第27話 説明は大事です
二人の鬼気迫る迫力にどうしていいか分からなくなって、取り敢えず帰宅の挨拶をしてみたが、どうやらお気に召さなかったようだ。
さらに迫力を増した雰囲気に、私は助けを求めてルーちゃんを抱き上げた。ルーちゃんは嬉しそうに、私に頬ずりをしてくれる。
『ルー、ルル』
ちゃんと説明した方がいいと言われたような気がした。アレン様とキャロライン様は、じっとルーちゃんを凝視ている。
「説明するので、静かな場所へ行きましょう」
アイスドラゴンは飛び去ったが、王城はまだ兵士が警戒態勢を続けていてかなり騒がしい。ここで立ち話は無理だ。
アレン様は素早く周りを確認して、着ていた外套を脱いで私を包んだ。抱っこされているルーちゃんを、隠したようだ。
「このドラゴンは危険ではない、ということでいいか?」
「はい、とてもいい子です」
「いい子……そうか、では、魔法騎士団が待機している部屋へ案内しよう。彼らはまだ捜索隊に混じって外へ出ているが、ユリウス卿は待機している」
皆に心配を掛けてしまい申し訳なく思っていると、キャロライン様が私をそっと抱きしめた。
「兎に角、オーレリア様が無事で、安心しましたわ。おかえりなさい」
「キャロライン様、心配をおかけしました。ただいま」
「オーレリア様!!ご無事でしたかっ、私がついていながら、危険な目に合わせてしまい申し訳ございませんでした!この責任は帰国後、如何様にも処分してください!」
魔法騎士団の隊長ユリウス様が私を見ると駆け寄ってきて、そのまま膝をついて頭を下げた。
「あの、ユリウス様が責任を感じているのは分かりました。でも、今回の件は天災のようなものです。人の力ではどうしようもなかった、そういうことだと思います。それに、私は無事ですから、処分は望みません」
なかなか頭を上げてくれないユリウス様を説き伏せて、取り敢えず捜索隊として出ている人たちにも、発見の知らせを伝書蝶で飛ばしてもらった。
「そうでした、白の魔法使いのクリスティアン様にも、伝書蝶を送ります。かなり心労をお掛けしてしまいました」
私が行方不明になってすぐ、タランターレ国のクリスティアン様と近衛騎士団団長であるキースお兄様には、行方不明になった経緯を伝書蝶で連絡していたそうだ。心配を沢山掛けてしまったと思うと、申し訳ない気分が込み上げてきた。でも、今は出来ることをしないと……
「説明したら、すぐに残りの苗木と若木に祈りを捧げます。急げば、予定していた場所は回れるはずなので」
「いや、すでに5日が過ぎた。帰国の日数を考慮すれば、残り3日では……残念だが、不可能だと思う」
アレン様が遠慮気味に私を見た。確かにそうなのだが、そうではない方法があるのだ。
「それも含めて、至急説明をさせてください。ルーちゃんのこともありますし」
『ルー、ルル』
私の腕の中で、ルーちゃんが元気にお返事をした。外套の中からちょこんと顔を覗かせて、とても可愛いのだが、皆一様に引きつった顔でこちらを見ている気がする。
私は攫われた理由をまず話し、子供のドラゴンを癒していたため、帰るのが遅くなったことを説明した。そして、成り行きでルーちゃんと契約をしてしまい、ルーちゃんを連れて帰る流れになったことを説明した。
皆黙って聞いていたが、それでも内心は混乱していて、決して穏やかではないだろう。私は説明の最後に、時間が無いことを知ったアイスドラゴンがタランターレ国まで送り届けてくれることになっているので、帰国のために使う2日は、半日に短縮できることを伝えた。
「半日になるのはありがたい、1日半、浄化に使うことが出来れば、今から巡れば間に合うかもしれない」
アレン様が複雑な表情ではあったが、本来の目的は達成できる算段がついたことを素直に喜んでいるようだ。一方、魔法騎士団の隊長ユリウス様は、深刻な顔を崩さない。
「アイスドラゴンがタランターレ国へ飛来するのですか?危険ではないのでしょうか?」
「確かに騒ぎにはなると思いますが、アイスドラゴンは人を食べないと言っていました。襲われることはないと思います」
「は?そうなのか?」
私の言葉に、アレン様が驚いた顔をした。多分今まで、獣人にも少なからず被害が出ているのだろう。この説明が、ハッキリ言って気持ち的にも、一番複雑だった。
アイスドラゴン曰く、人間は食べないが、獣は狩って食べる、魔物も同様に狩って食べる。ロウド王国の近くの山脈に棲むアイスドラゴンは、餌が少なくなる冬にロウド王国の近くに下りてきて狩りをすることがある。ここで問題なのが、獣人の獣化だ。アイスドラゴンは獣人を狩ることはないが、獣化した獣人は、獣とは区別できないため食べることもあるかもしれないと言ったのだ。
「それはつまり……、アイスドラゴンが来たため、追い払おうと獣化した獣人を、アイスドラゴンが獣と区別出来ず、結果、餌になったということか……?」
「残念ながら、そのようです」
この話を聞いた時、私も唖然としてしまった。私も獣人の獣化を見たから分かるが、確かに獣と獣人の区別は、獣人でない私たちには難しい、判断は不可能だ。獣人は襲われない、このことを知っていれば、獣化せずアイスドラゴンに襲われることはなかったはずだ。
「知らせてくれて感謝する。今後はアイスドラゴンの前で獣化することがないよう、周知を徹底することにする。ところで、ドラゴンは人間を食べないのか?」
「いえ、そういうことではなく、ロウド山脈に棲むアイスドラゴンは、食べないそうです」
私も同じことを質問したらそう言われた。火炎系のドラゴンは念話で話す前に、口を開けたら炎が出るような短気な性格のものが多いし、土系は大人しいが体が大きいので、人間に気づかず踏み潰すことがあると言っていた。滅多に遭遇することはないが、出会ってしまったら被害が出るのは仕方ないことだと言っていた。まさに天災ということだ。
「知らなかった事実を知って衝撃は大きいが、今後はその知識を活かそう。今は天界樹の苗木の件が先だな。折角アイスドラゴンが送迎を買って出てくれたのだから、時間は有効に使わせてもらおうか」
「はい、頑張ります!」
「あ、それと、その子供のドラゴンだが、ロウド王国に滞在する許可は出せるが、タランターレ国へ連れて行くのは、流石にこちらで許可を出すわけにいかない。こちらに滞在している間にアイスドラゴンが飛来することも含めて、タランターレ国の国王陛下の許可を貰って欲しい」
「わかりました。私が陛下へ報告し、責任を持って許可を得ます」
魔法騎士団の隊長ユリウス様が、私の方を見て力強く請け負ってくれた。ユリウス様は普段は陛下の護衛騎士をしているそうで、伝書蝶を直接陛下へ届けることも出来るそうだ。
無事、ルーちゃんを受け入れてもらえるよう祈るしかない。まずは目の前の使命を果たそうと気合を入れた。
話が終わる頃には、ルーちゃんは私に抱っこされたまま、スヤスヤと眠っていた。




