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第二部 18話 海の精霊王の性格は?

「海の精霊王は、海と同じような性格なの。とても穏やかで、そしていきなり荒れ狂う……。眷属のことは守るけれど、人間に対してはそこまではしない。今のアウレリーア国の人間は、海の恩恵に感謝しないものが多い。だから、更に関係が希薄なものになる。まあ、仕方ないわよね。この国には天界樹があるから、清浄の光で瘴気や魔物からは守られているもの」

 確かに神様が下さった天界樹に守られて、この国を含め周辺5か国は神の加護に守られている。海の精霊王に守られていると思っている人は少ないのかもしれない。

 それでも海の周辺に住み、海に漁に出る者は、呪術師に安全祈願のまじないをしてもらう習慣は残っているらしい。ただ、この習慣も昔ほど熱心に行う者は少ないそうだ。


「さあ、もう寝ましょうか。かなり話し込んでしまったわ」

 流石に真夜中を過ぎ、かなり内容の濃い話を聞いたせいか、精神的にも限界だった。明日もセイレーナを癒さなければならないので、休息はとっておきたい。

「セイレーナさん、おやすみなさい」

「ええ、おやすみなさい」

 私は毛布をギュッと抱きしめ、無理やり瞳を閉じた。疲れていたからかその後の記憶はない。気がついた時には、朝日が洞窟内を明るく照らしていた。


「おはよう、オーレリア。よく眠っていたわね。ラピスが果物を採って来てくれたから、これなら食べられるかしら?」

 人魚は、基本的に果物を食べないらしい。この果物はわざわざ私の為に、採って来てくれたのだろう。私はラピスにお礼を言って、赤い色をした果物を食べた。噛むとシャリシャリとしていて、瑞々しい果汁が口の中に広がった。酸味もあるが甘みの方が強いので、すっきりと食べやすかった。

「美味しいです」

「そう、よかったわ。人間の好みが分からないから、ラピスに適当に採って来てもらったの。勿論、毒のない植物をラピスが選んだと言っていたから、安心して食べてね」

 確かに毒のある植物もあるかもしれない。出されたものを疑わずに口に入れてしまったが、今後は気をつけようと心に留め置く。念のため初めて食べるものは、少量口に含んでからすぐには飲み込まず、少しでも違和感があれば吐き出すことにして、私は次の果物を手に取った。

 朝食後、私はすぐにセイレーナを癒すことにした。昨日攫われてから、クリスたちには連絡が取れていないままだ。運悪くいつも持っていたドラゴンハートのお守りは、馬車で眠っているルーちゃんの首に、念のためかけてきた。私はクリスと一緒にいるので、つける必要はないと思っていたのだ。

 まさか一瞬の隙を狙って、攫われるなんて思ってもいなかった……。今も私を探して心配を掛けているクリスたちのことを思えば、出来るだけ早く戻る努力をしないといけない。

「さあ、では癒しを再開しましょう」

 私は気合を入れて、セイレーナに手をかざした。


「すごいわ。かなり良くなってきたみたい」

 セイレーナが嬉しそうに足鰭を動かした。黒く禍々しかった傷跡は、色が薄くなって幾分禍々しさが減った様に見える。傷もかなり綺麗に治ってきた。

「あと少しで、呪いは浄化できそうですね。この傷を浄化すれば、呪った相手も浄化されてたり……?」

「それは、無理じゃないかしら?もしかして、ジャックを助けたいの?」

「いえ、たぶん自業自得だと思うので、目の前で死にかけていない限り、わざわざ探してまでは助けには行かないですね」

「そう、それを聞いて少し安心したわ」

 セイレーナは、少しだけ後悔している様に下を向いた。一度は愛した男が、自業自得とはいえ近い将来泡になって消えてしまうのだ。自分が助かる今となっては、それは一方的な復讐になってしまう。少なからず、思うところがあるのかもしれない。

「そういえば、消えた魔術師はどうなったのですか?」

「直接呪うことは出来なかったけど、私の鱗と肉は呪ったから、不老不死の妙薬として売ることは出来ないわね。もしかしたら、その呪術師も、長く私の鱗と肉に触れれば、呪われるかもしれないわね」

「そうですか。もしかしたらイーストマン辺境伯領で発見された鱗は、セイレーナさんの鱗だったのかもしれませんね……」

「そうね、私みたいに人間に捕まる人魚は滅多にいないから、セリアのものか、私のもの、よね……」

「鱗は呪いで黒くなっていました。先ほどの話を聞いて、鱗はセイレーナさんのものだと思いました。どうしてアウレリーア国の海にいる人魚の鱗が、タランターレ国の辺境伯領で使われたのか、目的は何だったのか、すごく気になりますが、今はセイレーナさんの解呪に全力を注ぎます」

 この調子なら、今日頑張れば完全に解呪できそうだ。夜には陸に帰れるかもしれない……。海の水に浸かったまま乾いた髪はごわごわだし、ここに湯があるわけないので、体と顔を湧水で軽く拭くことしかできない。  

 出来れば今夜は、アウレリーア国の温泉に浸かってふかふかの布団で眠りたい……

「気合が入っているわね」

「はい、頑張って今日中に帰りたいので!」

 たとえ真夜中になっても、今夜中に絶対に帰る。

 気合を入れたお陰か、夕日が水平線に沈むころには、セイレーナの傷は治り完全に解呪が成功した。

「気分はどうですか?解呪できたと思うのですが……」

 セイレーナの足鰭は綺麗な虹色に輝き、黒く禍々しかった傷は完全に治っているように見える。

「ええ、完全に解呪されているわ。聖女って凄いのね。傷も痛みもなくなったわ」

 セイレーナは嬉しそうに足鰭を動かした。

「では、これで海に帰れますね。私も陸に帰れますよね?」

 期待を込めてセイレーナを見ると、セイレーナは少しだけ考えるように空を見た。夕日は完全に沈んで、辺りは暗くなっていた。今夜は月明りもないようだ。

「明日の朝、帰った方が安全だと言っても、今夜帰りたいのよね?」

 私は何度もコクコクと頭を縦に振った。まだここでは一泊しかしていないが、今夜も同じように地面に毛布を敷いて眠ることを考えると、無理をしてでも帰りたい。髪も体も石鹸で泡立てて隅々まで洗い、心ゆくまで温泉に浸かる自分を想像したら、一刻も早く帰りたい気持ちが強くなる。

「わかったわ。ラピスに送るように言うわね。あと、これは私からのお礼よ」

 サッと手を突き出されたので、私は慌てて手を差し出し何かを受け取った。手を広げて見ると、虹色の大きな真珠が一粒輝いていた。

「これは?」

「それは正真正銘、人魚の涙よ。ジャックに渡していた普通の真珠とは価値が違うわよ。オーレリアが私を必要とする時、それを使って私を呼ぶことが出来るから持っていて。お守りよ」

 呼び出す方法をしっかり教えてもらってから、セイレーナにお別れを言って、私は真っ暗な空をラピスに乗って陸を目指した。


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