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第26話 アイスドラゴンの主になりました

「ルーちゃん、これで息苦しくないかな?」

『ルー、ルル』

 ルーちゃんとは、アイスドラゴンの子供のことだ。可愛くお返事するルーちゃんは、初めて会った時と違い、すっかり元気になったようだ。

 ルーちゃんを癒しては経過を観察し、何度も癒しを繰り返した。これで大丈夫だと思えたのは、2日たった頃だった。子供の名前は無いというので、不便に思った私は、勝手にルーちゃんと名付けて呼んでいたら、すっかりルーちゃんで定着してしまった。

『ルー、良かったな』

『ルー』

 アイスドラゴンまで、すっかりルー呼びなのはどうかと思うが、元気になってくれて本当に良かった。

「では私は帰りますね。近くまで送っていただけ、」

『待て、聖女。そなたはルーに名前を与えた。その認識はあるか?』

「名前を与えた?」

『ルー、ルー』

「ルーちゃんですか?それは、便宜上そう呼んでいましたが……?」

『ルー!ルルルー‼』

 非難するように、ルーちゃんが激しく鳴いた。私は名を与えるという意味が理解できず、少し首を傾げた。

『ルーはそうは思っていないようだ』

「ではなんと?」

 アイスドラゴンは少しの間考えていたが、諦めたように溜息をついた。

『ドラゴンは基本、名を持たない。ドラゴンが名を受け入れる行為は、ある種の契約のような効果があるのだ。そしてそれは一方が死ぬか、お互いが契約を解除するまで続く。故に我は名を待たない』

「え、っと……それは、つまり??」

『ルーは、名を受け入れ、聖女と契約をした、と言っている。この子はお前を主として認めた、ということだ』

「え、ルーちゃん??」

 ルーちゃんは、誇らしそうに胸を張ってから私を見て、そうだと言うように『ルー』と鳴いた。子供とはいえアイスドラゴンの主、私が??

「あの、無理です。それに私の住んでいる屋敷は大きいと言っても、ドラゴンと住めるような大きさではないです。今のままならいいですが、ルーちゃんはこれから大きくなりますよね……」

『人間の寿命はどれくらいだ?』

「えっと、長ければ100年ほどでしょうか?」

『短いな。それならばこの子が、そなたほどの大きさになるまでに100年経っておる。ドラゴンは長命だからな。成長もゆっくりだ。契約はそなたが生きている限り続くが、子孫にその権利は発生しない。つまり大きさを理由にルーを受け入れ拒否は出来ぬぞ』

『ルー、ルー!!』

 ルーちゃんもそうだと言うように鳴いた。今のルーちゃんは抱っこ出来る程度、中型犬くらいの大きさだ。それなら大丈夫……、否、全然大丈夫じゃない。ドラゴンは犬じゃないし、ペットの様に扱っていいものでもない。

「契約解除に、死以外の方法は?」

『お互いに合意すれば可能だが、ルーは契約続行を望んでいるのだから、一方だけの解除は成立しない』

 アイスドラゴンから契約解除は無理だと言われ、私は頭を抱えてしまった。名付けは禁止だと、最初に一言注意しておいてくれたら、私は気軽にルーちゃんなどと呼ばなかったのに……

「……もしかして、わざと教えなかったの?ルーちゃんにとっては、私といた方がいつでも癒しを受けられるし、それにタランターレ国には瘴気がないから……」

『それも一種の賭けだ。ルーがそなたを主と認めなければ、この契約は成立しない。我が画策したのは、名付けを禁止しなかったことだけだ』

 しれっとアイスドラゴンが私から目を逸らした。堂々と画策したと言われると、策に嵌まった私が悪いような気がしてきた。いや、誰も悪いわけではないのか……?

 可愛いルーちゃんと一緒にいられるのは、ハッキリ言って嬉しい。ただこの後、ルーちゃんと一緒に帰ると少なからず混乱状態になることが予想されるため、少し頭が痛いだけだ。

『ルーよ。聖女と一緒にいることを、望むということでいいのだな?』

 ルーちゃんは元気よく『ルー』と返事をした。アイスドラゴンは少し寂しそうに頷いた。

『ルー、巣立ちを許そう』

 アイスドラゴンは巣の中にいたルーちゃんをそっと口で咥え、私の元に差し出した。空気を読んだ私は、差し出されたルーちゃんを受け取った。え、これを巣立ちって言っていいですか⁈心の中は絶賛混乱中だ。


 混乱している間に、私はアイスドラゴンの背にルーちゃんと共に乗せられていた。

予測通りここで2日使った。私のするべきことは、今からロウド王国へ行き、帰国予定日ギリギリまで苗木と若木に浄化の祈りを施すことだ。

 戸惑っている場合ではない、でも、この状況は拙いような気がする。いや、絶対に拙い……

『ルー、聖女、出発する。ちゃんと掴まれ。ロウド王国の王城まで連れて行く。約束通り、もう一度迎えに来て、そのままタランターレ国へ送り届けよう。勿論、ルーも一緒にな』

「あ、……はい、ありがとうございます?」

 私にはその言葉以外、何といえばいいか正解が分からなかった。

 これは一種の契約という名の詐欺では?そんなこと言えるはずもなく、私は必死にアイスドラゴンの背に掴まりながら、これからの説明を考えるしかなかった。

 

 そんな私の焦りを知らないアイスドラゴンは、あっという間にロウド王国の王城へ到着してしまった。私が言い訳を思いつく間もなかった。

 予想通りロウド王国の王城は、突然のアイスドラゴンの飛来に大混乱だ。連絡を受けたのか、アレン様とキャロライン様が、こちらへ向かって走ってきているのが空からも確認できた。

 どうしよう、なんて言えばいいのか、説明をしなくては……、そうだ、この際、アイスドラゴンに説明してもらえばいいのでは?そんな私の浅はかな考えを読んだかのように、アイスドラゴンから無常な一言が……

『ルー、聖女、我はもう行く。ここは煩くてかなわない』

「え、あ、待っ、て……」

 アイスドラゴンは素早く私とルーちゃんを降ろすと、そのまま飛び去ってしまった。これは、非常事態だ。深刻な顔をしたアレン様とキャロライン様が、私とルーちゃんの前に立っている。

 なんて言えばいいだろうか、いや、事の経緯を説明だ。えっと、その前に、言うことは……

「オーレリア様!」

「オーレリア嬢!」

「えっと、ただいま、帰りました?」

『ルー?』


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