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第4話 sideクリスティアン様の後悔

 閉まるドアの向こうにリアの後姿が消えた。過去の自分をリアに知られたくなくて、どうしてもその事を話す気にはなれなかった。

 幼いころから魔力が強かった僕を父親も後妻でやって来た継母も、まるで化け物を見るような扱いで決して受け入れてはくれなかった。

 魔力暴走を起こし屋敷を半壊にした後は、魔力制御が出来るまでだと言って、魔力を管理できる施設へ単身で入れられ施設の職員に育てられた。魔力操作が出来るようになったら迎えに来ると言った父親は僕をそのまま放置し続け、結局施設を出たのは全寮制の魔法学園に入学する13歳の時だった。

 ほとんど会うことのなかった父親が病であっけなく亡くなり、学園にいる間に爵位を継いだ。継母には子がいなかったのは幸いだった。15歳の時、白の魔法使いに抜擢され一躍注目されだしたころ、ほとんど会ったことがなかった継母が領地からやって来た。父親が亡くなってからは領地の別邸を与えて生活費は支給していた。

「まぁ、クリスティアン、すっかり立派になったわ。なんて美しく育ったのかしら。こんな事なら一緒に住んでいればよかったわね」

 ほぼ面識のない継母はそう言って僕に抱きついた。全身の皮膚が泡立って吐き気がした。僕は強引に継母を引きはがして距離を取った。

「あら、照れているの?」

 都合のいい勘違いで継母は機嫌が良かったが、僕は必死に吐き気と戦っていた。今すぐ消えて欲しい。

「何か御用ですか?生活するのに困らない額を支給しているつもりですが」

「まあ、そんなこと、他人行儀だわ。私たち家族でしょう?」

「……」

「これから仲良くいたしましょうよ。白の魔法使いが義理とはいえ息子だなんて、わたくしも誇らしいのよ」

「僕の家族はもういない。あなたを家族だと思ったことはないし、これからもそうなる予定はありません」

「なんですって。確かに血はつながっていませんけれど、戸籍上は家族ですわ」

「戸籍上、そんなものはいつでも解消できますよ。僕が16歳で成人した時に除籍申請をするようにしようと、たった今決めました」

「な、なんですって?なんて酷い仕打ちをするの」

「酷い?どちらが酷いのです?小さかった僕に一度も会いに来なかったあなたが、それを言う権利があるのですか?」

「それは、仕方ないでしょう。あなたが化け物……」

 継母は拙いと思ったのかパッと口を押えたが、もう言葉は発せられた後だ。そう、僕はずっと化け物扱いされていた。父親が迎えに来ないのも、継母が僕を怖がったからだと面会に来た執事が言っていた。

「そうでしょう、化け物は怖いから、そんな子が家族だなんて嫌だと、ずっと言っていたじゃないですか?今更ですよ。僕も冷血ではないつもりです。父の残した遺産だけはあなたに差し上げます。それを持って出て行ってください。そうですね、僕が16歳になるまで半年あります。それまででどうでしょうか?」

「え、ちょっと待って、あの人の遺産なんて、そんなに残ってない……」

 継母がまた焦って口を閉じた。そうでしょうね。あなたが散々使い込んでいましたから。それも領地を管理する者から報告は受けていますが。僕は心の中で悪態をついた。

「それはおかしいですね。父の遺産は僕が受け継いでいます。手をつけることは出来ないはずなので、ちゃんと残っている。そうでしょう?」

「えっと、そ、そうね、そうだわね」

「では、それを持って、速やかにお引き取り願います。僕が16歳になっても居座られる場合、法的手段を取り、父の遺産も凍結させていただきますのでご注意を。弁護士には連絡しておきます」

「…え、ええ、わかったわ」

 それから何度か学園に僕を狙う刺客が送られてきたが、全て継母の元に転送魔法で飛ばしておいた。友人のキースも面白がって刺客を撃退していたが、10回目でとうとう諦めたのかそれ以降は来なくなった。そして半年が過ぎて16歳になった僕は、無事継母と縁を切った。

 ただ、精神的に不安定になった僕は、その頃から娼館通いをするようになった。継母に抱きつかれた時の記憶がトラウマになったせいだ。あの感触が纏わりついて離れない。思い出す度に魔力が暴走しそうになるのだ。それを上書きし、吐き出すためだった。

 恋人が出来た時もあったが、本気で愛することは出来なかった。どこかで冷めた自分がいて、女性を信じることが出来ない。我ながら最低な男だったと思う。


「そんな最悪な僕の過去をリアに告白するなんて、出来るわけがないだろう!!」

 悪友のキースを呼び出して、昼間から高級クラブで僕はやけ酒を飲んでいた。半ば強引に愚痴を聞かされているキースを、気遣える余裕は残念ながら持ち合わせていない。

 キースは、当時荒れていた僕を休暇になるとアドキンズ侯爵領に誘ってくれていた。彼の妹のリアに癒され、温かい家庭に触れさせてくれたのも、きっと当時の僕がかなり危うかったからだろう。

「確かに全部は言えないだろうけどさ。隠されるのも辛いんだよ。昔のお前を知ったって、リアは離れていったりしないと思うよ」

「それは、そうだと思う。けど、知られるのが怖いんだ……」

「まぁ、それも分かる気はするが…。あ、そうだ、あの男の子、獣人なんだって?」

「……なんのことだ?」

「だから、お前の隠し子の…」

「だから、僕に隠し子はいない、って…獣人?」

「あれ、聞いてないのか?リアがそう言っていたけど」

「なんで獣人なんだ。この国に獣人がいた記録なんてないぞ」

「だから事実を確認したいんだ。本当にその子が獣人なら大問題だ。国としても動かなくてはならない」

 近衛騎士団団長のキースであれば、確かにこれが事実であれば由々しき問題であろう。国の防衛が一気に危ぶまれる事態だ。

「確かにこの国に獣人が入り込んでいたら、それは大事になるな」

「そうだ。本当に入り込んだのなら警戒しないといけない。目的も知りたい」

「国の入国審査は完璧だと思っていたが、何処かに問題点があるのかもしれないな」

 この国に入国するには、関所となる結界があるゲートを通る必要がある。それ以外の道もあるにはあるが、天界樹の守護の範囲から外れており、そこを通ると魔物と対峙する危険性が高いのだ。普通の人間は安全なルートを通り各国を行き来している。

「獣人は魔物をそれほど恐れていないのか?」

「この国の人間は、獣人に対する知識がないからね。それも含めて色々と考えることが多いな。陛下に報告する前に、その獣人の子を確認しないと。兎に角リアのところに行こうか」

 キースがガシガシと頭を掻きながら立ち上がったので、僕も重い腰を上げた。あまり気が進まないのは、結婚式当日からリアの様子がぎこちないままで、顔を合わせる度に目を逸らされるからだ。隠し子疑惑でそのような態度なのだと思っていたが、獣人の子供だと知っているのであれば誤解は解かれているはずだ。

「ちゃんとリアとも話し合えよ」

「ああ、分かっているよ……」


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