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②おばあちゃん編み物を編む

作者の華麗(かれん)です


キヨ子おばあちゃんがソフィアとして新しい世界に飛び込みました。


さてさてどうなることやら?


②話では、キヨ子おばあちゃんの持ち前のポジティブさと人情味が炸裂します!


新キャラの登場や、ちょっとドキドキの夜会の話も出てきますよ。


キヨ子おばあちゃんのユニークな視点で、貴族社会をどう切り抜けるのか、ぜひ見守ってください!


急に、何を言い出すのか。

 アルフレッドは目を白黒させたが、侍女長が耳打ちすると、なるほど、と肩を上下させた。

「どうやら姉様は一時的に記憶を失っているご様子、本来ならばお父様にお願いして医師を招くところでございますが、世情はそうも言っていられません。僕が把握している情報の全てをご説明いたしますので、ご理解のほど、宜しくお願いいたします」

 アルフレッドが語る内容は、それでも端的に語ったのだろうけども、長い内容だった。

 まず、ソフィアには婚約者がいた。

 名をハロルド・ユナイテッド・ガース・オン・マルチネイス第一王子という。

 国王の嫡男にして、次代の国王その人である。

「しかし、あろうことかハロルド王子は、姉様との婚約を破棄してきたのです」

「婚約を破棄⁉ それはまた凄いことをしたもんだねぇ! 破棄された子が可哀想だよ!」

「……婚約を破棄されたのは姉様ですよ?」

「そうなのかい? それはまぁ、難儀な話だねぇ」

「あの……いえ、話を続けさせて頂きますね」

 婚約破棄の理由として、ハロルド王子はソフィアの横暴さを列挙してきたのだという。

袖を通しただけで何着ものドレスを破棄し、匂いを嗅いだだけで食事を下げさせ、礼儀がなっていないという理由で側使えを鞭打ちし、夜会の際には誰かを毎回吊るし上げ、怒鳴り散らし晒し者にする。

「それは……婚約破棄した方がいいんじゃないのかねぇ?」

「姉様のことですよ? 本当に大丈夫かな……」

 王家に近い公爵家の身でありながら婚約破棄を提言されたものの、では誰がソフィアの代わりを務められるのかと、マーガレット家は高を括っていた。

 ハロルド王子は第一王子だ、周辺諸国の姫との婚約といった政治的利用はられる。何しろハロルド王子以外にも、王子、王女と呼ばれるご子息が十人以上いるのだから、ハロルド王子の婚約者は王国を盤石にする為にも、王国内での人間でないと示しがつかない。

「しかし、ハロルド王子はあろうことか、リリア伯爵令嬢を婚約者としてふさわしいと、選定してしまったのです」

「リリア……伯爵なんちゃらっていうのは、公爵よりも偉いのかい?」

「公爵、侯爵、その次が伯爵になります。辺境伯や子爵なども含めますとまた変わりますが、姉様から見たら二ランク下の者であるとご理解下さい。というか、貴族階級制度すらもお忘れなのですか?」

 忘れるも何も、キヨ子は貴族階級など最初から知らないのだ。

 まだ自衛隊の階級制度の方がキヨ子の頭の中には残っている。

 ハロルド王子が選定した新たな婚約者、リリア・デ・ソレイユという名の少女は、ソフィアよりも二つ下の十六歳の身でありながら、諸外国の言葉にが深く、また、貴族でありながら下々の者とも忖度無く接し、城下町、果てはソレイユ家が統治する港町まで、リリアの評価は総じて高いのだという。

「勝ち目ないねぇ」

「諦めないで下さい!」

 しかし、とはそう簡単に物事が決まるものではない。マーガレット派の恩恵にあずかっている貴族一派は、今回のハロルド王子の婚約破棄こそ横暴だと国王に訴えかけ、婚約破棄の撤回、及びリリア伯爵令嬢との婚約を辞するよう、教会を交えて話を進めてきた。

 そしてそれを良きとせん者たち、つまりはソレイユ派、言い換えればハロルド王子一派の貴族たちが待ったを掛け、ソフィア令嬢の横暴、夜会という名の公開処刑場と化した実態を赤裸々に綴った暴露文を公開し、王国の妃としてソフィア令嬢はふさわしくないと糾弾し始めていたのだ。まさに国が分裂せんとしている現状が、現在の王国にはあった。

「このままでは不味いと判断されたのでしょう。マティス陛下より直々にお触れを出されたのが、本日の夜会なのです。この場にはハロルド王子を始め、リリア令嬢も参加します。陛下としては双方話し合いの場を設けたから何とかしろ、と言いたいところなのでしょうが、逆にこの場を利用してやろうと、姉様は先日一派を前に息巻いていたのです」

「息巻いていたって、私はなんて言ったんだい?」

「リリア令嬢に関し、あることないこと言い含め、王国から追放してやろうじゃないかと。お姉様のお考えは見事です。夜会にふさわしくないドレスを指摘し、彼女の足を引っかけて姉様のドレスを敢えて汚させる。パーティー会場での足運びすら出来ない無様な娘は、政治的利用されるのが一番の幸せなのだと言い放ち、本日招いた辺境国の王子との婚約を成立させてしまえば、リリアとの婚約は強制的に破棄となるのです。初めてこの計画を耳にした時、このアルフレッド、大いに感服いたしました! 姉様がいればマーガレット家は安泰です! さぁ、今度はこちらが面子を叩き潰す番です、お姉様!」

 握った拳を天へと掲げると、アルフレッドは鼻息荒く瞳を輝かせる。

 しかし、息巻くアルフレッドに対し、キヨ子はとてもつまらなそうな顔をした。

「私ね、イジメとか策略とか、そういうの嫌いなんだよね」

 そんなキヨ子の態度に気付いたアルフレッドは、掲げていた手を次第に下げる。

「……しかし、姉様」

「話を聞く限り、悪いのはこっちなんだ。悪い事をしたら謝る、それが筋ってもんだろうに」

 キヨ子は六人の子供を育て上げ、十三人の孫に囲まれる大家族の長だ。親として恥ずかしくない行動を、それを常としてきたキヨ子にとって、リリアという少女を陥れることなど、出来るはずがない。

「それにね、私は妃とか令嬢とか、そういうのは向いてないと思うんだよね」

「姉様、それは向いている、向いていないの話ではなくてですね」

「難しいことは若い娘に任せて、私はそうさねぇ……メイドでも目指そうかねぇ?」

 今もなお、直立不動にしている侍女長を前にして、キヨ子はとんでもないことを言った。

 公爵令嬢がメイドになる、そんなことが可能なはずがない。

 万が一そうなる可能性があるとするならば、お家没落の結果、という形になるのであろう。

「姉様は、マーガレット家が没落しても良いとおっしゃっているのですか」

 これまでとは違い、アルフレッドは険のある言い方をした。

 ハロルド王子一派の動き次第では、その可能性も捨てきれないのだ。

 ソフィアが原因で、公爵家がお家取り潰しになる。

 あってはならない事だが、今回の婚約破棄はそれぐらいの破壊力を秘めているのだ。

「大丈夫よぉ、私、こう見えても人付き合いだけは上手なんだから」

「……知りませんよ。この件、お父上にも報告いたしますからね」

 入ってきた時とは違い、アルフレッドは乱暴に、足音大きく部屋を後にした。

 「困った子ね」とキヨ子は言葉にしたものの、言葉は柔らかく、どこか余裕をうかがわせる。

「あの……ソフィア様、発言をお許し下さい」

「どうぞ?」

「メイドを目指すとか、ご冗談ですよね?」

 真剣な侍女長とは裏腹に、キヨ子は表情に笑みを浮かばせていた。

 キヨ子がアルフレッドや侍女長と話をしている頃、王城へと向かう一台の馬車があった。

 毛並みの良い二頭の馬、意匠を凝らせた白く染まる客車は、遠目から見ても貴族のものであると分かる。道行く人は馬車へと頭を垂れ、客車に座する清楚華憐な少女は手を振り、民へと笑みを振りまく。

しかし、微笑んでいる割には、少女の眉間には若干の溝があった。

民の姿がなくなると、少女は客席へと腰を深く沈め、貴族にあるまじき猫背になり、鎌首をもたげる。

「爺、今からでも帰ることは出来ないのですか」

「今宵の夜会参加は、マティス陛下の勅命、断ることなぞ出来ませぬ」

「しかし、あのソフィア様の夜会ですよ? 処刑場のソフィアの名は、私の耳にも届いております」

 客車の座席で膝を抱え、膝小僧に顔をうずめながら震える子羊のような少女。

 この少女こそ、ハロルド王子の婚約相手、リリア・デ・ソレイユ、その人であった。

 切りそろえられた金髪、碧眼を煌めかせながら、少女は対面に座る執事を睨みつける。

「そもそもなぜ、私のような辺境の娘が妃にならないといけないのですか」

「ハロルド王子が推挙され、マティス陛下がそれをお認めになりました。リリア様のご両親も、それはそれはお喜びになられていたではございませぬか。もし、ソフィア様が何か手を出すようならば、それはそれでこちらにとって都合の良いこと。包み隠さずハロルド王子へと伝え、庇護を願えば良いだけのことです」

「そうは言ってもですね……ああ、どうしてこうなってしまったのでしょうか。何か悪い夢を見ているかのようです。夢なら覚めて欲しい。王子様との結婚なんて、私にとって悪夢でしかありません」

 おおよそ、ハロルド王子当人が聞いたら困惑してしまうであろう言葉を口にしながら、リリアは間もなく訪れるであろう悪夢の時間を妄想し、そして深いため息を吐いた。


「リリア伯爵令嬢、ご入城!」

 次期妃の王城への入場とあり、城前広場には必要以上の人が集まっていた。

 リリアをその目に焼き付けようと必死になる者、お近づきになろうとする貴族の姿。

 これまでリリアは何度か王城を訪ねたことがあるが、ここまでの盛大なお迎えは一度として無かった。

「ああ、真なのですね……」

「はい。全ては真、リリア様は王妃にならせられるのです」

 リリアに仕える執事は、顔のシワをより一層深くしながら微笑む。 

 その笑顔ですら、今のリリアには卑屈に見えてしまっていたのだが。

 一歩一歩が重い。

 出迎えにハロルド王子の姿は無く、数多の貴族に囲まれながら、王城を歩く。

(夜会までは時間があります。用意された部屋で時間になるまで引きこもり、夜会には顔を出したらすぐに部屋に戻ることにしましょう。ソフィア様とは別に会う必要なんてないのです。婚約後もソフィア様とは距離をおいてしまえば、吊るし上げられることもないでしょうし)

 リリアは完全に逃げ腰であった。

 相手は悪名名高い、処刑場のソフィアなのだ。

 彼女の標的になった貴族の娘を、リリアは知っていた。

 号泣しながら居城へと戻り、もう二度と夜会へは行きたくないと部屋に引き籠るあの姿を。

 何があったのかは知らない、でも、何が起こるのかは知っている。

 間違いなく、ソフィアは仕掛けてくる。

 なぜなら、ソフィアは婚約破棄され、リリアは婚約者になってしまったのだから。

(うぅ……お腹痛い)

 周囲にいる貴族の面々は、ソレイユ派と言われる貴族たちだ。

 全員が味方、この集団にいる限りは、リリアの身柄は安泰のはずなのだが。

「……?」

 なぜか急に、集団が歩みを止めた。

 どうしたのかとリリアが顔を上げると。

「その子がリリアちゃんかい?」

 なぜか、彼女がいた。

 以前、遠目に見た時は一本一本が輝く金糸のような髪だったはず。

 それが白い髪へと変わっているけれども、間違いのない。

「そ、そそそ、ソフィア様? どどどど、どうしてここに?」

 まだ夜会の時間には早い、早すぎる。 

 リリアの体が緊急警報を発令させている。

 敵だ、敵が目の前に現れたと。

(早く会うなんて理由はひとつしかない、すでにソフィア様の攻撃は始まっているんだ。今夜の夜会開催は陛下直々によるもの、さすがのソフィア様も陛下の前では動くことが出来ない。だから、仕留めるなら今、攻撃するなら今、吊るし上げるなら今! やばいやばいやばいー!)

 だがしかし、リリアの周囲にいる者たちは、彼女を護るために存在している。

 信頼のおける執事を始め、貴族諸侯も皆がリリアの味方だ。

 暴言のひとつでも吐こうものなら、それだけで周囲が証人になってくれる。

 いやむしろ、この場で暴言を吐かさせた方が、後々楽になる。

 様々な思惑が渦巻く現状だが、皆の考えは一致した。

 ――――むしろ、ここで邂逅させた方が良い。

 守るはずの貴族たちが、ソフィアの為に道を開けた。

(なんでぇ!? みんな守ってくれないの!?)

 怯えるのはリリア一人、獅子の前に放置されたウサギのように、ただただ怯えるしかない。

 処刑場のソフィア、彼女は口角を必要以上に上げながら、リリアへと歩み寄る。

 一歩一歩、優雅に、煌びやかに、どちらが上か分からせる為に。

(あ、終わった)

 あの日見た貴族の娘のように泣かされる。

 リリアがそう覚悟を決めた後、ソフィアは彼女へと近寄り、こう言った。

「寒いのかい?」

「……え?」

「この城、暖房ないものねぇ。それなのにドレスとか、寒いし重いし、肩が凝るだけだよねぇ」

 言いながら、ソフィアは手にしていた見慣れないものをリリアの首へと掛ける。

 布ではない、糸をまとめたような何か。

とても暖かくて、首元全体がぽかぽかする。

「あの、これは」

「マフラーだよ。私の子供たちが小さい頃、よく編んであげたんだ」

「子供が小さい……? いえ、そうではなくて、なぜ私にマフラーを」

「ダメかい? 誰が誰にプレゼントをあげようが、何も問題ないと思うけどねぇ」

 腰に手をあて、口元を緩めて笑うソフィアの顔には、悪意があるようには見えなかった。

「それよりも、アンタがリリアちゃんで、間違いないんだよね?」

「リリアちゃん……あ、はい、そうですけど」

「だとしたら、次期王女様ってことじゃないか。それなのにここにいる男共は、雁首揃えてリリアちゃんが寒がっていることにすら気づけていやしない。お腹だって痛そうにしているじゃないか。次期王女様なんだろ? もっとちゃんと見てあげるのが、仕える者の役目なんじゃないのかい?」

 ソフィアに言われ、周囲の貴族たちは皆、口をつぐむ。

 確かに、リリアはお腹を痛そうに摩りながら歩いていた。

 それがソフィアに対するストレスから来るものだとしても、確かにそうしていたのだ。 

「あの……ソフィア様」

 リリアには、ソフィアの意図が読めなかった。

 普通なら、彼女に恨まれていないとおかしいのに。

「夜会までまだ時間があるんだろ? どうだい、一緒にクッキーでも焼いてみるかい?」

「え、クッキー、ですか? 私、料理とかしたことないのですが」

「おやそうかい? 簡単に作れるし美味しいから、やってみるといい。結構楽しいもんだよ?」

 ソフィアから怒りを一切感じない。

 それどころか、単純にリリアを出迎えようとしている。

 もしかしたらこの人は、そんなに悪い人ではないのではないか。

 そう思ったリリアは、一人、拳を胸にあて決心する。

「……わかりました」

「リリア様!」

「爺、大丈夫です。ソフィア様とクッキーを焼いて食べるだけですから」

 一世一代の決心を秘めて、リリアはソフィアの誘いを受けることにした。

 それがどういう結末になろうものとも、決して後悔はしないと信じて。


②話を読んでくれてありがとうございます!

(❀ᴗ͈ˬᴗ͈)"


キヨ子おばあちゃん、編み物スキルでリリアちゃんとの距離を縮めちゃいましたね!


夜会の舞台も整い、キヨ子おばあちゃんはどう動くのでしょうか?


次はもっと意外な展開が待ってますよ~!


③話も乞うご期待!


それでは③話で~ ˙︶˙)ノ"



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