第25話 side白の魔法使いクリスティアンの苦悩
「リアが行方不明⁈」
僕は魔法騎士団のユリウス卿から送られてきた、伝書蝶の手紙を思わず握りつぶした。
伝書蝶の文章には、王都へ向かう途中、災害級のアイスドラゴンが現れ、応戦する間もなく聖女オーレリア様が、アイスドラゴンによって連れ去られたこと。捜索隊を出して探しているが、手がかりが少なく、現在も行方不明だということが謝罪と共に書かれていた。
魔法騎士団の中でも精鋭を選び抜き、陛下の護衛騎士であるユリウス卿まで借り受けて、万全を期していたというのに。まさか天災級のアイスドラゴンがリアを攫うなど、誰が予想できただろう。
ドラゴンがリアを攫った理由は分からないが、現在までリアが無事であることだけは確信できた。リアに持たせたペンダントは、守護の魔法を幾重にもかけ、少しでもリアが害されれば転移魔法で、僕が飛んで行けるように細工してある。
他にも、体調の変化があれば知らせが来るようにしていたり、リアには言えないような機能もあったりする……そこは内緒だ。
「いっそのこと少しだけでも怪我をすれば……、いや、それは絶対に駄目だ」
怪我をすれば転移魔法が発動するはずだ。だがそのためにリアが痛い思いをするのは、絶対に許せない。どうしてもっと違う発動条件を付与しなかったのかと、今更後悔しても後の祭りだった。
聖女不在の今、白の魔法使いとしてこの国を守る役目を放棄して、リアを探しに行くことは出来ない。はやる気持ちを抑え、リアのことを思い眠れぬ夜を二晩越した翌朝、リアが帰って来たという報告が伝書蝶によってもたらされた。
「クリス、リアが見つかったと、今こちらにも報告が来た」
影から現れたキースに、伝書蝶の手紙を渡し、僕はどっとソファーに座り込んだ。
この2日間、いつ転移魔法が発動するかと戦々恐々と過ごしていた。一日千秋の思いで、リア発見の知らせが来るのを待っていたため、安心したらどっと疲れが押し寄せた。
「今日はもう休暇でいいよね」
「駄目に決まっているだろ。リアがロウド王国から帰るまでは、休めるわけがないだろ。そのために事前に3日間休暇をもらったんだろ。その間、色ボケしていたんだ、今はしっかり働け」
キースに休暇申請を即座に却下され、渋々魔法研究所へ向かった。
今のところ、天界樹に付与された祈りの魔石は、予測通りに効果を発揮している。リアが戻るまで何事もなく発動し続ければ、次はいよいよこの魔石を理由に休暇をもぎ取り、リアと新婚旅行へ行こうと秘かに目論んでいるのだ。
そのためにも、天界樹の観察と記録は重要だ。僕は幾分軽くなった足取りで、魔法研究所へ歩いていった。
「早くリアに会いたいな……」
タランターレ国の空は今日も快晴だ。
ここからもよく見える天界樹は、今日も加護の光を放ちこの国を守っている。
天界樹と聖女は一心同体。離れられないということは、聖女には自由がないということだ。果たしてどれだけの人間が、その事に思いを馳せることが出来るだろうか?
当たり前のように平和を享受しながら、その当たり前が当たり前でないことを理解していない。聖女がいなくなれば、魔物に襲われ、瘴気に脅かされるのだ。どうしてリアがそれを一人で背負うのだ。どうして?
「リア、無事に戻ってきて……」




