第二部 23話 王家の秘密
お待たせいたしました。
投稿再開させていただきます。
私たちは急いで王宮に向かい、国王陛下に面会を求めた。まずはカイラ様たちを召喚した理由を知ることが先だ。
突然の訪問だったが、タランターレ国の白の魔法使いと聖女からの面会申請を無下には出来なかったのか、暫く待たされた後、無事に謁見の間へ通された。
「アウレリーア国王陛下、突然の申し出に応じていただきありがとうございます」
「白の魔法使いクリスティアン殿、火急の用件とは?」
「はい、伝えたいことがあったのですが、その前にお伺いしたいことがございます。先ほど青の魔法使いの屋敷を訪問したのですが、今朝陛下の召喚に応じて王宮にいるとか。理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
アウレリーア国の王は、私たちを見ると、少しだけ気まずそうな顔をした。
「情報が入ったのだ。青の魔法使いと聖女は、王位を簒奪するつもりだと……」
「なっ……、そのような世迷言を信じたのですか?」
世迷言……、国王陛下が荒唐無稽なことを言ったからだが、クリスは憮然として、国王陛下に不敬なことを言ってしまった。
私は少し焦ってアウレリーア国王の顔色を窺った。国王陛下が気分を害した様子は見られないとこに、少しホッとしてクリスを見た。
クリスは国王の発言に納得がいっていないことを隠さず、喧嘩を吹っ掛けそうな雰囲気だ。このままでは、人魚の話をする前に、違う問題が起こりそうだ……
「あ、あの、それで、カイラ様たちはどうしているのですか?」
私はこれ以上クリスが不敬なことを言ってしまう前に、自分で話そうと決意して口を開いた。
「ああ、誤解をしないで欲しい。私は聖女カイラと青の魔法使いのことを疑っているわけではない。重臣が騒ぎだす前に、建前として事情を聞く名目で、召喚しただけだ」
どうやら国王陛下は事態を冷静に受け取っているようで、最悪の展開にはならないことに、私はホッと肩の力をぬいた。
「何故、王位簒奪などという疑いをかけられたのですか?」
「密告があった。タランターレ国の聖女と白の魔法使いが、秘かに会合していたと」
まさか子供に会うために、私的に訪問したことを、密会だと誤解されてしまったのだろうか……
「聖女オーレリアと聖女カイラが親しい間柄なのは知っている。だからそれだけなら、このようなことにはならなかったのだが……、聖女カイラは王族の血をひいていて、息子を王位につけるつもりなのだと言われると、事実確認をしないわけにはいかなかった」
「……」
カイラ様の屋敷に間諜がいたのかもしれない。陛下は私たちの様子を確認すると、小さく嘆息した。
「驚かないところをみると、知っていたようだな。私も先ほど聖女カイラから事実を聞いた。驚いてはいるが、聖女の子供が青い髪で生まれたと知った時、どこかでその可能性を考えていた」
青い髪は王族にしか生まれないこと、国王陛下自身に子供を身籠らせた覚えがないとすれば、その可能性も考えたのだろう。
「そうだとしても、カイラ様が王位簒奪なんて考えていないことは、……」
「分かっている。だが、王家の血をひく青い髪の子供が、今存在していることが問題なのだ。このままでは、聖女カイラを側室にせねば、事実を知った者たちが騒ぎだし、要らぬ争いが起こる……」
側室……?確かセイレーナは言っていた。そうだ、無理やり側室にすれば……
「そのようなことをすれば、海の精霊王がお怒りになり、100年前の厄災が再び起こってしまいます……」
「聖女オーレリア、どうして王家の秘密を知っている?」
陛下の様子が、少し剣呑になってきた。隣国の聖女が、知っていていい話ではないのは理解できる。でも、これは不可抗力だ……
「それは……、実はドラゴンに攫われまして……」
陛下は一瞬瞠目してから、口を開いた。
「今、何と言った?」
「ですから、ドラゴンに攫われまして、その時にたまたま、人魚に話を聞いたのです」
「ドラゴン…人魚?私を揶揄っているのか?そんな話をして、私が信じるとでも?」
信じるも何も、事実なのだ。だが、確かにいきなり信じろと言っても、信じられない気持ちは分かる。当事者の私でさえ、立て続けにドラゴンに攫われたなんて、信じられないし信じたくない。それでもここは、信じてもらって、全てを話さなければならないだろう……
「証拠はあります。きっと信じることは出来ます。ですので、その場に聖女カイラ様と青の魔法使いのギル様を、同席させていただけませんか?」
私はセイレーナに貰った人魚の涙をギュッと握り込んで、玉座に座るアウレリーア国王を見上げた。
「わかった、いいだろう」
陛下は、カイラ様たちを連れてくるように衛兵に指示を出してから、疑念の目で私を見た。
「あの、出来るだけ大きな水を溜められる場所に行きたいのですが……」
「……噴水、もしくは温泉を引き入れた湯殿はあるが……?」
湯殿……、私はセイレーナに貰った人魚の涙で、セイレーナを呼び出すつもりだった。湯殿に現れたセイレーナが、温かい湯で茹ってしまう姿を想像してしまい、軽く首を振った。
「噴水でお願いします。出来るだけ綺麗な水がいいのですが……」
「……湧水を利用した噴水があるが、それでよいか?」
「はい、大丈夫です。噴水の周りは、人払いをお願いします」
「……分かった」
案内された噴水の前で待っていると、ギル様とカイラ様が王宮の騎士と共に現れた。
「オーレリア様、クリスティアン様が、どうしてこちらに?」
少し疲れた様子のカイラ様が、驚いたように私たちを見た。ギル様は目線だけをクリスに向けたが、無言でカイラ様の側に立っている。
「カイラ様から頼まれていたこと、調べることが出来たのでお知らせしようとお屋敷に行ったのですが、王宮においでだと伺い、こちらに参りました。折角ですので、国王陛下にも直接聞いていただいた方が誤解されないですし、少々私にお付き合いください」
カイラ様たちは、少し困惑しながらも頷いてくれた。私は噴水に近づくと、人魚の涙を握っていた手を噴水に沈めた。そして、セイレーナに教えてもらった召喚魔法を心の中で詠唱した。
噴水の水面は眩いばかりの虹色に輝き、側にいた人たちは眩しさに目を眇めた。やがて輝きは収まり、噴水の中には今までいなかった人影、いや人魚がいた。
「あら、早速呼び出すなんて、何かあったのかしら?」
人魚はのんびりと水面から半身を出し、私を見てから周りを見渡した。
「突然呼び出してごめんなさい。セイレーナさんに説明して欲しいことがあって……」
私が謝ると、セイレーナは楽しそうに足鰭を揺らして笑った。
「いいわよ。命の恩人の頼みなら、聞かないわけにはいかないわ」




