第1話 結婚式は波乱の予感です
空は雲一つない綺麗な青空。各国の聖女様のお陰か、今日は一日素晴らしい晴天になるそうだ。
「綺麗だよリア。僕のお嫁さんは最高だね」
先ほど神殿で結婚の誓いを立てた私たちは、神殿の前まで出てきたところだ。神殿の前には、白の魔法使いと聖女を一目見ようという人たちで溢れかえっていた。
国を挙げてお祝いムード一色だ。国の騎士たちを聖女の警護も兼ね交通整備に駆り出すほど、会場の外は賑わっている。
「リア、あとは屋敷でのお披露目会だ。もう少しだけ頑張ろうか」
朝の祈りの後から怒涛の準備を終え、神殿での誓いまで休憩がほぼなかった。流石に精神的にも体力的にも疲労していた。
「はい、もう少し頑張ります。クリスティアン様は大丈夫ですか?癒すことも出来ますよ」
「僕は大丈夫だよ。リアが心配なだけで……、ん?」
クリスティアン様が私の方を見て嬉しそうにそう言った時、クリスティアン様の足元で何かがぶつかった。クリスティアン様が振り向いて足元を見ると、そこには小さな男の子がいた。
「え?男の子……」
小さな男の子は嬉しそうにクリスティアン様を見上げて、大きな声で叫んだ。
「おとうさま!!」
クリスティアン様の顔が一瞬で引きつった。ギギギと油が切れた機械のような動きで子供と私の方を何度か見比べている。
「……リアと僕の子供、ではないよね?ははは…誰??」
「ほほほ…私が産めるわけないですよね?どういうことか説明を求めます!隠し子がいるとかあり得ないのですが、身に覚えは?」
男の子は綺麗な銀色の髪に、薄い紫色の瞳をしていた。クリスティアン様の顔が段々青ざめていくのがわかった。
私は慌ててキースお兄様の方を見た。幸い男の子の声は、見物客の方までは届いていないようで、護衛の騎士や近くにいた知人友人、親戚だけに聞こえていたようだ。お兄様は慌てて闇魔法を使い男の子を隠してくれた。兎に角今はこの場を収めることが先決だ。
「皆さま、お騒がせして申し訳ございません。親戚の子供が間違って叫んだようです。会場の方へ移動しますので、皆様もよろしくお願いいたします」
私は平静を装って、笑顔で皆に会場に向かってくれるようにお願いをして、その場で固まってしまったクリスティアン様を強引に引っ張って馬車の中に押し込んだ。
馬車の中にはすでにお兄様が男の子と共に乗り込んでいて、泣き出しそうな男の子を必死になだめていた。
「クリス、お前まさかリア以外の女を…」
お兄様が私と同じピンクブロンドの髪をガシガシと掻きながらクリスティアン様を睨んだ。その声にハッと我に返ったのか、クリスティアン様は焦った様子で叫んだ。
「ち、違う、誤解だ。僕は避妊魔法が得意なんだ。絶対に失敗しないよ!」
「ほ~う?」
自分でもビックリするくらい低い声が出た。いうに事欠いて避妊魔法とはどういうことだろう。
「え、あ、間違えた…僕はリアしか愛していない、はずなんだ……君は誰なんだい?母親の名前は?」
「おとうさま、ぼくはチャーリーだよ。おかあさまはキャロライン」
「……キャロライン。チャーリーは何歳かな?」
「ぼく4さいです」
「つまり5年前だな。覚えはあるんだろ?」
キースお兄様が苦虫を嚙み潰したよう顔で唸った。
「覚えてはいる。その名前の子爵令嬢が恋人だったことがある。でも、半年ほど付き合って数回関係は持ったけど、子供が出来るような失敗はしてない、と思う……5年前に別れて、一度も会っていないし…」
私はクリスティアン様とキースお兄様の会話を茫然と聞いていた。もしこの子が、本当にクリスティアン様の子供でまだ母親がいるなら?私はどうしたらいいのだろう。今日幸せな結婚をしたと思っていたのに、もしかしてこれは……
「リア」
「私、別れた方がいいですか?」
クリスティアン様の目が驚愕で見開かれた。言った瞬間、喉の奥がぎゅっと引きつった様に痛んだ。
「嫌だ!そんなの駄目だ。信じて、リア。僕が愛しているのはリアだけだ!」
クリスティアン様はそう言って私をぎゅっと抱きしめた。私は茫然としながら、されるままに抱きしめられていたが、小さな嗚咽にハッとなった。
「おとう、さま…うっうぇぇ、」
声の主を見て私はクリスティアン様を突き飛ばした。男の子は目に涙を溜めてクリスティアン様を見ていた。
「ごめんね、坊や。あの、今日はどうしてここに来たのかしら?」
「……おかあさまに、おとうさまにあって、これを、わたしてって……」
男の子の小さな手には真っ白い封筒が握りしめられていた。ずっと握りしめていたのか、封筒はかなりぐちゃぐちゃになっていた。
「そうなのね。では、渡してくれるかな?」
「はい、おとうさま」
クリスティアン様は戸惑いながらも、男の子から封筒を受け取ると、中身をさっと読んで溜息をついて動かなくなった。その様子を見たお兄様が、焦ってクリスティアン様から手紙を奪って読んだ。
「おいおい、クリス。本当に大丈夫なんだよな……」
「大丈夫だ、と思う。確かにあの頃少し色々あって余裕がなくて、お世辞にも品行方正とは言えなかった。付き合っていたキャロラインとのことも…、でも、絶対に、避妊魔法はしていた、その、できるはずないんだ」
私はその手紙をお兄様から受け取って読んだ。
【親愛なるクリスティアン・エイベル伯爵
お久しぶりです。突然のことで驚かれるでしょうが、あなたの息子を認知していただきたくお手紙を差し上げます。息子のチャーリーは4歳になります。5年前、お別れした後に身籠ったことを知りましたが、あなたには知らせずに生みました。今更何かを要求したいわけではございませんが、事情が出来、認知していただきたいのです。財産やその他の権利は一切申し立て致しません。認知していただければ、息子は速やかに引き取り、その後は姿を現さないと誓います。どうか私たち親子を哀れと思し召し、息子を認知していただけますようお願い申し上げます。
キャロライン】
「クリスティアン様に認知を……」
「リア、信じて欲しい。でも、親子鑑定の魔法は母親と父親両方が揃わないと出来ないし、認知しないと母親は姿を現さないつもりのようだし…どうしたらいいんだ」
「あの、ぼく…」
「大丈夫よ、チャーリー君。然るべきことが分かるまで、私たちと一緒に暮らしましょう。お母様は直ぐに迎えに来てくれるわ。それまでは私が寂しくないように一緒にいるからね」




