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第5話 もふもふ耳が可愛いです

「リアねえさま、こっちにかわいいおはながありますよ」

 嬉しそうに私の手を引きながら庭を歩くチャーリー君の頭には、本人は気づいていないようだが可愛い耳がぴょこんと出ていた。

「ああ、もふもふしたいわ。癒されたい」

「もふもふ?」

 チャーリー君が私の心の声が漏れたのを聞いて首を傾げた。

「あ、えっと、そう、ここの庭にたまに猫が来るのよ。もふもふしていて可愛いのよ」

 咄嗟に出た言葉は嘘ではない。庭師の飼っている猫がたまにこの庭で日向ぼっこをしているのだ。人懐っこい猫で、機嫌のいい日だと撫でることを許してくれるのだ。

「ねこ、ですか?ぼくはいつもにげられてしまいます」

 シュンとチャーリー君が下を見てしまった。頭の上の耳も心なしかシュンとしている。可愛すぎる。

「そうなの?ここの猫なら撫でさせてくれるかも…あ、いたわ。ミック、こっちにおいで」

 庭の端で心地よさそうに昼寝をしている猫のミックに向かって声を掛けた。ミックは私の声に反応して目を開けたが、チャーリー君の姿を見ると灰色の毛をブワッと逆立てて慌てて逃げていった。

「あ……」

 チャーリー君が寂しそうな声をあげた。どうやら本当に毎回逃げられているようだ。小さな動物は危機が迫ると本能的に回避するらしいから、子供とはいえ獣人のチャーリー君が怖いのかしら?

「あ、そうだ。この先に厩舎があるのよ。お馬さんは好きかしら?」

「うま?すきです。でも…」

「大丈夫よ。お馬さんは大きいから逃げたりしない、はずよね」

 私は落ち込んでしまったチャーリー君を励ますために、厩舎まで連れて行った。結果、興奮した馬が暴れて柵を越え数頭が逃げ出してしまった。

 私は馬番の人たちに謝って、慌ててチャーリー君を部屋に連れ帰った。どうやら動物たちにとっては、チャーリー君はかなり脅威な存在のようだ。

「ごめんなさい…」

 更に落ち込んでしまったチャーリー君を宥めていると、部屋の扉がノックされた。

「はい、どちら様ですか?」

「僕だよ、リア」

「お兄様?どうぞ入ってください」

 声を掛けると、扉が開いてお兄様とクリスティアン様が入ってきた。

「クリスティアン様も一緒でしたか……」

「急にごめん。少し気になることがあって、確認しに来たんだ」

 お兄様が微笑みながらチャーリー君を見た。どうやら獣人だという子供を確認したいらしい。残念ながら、今は頭に耳は出ていない状態だ。

「そうですか……」

「あの、リア」

 クリスティアン様が私の方へ近づいてきた。私は思わず後退してしまった。その様子を見てクリスティアン様が傷ついた顔をした。

「クリス、取り敢えずこっちの用件を先に片づけようか。リアも今はこっちの話を聞いて」

「はい」

「こんにちは、チャーリー君。僕はリアのお兄ちゃんのキースと言います。君のお母様のことを聞きたいんだ。教えてくれるかな?」

「おかあさまのこと?」

「そう、今までどこで暮らしていたとか。君のお父様のことを何と言っていたとか、出来るだけ沢山教えてくれると嬉しい。教えてくれたら、お母様のことを探しやすくなるかもしれないし、チャーリー君も会いたいだろう?」

「…あいたい、です」

「そうか、じゃあ、教えてくれるかな?」

 お兄様の胡散臭い笑顔に、素直に頷いてチャーリー君は質問にたどたどしく答えていく。どうやら生まれた時から母親の実家にある離れで過ごしていたらしい。父親のことは知らないそうだ。物心ついた時には母親と二人で暮らし、祖父や祖母がたまに様子を見に来るが、いつも会うと睨まれ怒られるので、嫌われていると感じていたそうだ。

「おかあさまは、とってもやさしい。いつもあいしているっていってくれます」

「そうか、そんな母親が君だけをここに置いて行くのだから、何か特別な事情があるのだろうな……。最近何かお母様のことで変わったことはなかったかな?怒っていたり、泣いていたとか」

「えっと、おこっていたのは、リアねえさまにあったひの、まえのひかな?なにかをよんで、そのかみをバシッてなげてたの」

「なるほど、他には?」

「それよりすこしまえに、とりさんがおてがみをもってきたんだけど、そのおてがみをよんで、おかあさまはすごくおどろいていたし、そこからないたりおこったりがおおくなったよ」

「鳥が手紙を?伝書蝶ではなくて?」

「うん、きれいなとりさん、てがみをわたしたらとんでいったよ」

「タランターレ国以外の国も手紙は伝書蝶が主な手段だ。鳥が手紙を運ぶなんて、聞いたことがないな…」

 魔力を込めれば相手の元へ飛んで行く、蝶の形をした手紙がこの国の連絡手段として用いられている。魔力量が多い人なら、転移魔法で届けることも出来るが、魔力をかなり使うため、魔力を少ししか必要としない伝書蝶が有効な手段なのだ。

 鳥に手紙を届けさせるなんて方法は、この周辺国でも使われていないだろう。

「とりさん、しゃべってたよ」

「しゃべる?って、話をしたのかい?」

「うん、ぼくはすこしはなれていたから、ちゃんときけなかったけど、おかあさま、とりさんとケンカしてたみたい」

「鳥とケンカ?」

「うん、おかあさまが、こんどきたらまるやきにしてたべるっていったら、とりさんがていぞくなにんげんっていってた。いみがわからなかったけど、ずっとおこってたよ」

「それは只事ではないね。低俗な人間って言っていたなら、相手は少なくとも人ではないのか……」

「おそらくその鳥は獣人なのだろう。その手紙の内容が知りたいけど、キャロライン嬢は、いや、君のお母様は現在行方が分からないからね。その事と僕に君の認知を迫ったことは、きっと関連があるんだろうな」

 参ったな、と言いながらクリスティアン様が深い溜息を吐いた。

「兎に角、その鳥も含めて獣人が国内に入っている可能性が高くなった。キャロライン嬢に会えば手紙の内容も分かるだろうし、騎士団を総動員して行方を探させよう。不明瞭な部分が多すぎて、これ以上の議論は無理だ。それとリア。リアはクリスと今の内にちゃんと話し合っておくんだよ。この案件が動き出せば、白の魔法使いであるクリスは当分の間多忙を極めるはずだから。話すなら今しかないよ」


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