第二部 4話 目的が分かりません
投稿遅くなりすみません。
朝からわんこ2匹シャンプーするのに、必死で、やり切った後バタバタしてました。
「クリス、やっぱり私たち、ここに残った方がいいのでは、」
多くの避難する人を前に、今から新婚旅行に行くなんて、非常識ではないだろうか?
「リア、君が優しいのは分かっている。罪悪感を持ってしまうのも、でも、今回は行く理由がある。アウレリーア国王から正式に招待も受けている。魔石の普及も、報告もある。国境にあるイーストマン辺境伯領が混乱していることは、あちらには知られたくない。だから僕たちは何食わぬ顔であちらに行くべきなんだ。まあ、これはあくまで建前で、僕がリアを独り占めして新婚旅行に行きたいだけなんだけど。ダメかな?」
伺うように、クリスが私を見つめる。その仕草だけでも色気は半端ない。偶然通りかかった女性の住民が、配るために持っていた果物の籠を、見惚れて落としてしまったようで、周りの人が手伝って拾っていた。
「クリス……、私も楽しみにしているから、駄目ではないです。ごめんなさい、目の前のことに、引っ張られていました」
「いや、仕方ないよ。ここまで深刻な状態だなんて、キースも僕も予想できていなかった。分かっていたら大人数で行動していた。大丈夫だ。エルマーもこちらに来ることになった。あいつを領主代理にしておけば、万事うまくいくさ。エルマーが有能なのは知っているだろ?」
「それは勿論知っています。元同僚ですし」
「そうだろ?旅行先で上手い菓子を大量に土産にすれば、あいつもきっと頑張れるだろう」
クリスが私の頭を撫ぜながら微笑んだ。私はクリスの胸に飛び込もうとしたが、そこに可愛い小さな手が割り込んだ。
「ルーちゃん、そうね、一緒に旅行に行こうね」
『ルー、いく、いっしょ』
「ぐぬぬ、邪魔ばかりして。もう少し休んでおけばいいものを…」
「あ、そうだ。昨晩みんなの前でドラゴンになっていましたが、大丈夫でしょうか?」
ルーちゃんは辺境伯から逃げ出すため、子供の姿からドラゴンに変わっていた。あの時はそれ以上に現場は混乱していたから、気に留めていなかった。
「ああ、キースの部下の前でなら、大丈夫だ。守秘義務という名の魔法がかかっている。ここで見たことを、話そうとした途端に舌が焼き切れる。皆、優秀な人材だ。そんな馬鹿な真似はしない」
私が驚いて口を押えたので、クリスが苦笑してそう言った。物理的に話せなくなるなんて、守秘義務の誓約魔法、怖すぎる……
「あの時の鱗は、どうしましたか?あれが呪具だったのでしょう?」
辺境伯はあれを人魚の鱗だと言っていた。人魚は伝説の魔物のはずだ。海に住む精霊、もしくは魔物だと言われ、子供たちが読む絵本などでは、悪い妖精として出てくることが多い。子供たちを誘惑して、海に沈める話に登場するのが人魚だ。要は海に勝手に近づいてはいけない、という教訓なのだが、タランターレ国に海はないので、川で人魚が登場した物語もあったはずだ。
「そうだな。一応キースが保管しているが、人魚の鱗かどうかは信憑性がないな。呪具なのは間違いないが、人魚だと辺境伯が言っただけで、誰も人魚を見たことがないから、鱗がどんなものか判らない」
「虹色に光る魚を見たことはないですし、鱗も大きいので、人魚だったら素敵だとは思いますけど、呪具にするなんて酷いです」
「呪具にするには、そのもの自体に力が無いとなり得ない。そういう意味では、この鱗は凄い物なのだろう」
伝説の人魚の鱗なら、呪具にするのには不足ないだろう。だとしたら、この鱗は海の方から来たことになる。
「どうして海の生物の鱗が、海のないタランターレ国にあるのでしょうか?」
「実はキースも僕も疑問に思っていて、先ほど新婚旅行先で調べてきて欲しいとキースに頼まれた……ごめん、また仕事が増えた…」
次々と仕事が増えて、どんどんクリスが落ち込んでいく。私はクリスの額に私の額をコツンと当てた。獣人式の親愛行動だ。
「大丈夫ですよ。私たちだけ新婚旅行に行くのは罪悪感がありますが、仕事も兼ねているのなら、少しはお役に立てているようで嬉しいです」
「そうか、そう思ってくれるなら良かった。それよりも、リア、この可愛い行動は反則だよ。早く二人きりになりたくなってきた」
「夕方には転移門からアウレリーア国に行きますから、それまでは頑張りましょうね」
私はパッとクリスから離れて微笑んだ。今、色気を駄々洩れにされても困る。
「……了解。護衛騎士のトムと侍女のメリも、夕方にはこちらに合流する予定だ。いつでも発てるように準備だけはしておいて。僕はキースと最終打ち合わせに行ってくるから」
離れた私を引き寄せて頬にキスを落とすと、クリスは颯爽と去っていった。皆とは離れている場所に立っていたので、見られていないことを心の中で祈った。
「奥様、ご無事でよかったです。こちらに向かっている途中で、伝書蝶で旦那様から大量の食糧と薬草を持ってくるように連絡が来て、何かあったのかと心配していたんです」
夕方になって、メリが護衛騎士のトムと大量の荷物と共に、辺境伯領に到着した。
ちなみにトムとメリは夫婦なのだが、私たちの前では、職務中のため夫婦らしさは一切出さない。今回の旅行は、少人数で同行者は侍女一名と護衛騎士一名と決まっていたので、折角なら夫婦であるトムとメリがいいと、私がクリスにお願いしたのだ。
旅行者は他国に入国すると、基本的に魔法は使えないという暗黙のルールがあるため、魔法は一流だが、剣や体術には自信のないクリスは、安全を考えて護衛騎士の同行を決めていた。
夜会に参加することが決まり、侍女の同行も必要になったため、それならば夫婦である二人にしたいと推薦したのだ。勿論トムは、護衛騎士の中でも優秀な人物だ。
「いろいろあったのだけど、私たちは予定通り夕刻にはここを発つわ。メリとトムは、このまま一緒について来て欲しいの。帰国の時には、ここも落ち着いているはずだし、お兄様もそれまではここに滞在するから」
「はい、そのように聞いています。明日の正午にはアウレリーア国の国王陛下との謁見もありますし、ドレスなどの荷物は、転送魔法業者が先にアウレリーア国に送っていますから、後は旦那様たちが向かえば大丈夫ですよ」
国内への旅行の場合、馬車で移動することが多いので、荷物は一緒に運ぶが、国外へ行くには結界のある関所を通るか、国に申請をして転移門使用の許可を得る必要がある。大きな荷物は、転移魔法専門の宅配サービスを利用する方が便利だ。日時と場所を指定すれば、国内から国外の支店を通じて荷物を転送してくれるのだ。少し値が張るが、重い荷物を抱えて国外へ行くことを考えれば、安いと考える人は多い。
「そう、じゃあもう少しだけ、癒しを施す時間があるわね。辺境伯の様子も気になるし、メリも一緒に行ってくれるかしら?」
「はい、どこへでもお供します」
持って来た大量の食糧と薬草を、お兄様の部下の方に託して、私たちは辺境伯の様子を確認するため、屋敷に向かった。
原因であった呪物が解呪され、腐敗臭も消えたため、お屋敷は解放され癒しが必要な人たちが集められていた。派遣された治癒魔法師が、明日には到着する予定だが、ここを発つまで出来る限り癒すつもりだ。
特に症状が酷いのは、呪物を創り出した辺境伯のジョルジュ・イーストマン様で、数回癒しを施している。症状は改善したと思うのだが、まだ正気ではないとお兄様とクリスが言うのだ。
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