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第二部 2話 原因は呪いですね

 クリスの一言に気をよくしたルーちゃんは、臭いという場所を、吐き気を我慢して探し当ててくれた。

『ここ、すごく、くさい……もう、げんかい……』

 そう言うと、抱っこしている私の胸に顔を埋めて、スースーハアハアと息をした。私の周りには清浄な空気があるらしく、ルーちゃんは私から離れようとしなかった。

 クリスも引き剥がしたい気持ちをグッと堪えて、ルーちゃんの好きなようにさせていた。回復したと言っても、ルーちゃんの顔色は悪くなる一方だ。

「ありがとう、ルーちゃん。すぐに匂いの元を突き止めて、ちゃんと浄化するからね」

 匂いの元は、地下にある部屋のようで、大きな扉には鍵がかかっているのか開かなかった。

「なんか禍々しいな、この場所。取り敢えず僕が闇魔法で扉を開ける。数分しても戻らなかったら、強行突破して」

 お兄様は布で鼻と口を覆うと、そのまま闇の中に消えた。扉の中から、うげっというお兄様の呻き声が聞こえた後、扉の鍵がカチリと音を立てて開いた。

「お兄様?大丈夫ですか?」

「う、ん。最悪な気分ではあるけど、大丈夫。本当はリアには見て欲しくないけど、多分浄化できるのはリアだけだから、ごめんね。ちょっとだけ我慢して付き合って……」

「はい」

 私たちは布で口と鼻を覆ってから、お兄様の後について部屋の中へと入った。布越しにも、ルーちゃんが臭いと言った匂いがする。何とも言えない腐敗臭だ。嗅覚の鋭いルーちゃんはこの部屋に入ることは出来ないと判断して、部屋の外で待機してもらっている。

 部屋の奥には台が設置されていて、部屋の中はぼんやりと薄暗い。目を凝らせば、その台に何かが横たわっているのが見えた。

「リア、先に言っとくけど、あそこにあるのは白骨化した遺体だ。驚いて悲鳴を上げないようにね。人が来ると困るから」

 お兄様がそっと人差し指を口に当てた。私は頷いて、覚悟を決めて前へ進んだ。白骨化した死体なんて、今まで見たことがない。恐る恐る近づくと、確かに台の上に白骨化した人が横たわっていた。

「髪が短いな、男性か?骨格からすると成人男性。胸の辺りから、禍々しいオーラが、っと、これ以上は近づくな。地面に魔法陣がある」

 クリスが皆を手で制止した。確かに地面に、何かで描いた魔法陣のようなものがある。

「何かの血液で描かれた魔法陣、黒魔術の類か?どうする?」

 お兄様が魔法陣を覗き込んで、クリスを見た。

「解呪するしかないだろう……時間もないし、この際方法は選べない、か」

 クリスは腕を出すと、小さな短剣を取り出し、前触れもなく腕を切りつけた。私は驚いて悲鳴を上げそうになった口を、慌てて両手で押さえて声を飲み込んだ。見る間にクリスの血がドバドバと出て、魔法陣の上に大きなシミを作ってゆく。

「つっ、取り敢えずこれで、魔法陣は無効化できている。一応気をつけて近づいてくれ」

 私は慌ててクリスの左手を掴んで、傷を癒した。腕の傷は完治したけれど、大量に出た血までは元には戻らない。私は抗議の目をクリスに向けた。

「ごめん、事前に言うと反対されると思って……、驚かせてすまなかった」

「……取り敢えず、魔法陣は無効か出来ていそうだ。無茶させたな」

 お兄様が魔法陣に何かを投げ入れて、魔法陣が発動しないか確認してから、私たちに進むように手招きした。

「首のところにドッグタグが付いているな」

 軍人や騎士が、不慮の事故で死んでしまった場合などに備えて、自分の身元を証明するためにつけるペンダントだ。名前や出身地、身分、生年月日などが書かれていることが多い。

「どうやらこの遺体は、前の辺境伯のようだ。ジョンソン・イーストマンと書いてある。確か3年前に病死しているはずだ」

 つまりエルマー様たちのお父様ということだ。どうして遺体が墓の中ではなく、こんなところにあるのだろうか?

「亡くなった遺体に、黒魔術ときたら、……恐らく死者蘇生を試みた、そんなところか?成功したという前例は聞いたことがないが……」

「死者蘇生なんて、荒唐無稽な事をよく考えたものだ。失敗して、この遺体自体が呪物になっている……」

「クリスよりリアの方が、解呪の可能性は高いとは思うけど、どうしようか」

 ガシガシと頭を掻きながらお兄様がクリスに近づいたところで、部屋の外からルーちゃんの泣き声がした。

『ルー、やっー』

 皆が一斉に部屋の外を振り返ると、そこにはルーちゃんを抱えたジョルジュ・イーストマン辺境伯が立っていた。目は血走り、だらしなく開いた口からはよだれが出ている。ルーちゃんは部屋の臭気に当てられたのか、顔色が真っ青になってぐったりとしている。

「ルーちゃん!」

「そこを動くな。よくも邪魔をしたな。もうすぐ、もうすぐ、父は甦るはずだったのに……お前たち全員、殺す、殺す、殺す……」

 虚ろな目に明らかな殺意を込めて見られると、ぞくっと背筋に寒気がはしった。

「駄目だ。呪物の影響で完全に正気を失っているみたいだ。どうするキース」

「平和的な話し合いって感じではないねぇ……。制圧するしかないよね」

 ルーちゃんは臭気に耐えられなくなったのか、ドラゴンの姿に変わると素早く辺境伯の腕を凍らせ、その隙に腕を抜け出し私の元へと駆けてきた。

「ルーちゃん!」

「ド、ドラゴンだと?まさか私から人魚の鱗を取り戻しに来たのか?渡さないぞ、鱗は、鱗は私のものだ!」

 イーストマン辺境伯は遺体に近づいて、丁度胸の真ん中あたりにあった何かを掴んだ。掴んだ瞬間、遺体から立ち上がった黒いモヤが辺境伯にまとわりつき、辺境伯はそのままガクンと力を失って倒れ込んでしまった。

「死んだのか?」

「いや、息は辛うじてあるな……」

 お兄様は倒れた辺境伯の横に跪いて、触れないようにしながら、呼吸を確認してホッと息を吐いた。

「とりあえず生きている人間から処置しようか……」

 クリスは地面に専用の筆で魔法陣を描き始めた。そして触れないように風魔法で辺境伯の体を浮かして、魔法陣の真ん中に置いた。

「リア、浄化の光を魔法陣に込められる?」

「はい、やってみます」

 私はそっと魔法陣に触れ、魔法陣に浄化の光を注いだ。光は魔法陣を伝って、辺境伯の体の中へ入っていきやがて消えた。

 辺境伯の顔色は前より少し良くなったようだ。呼吸も安定しているので、解呪は成功したようだ。それよりも、先ほどの辺境伯が口にした言葉が気になり、彼の右手を見た。先ほどまで黒かった鱗のような物は、今はキラキラと七色に輝いている。

「本当に人魚の鱗みたい……?見たことはないけれど……」


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