…………」
ひと「……もしかして、あなたはーー」
□□「ーーさて、
……これで、力は十分でしょう
行きましょうか……あの場所へ」
ひと「…………っ」
□□「……ごめんなさい
……っ……
あなたの今の問いにも……
……いえ、それだけではなく……」
□□「……この世界が、
なぜ……今の状態になってしまったのかも……
…………
これまでのことを、全て……伝えましょう
……始まりの場所でーー」
ひと「…………!
……始まりの、場所……?」
悪魔「……あの、大きな樹の……
……女神様が居る、聖域のことよ」
ひと「……!
……女神さまの、聖域ーー」
□□「ーーだから今は……
……ついてきて、くれませんか……?」
ひと「……っ
……わかり、ましたーー」