ーー第4章ーー
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そして、また……
ある天使との戦いの後ーー
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ひと「いま、楽にしてあげるからね」
ひと「……!」
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天使は、個より全を優先する種族だ
最初は、誰もが種族全体のことを考え、
他を助け、思いやり、平和な世界を築いていた
その思いやりは、
ときには悪魔にまで、向けられていた
しかし、光は強すぎると、
翼をも焼き尽くしてしまう
全を優先するあまり、
個の自由がなくなり、次第に自我が失われていった
そして……
天使は、種族存続のみを行動原理とする、
……心のない器となった
このことが、世界崩壊への歩みを加速させる
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ひと「……天使、さん……」
天使「……!
また……思い出したかい?」
ひと「はい……
でも、気になることがあって……」
ひと「みんなの幸せを願うのは、
……悪いこと、なのでしょうか……?」
天使「……っ!
……天使たちのことを、思い出したんだね」
天使「…………
みんなの幸せを願うことは、
決して悪いことではないよ
……むしろ、良いことだ」
ひと「……っ!
じゃあ、なんで……天使のみなさんは、
心を失ってしまったのですか……?」
天使「それはね……
……個の幸せを考えなかったから、だよ」
ひと「……?
……個の、幸せ……?」
天使「…………
……誰もが自分ではなく、みんなの幸せを願う……
……素敵なことだけど、
その思いが強すぎると……自分の犠牲を厭わなくなる」
天使「……自分を犠牲にしてでも、
みんなを幸せにする……
その結果、みんなが幸せなのに……
……自分は、壊れていく」
天使「……そして、気づくんだ
…………
みんなの中に……自分がいないことを」
ひと「……!
…………」
天使「……みんなと自分は違う……
…………
この事実に耐えられず、
みんなと同一になろうと、
……自分を殺していく……」
天使「その果てにあったものは……
……個の心の消失、だったんだ
…………っ
……少しでも、
自分の幸せを考えていれば……
心を失うことは、なかったはずなのに……」
ひと「…………!
…………っ
……天使さんも、
心を、失ったのですか……?」
天使「……失くしたよ
でも、君が悲しむことはないんだ
…………
彼は、穏やかな闇と……
……彼女と出会えたことで、
救われたのだから……
そして、私も……」
ひと「……?
彼、私ってーー」
天使「ーーっ……!
ごめんね……
…………
……なんでも、ないんだ」
天使「……すでに、私は救われている……
だから……大丈夫だよ」
ひと「……っ……
…………
……はい……」
天使「…………っ
……心配してくれて、ありがとう
…………
君がいてくれる……それが、私の救いなんだ」
ひと「……っ!
……私が、天使さんの……救い……?」
天使「……そうだよ
だから、何度でも伝える
…………
……ありがとう
君がいてくれて、本当に良かった」
ひと「…………!」
天使「……今は、
話せないことばかりで……
……無理をさせて、ごめん」
ひと「…………っ」
天使「でも、忘れないでいてほしい
……私がどんな思いを持っていようと、
君の歩む道は……君にしか決められない」
ひと「……っ!
……私しか……」
天使「だから、私は……
……何よりも、私は願っているんだ
…………
君が心を失わぬように、自分の幸せ……
……君がやりたいことを、探し続けてほしいとーー」
天使「ーー誰に強制されるでもない、
君自身が選ぶ道を……歩んでほしい」
ひと「…………!
……私が、したいこと……」
ひと「…………
……すくなくとも、今は……
今の私が、したいことは……
…………っ
……天使さん、そしてお母さんと一緒に、
世界の崩壊を防ぐこと……です……!」
天使「…………っ!
……うん、そうだったね」
天使「……でも、
世界の崩壊を防いだ後も、
君の物語は続いていくんだ
…………
……だから、その時に……
私の言葉が、君に寄り添ってくれればと……
……そう、願っているよ」
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そして、また……
ある悪魔との戦いの後ーー
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ひと「いま、楽にしてあげるからね」
ひと「……!」
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悪魔は、
全より個を優先する、自由な種族でした
しかし、
自由も度が過ぎれば、誰かの不自由となります
個を優先するあまり、
他を否定し、力持つものが正しいという考えが、
根付いていきました
そして、種族内だけではなく、
天使様たちすら否定し、
悪魔は……滅亡への道を歩み始めます
……しかし、
皆わかっていたのかもしれません
何事もなくても、
遠くない未来に自分たちが……滅亡することを
なぜなら、
この天使と悪魔の世界で……
……新しい命が生まれたことは、
一度も……ないのですから
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ひと「……お母……さん……
…………っ
……私って、なんだろう……?」
悪魔「……!
何か……新しく思い出したのね?」
ひと「……うん
……っ
この……世界で……
……新しい命が、生まれたことはないって……」
悪魔「……っ!
…………」
ひと「……でも、私は……ここにいるっ……!
……この世界で、確かにっ……
確かに、生まれたんだっ……!」
ひと「…………でも…………
……どう……して……?
…………っ
……なんで、私は生まれてくることが……
……できたん、だろう……?」
悪魔「…………
……それはね、
天使と悪魔が、お互いを想い……
……求めあって……
……心を、通じ合わせたからなのよ」
ひと「…………!
……心を、通じ合わせる……?
…………
……天使さんと、お母さんと私のように……
仲良くする……ってこと……?」
悪魔「ふふっ!
……そうね~」
悪魔「私たちのように……
……というのは合っているけれど、
仲良くすることの……その先にある……
……愛する、ということかな~」
ひと「……?
……愛する……?」
悪魔「ふふっ
そんなに難しいことではないのよ~」
悪魔「……相手のことを、自分の一部のように感じて、
かけがえのない存在と思う……
一緒に歩んでいきたいと想う……
…………
……その気持ちが、
愛する、ということなの」
ひと「…………
……かけがえのない……
……一緒に……」
ひと「………………!
……もしかして……
私は……お母さんと天使さんを……
……愛している……のかな……?」
悪魔「……っ!
……ふふっ……!
……嬉しいわ~!」
悪魔「また抱き着いて、
よしよし、してあげるからね~!
よ~し!
よしよ~し!」
ひと「……っ!?
……ふふっ……!
……お母……さん……!
嬉しい、けど……苦しいよ~」
悪魔「…………
……私も……
……私も、あなたを愛しているわ」
悪魔「……だからね、
あなたがここに……この世界にいることは、
何もおかしいことではないのよ」
ひと「……っ……!
…………っ
……ありがとうっ……!
お母さん……!」