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第37話 ルーちゃんが男の子になりました

 白銀の髪に黄金の瞳をもつ3歳くらいの男の子は、自分はルーちゃんだと主張するように鳴いた。

「チビ?こいつが?確かに瞳の色はそうだけど、どちらかというと……、そうだ、初めて会った時のリアに似ている。親戚?」

『ルー、ルル!』

 ルーちゃんが首を振る。クリスに抱えられるのが嫌なのか、激しく手足をバタバタしていたが、自分の姿がいつもと違うことに気づいたようで、不思議そうに自分の手足を眺めている。

「どうしてルーちゃんが人間に……?」

『ルー?』

 どうやらルーちゃんも分からないようだ。クリスが床に下ろすと、バランスがとり辛いのかフラフラしながら立っている。

「チビ、取りあえずこれをかぶっておけ。後で子供用の服を用意させる。確か、チャーリー君が使っていたものが数点まだ残っていたはずだ」

 流石に全裸は拙いと思ったクリスが、ルーちゃんに毛布を巻き付けている。ルーちゃんは益々不安定な姿勢になって、そのままポテッと座り込んでしまった。

 それにしても、人間になったルーちゃんは、性別は男の子だが小さい頃の私に似ている気がした。白銀の髪は丁度肩のあたりまであり、女の子の服を着ていれば女の子に見えるほど可愛い。金色の瞳はルーちゃんと同じ色で、話す声はルーちゃんそのものだ。『ルー』としか話せないのが少し残念だ。


 ルーちゃんは理由が分からないと言っていたため、私はキャロライン様に伝書蝶を飛ばした。茶飲み友達と化した母親のアイスドラゴンなら、ルーちゃんの人間化に心当たりがあるかもしれない。ルーちゃんが高熱を出した詳細も合わせて知らせているので、何か分かることを期待していた。

 5日後、キャロライン様から伝書蝶が送られてきた。そこにはアイスドラゴンの見解が書かれていたが、ハッキリ言って何も分からない、ということが分かった。

「リア、それで何と書かれていたんだ?」

「そうですね、アイスドラゴン曰く、獣人が獣化したり人間に化けられるのだから、高位のドラゴンが人間になっても不思議ではない。と、言っているそうです。ちなみにアイスドラゴンは人間になろうと思ったことがないので、自身がなれるかどうかは試していないし、ルーちゃんが人間になった理由は分からない。高熱については、その原因が人間になった引き金ではないかと推測しているが、詳しいことはその場にいなかったので分からない。ということです。昔、人間の姿になったドラゴンがいたそうで、ルーちゃんは瘴気に耐性がないことも含めて、先祖返りの可能性もあるらしいです」

「なるほど、つまりハッキリとした原因は分からないという回答が来た、ってことだね」

『ルー』

 ルーちゃんは器用にスプーンを使って、最近のお気に入りになったアイスクリームを食べている。この5日間ですっかり人間の男の子らしくなった。チャーリー君の服もちゃんと着こなしているし、少しだけルー以外の言葉が増えた。

「美味しい?」

『…あい』

 はいと言えず、あいになるが、ルー以外の言葉が言えるようになったのは嬉しい。練習すればもっとたくさん会話ができそうだ。

「高熱が出た原因が引き金、ということは、熱が出た前に何かした、もしくは何かを食べた、とかだね。心当たりはあるかな?」

「熱が出る前に食べた……?ルーちゃん、何かいつもと違うものを食べたかな?」

『ルー、……あい』

 ルーちゃんは私の頬を指さした。私を食べた?疑問に思っていると、ルーちゃんは私に近づいて、頬をぺろりと舐めた。

「おい、チビ。僕のリアに、何しているんだ?」

 クリスが慌てて、私からルーちゃんを引きはがした。机に戻ったルーちゃんは、にこにこしながら残りのアイスを食べだした。頬を舐める仕草に既視感があった。

「あ、ああ……そうか、私の涙を舐めた、そう言いたいのね」

『あい』

 正解だと言うように、ルーちゃんは返事をした。つまり私の涙を舐めたから高熱が出て、何かしらの方法でルーちゃんは人間の姿になった?私の涙を舐めたから、私に似た姿になったということ?

「リアの涙をこいつが舐めたのか?涙は血液と同じだというし、意図せず人間の一部を食した、ということか……。リアの涙を取り入れたから、こいつはリアに似た顔なのか……」

「ルーちゃんはドラゴンには戻れないの?」

 ルーちゃんは首を横に振ると、椅子から立ち上がってぐっと力を入れた。ぽわっとルーちゃんの体が光ったと思ったら、次の瞬間にはルーちゃんは、可愛いドラゴンの姿に戻っていた。先ほどまで着ていた服が、ルーちゃんの足元に散乱している。

『ルー』

「なるほど、こいつの意思で戻ることが出来るのか……。完全に人間になったわけではなく、むしろ擬態に近いのか?」

 クリスがルーちゃんのことを観察するように、抱き上げたり下ろしたりしている。ルーちゃんは嫌がって椅子に戻ろうとしているが、ドラゴンの姿では上手く座れないようだ。ルーちゃんはアイスが食べたいので、もう一度ぽわっと光って、人間の姿に戻ってアイスを食べだした。

「ルーちゃん、裸でアイスを食べないで。ちゃんと洋服を着ましょうね」

『あい』

 ルーちゃんは服を着てから、アイスを食べだした。その姿を見て、クリスが困った様に溜息をついた。

「チビ、この屋敷内ではいいが、ドラゴンと人間の姿に変わるところを、他の人間に見せないこと。ただでさえ珍しい子供のドラゴンが、人間の姿(それも可愛いリア似)にまでなれるなんて知られたら、命知らずの馬鹿どもが攫おうとするかもしれないから」

『う、あい』

 ルーちゃんは元気よくお返事をして、2杯目のアイスをお替りしていた。

 このお屋敷の使用人は人数が少ない上に、白の魔法使いの役職のこともあり、守秘義務は徹底しており、契約する時も細かい内容まで魔法契約で管理されているので、滅多なことでは情報漏洩できない。さらに屋敷には二重に結界が張ってあるので、クリスが許可した者しか入れないため、ここでのことは秘匿できるはずだ。

「この屋敷だけならいいが、チビをここから連れ出すこともあるだろう。人間の姿なら、警戒されずに出ることも出来る。そうだな、遠縁の親戚の子供を預かっていることにしよう。名前は、ルーカスでいいか?」

「ルーカス、いいですね。ルーちゃん、人間の時はルーカスと呼んでもいいかな?」

『あい』

 名付けは契約の意味をもつと言っていた。これも一種の契約になるのかは疑問だが、ルーちゃんが了承したのなら問題はないのだろう。

 ルーちゃんはご機嫌なまま、さらに3杯目のアイスをお替りしていた。


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