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第二部 28話 白の魔法使いの溺愛

 今日から来ると言っていたリアが、まだ僕の部屋に来ていないことに不安を覚えて、僕は執務室を出た。丁度、廊下の角を曲がったところで、僕のリアが若い男に絡まれている現場を発見した。

 怒りで魔力が溢れそうになるのを必死で抑え、出来るだけ冷静を装ってリアの持っているバスケットに手を掛けた。リアの可愛い唇が僕の名を呟いたので、少し冷静になれた。

「僕の可愛い妻に何か用ですか?」

 にっこりと極上の笑顔で微笑めば、若い男は焦った様に目を泳がせた。まさかこの可愛い魔法使いの弟子が、僕の愛する妻だとは知らなかったのだろう。

「つ……妻、し、失礼しました。そうとは知らなくて、いえ、では、私はこれで」

 若い令息は、そのまま慌てた様子で廊下を走って行ってしまった。リアは取り戻せたバスケットを見て、ホッと息を吐いた。この顔は、料理長が張り切って作ってくれたサンドイッチを奪われなくて良かったと思っている顔だろう。

「少し遅いから、心配になって迎えに来たけど、大丈夫だったかい?」

「はい、助かりました。前に弟子をしていた時は、こんなことなかったんですけど……」

 それは今の君は、封印が解けて無表情ではないし、僕の妻となってからは、可愛らしさの中に色気まで混じるようになって、男性の心を惹きつけてしまうから……。そこは敢えて言わないけれど……

「そうか、どうしたんだろうね。今後はこんなことがないように、衛兵に言っておくよ。念のため、ドラゴンハートのペンダントは肌身離さず持っていてね」

 そうしないと、不運にも君に手を出した男を、八つ裂きにしてしまうかもしれないからね。ドラゴンハートのペンダントがあれば、そうなる前に処理できる。心の声はリアには聞かせられないけれど……

「そのバスケット重そうだね。僕が持つよ」

 手を差し出すと、リアは素直に持っていたバスケットを僕に差し出した。


 昼食は天気が良かったので、中庭で食べることにした。王宮の中心にあるので、休憩をする者も多く、ここで昼食を食べると目立つ。だが、それも計算の内だ。

「あの、クリス、ここだと、皆さんの目が気になるのですが……」

「そうかな?多分気のせいだよ。皆も昼食を食べているから大丈夫だよ。ほら、気になるなら僕の方を見て」

 リアは周りの目を気にしていたが、素直に僕の方を向いてくれた。可愛いリアが、小さな口で美味しそうにサンドイッチを咀嚼する。まるで小動物のようで、庇護欲が湧いてくる。僕はデザートのブドウを一粒つまんで、リアの唇に押しあてた。

 リアは少し驚いたように目を見張ったが、そのまま口を開けて僕の手からブドウを食べてくれた。恥ずかしそうに頬を染めるリアを見て、僕は満足して、自分のサンドイッチを食べ始めた。


 夕方、リアが先に帰ったのを見計らったように、キースが影から出てきた。

「おい、クリス。今日のお前はどうかしているぞ。中庭での件も含めて、王宮中で噂になっている」

「へぇ、どんなふうに?」

「白の魔法使いの弟子は、実はエイベル夫人だから、決して手を出してはいけない。白の魔法使いは、中庭で堂々とイチャイチャするほど、妻を溺愛している。聖女は可愛い、なんてのもあったかな」

「チッ、最後の情報は要らないな。これ以上リアの可愛さは、知って欲しくないのに……」

 僕が本気で舌打ちをしたら、キースが呆れたように嘆息した。

「相変わらず大人気ないな。中庭の件は、どうせ周りを牽制するためにしたことだろう?うちの妹を、あまり過保護にしないでやってくれ。リアは成人した女性だぞ」

「だからこそ、だよ。貴族の男どもは、人妻だからと言って、手を出さないとは限らないじゃないか。むしろ人妻がいいと言う酔狂な連中すらいる。牽制はしておかないと、間違ってリアに手を出した時、僕がどうするか、キースなら分かるよね?」

「なるほど、クリスに半殺しにされないためにも、牽制は必要なのか……」

「それで?それだけを言いに来たんじゃないだろう?」

「ああ、後で連絡は来ると思うけど、一応先に言っておこうと思って。シェリル王女と結婚後、すぐに新婚旅行に行くことになった。行先は、ゴルゴール国とエリシーノ国だ。日程は一か月……」

「一か月?長いな」

「クリスの時と一緒だよ。外交や魔石の普及、ロウド王国との報告も兼ねているんだ。うちの陛下は人使いが荒いというか、僕たちを使わないと外交が出来ないほど、この国に有能な外交官がいないのかと心配になるね。流石に王女が他国を訪れるとなると、日程も長くなるらしい。クリスの時と違って、移動も大所帯だ」

 確かに第一王女が行くのであれば、同行する人数も多くなるだろう。侍女一名護衛一名とはいかないだろう。王女のことは、キースがいれば安全だろうが、大所帯となると移動も遅くなるのが難点だ。

「僕は、シェリと二人でいいんだけどね。そうもいかないところが辛いね」

 キースが王女殿下を愛称で呼んでいるのに気づいたが、そこは突っ込まずに聞き流した。王女殿下と順調なら、それに越したことはない。

「キースも順調に立場が上がっていっているからな。身軽に出かけることは出来ないだろう。それで?」

 新婚旅行に行くことを報告するだけなら、忙しいキースがわざわざここまで来ないだろうと、先を促した。

「ドラゴンハートのペンダントを貸してくれとは言わないが、念のため、同格ぐらいのものを用意して欲しい」

「ああ、それは用意しよう。結婚祝いに、盛大に保護魔法を付与した品をつくるよ」

「盛大か。ははは、助かるよ」

 キースは楽しそうに笑った。ロウド王国から贈られた魔石の中に、ちょうどいいものが数点あったはずだ。それをブローチに加工することにした。ドラゴンハートのペンダントと違い、数度使用すれば壊れてしまうかもしれないが、新婚旅行中に何度も使う可能性は低いだろう。念のため、予備もつくっておこうか……


 その後は、平穏な日々は続いていた。リアは毎日楽しそうに王宮に通ってくるが、僕の牽制が効いたのか、あれ以来リアに言い寄ろうとする勇気のある者は現れていないようだ。

 ピンクブロンドを三つ編みにして、ワンピースにショート丈のローブを纏い、今日もリアは可愛い。言い寄られはしないが、王宮の使用人、衛兵及び若い貴族令息が、忙しそうに王宮を歩くリアを目で追っては頬を緩めている。その姿を見かけるたびに、見るなと叫びたい衝動に駆られる。流石に実行はしていないが……

「結婚してからの僕は、狭量すぎないか……」

「お、自覚はあるんだ」

 影の中からキースが現れ、僕の肩をポンポンと叩いた。僕は半眼でキースを見た。

「こんなところに来ていていいのか?明日は、結婚式だろ?」

「流石に今更やらないといけないことがあったら、拙いだろ?僕の独身最後の夜なんだ。久しぶりに一杯やらないか?義弟よ」

「そういうことなら、付き合うしかないか、義兄さん」

 アドキンズ侯爵家に向かう途中でリアも誘い、3人でささやかな前祝いをした。流石に深夜までは飲まなかったが、それでもいつもよりは酔っていたかもしれない。リアは勿論だが、キースも義理とはいえ家族なのだ。

「そうか、いつの間にか家族になっていたんだな……」

 明日はさらに王女殿下が、家族に加わるめでたい日だ。


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