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第二部 24話 百聞は一見に如かずです

 突然噴水が虹色に輝き、その後に人魚が現れたため、その場にいた皆が驚いてセイレーナを凝視した。

「それで、ここはどこかしら?」

 セイレーナは物珍しそうに、周りをキョロキョロと見渡した。そして国王陛下に目を止めると、にっこりと微笑んだ。

「セリアの愛した王によく似ているわ。もしかしてここは王宮で、彼はアウレリーア国の王なのかしら?」

「聖女オーレリア……、これはどういうことだ?」

 国王陛下は、自分で見た事実が信じられないのか、私に説明を求めた。人払いをしているので、ここにいるのは国王陛下、カイラ様、ギル様、そして私とクリスだけだ。いきなりセイレーナを呼び出したが、事前に説明しておいた方がよかったかもしれない……

「すみません。事前に言っておけばよかったですね。こちら、人魚のセイレーナさんです。陛下は私の言っていたことを信じられないとおっしゃったので、実際に会っていただくのが早いと思ったのですが……」

 セイレーナはひらひらと手を振って挨拶をしているが、クリス以外の人間は動揺していて、セイレーナを直視していいのか、戸惑っている様子だ。

「……人魚か、なるほど、流石に信じないわけにはいくまい。それで、人魚がいるのは理解したが、この後何をしようとしている?」

「はい、せっかくここまで来ていただいたので、私が説明するより、直接セイレーナさんから聞いてもらった方が早いと思いまして。セイレーナさん、私に話してくれた話、もう一度ここにいる方たちに話してもらってもいいですか?」

「それはいいけど、大丈夫なのかしら?」

 私は、ここにいるのは青の魔法使いと聖女、そしてこの国の国王陛下、そして私の夫で、タランターレ国の白の魔法使いだと、クリスを紹介した。

「あら~、オーレリアの旦那様、素敵じゃない!私と違って、男を見る目はあったのね~」

 クリスを見て、セイレーナはうっとりと微笑んだ。セイレーナの勢いに、クリスは苦笑いだ。

「あの、こんな時にここで言っていいのか迷うのですが、昨晩、若い漁師が泡になって消えたそうです……」

 セイレーナは私の言いたいことを悟って、静かに頷いて「そう」とだけ言った。そして、何も聞かなかったように、私に話してくれた話を皆に語ってくれた。セイレーナ自身の悲恋物語は、ここでは語らないようだ。


「これが私の知っている全てよ。でもこの話、王は知っていたんじゃないかしら?私の話を聞いても、ちっとも驚いていないもの」

 セイレーナが話し終わって、皆の反応を見て、王へ視線を向けた。王は気まずそうにセイレーナを見た。

「あなたが言った通り、報告書は焼失しているが、この話は口頭で次代の王へとちゃんと引き継がれている。継承した時に語られるのだ。だが、王家では亡くなったとされていた、最後の青い髪の王女が生きていることは、知らなかった。完全に隠された存在だったのだろう」

 確かにカイラ様の息子が青い髪で生まれなければ、この話はずっと隠されたままだったのだろう。

「そう、でも、その聖女が産んだ青い髪の子供は、ただの先祖返りよ。王が側妃として娶っても、青い髪の子供なんか生まれないわ。それどころか、神の愛し子である聖女を、意思に反して側妃になんかしたら、海の精霊王は再び怒りを込めて、この地を呪うわよ……」

「……わかった。肝に命じよう」

 ここで青の魔法使いであるギル様が、スッと国王陛下の前へ進み出た。

「陛下、私たちは二心なく、アウレリーア国の王家に仕えております。ですが、今後も息子のこと、妻のことでこのようなことがあれば、青の魔法使いとしての役目を返上して、私たちは家族でこの国を去ることも検討いたします」

 国王陛下はギョッとした顔でギル様を見て、慌てて手を振った。

「待て、色の魔法使いと聖女がこの国を去るなど、聞いたことがない。……分かった、今後はこのようなことがないよう、重々気をつける。だから、出て行くなどと、私を脅してくれるな……。私とて、今更青い髪に固執するつもりはなかったのだ。ましてや、海の精霊王の怒りを買いたいわけでもない……」

「それを聞けて、安心いたしました」

 いい笑顔でギル様は頷き、そっとカイラ様の肩を抱き寄せた。今後のことは分からないが、国王陛下が責任を持って、この話を収束してくれるのだろう。

「話は終わったのかしら?急に呼ばれたから、ラピスを置いて来てしまったの。このまま時間が経つと、ラピスが迎えに来てしまうかもしれないわ」

「ラピスとは?」

 国王陛下の問いに、セイレーナはニヤリとして答えた。

「私の可愛いドラゴンよ」

 陛下がぐっと息を飲みこむ音がした。白昼堂々と王宮に降り立つラピスを想像してしまい、私は慌ててセイレーナにお礼の言葉を述べた。

「急に呼び出してごめんなさい。セイレーナさんに説明してもらえて良かったわ。もう、大丈夫なので、ラピスが来る前に戻ってもらえると、嬉しいわ」

 私は事前に用意していた砂糖菓子を、そっとセイレーナに手渡した。呼び出した対価として、セイレーナに頼まれていたものだ。

 海では甘いお菓子は食べられないそうだ。出会った頃にジャックに貰った砂糖菓子の味が忘れられないそうで、是非食べたいので、呼び出す時に用意して欲しいと、呪文を教えられた時に頼まれていたのだ。

「まぁ、嬉しいわ。じゃあ、またね。オーレリア」

 セイレーナは微笑んで手を振ると、そのまま虹色の光に包まれて消えてしまった。私は空を見上げて、ラピスが来ていないことを確認してから、ホッと息を吐いた。

「聖女オーレリア、次からは事前に説明してくれると助かる。流石に肝が冷えた。だが、我が国の危機を救ってくれたことは、深く感謝している」

 詳しい事情は話さなかったが、セイレーナは私に救われた話をしていた。そして、救われていなかった時の、最悪の場合も示唆したのだ。

「何か褒美を授けたいのだが」

 私は国王陛下の申し出を丁寧に断り、その代わり、今後海で同じようなことが起こらないよう、海の精霊王とその眷属である人魚に対する認識を新たにし、海に感謝を奉げて欲しいと願った。

「差し出がましいことを申し上げて、すみません。ですが、誰かが泡になることも、国に呪いの雨が降ることも、二度と起こって欲しくないのです……」

「分かっている。だがそれは褒美にはならない。感謝の気持ちとして、何か贈らせてもらおう。これは折角の新婚旅を台無しにしてしまった詫びでもある」

「あ……」

 新婚旅行という言葉に、私は固まってしまった。すっかり忘れていたが、本来ならば今頃は旅を満喫して、新婚旅行の思い出も沢山出来ていたはずだ。間違っても、ドラゴンに攫われたり、海に潜ったり、人魚の呪いを解呪することではなかったはずだ。

「ごめんなさい、クリス。もう、旅行の日程も終わってしまいますね……」

「い、いいんだ。これはあくまで仕事。休暇は別にもぎ取るさ。ははは……はぁ…」


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