ハッピーエンドが嫌いな彼女
「私はハッピーエンドが嫌いなの。」
彼女は微笑んでそう言った。
夏の終わり、空は茜色に染まり、沈みかけた太陽が街を金色に照らしている。私はベンチに座り、隣にいる愛おしい彼女の横顔をぼんやりと眺めていた。
「どうして?」と私は尋ねる。
彼女は短くため息を吐き、遠くの方を見つめながら答えた。
「だって、そんなの嘘だからよ。本当に幸せな終わりなんて、この世には存在しないもの。」
「そんなことないよ」
「あるわよ。だって、どんな物語も終わった後に続きがあるでしょう?幸せなエンドロールの後も、誰かが泣いて、誰かが傷ついて、それでも時間は流れていく。結局、幸せなんて一瞬でしかないのよ」
彼女の声は穏やかだったけれど、その瞳にはどこか諦めにも似た光が宿っていた。
「じゃあ、どんな終わりならいいの?」
彼女は静かに笑う。そして私をまっすぐ見つめた。
「終わらない終わり。続いていく痛みと、続いていく喜び。どこかで終わりだなんて決めつけないこと。それが、私の好きな物語よ」
その瞬間、私は悟った。彼女がここからいなくなることを。悟った瞬間息が苦しくなって何も言えなかった。
待って、あなたが居なくなった私の痛みはどうすればいいの。嫌だ 、行かないで 。
頭にたくさんの言葉が出るだけで口からは何も出なかった。
夕陽が沈み、街の灯がぽつぽつと灯る。風がそっと吹いて、彼女の髪を揺らした。
「私はね、ハッピーエンドが嫌いなの。」
そう言って、彼女は立ち上がる。私は結局何も言えず、ただその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
——その日、彼女は消えた。
そして私は、彼女が望む、物語の続きを今日も生きている。




