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第二部 9話 sideクリスティアンの憂い

投稿、遅くなり申し訳ございません。

 僕のリアは、日に日に美しさが増していっている、絶対に間違いない。

 少女から大人の女性に成長するのは早いと聞くが、本当にあっという間だった。友人の妹、可愛い女の子、封印の副作用で無表情になっている間も、僕はリアを可愛い女の子として扱ったし、実際にそう思っていた。

 いつの間にか、その少女が僕の唯一無二の存在に変わって、僕はリアを手放せなくなった。後見人として育てている間は、いずれリアは何処かへ嫁に行くこともあるだろうと、育ての親らしく考えていた時機があったのも事実だ。決して幼い少女を自分好みに育てた覚えはない。

 預かることを決めた時のリアは8歳だった。流石にその頃18歳だった自分が、リアに対して恋心を持つことはなかったし、当時の女性関係はお世辞にも健全とは言えなかった。

 封印が解け表情が戻ってから、リアは一気に花が咲くように魅力的な女性に成長していった。それは結婚した今も進行形で進んでいる。


 リアは気づいていないが、聖女としても堂々と振舞うリアは、国民の憧れの存在になっている。リアが癒しを施す姿は神々しいほどに綺麗だし、気さくに笑う姿は親しみやすいし、兎に角可愛いと評判なのだ。

 魔力封印の副作用で無表情だった時期が長かったせいで、リアの自己評価はすこぶる低い。僕や周りが可愛い、綺麗だと言っても社交辞令だと思い込んでいる節がある。

 だから自分が着飾っても、誰も見ていないと思っているのだ。

 今夜のドレスはいつもより背中が大胆に開いていて、腰の上ギリギリまで肌が見えている。白く華奢な背中を見た男どもが、リアをどういう目で見るか、リアは全然分かっていない。

「皆が君の綺麗な背中に惹きつけられて、不埒な気持ちになる……」

「まさか、なりませんよ。背中が露出しているドレスなんて、夜会なら誰でも着ていますし……。今日はこのドレスしか用意していませんから、今からでは無理です」

 僕の忠告は、残念ながらリアには届かなかった。ドレスの着替えが無いと言われてしまえば、渋々だが納得するしかなかった。この夜会がアウレリーア国王の招待で無ければ、このままリアをどこかに隠してしまいたかったが、外交のためだと考えれば、それは流石に出来なかった。


 会場に向かうリアは、緊張で少し震えていた。上気した頬がピンク色に染まり、愛らしい小動物のようで庇護欲を刺激される。もう攫って帰りたい。

 会場に入ると、案の定男どもがリアに見惚れた。歯噛みしたい気持ちをグッと堪えて、会場中を牽制するように微笑んで見せた。

 リアは僕の妻だと叫びたい。どうして聖女は性を名乗らず名だけで呼ぶのか、この時ばかりは慣例を恨んだ。オーレリア・エイベルと紹介してくれれば、リアが僕の妻だと、誰もが理解するはずだ。まさか妹だとは思わないよな?

 アウレリーア国王の提案で、リアは国王、僕は王妃と初めのダンスを踊ることになった。初めての夜会で、初めてのダンスを踊るのは夫である僕だろう。一瞬不満が顔に出そうになったが、何とか耐えた。

 ダンスをしている間は、国王と踊るリアの様子が気になり過ぎて、チラチラと様子を窺ってしまった。挙句の果てに、王妃に気づかれて笑わるという失態までおかしてしまった。

「白の魔法使いともあろうお方が、新妻には弱いのですね。ずっと目で追っていますわよ」

「失礼いたしました。決して王妃殿下を蔑ろにしたつもりはございません。妻は初めての夜会だったもので、ちゃんと踊れているか心配だったもので……」

「まあ、過保護なのですわね。でも、このような美丈夫の夫に心配されるなら、羨ましいことかしら?」

 咄嗟に取り繕ってみたが、王妃にはお見通しだったようで、踊っている間中揶揄われてしまった。


 王たちとのダンスが終わると、リアを狙って男どもが近づいてきた。絶対に若いリアが独身なのだと勘違いして、縁を結ぼうと狙っているに違いない。

 聖女は国を離れることが出来ない。他国の者と婚姻を結ぶ場合、国を離れられない聖女のために、夫となる者が聖女の国に婿に入るしかなくなる。優遇措置として、婿に来る男性に子爵位を与える制度があるらしい。過去に数回、前例はあるそうだ。

 リアが独身の場合、アウレリーア国の貴族の次男や三男がリアと結ばれれば、他国とはいえ子爵の立場が約束されるのだ。それにリアはこんなに可愛いのだ。結婚出来れば一石二鳥、いや三鳥くらいの価値はあるだろう。ただしそれは、独身であったのならばの話だ。

 僕はさっと手を出して、リアをダンスに誘う礼をした。僕以外のものが、リアにこれ以上触れるのは許せなかったし、触れさせる気はなかった。

「では僕の奥様、一緒に踊ってください」

 奥様、というくだりで、近くにいた若い令息たちから、落胆の溜息が聞こえたが、いい気味だと心の中で舌を出した。リアは自分のことには気づかず、周りにいた令嬢を気にしているようだ。

 僕はリアをエスコートしてダンスフロアへ向かった。絶対この夜会で3曲、続けて踊ることを決めていた。2曲以上続けて踊れるのは、夫や婚約者だけだという暗黙のルールがある。リアが誰のものなのか、ここにいる者は知ることになるだろう。

「リア、3曲は付き合ってね」

「え?あの、クリス、私、ちゃんとしたところで踊るのは初めてで……そんなに多くは無理…」

「任せておいて。ちゃんとリードするから、楽しもう」

 緊張しているリアの腕をとり、腰に手を当てると、直接背中の感触が伝わりドキリとする。

「も、もしかして、陛下はリアの背中に直接触れたの?」

「へ?背中……、いえ、触っていませんよ!陛下は紳士的にドレスの部分を支えてくださいました」

「そう、それなら良かった……」

 もし触れていたら、どうにかしてその時の記憶を完全に消さないといけなかった。リアは僕の思考を読んだように、じっと僕を見てきたので、僕は誤魔化すように微笑んだ。

「クリス、忘却魔法とか、怪しい魔法薬とか、もしも考えたことを実行したら、離婚しますよ?」

 ステップを踏みながら、リアは可憐に微笑んだ。離婚と言われてしまっては、僕は手を出せないことをリアは確信している。僕は黙って頷いた。

 そこから無心で3曲踊り切って、そのままリアをバルコニーまでエスコートした。踊るリアは妖精のように可憐で、若い令息が次のダンスを申し込もうと虎視眈々とリアを狙っていた。このまま会場にいては危険だと判断し、リアをすぐに休憩に誘った。

 ここでもリアは自分が狙われているからではなく、僕が令嬢たちに秋波を送られているからだと勘違いしていた。嫉妬したのか頬が少し膨らんでいて、その姿はとても可愛かった。

「クリス、休憩したら会場に来ているカイラ様を探したいのですが……」

「ああ、青の魔法使いと聖女も招待していると言っていたね。わかった、もう少ししたらダンスの時間が一度終了して、歓談の時間になるから、その時に会いに行こう」

「はい、会うのは久しぶりなので、楽しみです」

 僕はダンスの時間が終わるまで、リアを十分休ませてから会場に戻った。すれ違う貴族と挨拶を交わしながら、青の魔法使いと聖女カイラを探していると、予想通りリアを狙う令息に囲まれてしまった。中には令嬢も混じっているが、圧倒的に男性の熱量が多い。凍らせて冷やしてやろうか……


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